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DVDのコマ送りのように見えた

 年が明け、二ヶ月が過ぎた頃、愛海にとって初めての大一番を迎えた。

 日々勉学に励んだ集大成を見せる時が来てしまったのだ。

 清々しい朝に震える足へ力を込め、ベッドから腰を上げる。

 今日は、受験当日だ。朝支度を手短に終えると、焦る気持ちに背を押され、随分早いうちに家を出た。

 心臓が普段より脈動を強くする。気持ち悪さを覚えるほどの緊張は、久しぶりの電車に乗車してもなお続いた。

 優先席に座る同年代を見下ろし、この子も受験生なのかと思えば一方的な親近感を覚えた。

 流れる景色のなか、いくつかのホームを過ぎ、下車駅に着く。本当にここで降りるべきなのか、自信が無いまま恐る恐る扉の前に立つと、ふと、見知った顔を見つけた。 


──かおるさん。


 この二ヶ月間、忘れたフリを繰り返したあの顔だった。相変わらずボサボサの髪をひとつにまとめているが、無愛想では無かった。

 駅のホームに紛れるかおるの隣には、長身でショートカットの綺麗な女性がいた。

 かおるは女性に、優しい笑みを向けている。穏やかな空気感だった。

 まるで、DVDのコマ送りのように見えた。

 扉が開き、押し出されるようにホームに降りる瞬間、刹那的にその姿が過ぎったのだ。

 流れゆく人混みの中、立ち尽くす事も、振り返る事も出来ずただ流されていく。

 名前も呼ぶ事も、手を伸ばす事も出来ない。流れから脱したのは、改札を出て少し歩いてからだ。

 はっと我に返り、幼い頃以来の駅に戸惑う。そして、戸惑っているうちに人混みから外れてしまった。ただでさえ慣れない駅で、どの出口に向かえばいいのか途方に暮れてしまった。

 冷静に考えれば、カバンに地図が載った資料を入れているのだが、かおるの事もあり愛海の頭からは欠落している。

 静かにため息をついた時、背後から声をかけられた。音として声を認識したが、言葉として認識するには多少の誤差があった。振り返り、ほんの数秒マヌケな顔でフリーズしてしまう。


「あの、ほんとに大丈夫?」


 声の主は女の子だった。ブレザーの制服を着ている。半透明の緑のフレームの眼鏡が良く似合う子だ。厚い唇の端を上げている。


「ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりして……」


「驚かせるつもりはなかったんだけど、困ってるみたいだったから。もしかして今朝の受験生?」 


「うん。実はどこに出たらいいのか迷ってしまって困ってるの」


「だったら一緒に行こうよ。ひとりじゃ心細い私と、迷子のあなたで利害は一致してるしね!」


 彼女は垂れ目を器用に操りウインクをした。

 渡りに舟を得た愛海は、セーラー服のスカートを揺らしながら彼女と歩き出す。迷わずに歩きを進める彼女は、この駅を使い慣れている様子だった。

 売店の過去や、テナントの移り変わりをひたすらに喋り、駅を出ると、幼い頃に姉妹とした雪合戦の話を喋った。

 愛海は彼女の話に相槌を打つだけだが、彼女のトークスキルが高く退屈も緊張もしなくなっていた。

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