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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

名探偵のダイイングメッセージ

作者: 夏月七葉

 名探偵が死んだ。

 扉も窓も内側から鍵のかかった密室。腹を複数刺されて血が飛び散り、床や壁を深紅に染めていた。凶器の刃物は部屋になく、犯人が持ち去ったのだろう。

 そして、俯せに倒れた名探偵のその指先には、奇妙な血の文字列が残されていた。

 いや、文字と言って良いものか、それはアルファベットにも見えるが、形がどの言語にも当て嵌まらず、何を意味するのかは不明である。

 しゃがみ込んでその文字列を眺めた青年は、首を傾げて眉根を寄せた。

 明らかに名探偵が絶命する前に書き残したものであるが、果たしてこれは犯人を指し示すものであるのだろうか。しかし、きっとこの問題を解かないことには、事件の真相は判らない気がする。

 名探偵の助手を務めていた者として、青年は何としてもこの事件を解決せねばなるまい。

 名探偵とはもう十数年の仲で、本来なら悲しみに暮れたいところだが、そんなことをして事件解決を疎かにしたとなれば、きっと酷く怒るのだろう。もしかしたら、生き返ってでもどやしつけに来るかもしれない。

 本当にそうなるのなら、そうしても良い。心の底ではそう思っている。だが、そんなことは名探偵は望まないだろう。

 青年は、なるべく横たわる相棒の方を見ないようにしながら立ち上がった。

 開け放たれた扉の方を見遣ると、五人の人間が恐るおそるといった様子で廊下から室内を窺っていた。彼等は、昨日からこの屋敷に滞在している者達だ。

 昨夜は遅くに雪が降った。屋敷周りの新雪は綺麗なもので足跡一つなく、雪が小降りになるまで青年は名探偵と共にいた。

 つまり、犯人はこの中にいるのだ。

 握り締めた拳を宥めるように息を吐いた青年は、目を瞑った。

 次に開いた目には、決意の光が灯っていた。

 名探偵が最後に残した謎は、自分が解かなくてはならない。

 犯人は必ず、自分が見つけ出す。

 名探偵の、相棒の――青年の好きだった彼女の為に。

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