僕はビンボー道を極めて幸せになりました
五
フィリピンの山岳少数民族の「野良犬の丸焼き」と双極をなすのは、鶏のかぶと(頭)の串焼きだろう。当然、毎日のように海外ボランティアしていたわけだが、仕事終わりの帰路、ホームステイ先の近所にある露店をのぞくと、牛肉や豚肉のバーベキューと一緒に、鶏の頭が三つ、団子さん兄弟のように串刺しされて焼かれているではないか…。
海外で(特に途上国で)生活するメリットの一つは、日本人にはない価値観や考え方が世の中には星の数ほどあることに気づかせてくれる、要するにダイバーシティが身をもって実感されることだが、私も、特製のタレを付けて焼かれた鶏の頭の頭蓋骨を歯で噛んで割り、中にある鶏の脳みそをすすって食べながら、そんな日本人とフィリピン人の食文化の違いを考えたものである。
世の中には、価値がないと思われているものにもちゃんと価値があり、時には立派な食材にもなる…。現在、私の海外ボランティア時代の仲間が長野県で昆虫食の研究をしているが、彼なんかは家の周りで飛び回っているバッタやゴキブリを見るとよだれが出るぐらいの変人(偉人?)だ。人類の救世主と目されるのは昆虫食だけではない。
途上国は物価が安い。しかし資源に乏しい。そんな過酷な環境で食への創意工夫や食文化の違いでザリガニを食べたり、野良犬を食べたりする…。人類の知恵を直視した。
日本で純粋培養された貧しい家庭育ちの私でさえ、日本の「物の豊かさ」に改めて気づき、それと同時に、途上国の物質的な豊かさではない「豊かさ」(心の豊かさとでも言おうか…)にも気づかされた。人それぞれ、ビンボー道のベースには確固たる価値観や信念があるものだ。
ちなみに長野県に住んでいる海外ボランティアOBは、「一度でいいから、死ぬほど虫を食べたい」というのが人生の目標の一つである。新型コロナウィルスの世界的な流行が収束した暁には、彼と一緒に途上国を旅して、彼の目標を実現させてあげたい。
うどんを一本ずるゆっくりとすすって味わって食べるとき、そんな過酷な途上国での生活が時より頭をよぎる。かけうどん一杯は、たいへん贅沢だ。かけうどん一杯、四百円…。私は日本円を見ると頭で自動的に日本円を為替レートでもって、途上国の通貨(価値)に置き換えることができ、日本円の四百円があれば、かの国では「何日間腹いっぱいメシが食えるだろう」と考えてしまう。