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天と地と人  作者: 豊臣 亨
二章  鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク
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鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク (三十四)~過ぎたるはなお及ばざるが如し~



「ふむ、誰も中に残ってはおらんな? では、始めるぞ」



 翌日。



 日も中天をさした頃に、『アトゥーレトゥーロ』の移設が始まった。


 ここに移動してきた時と同じように、倒れる危険のある家具を固定するか寝かせ、酒樽などはきっちりと固定、火の始末は過剰なくらいにすませ、大惨事にならないようにと皆で念入りの確認を済ませ、それからすべての人の退避が完了しての移設開始である。


 町の人々も、ようやくどいてくれるのか、とおっかなびっくり様子を伺う。まかり間違ってもこっちに倒れてくれるなよ、と必死に拝んでいるものも見えた。その心配はないよ、などと気休めにも言えるものなど誰もいない。


 ディレル・ピロンゾが最終確認を済ませ、精神を研ぎ澄ます。



「起きられよ。深淵の眠りにつきしものよ。今こそ無数の脚もて、大地に躍動せよ。翼なきものが空を飛ぶが如く、エラなきものが水に呼吸するが如く、秘したる力を見せられよ。――――震曟動神!」



 ディレルの詠唱が止む。しかし、何事もないかのように静寂が辺りを舐める。


 固唾を飲んで見守るミハエルたち。


「あー……」


 早くもしびれを切らし始めたノルベルト・グリモワールが、何にも起こらねぇよな? とつぶやきかけた、次の瞬間。



ググググググ



 と、大地が不気味な声をあげ、まるで地震でも起こったかのような振動と鳴動が辺りを揺るがす。


「うお、だ、大丈夫かよ」


 焦ったような声を出すノルベルト。だが、その姿勢に一切の揺らぎはない。


 周辺で悲鳴をあげて散り散りに逃げたり、その場にへたり込んでいるのは町の人々のみで、ミハエルらディルツ騎士団の面々に動揺の色はない。


 くぐってきた修羅場によって鍛えられた心身のなせる技といえるだろうか。


「リリクルさん、本当に大丈夫なんですか?」


「知らん」


 ミハエルがリリクル・フォン・プロンゾに問うも、巨木を移動させるなど前代未聞の事態がどうなるのかなど知るはずもないリリクルがそっけなく答える。むしろこっちが聞きたいわいといった雰囲気である。


「なんだか怖いね。ニーモ」


「そうだね。こんな大魔術を使える術者など、世界にもそうはいないだろうし、飛び切り珍しいものが見られるだろうね」


「別に爆発したりはすまい?」


 ミミクルがケット・シーのニーモにすがりつき、カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイクがのんきに物騒なことをつぶやく。爆発の危険があるのはお前の魔法だろう、と心中密かに思ったものがいたとか、いないとか。


「我らが御神木が………」


 がっくりと肩を落とすビーククト・ブロンゾがこれまでのプロンゾの常識と必死に戦っている。探し求めた自分の娘が、売春窟に不治の病で虫の息の状態で見つかったような絶望的な表情である。


「もう、諦めましょう………」


 シシスナ・プリムゾがそんなビーククトをいたわる。その点、こういう場合、女性の方がはるかに切り替えが早い。


「落ち着け。大丈夫だ。そぉれ、出てくるぞ」


 に、と笑うディレル。


 何が?


 などと誰も聞かなかった。


 おおよそ予想はつくからだ。そして、皆の予想通りに地面を割いて、それは現れた。


ドッ


ズドッ


 と、アトゥーレトゥーロの周囲に、まるで腕のように、足のように、無数の根っこがにょろにょろと湧いて出たのだ。


「見ないほうがいい」


「わっ!」


 そのあまりの光景に、過保護なニーモがミミクルの眼を覆う。


「確かに、見てて気持ちのいいもんじゃねぇな………」


 ノルベルトの嘆息。


 眼前で展開する光景は、まさしく驚天動地の世界だった。


 無数の、細かったり巨大だったりと様々な根っこが、土中から姿を表しにょろにょろとうねりながら、優に数千トン、もしかすると万トンはあるかと思えるアトゥーレトゥーロの巨体を持ち上げようと大地に踏ん張る情景は、確かに、見るものの精神に激しく訴えかける何かがあった。


 しかも、ズズズズだの、ググググだの、ゴゴゴゴだの、巨木がきしむ轟音と、大地の激しい鳴動とセットでの光景だ。


 アトゥーレトゥーロを動かす、という前情報なしにその光景に出くわしたら、一生ものの悪夢となって苛まれそうなそんな末恐ろしい光景が、眼前で展開されているのであった。もちろん、荒事に免疫のない住民たちはもはや正気の沙汰ではない。まともに正視できるものなど一人もいなかった。クルダス様お助け~、などと言う悲鳴やら必死の祈りやらがミハエルの耳に入るが、当然、ミハエルらにもどうしようもない。ヨハン・ウランゲルが恐る恐る後ろを振り返ると、何人かはすでに失神していたのであった。フランコ・ビニデンとて多少の修羅場をくぐってきたとは言え、開いた口が塞がらない。


 数千トンの巨体を支えるものであるから根っこも巨大なものは人間などあっさり押しつぶしてしまいそうなほどのでかさであり、さらにその根を当たりに張り巡らせ、200メートル級の大巨木が、


 どっこいしょ


 と巨体を持ち上げる光景は、神話級のドラゴンがこの世に出現したかのような非現実的な姿であった。


 それまで、微動だにしないから、200メートルあるとはいえただの巨木と認識していた物体が、突如として生物として再認識させられたのである。200メートルの巨木と、200メートルの生物では、根幹からして意味合いが変わってくる。単純に言っても、生死に関わってくるほどの相違が突如として沸き起こったのであるから、たかだか一~二メートルもの矮小な生物が受ける衝撃は尋常ではない。


 動かす、という前情報に接していてすら、ミハエルらが受ける精神的圧迫は計り知れないのであった。


「俺の眼で確かに見てるんだろうが、俺自身の正気を疑いたくなってきたぜ………」


 腕を組みながらも、笑顔がひきつっているガンタニ・ティーリウム。


「同じくです」


 優雅に微笑みながらも、顔面が蒼白なバルマン・タイドゥアである。


「わたしが異常でないことが確認できたことだけは安堵いたしました」


 口元を抑えながら、呻くように声をあげるジャン・ウブリアム。他の二人は言葉もなくへたり込んでいた。


「いいか。ワシがいいと言うまで決して眼を開けてはならんぞ」


「お前さまの手がどかないと、開けることすらままなりません」


 グナクトの熊のように巨大な手がイーナム・ディームの顔を覆っている。とはいえ、豪胆さにかけては人後に落ちないグナクトすら、プロンゾ重代の御神木が、まるで咆哮を上げながら轟くドラゴンのように巨体をゆっくりと一歩を踏み出そうとする姿に、いままでの常識やら掟やらにのっとって生きてきた、これまでの人生を嘲り笑われているかのような衝撃を受けており、いつもの余裕などかけらもない。


 しかも、その一歩とて尋常ではない。


 無数の大小様々な根っこが、



うぞぞぞぞぞ



 と、それぞれに眼と意思があるかのように蠢いているのだ。その光景を目の当たりにすれば、ムカデとてションベンちびって逃げ出すこと間違いはない。


 ミハエルらが同様の目に合わないのは、ある意味奇跡と言ってもよかったであろう。とはいえ、さすがに屈強なディルツ騎士といえど中には目を剥いているものもちらほら出始めてはいたが。


「そ~れ、進まれよ~」


 いまや、すべてのものが己の正気を疑わねばならなくなりつつあるさなか、ただ一人だけ上機嫌のディレルが、まるで操り人形を操作するかのように手を大きく動かす。


 ディルツ騎士団の砦のある小島を我が物顔で占拠していたアトゥーレトゥーロが、ゴゴゴゴゴと、光景だけでは飽き足らず大音響で周辺のものの精神をガリガリと削りながら湖にめがけて巨体を進ませる。


 それを半ば放心しながらぼんやりと眺めているヨハンが、生簀とは別の場所を進んでくれてよかった、と思っていたのであった。


 とはいえ、それで安心はできない。


 数千トン、下手すれば万はある巨体が湖に突入すればどうなるか。


「これは、逃げなきゃいけないのでは?」


 ミハエルがそれを予想する。


「慌てるな。婆に抜かりはないわい」


 ぶわ、とディレルが手を大きく振った、その時だった。



ズザザザザザッ!



「まじかよ!」


 湖の水が、突如として真ん中から二つに割れ、左右に切り立った崖となって別たれたのだ。先程から非常識な光景が展開して神経が麻痺していたはずのノルベルトですら驚愕で声があがった。


「あれ、これ神話とかで語られるクラスでは?」


 そろそろ神経が焼ききれてきたフランコが無邪気に笑いながら言う。


「海峡の水を割るくらいであれば、間違いなくガロマン教皇から奇跡として認定されるであろうな」


 カトリーナとて若干上ずった声色でしゃべる。


 いま眼前に展開している光景は間違いなくそのレベルの内容なのだ。200メートルの巨木をこともなげに動かし、さらに、湖とは言え大量の水をこともなげに割る。もはや人智の及ぶ範囲ではない。奇跡という言葉すら軽いだろうな、とカトリーナが乾いた口の中でつぶやいていた。


 大量の水が、まるで凍って盛り上がったかのようにめくり上がり左右に恐ろしい山を作りながらも、超常の力でそのままの状態を維持され、そこにアトゥーレトゥーロが底が見える湖を、見た目だけはにょろにょろと無数の根っこをのたくらせて大過なく前進する。湖の底に沈殿していたであろう大量の泥をかき回しながら。しかし、進む速度は非常にゆっくりだ。万トンに達するかもしれない、大巨体を激しく動かせば地響きがとんでもないことになるので、ディレルがゆっくり動かしているのである。すでに経験があるものの知恵といえよう。どこかで子供の泣き声が聞こえる。あれを見て泣かない子など、この地上には存在すまい。


「なあ、リリクル嬢、あの御神木を今後拝めといわれて拝めるか?」


 ノルベルトが無表情のままリリクルに問う。


「言うな」


「いや、だってさ」


「言うな!」


 悲痛な悲鳴をあげるリリクルや、ビーククトであった。


「まったく、このくらいで悲鳴をあげおって、軟弱者め。婆は先に行っておるぞ」


 やれやれ、と大げさに肩をすくめたディレルが、魔術でふわりと空を浮かんでアトゥーレトゥーロの後を追う。


「おい、ミハエル、後を追えるか?」


「………すいません、膝が笑ってます」


「そうか。俺も、大差ない」


 盛大にため息をつき、がっくりと肩を落とすノルベルト。ディレルの後を追えるものなど、この中に誰一人とていなかったのである。


 それは、グナクト、カトリーナとて、例外ではなかった。


 すべての人間が、現実を超越しまくった光景に、神経がもたなかったのであった。異様なまでの疲労感にさいなまれ、何人かは、溜息をつくことすらできずにただ、立ち尽くすのであった。恥ずかしいので気絶だけはしないように、と必死に大地に踏ん張って。


「ニーモ、どうなった?」


 そんな中、その狂気の情景を見ることを許されなかったミミクルが、不安げにニーモに問うのであった。


「………人に過ぎたるものは恐ろしいものだなと、改めて認識したところだね」


「見たかったような、見なくてよかったような………」


 とはいえ、別に、見なくとも音だけで何が起こっているかはおおよそ見当がつく。


「逆に疑問なのだが、婆はどうやってここにあれをもってきたのだ?」


 リリクルが召使い達に問う。


 あんなどでかいものが轟音を立ててやってくれば、それこそアルクスネは蜂の巣をつついたような大騒ぎとなったはずだ。住民たちが黙って受け入れるわけがない。


「あ、あの、ディレル様はすべての住民を魔法によって眠らせてから………」


「………だろうな」


 単純なことであった。


 ため息をつき、弱弱しくかぶりを振るリリクル。




 しかし、これで移設は終了ではない。


 むしろ、これからが移設の始まり、端緒についたといえるのだ。


「ものどもよ、起きて王者の座を整えるのだ」


 空中を漂うディレルが、さらに魔力を込める。

 

 すると、今度は対岸にあった木々がうごめきだすのであった。アトゥーレトゥーロよりは小さいとはいえ、それでも50メートル級の大木たちが、一斉に目覚めたかの如く、巨体を揺らして立ち上がり、アトゥーレトゥーロが鎮座するための場所を開けたのである。


 しかし、それだけでは終わらない。


 自らの根っこをまるでスコップのごとく器用に操り、アトゥーレトゥーロが巨大な根を張るだけの穴を掘り始めたのだ。


 多少遠方になったとはいえ、これまた人智をはるかに超越しまくった情景に、もはやミハエルたちに言葉を発する体力も精神的余裕もない。


 さらに、穴を掘るだけではない。


 スコップでたとえるなら、恐ろしいほどの巨大なスコップが数百キロという大量の土砂を抱え、木々たちが、悠々と湖底を進むアトゥーレトゥーロの脇を這いながら、小島に開いたこれまた巨大な穴に、大量の土砂を埋め始めたのである。


 ああ、ああやって、穴を開けたのか。


 何人かが、それこそ現実感のない、白昼夢を見ているかのようなぼーっとする頭で考えた。


 すでに非現実的な光景がこれでもかと繰り返されている中で、それでも、50メートルの巨木が行う土木作業は、圧巻の一言であった。


「場所はこれくらいでよいか、……そうだ」


 木々達をのんきに操るディレルが、ふと思い出してくるりと反転すると、そのまま空中を漂ってミハエルらの元に来る。


「ミハエル殿、確か、一万もの増援があるとのことであったな?」


「は、はい、そうですが」


「その人員を寝泊まりさせるのは、あの砦か?」


 ちらりと、砦に目をやる。


 小島であれば一万人を駐屯させるだけの敷地はあるが、しかし、現在の騎士や兵士たちが寝起きする砦そのものにそんな大人数を養えるだけの規模はない。


「小島に増築を検討していたところではありますが……」


「なるほどな、ならば婆がしつらえてみようぞ」


「え、どうやってですか?」


 いま行っているのはアトゥーレトゥーロの移設のみで、砦の代わりになるものを新たに作るものではないはず、と頭の片隅で思うミハエル。なれど、ここまで現実をはるかに逸脱した光景が連続したので、どうとにでもやってしまうのだろうな、という思いもあったわけだが。


「ふはは。婆に任せよ」


 かんらかんら、と高笑いをあげたディレルが、またすい~、と空中を漂って木々たちの指揮に戻る。


 木々たちが開けた巨大な穴に、湖底から這い上がったアトゥーレトゥーロが、もぞもぞと自身でも掘削作業をしながら巨体を滑るこませると、場を開けた木々たちがアトゥーレトゥーロを中心におよそ100メートル開けた間隔で円を描いて同様に大地に鎮座する。土砂の入れ替えが終了すると、用済みとばかり、ディレルが割っていた湖の水を元に戻す。


 さらにそれだけではない、鎮座した木々が、お互いの枝と枝をまるで腕を組むかのように互い互いにくっつけ始めたのだ。本来なら別々の枝同士が、接触すると同時に融合し始めたのである。


 みるみるうちに出来上がってゆくもの、それはアトゥーレトゥーロを中心にした城壁であった。


 高さも向きも不揃いだったはずの枝が、うにょうにょとうごめいて均等な高さで整ってゆく。恐らく、そこは兵士が詰めるための場所だろう。互いに組み合わされ融合した枝が形作るのは城壁上の通路、いわゆる歩廊であり、巨大な幹が塔にあたる詰め所になるのだろう。また、人が難なく通れるほどの穴が、何の道具もなしに幹に開いてゆく。さらに地上では、馬車が楽々通過できるほどの門に相当するほどの大きな穴が開いてゆく。


 数多の枝が、うにょうにょとうごめいて位置を自由に組み替える、などという非常識な事態にあっても、もはやノルベルトすら何の声をあげる気も失せていたのであった。もっとも、遠方の光景なので余計に現実感を喪失していたわけだが。


 枝葉に隠された、四段層ものの歩廊を備えた城壁が出来上がる。外からは内部の様子はうかがえないが、中からは外の様子が隅々まで見渡せる城壁だ。唯一の懸念は火に弱いことだろうが、生木は簡単には燃えない。ましてや、四段もの歩廊に陣取り、プロンゾ・ロングボウを構えたプロンゾ兵の鉄壁の守りに、やすやすと侵攻できる軍勢などそうはいないだろう。


 十万ものコボルドの侵攻でも耐え抜いてしまいかねない城壁の出現に、リリクルは感嘆する。もっとも、そこまで攻め込まれれば間違いなくディレルの魔法がさく裂するのであろうが。あれ、これディレル婆一人いればいいんじゃない? と思ったが慌ててその考えを振り払う。


 最強であろうが無敵であろうが、婆は婆、寄る年波は確実にディレルの寿命を削っているはず。永劫ディレルにおんぶにだっこではいられないのだ。


 むしろ、ディレル亡き後の落差に備えることこそが、自身の役目であろう、とリリクルは己を納得させた。いつ亡くなるか、など当人に聞いてくれ、とも思ったが。


 しかし、ミハエルらの目から隠されてしまった城壁のなかでは、さらなる異変が巻き起こる。


 円状に配置されなかった木々が、己の体? である木を裂き初めたのだ。それこそ、皆の目から逃れて好都合の、人の目には決して触れさせてはいけない狂気の光景であった。ベリベリ、バリバリという狂気の音を立てながら、己自身を引き裂いた木々が、引き裂いた狂気の情景のまま今度はその木材、を組み上げ始める。


 己の体? を引き裂いて、組み上げるもの、それは砦。


 ディレルの、人の身に過ぎたる魔力によって、組み合わされた木々はただちに融合、次々に、小島にある砦にも決して劣らない、いやそれ以上の規模、まさしく城塞と言っても過言ではない規模の建築物が組み上がってゆく。高さはおよそ30メートル10階建て、アトゥーレトゥーロと城壁にあたる木々の間の面積の半分ほどを占める巨大な建築物が、恐ろしい速さで組み上がってゆくのだ。


 なにせ、作るのは木々たち自身である。組み上げる高さも、力も、人手も、材料にも困らないという、誇りをもって仕事に励む大工が見たら卒倒するか、何か侮辱された気になって大いに怒り出すであろうデタラメさで作り上げてゆくのである。人の手で作り上げたら間違いなく数ヶ月、もしくは一年はかかりそうな建築物が、ものの一時間ほどで組み上がってゆく。メチャクチャである。


 その頃にはさすがに激しい精神的衝撃から何とか立ち直ったミハエルたちが、とぼとぼと疲れた足を引きずって湖を半周、城壁になってくれた木々たちの城門をくぐって中に入る。


「うわ!」


 比較的精神的なダメージが軽いミミクルが驚きの声を上げた。


 半径100メートルほどの生ける城壁もすごいが、生ける城門をくぐって、中央にどしんと鎮座するアトゥーレトゥーロの光景も荘厳ではあるが、そればかりではない、その両脇を固めるように、砦と言い切っても間違いではない生ける建築物がすでにどっかと構えているのだ。バリバリと己の身を引き裂いたはずの木々は、形を建物に変えながらもその生を少しも損なってなどいないのである。数十本もの大木が、まるでひとつの生命体であるかのように融合し、ひとつの建造物として結実しているのであった。


 樹皮が家屋の壁に、枝葉が屋根に成り代わり、幹が柱となって、一個の建物になってはいても生きているのだ。生ける城壁である木々によって夏の日差しを遮られ、ある意味幽玄な雰囲気の中に佇むこれまた生ける砦に言葉もなく息を呑む。


 これまでなら、アトゥーレトゥーロの中にプロンゾ人が住んでいるといっても、その形はほとんど元の木としての姿を失っていなかったのである。しかし、この砦となった建物は、木としての姿を大きく変じながらもそれでも木として生きているのだ。これまたこれまでの常識を根底からひっくり返された面々である。


「驚きすぎて、もう驚く元気もねぇよ……」


 はぁぁ、と魂が逃げ出しそうなため息をつくガンタニの一言に、誰もが賛同したが、しかし、うんうんとうなずく元気すらもないのが正直なところであった。


「どうじゃ。圧巻であろう」


 えっへん、と空中を漂いながら胸を張るディレル。


「す、すごいですね」


 そんなディレルに、もはや義務感で応答するミハエルである。


「ふはは。これなら一万人は楽に居住できるであろう。まあ、中はなにもないが、準備はおいおいやればよい。これで貴族の居館としての体裁は整ったであろう」


「このような、生きたままの木々で本拠地を構える貴族など、ユーロペタ広しといえどプロンゾ人しかないでしょう。感嘆のあまり言葉もございませぬ」

  

 ジャンがうやうやしく膝をついて頭を垂れる。


 それが阿諛追従(あゆついしょう)であったとしても、それに異論のあるものはいない。


 ディレルがいる限り、今後一切プロンゾが追い詰められることは決してないだろう、と皆が等しく思う。


「うむうむ。プロンゾの勇名をさらに博すのだ。これくらいはあってしかるべきであろう。とはいえ、婆も流石に力を使いすぎた。少し疲れたでな、早めに休ませてもらうわい」


「お疲れ様さまでした、婆様」


 あくびをしながら、先程と同様、空中を浮かんでアトゥーレトゥーロの中に入ってゆくディレル。


 ねぎらいの言葉をかけるミミクルを尻目に、これだけのことをやっておきながら、「少し」かよ。と皆が一様に思ったのは言うまでもない。


「マジで、巫女様を戦場に引きずり出さなくて心底ホッとしたぜ……」


 小声でノルベルトがつぶやく。


「いっそのこと、コボルド征伐に巫女様にお出まし願っては?」


 ヨハンが、冗談とも本気ともつかない口調で言う。もっとも、9割9分ほど本気ではあったが。


「気持ちは大いにわかるが、婆がなくなった後を思えば、むしろ戦場に出てもらわないほうがよいだろう」


「なるほど、確かに……」


 リリクルの言葉に心から納得する。


 ディレルが本気を出せば、このユーロペタ全土を征服できるのではないか、と冗談でも思えるのだから尋常ではないが、ディレルがいなくなってしまえばその反動を考えると恐ろしい。それこそ、プロンゾ誅すべし、などと対プロンゾ十字軍が叫ばれでもしたら目も当てられない。


「過ぎたるはなお及ばざるが如し」


 ぽつりとつぶやいたニーモの言葉に、誰もが空虚な心で聞くのであった。



はちじゅっかめ~(知らない人は無視してください)


いやぁ、続きを書かねば書かねばと思いつつも、稚拙な我が文章の前に慄いてしまいましてのぅ。超遅筆であいすみませぬ。


さて、久しぶりのくせして今回は正しい日本語を遣いたい実行委員はお休み。言うほど勉強にならなかったもので。


しかしまあ、世相を見ておるとチャイナを放置すると世界が滅亡の危機に瀕することが分かってしまったようですし、本当にチャイナ対世界大戦が勃発するのかどうか、が次の世界の状況ですかね。


金軍閥はどっこい生きてますし。おめ~。


これまでは経済最優先でチベット・新疆・ウイグルで民族浄化しておっても世界は無視しておりましたが、その最優先すべき経済に大打撃を与えたチャイナがこのままのうのうといられるのかどうか。しかも、世界中にマスクを輸出、という世界規模のマッチポンプ? までやりだすに至って、世界がどう出るのか。


いよいよ第三次世界大戦=核戦争も視野に入ってきた、というところでしょうか。


まあ、指をくわえてみておりませう。


では今回はこんなところで。

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