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僕はビンボー道を極めて幸せになりました

 かけうどん一杯四百円の魅力は計り知れない。かけうどんの食材といえば、うどんに出汁、少量の刻みネギと天かすぐらいで実にシンプルな料理だが、僕はかけうどんに七味唐辛子を多めに振りかけて、僕の好みのかけうどんにする。

 うどん屋やそば屋には、僕と同じくうどん好きやそば好きが老弱男女を問わずたくさん集まってくるのだが、この日本の食文化を代表する麺類は、ズルズルズルっと音を立ててすすって食べるのが粋とされる。食事中に静けさを見出した欧米流の食事マナーとは一線を画するズルズルズル、ズル剥けの食文化だ。

 僕はそんなズルズルズルとやって、出汁と一緒に一気にうどんやそばを口の中にすすりこんで食べている輩を尻目にして、うどんを一本一本ずつ、ゆっくりとすすり味わって食べていく。僕のうどんをすするスピードは亀よりも遅い。ゆっくりゆっくりとうどんを口の中にすすり何度も噛みしめて食べると、うどんに含まれる小麦粉のでんぷんが舌の唾液に分解されてブドウ糖となっていくプロセスをほんのりとした甘味として感じられ、全身のエネルギーとなるこのうどんに、すこぶる感謝の念さえ生じてくるのだ。

 忙しいサラリーマンたちは、うどんやそばをズルズルズルっと五分以内で平らげてしまう。彼らにとっての麺類とは、もはや経済合理性の成り果てといった様相であり(安くて美味く、すぐに平らげる)、うどんという料理やそこに含まれる食材をゆっくりと味わって食べるということを犠牲にした上に、サラリーマンの昼食が成り立っているように感じられる。僕は彼らをどこかかわいそうな目で眺めながら、うどんを一本ずつ着実に四十分以上かけて平らげていく。ここにかけうどん一杯の幸せが見事に体現されているである。

 うどんのでんぷんの美味しさと出汁のうま味、刻みネギの苦さ、天かすが出汁のうま味をさらに引き立てることなど、この一杯のかけうどんの中には、どれだけたくさんのドラマやサクセスストーリーがあることか…。そんな大発見を時間と気持ちに余裕のある僕だからこそ、十二分に堪能し楽しむことができるのだ。

 うどんやそばをゆっくりと味わい尽くす…。これを毎日の日課として繰り返していくと、うどんやそばの味に敏感になり、店による味の違いが分かるようになる。要するに一杯四百円を払って食べるだけの価値があるうどんやそばかどうかが分かる。そのうどん粉は手抜きだとか、出汁のうま味が全然足りないとか。このうどん一杯が本当に「ごちそう」なのかどうかを峻別できることで、うどんやそばに関する本一冊が書けるぐらい超絶に舌が肥えてしまうから恐ろしい。

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