少女は微笑む
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さらに二ヶ月が過ぎた。
卒業式も、合否発表も、単調に終わった。
卒業式では、咽び泣く子も何人か居た。きっと充実した学校生活を送れたのだろう。その中にはかつて、「あの子がカンニングしている所を見た」と愛海を指差した子も居た。純粋に卒業式に泣けるのが羨ましいと思った。
合格は郵便で届いた。両親に見つかる前にひとりで確認し、安堵の息を吐いた。もし不合格だったら……なんて想像はしたくない。
長い春休みの間、趣味を持ち合わせていない愛海はよく図書館へ行った。
本を借りる事は無かったが、図書館の空気感を好んだ。静かな空間に佇む本は、どんなに新しい本でも貫禄があるように思えた。何も言わず寄り添ってくれている気がしたのだ。
口を開くのはたまに顔を合わせる両親だけだった。
言うまでもないが、入学式の今朝も両親は仕事らしい。
新しい制服に身を包み、髪を整える。
普段は降りない駅で改札を通るのが、いつか慣れるのだろうか。なんて、ちょっぴり感傷的になってしまう。
真冬に通った道も、桜の絨毯が敷かれていた。
これから通う高校は、中学よりも少し広く感じられる。門から生徒玄関までの距離がそう思わせるのだろうか。
生徒玄関にはクラス分けの用紙が貼られており、酷く混みあっている。数人の職員が「クラスを確認したら上履きに履き替えて体育館へ」としきりに叫んでいる。
しかし、人集りは解消されない。愛海は人集りの後方で行き詰まってしまった。平均よりも少しばかり高い身長であっても、この距離では読めない。入学式に遅れが出そうだ。と考えていると、ふいに声をかけられた。
「おはよう!」
見覚えのある少女だ。試験の時に駅で助けてくれたあの少女だった。
「おはよう」
「これじゃ見えないね」
「少し待てば見えると思う」
「同じクラスだといいね!」
少女は微笑む。つられて愛海も微笑んだ。こんな子と友達になれたら、楽しいのかもしれない。
笑うと垂れ目が強調される可愛い子だ。見ず知らずの愛海に話しかけるくらいのコミュニケーション能力に驚かされたが、嫌悪感が無かったのはこの子の雰囲気のおかげだろう。
少女と談笑をしているうちに、人集りは徐々に解消されていったものの、時間が無く流し見ただけになってしまった。
小走りで体育館へ向かい、入学式を済ませる。硬苦しく意味が分からない退屈な時間はゆっくりと進んだ。




