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天と地と人  作者: 豊臣 亨
二章  鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク
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鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク (三十二)~ディルツからの客人~



 にい、と笑うディレル・ピロンゾの横に、三人の男たちがひざまずく。


「客人だ」




「………客人?」


「お初にお目にかかります。リリクル・フォン・プロンゾ、プロンゾ方伯様におかれましてはご機嫌麗しゅう」


 リリクルが目を真ん丸にして驚く。


 客人を迎えることなど、珍しいのだ。ディルツ騎士団関係でミハエルに客人はありえても、リリクルに客が来ることなどこれまでまったくと言っていいほどなかったからだ。いや、リリクルのみならず、閉鎖的なプロンゾ族そのものに来客というものがほとんどないといってよかった。


「………こちらは?」


 明らかに身なりも、ひざまずいた姿勢も整った三人の男に挨拶をされ、戸惑ったままのリリクル。こいつらは? と言わなかっただけでも貴族としての自覚が芽生えていると言えようか。


「うむ。こちらはヴィッテンブルン大公が臣にしてマタライ・フォン・ヴィルダッシュ子爵の使いで、ジャン・ウブリアムだ」


「ヴィッテンブルン大公!」


 ざわ、と目の色を変えるミハエルたち。


 ヴィッテンブルン大公とは、ディルツの南方にあるミュンタンを治める大国でディルツ領邦の雄。ガロマン皇帝を選出できる選帝侯の位にある大貴族である。神聖ガロマン皇帝フリーデルン二世の縁戚であり、しかもミハエルの一族、ジューリッケン方伯とも縁戚関係にある。いきなり大物貴族の一派の接触、というわけだ。


 教皇対皇帝という対立構造が表面化してすでにある程度時間が経っているが、現状、ミハエルたちはガロマン教皇ではなく皇帝よりといえる。


 ヴィッテンブルン大公も最近教皇派から、皇帝派に傾いたという経緯があるので、その家臣であるマタライもパラレマ王宮でのリリクルの授爵に立ち会っていたのだろう。


「お噂はかねがね伺っております。見目麗しい、美の女神に祝福された、咲き誇りし大輪の薔薇にして宵闇にひときわ輝く大アククスラーネ星のごときリリクル様の知己を得られて望外の喜びにございます」


 優雅に会釈するジャンと紹介された男。大仰な世辞の言葉にまったくてらいも恥ずかしげもない。まるで本当にそのように思っているかのごとくすらすらと流れ出て来た。世辞が日常会話として出てくるのだ。いかにも、様々な貴族とも面識があるものの物言いだった。もっとも、リリクルを目にした時一瞬ハッとしており、お世辞とも言い切れない真剣味がこもってはいるが。


 これぞ貴族の召使い、といった風情の、柔和な中にも芯の強さを兼ね備えた人物だった。目の雰囲気から、いかにも知的な、主の世話をそつなくこなし周辺業務をてきぱきとこなす辣腕ぶりが伺われた。


「あん?」


 されど。ここまで見事な美辞麗句を送られれば世故長けた貴族令嬢なら、「まあ!」とでも言ってニコニコしそうなものだが、見知らぬ男からあからさまな世辞を言われたリリクルはうろんげな目を送るのみだった。


 新人貴族に、社交性はなかったのである。


 会心の初対面を演じてみせたはずなのに、胡散臭げな冷ややかな目つきで見降ろされるという反応が返ってきてジャンも冷や汗が禁じえない。


「こら。睨みつけてどうする。すまんなジャンよ。これこの通りの田舎者でな」


「い、いえいえ。断りもなく押しかけてしまったのですから、むしろ、当然の反応といえるでしょう。しかし、わたくしは幸いでございます。これから華やかに伸び行くリリクル様の、初々しいお姿を拝謁するにかなったわけですから。貴族としての優美さを身に着けられるリリクル様の今後のお姿を想像するだけで胸が高鳴る思いでございます。ああ、紹介が遅れました、わたしが筆頭側仕えで、こちらがジャカム・ファゼカス。こちらがバランタ・イウフムでございます」


 ジャンの左右にいる両名が同様にお辞儀をする。


 他者の欠点すらお世辞に変えてしまうという社交スキルをごく自然と見せつけるジャンに、田舎者丸出しのリリクルとて感心せざるをえなかった。


 そうか、貴族になったんだからこういう手合もさらっと対応せねばならんのか、とひとりごちた。プロンゾの未来を掴み取るためとは言え、何とも面倒くさいものだな、という嘆息は心に秘める。


 尻尾を振っているワンコのように待ち構えるジャンに、すっとリリクルは手を出した。貴族女性の振る舞い、とやらならパラレマ王宮で少しは見て覚えたつもりだ。


「………リリクルだ。よろしく頼む」


「はい! どうぞ、よろしくお見知りおきくださいま」


 リリクルの手の甲に口づけをするジャン。その姿さえ様になっているのだが、リリクルは、こんな挨拶程度ですら気取らねばならないのか、と憂鬱な気分だった。


「先だって、パラレマ王宮でのリリクル様の見目麗しいお姿に、我が主はいたく感激され、しかも必死の思いで故国の復興に当たっているとのお言葉に感銘を受けられまして。是が非でもお力添えをせねば、と、いても立ってもいられず、このわたくしがお手伝いを命じられました次第でございます」


「む」


 ミハエルを主とするディルツからの復興支援で何の不足も感じていなかったリリクル。押しかけ助っ人がいいのやら悪いのやら見当がつかず曖昧な表情となる。


 そして、当然のように、誰がそのマタライとやらか、など皆目見当もつかないわけだが。


「ミハエル様も、ご機嫌麗しく」


「お仕事ご苦労様」


 ミハエルを見つめ、ニコリと微笑むジャンに、貴族らしいにこやかな笑顔を向けるミハエル。さすがに初対面の相手だからと言って睨みつけるような真似はしない。実に無難な、しかして、どうでもいい相手向けの笑顔だな、とノルベルト・グリモワールなどは見抜くわけだが。


「数々のご活躍のほど、遠い地の我らにも轟いております。大変なご出世でございますね」


「大過なく任務を全うできて安堵しておるところです。しかし、先を越されてしまうとは、お恥ずかしい次第です」


「恐れ入ります。わが主、マタライに急かされてしまいまして」


 パラレマ王宮で授爵して三ヶ月足らず。たったそれだけの期間で、さっそくリリクル目当てで人を使わせるとは、何と手のはやいことだろうと、驚きながらも呆れる面々である。


 利にさとく、機を見るに敏。商人だけではなく貴族としても望ましい資質だ。


 とはいえ、リリクルに群がる貴族連中を思えば、先んじようと思うものが出てくるのも当然と言えようか。どこの馬の骨とも知らぬ蛮族上がりとはいえ、美貌の点でも、垢抜けていない人間性でもどこぞのすれっからし貴族女性よりはるかに御しやすし、と踏んでいるのだろう。それに、ディルツ騎士団でも抜きん出た活躍をしたミハエルとの関係もある。また、爵位は方伯、今後の成長次第では有望株とも成りうるのだ。優良物件に投資をするのは当然といえようか。次男、三男あたりを送り込んで調略できれば上々、といった皮算用だろう。


「晴れて貴族の仲間入りともなれば、こうして貴族の賓客も迎えねばならん。プロンゾのために訪うてくれた客人を、ディルツの砦やアルクスネの平民向けの宿に泊まらせるつもりか? 我らが居館で手厚く迎えねば失礼にあたろうが」


「う………」


 召使いとはいえ、貴族の使いであるならば貴族と同格とはいわないまでも、それに準じた扱いをせねばいけない。粗略に扱えば何が起こるかわからないのが貴族という人種だ。


 とはいえ、この短期間で人を使わせるとは、誰が想像できるだろう。


 この事態をゆくゆくは予想していたとは言え、さすがにこうも性急に事をすすめるものがいようとは、とノルベルトも驚きが隠せない。少しはミハエルにもこういった資質があればなぁ、と他人事のように思うのであった。もっとも、ミハエルがそんな俗臭を紛々とさせれば少なくとも自分は近寄りはしなかったろうが。


「まあさすがに、婆もここまでタイミングが合うとは思わなんだがな。とはいえ、どうだ。放蕩者にここまでできたか」


 ふふり、とひそやかな胸をそらすディレル。


「ぐ」


 さっき帰ってきたばかりのものに、何もできるはずもない。それどころか、客が来るなどと夢にも思わなかったのだ。


 アトゥーレトゥーロを移動させるなど、とんでもない暴挙をしでかしてくれたと思って憤激していたのに、この暴挙が実は理にかなっていたとは、と衝撃を受けるやら目からウロコがぽろぽろ落ちるやらで、ここまででリリクルが受けた衝撃は尋常ではない。はっきり言ってショックが大きすぎて理解があまり追いついてこないくらいだ。


 ここにたどり着くまでにとんでもなく神経を焼尽させてきたが、それすら杞憂というか、空回りに終わってしまったことに、二の句がつけないリリクルたちである。


「はは、わが主がじっくりと吟味したリリクル様への献上の品も、アトゥーレトゥーロと申されましたか、素晴らしい居館に運んであります」


「うむ。長旅で疲れたであろう。中でとっくりと話を伺うとしようか。ミミも、よく頑張ったな。ところで、その方がミミの友人か?」


「は、はい! カトリーナ、と言います。親友、です」


 親友、と申し述べるミミクルの表情が、どこか恥ずかしげでもあり誇らしくもあった。


 そんなミミクルの表情を、ディレルは温かい目で見守る。


「紹介にあずかった。カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイクと申す。噂にはかねがね聞いていた、プロンゾの巫女に目通りがかなって光栄だ」


 そんなミミクルに対し、謙虚・謙遜とかいう考えはほとんどないカトリーナが胸を張りながらずい、と前に出る。とはいえ、プロンゾ最強、と名高いディレルを前にして、いささか緊張の面持ちだ。


 グナクトを前にしてもそこまで緊張もしなかったカトリーナだが、さすがにディレルを前にすると、その端倪すべからざる実力に自然と手が汗ばむのを感じるのであった。


「ブラウツヴァイク………、ガロマン教皇の有力枢機卿のご令嬢ですか」


 ジャンがつぶやく。


 短期間ではあるがカトリーナがパラレマ王宮でミミクルたちと一緒に行動していたのは周知の事実だ。


 神聖ガロマン帝国皇帝フリーデルン二世の居城に、敵対派閥であるブラウツヴァイクの令嬢、カトリーナがうろうろするのは好ましい状況とは言えないが、だからとって目があった瞬間殺し合いに発展するほど仇敵の間柄というわけではないからだ。


 確かに、両者は反目し、いつ何時戦争となるかは知れないが、その家臣や周囲にある同盟関係者が、敵同士として、絶対に反目せねばならない道理はないからである。


 むしろ、どちらにも協力関係があり、顔をつないでおくことは生き残るためにも重要だ。それに、お互いに反目する両者とて、極秘裏に和平の道を探る場合、ツテを求めるのはこういうどちらにも顔が利くものなのだ。その両者の間柄をうまく立ち回って大出世を遂げたのが、ディルツ騎士団総長レオポルト・フォン・シュターディオンなのであるから。


 敵は敵、味方は味方とはっきりと峻別したがる方が稚拙な思考なのだと断じた方が良い。人間万事塞翁が馬、なのである(この場合はにんげん、ではなくじんかん。人と人との間、ということ)。


 ジャンは、内心密かに、皇帝派として行動しつつも教皇派の有力者とつながりをもっているミハエルの如才のなさに感服していた。もちろん、その感服は完璧に勘違いだったが。


 さすがにふんぞり返るわけにはいかず、おとなしめのカトリーナに、ディレルは青眼を向ける。


 一目あった時から実力を伺っていたディレルだが、カトリーナの目を覗き込んで、信を置くに足る人物であると確信した。カトリーナの全身から立ち上る気や魔力、目にこもる輝き、どれも並のものではなし得ない高潔な人格だったからである。ミミクルが嬉しそうに、親友、と言えるだけの人物に巡り会えたのだ。


 何が嬉しいと言って、孫の成長を目にできることほど嬉しいことはない。


 ディレルは今日一番の笑みを浮かべた。


「ほう。ミミは良き友をもったと見える。プロンゾの巫女として歓待しよう」


「感謝する。長大な居館と伺って、早く目にしたいと思っていたのだ」


 カトリーナの視線がアトゥーレトゥーロに向く。ここまで近づくといよいよその巨大さに圧倒される。200メートルもの長さもそうだが、その巨大な幹からこれでもかと木々が伸び、枝葉が繁茂しているのだ。アルクスネの町の三分の一くらいはアトゥーレトゥーロの樹下にあるといってよい。


「大都会であるガラタリアからみれば、ただのでかいだけの木にすぎぬよ。とはいえ、プロンゾの宴を楽しまれるのがよかろう」


「はい、我らが領地も森林資源を数多抱えてはいますが、ここプロンゾの森林は桁が違いますね。しかも、ここまで美味しい蜂蜜酒を頂いたのは初めてでございます」


「ほう、それは楽しみだな」


 すでに歓迎されているジャンがプロンゾ産の蜂蜜酒を褒め、カトリーナが目を細める。そうして、ディレルに連れられて、カトリーナやミミクル、リリクルにグナクト、その客人であるジャンたちがぞろぞろと歩き出す。


 しかし、ミハエルたちは所在なさげにするのであった。


 アトゥーレトゥーロに足を運んでよい、という許可は得ていないからだ。いくらディレルが対外的に開放する、と高々と宣言したとは言え、招待もされていないのに当然のようについていけるほどミハエルは厚顔な人間ではない。


 どうするよ? という視線をミハエルに送るノルベルト。さらに、周辺にいる住民たち。そして、馬車を御するビーククト・ブロンゾ。数台の馬車はレオポルトから与えられたものであり、ディルツ騎士団所属であるから騎士団の砦に停車せねばならない。ほいほいとリリクルたちについてゆくわけにはいかなかったのだ。


「こりゃ! ミハエル殿! はようザーモスを準備してくだされ!」


 どうしたもんか、と顔を突き合わせていると、橋の途中からディレルの声が届く。そういえば、好物と言っていたな、と思い出すミハエルたち。


 しかも、橋を渡っていたディレルが、


「馬鹿息子に右腕がぁーッ!!」


 大絶叫を放った。


「あ」


 そういえば。


 もはやミハエルたちには当たり前のものとなってしまっていたが、グナクトが無くした腕が復活していたのだった。それは絶叫もするだろう。そのことを思い返して粉砕された自分の足の激痛を思い出すノルベルトであった。まったくもってミミクルさまさまである。


「ヨハン、すいませんが生け簀に行っていただけませんか」


「はい、かしこまりました」


 困ったように笑いながらヨハン・ウランゲルが走る。久しぶりの生け簀に、ヨハンも様子がみたいところではあったのだ。アルクスネがプロンゾの領都となって一年以上経つが、生け簀の管理はヨハン専従だ。豚は一年で丸々と肥えるが、ザーモスはそこまで成長が早くはない。1mを超えるまで数年はかかるのでまだまだ数が多くないのである。


「えっ、と、皆さん、後できちんと話し合いますのでとりあえずはお引取りを願います。数日中には動きがあると思いますので」


 ミハエルが住民たちに帰宅を促す。


 問題の主軸が超然と去ってしまったのでもはや如何ともし難い。


 お互いの顔を見合わせた住民たちだったが、ミハエルも帰ってきたことだし、どうにかなるだろうとミハエルたちに無事の帰還の祝いを述べてぞろぞろと帰ってゆく。


 ミハエルやバルマン・タイドゥアに黄色い声援を送る女性たちがいたり、娼婦たちがミハエルに見えない角度でノルベルトの尻をつねって帰っていったり、武器屋と新しい武具の具合について語り合うガンタニ・ティーリウムがいたり、子供たちに人気なフランコ・ビニデンが両腕に一人ずつぶらさげたり、という一場面がありながら。


「まあ、ザーモスだせ、ってくらいだから中に入れってことだろ。お邪魔させてもらおうぜ」


 久しぶりのアトゥーレトゥーロにノルベルトも視線をあげた。


「そうですね」


「酒が飲めるんなら否やはねぇよ」


 長旅にも疲れた様子はないガンタニ。


「あの高さから見下ろすアルクスネは壮観でしょうね」


 ゆったりと微笑むバルマン。


「では馬車と荷物の整理をしてわたしも向かいます」


 ビーククトが馬車に最後のムチを入れた。馬車の中にはいくつかガラタリアからの土産も入っているのだ。もちろん、グナクトの龍革甲冑に使われる予定のファイアドレイクの皮もあるし、リリクルのミスリルの武具もある。


「あー、疲れました。やっとゆっくり休めますね」


 みんなが騎乗する中、一人徒歩だったフランコが肩を上げ下げする。長旅を騎乗するものに遅れずに踏破する健脚はさすがと言えようか。


 砦につめる兵士や修道士たちへ簡単な挨拶をすませ、長旅のホコリを簡単に落とし、旅装から着替えてプロンゾ一族の象徴アトゥーレトゥーロへと向かうのであった。




「ほう! 絶景だな」


 アトゥーレトゥーロの謁見の場、大広間にやってきたカトリーナが感歎の声を上げる。階段を登ってくる最中は、明かり取りと通気のための小窓しかなかったが、今や大広間にはガラスがはめ込まれているのであった。しかも、全周に渡ってガラスがはめ込まれている。アルクスネ周辺をすべて見渡せるという、絶景を楽しむことができるのであった。


 場所的には地上から50メートルほど。今や方伯となったリリクルたち族長の住まいの階下にあるのが大広間だ。


 直径10メートル以上はあるアトゥーレトゥーロの中だけあって樹の中といえどそれなりの広さがある。すべてが部屋になっているわけではないが、生活する分には問題はない。問題なのはその高さに比例する階段の数だ。グナクトの移動を考慮した非常に縦に大きい階段をえっちらおっちらと登ることになる。健脚なものでも30分ほどかかる階段を、息切れ一つせずに登り切るカトリーナである。


「文明の利器、がついにプロンゾにもやってきたわけだ」


 ディレルが微笑む。


「アトゥーレトゥーロにも、ガラスが使われるようになったんだよ」


「なんと、二重になっているではないか」


「うふふ~。すごいでしょ」


 ミミクルがガラスから外を覗き込む。視界を確保しやすいように、内側と、外に広がって大きめのガラスが外側の外皮にはめられているので外の景色を十二分に眺めることができた。


 ディルツ砦はもちろん、湖にアルクスネ全景が眺望できる。とはいえ、ガラタリアにように完全にまっ平らなガラスではなく、ところどころ波打っていたり、泡が入っていたりと品質は要改善といったところだが、それでも初めてのガラスにプロンゾ人は驚嘆したのである。


 地上から数十メートルの場所にあるアトゥーレトゥーロの冬の外気は凄まじく寒い。なのでガラス職人が外皮側と内の壁側にガラスをはめ込んでいるのだ。これで中の熱を閉じ込めることができる。これまで、明りと言えば窓を開け放つ以外に方法がなく、窓を開ければ厳しい外気温にさらされる羽目になっていたが、それが劇的に改善されることになったのであるから、ガラスの恩恵は素晴らしいものであった。何より火の取り扱いに慎重なアトゥーレトゥーロの中にあって革命的な発展といえる。また、今は夏だが、地上から数十メートル離れているので全然暑くない。しかも樹の中だけあって湿度も丁度いい塩梅で保たれていた。


「まさにプロンゾの象徴と言えるでしょう。この絶景は、お金を払ってでも見る価値は十二分にあります」


 うんうん、とまるで我が事のように誇らしげなジャン。


「なるほどな。ディレル婆、ガラタリアまで出向けば………」


「ばかたれ。いくら婆でもそんなに魔力はもたんわい」


 妙案、といった顔のリリクルに、ディレルが呆れ顔でしかる。


「………巫女様。イーナムは息災か」


 側仕えのものから大慌てでお辞儀をされているグナクトが、周囲に視線を配って言う。


「む? おう。上におるぞ。帰還を知らせてやれ」


「は」


 暗がりにいるとまさしく穴熊といった風情のグナクトがのっしのっし、という形容で階段を上に上がってゆく。


「………あの馬鹿息子、無くした右腕は取り戻すし、南の海で望外に人暴れしたそうだが、随分と雰囲気が丸くなったではないか」


 ここまでの道中で色々な土産話をもらったが、何が驚いたと言ってグナクトに関する話が一番驚いたディレルである。よもや、ミミクルの召喚に応じてくれた天使にそのような能力まであるとは、さすがのディレルといえど知りうるものではなかったのだ。ミミクルに関しては、高位の天使の加護があるのも、ニーモという存在があるのでそこまで驚きはしなかったが、無くした身体を完全に復活させてしまうとは、さすが創世の神々の御使いというところだろう。


 それに、十字軍遠征で大した活躍も手柄もあげられず腐っているかと思いきや、南方に跋扈する亜人海賊相手に獅子奮迅の大活躍であり、神聖ガロマン皇帝フリーデルン二世から格別のお褒めを賜ったというのだ。


 ディレルはディレルで手を打っていたが、グナクトもプロンゾ躍進の行動をとっていた、ということだ。


 それは、このアトゥーレトゥーロで腐っていた時と同じであるはずはない、ということ。外に出て、新たな世界で新たな活躍の場を得、人間として、一皮むけたということだ。しかも、無くした右腕を取り戻すということは完全復活、第一線復帰だ。そんな息子の姿を拝見できるとは、長生きはしてみるもんだな、とディレルは面白く思った。


「んむ。最近は親父の怒声を聞かなくなった」


 今のグナクトなら、母イーナム・ディームに無体を働くこともあるまい、とリリクルは思う。


「リリクル様を方伯として頂き、武の化身とも称すべきグナクト様、そして大樹を支えるディレル様。それに次代を担うミミクル様。こうして客観的に伺ってみますと、どうしてディルツ騎士団相手に苦戦していたのか、と不思議な思いがいたします」


 マタライの側使えの一人ジャカムが称賛と同時に疑問の声を発する。そう発言して、迂闊なことを言うな、とジャンに睨まれるわけだが。


「………そう言われてみると、確かにそうだが。まあ、色々あったのだ」


 窓外に視線を落とすリリクル。


 閉鎖的に、内向的に、ただ内に籠もって自分たちの作り上げた掟やら、戒めやらに縛られて生きてきた。ご先祖様と、家族と、皆と一緒に労苦を分かち合うのも確かに悪くはない。だが、その掟によって、本来あるべき力の半分も出せずにいたのかも知れない、そして、そのまま歴史の暗闇に一族ごと没していたかも知れないのだ、と思うとガラタリアの開放的な、びっくりするほど前向きで朗らかな人々に触れると、そんな自分たちのかつての姿が、ひどく滑稽に思えるリリクルである。


 恨みと怒りと、空腹に震えていたあの頃とは天地の相違がある。


 今のプロンゾのメンツなら、これから先が楽しみだ。小さく笑みがこぼれた。


「リリクル様、皆様、おかえりなさいませ」


「ん? ああ、いま戻った」


「………よかった、アトゥーレトゥーロ移転について問題はなかったようですね」


 グナクトが帰ってきてリリクルたちの帰還に気づき、上階から下りてきたのは亡き兄、ディディクトの妻シシスナ・プリムゾだった。ディディクト亡き後も再嫁することもなく族長に仕えていたのだ。側近として復興の先頭にあって、いまは女性兵士の育成に力を注いでいる最中である。


 ここにみんなして戻ってきたということは騒動もなかった、と判断したシシスナである。


「なかったか、と言われると憮然(しつこいようですが、ぶぜんは唖然呆然と同義)たるものがあるがな」


「ふはは。文句があるなら婆に勝ってからにせい」


 かんらかんら、と高笑いのディレル。


「それはもう分かりました!」


 誰かこの老いを知らぬ老婆に、衰えというものを与えてくれ、と本心から願うリリクルである。


 困ったように笑いながら、しずしずと歩いてくるシシスナに、リリクルは視線を投げ、さしたる感興もなく視線を戻そうとした。


 だが、違和感に気づいてばっと振り返って、二度見。


 栗色の、艷やかな毛髪をゆるく三編みにして左の肩に垂らしていて、非常に穏やかな印象なのだが、戦士らしく目つきはきりりとしており、プロンゾ人らしく肌は真っ白。体つきはがっしりとしすぎず、ふっくらとして肉感的で女性的な美しさは一切損なわれていない。元から美人だったが、さらにそれが際立っている感じがしたのだ。


「んん? シシスナ、印象が変わったか?」


 じー。とリリクルが訝しげに不躾な視線を送る。化粧っ気などまったくなかった彼女だが、唇の朱が鮮やかで頬にも柔らかな朱が入り、目元も強調されて涼し気な印象が増している。


「え、そ、そうですか?」


「さすがリリクル様。お目が高い」


 リリクルの視線に耐えかねたシシスナが恥ずかしげに目をそらすと、えっへん、と胸を張るジャン。


「あん? なんでジャンが誇らしげなんだ」


「よ、よくぞお尋ねくださいました。これぞ、我が主、マタライから託されし貢物の一つでございまして、ディルツはもちろん、ガラタリアの貴族女性も愛用する化粧品でございます」


 うろんげにジャンをひたと睨むリリクルに、冷や汗まじりにジャンが熱弁を揮う。


「化粧品だと?」


「はい。リリクル様のため、と持参いたしましたが、多くのプロンゾ女性を美しく磨き上げるのも使命、と様々な化粧道具がございますれば。まずは、お見本、とシシスナ様に美しくなっていただきました次第にて」


 これみよがしに深々とお辞儀をするジャン。


「もともと大変お美しいお方でございましたが、一層、引き立っておられるかと。貴族の女性にとって化粧は衣服と同じように身につけるもの。リリクル様も、同様に、いえ、さらなる美しさを手になさること、必定にございます」


 いちいち芝居がかったジャンの仕草に、軽くイラッとしつつも、とはいえシシスナの美しさに磨きがかかったのも事実だった。ガラタリアにいた貴族女性たちはむしろド派手に過ぎて、リリクルの感性からすればけばけばしいと思うほどだったが、化粧というものにまったく馴染んでいないプロンゾに普及させるべく、不自然にならない控えめな装いが、実にいい塩梅なのだ。


「ほんとだ、シシスナさん、とても綺麗になってますね」


 リリクルどころか、ミミクルにまで見つめられてますます頬を染めるシシスナ。


「なるほどな、女にとっては、刀のみが武器にあらず、美貌も男を仕留める懐剣というわけか」


 リリクルが悪い顔でニヤリと笑う。


 とんでもない顔で真正面から見据えられ、すでにシシスナはいたたまれない。


 ディディクトをプロンゾの未来のために失い、だからといってディディクト以上の男に巡り会えるはずもなくただ、ディディクトのようにプロンゾのためを思って働いていたのだ。それが、その美貌で誰を誘惑するのだ? といった顔つきのリリクルに見られ、逃げ出したい気持ちにかられていた。とはいえ、リリクルにシシスナを責ようなどという気持ちはない。


「左様でございます。さすがリリクル様、たちまちにして本質を見極められる」


「それでミハエル殿をたらしこむ、てか?」


「たらっ………」


 ジャンのお追従に、ディレルはすぐにリリクルのオツムの中を察す。


 そう、ただリリクルはこれでミハエルに迫ってやるか、程度の気持ちしかなかったのだ。パラレマ王宮での授爵の時、召使いによって装われた化粧は、式典用のその時だけのものかと思っていたのだが、こうして貴族は日常的に化粧するのだと言われれば色々と考えられるというものである。ほっとするシシスナに、ディレルの言葉に二の句を失うジャンである。


「よし、ジャン。でかした。その化粧品を献上いたせ」


「は、はっ、その、差し支えなければ、リリクル様とミハエル様とのご関係を伺ってもよろしいでしょうか………?」


「んん? そなたに何の関係があるのだ? あぁん?」


「さ、差出口をお許しくださいませ………」


 修道騎士たるミハエルに妻帯はありえない。そのつもりでやってきたのに、リリクルがミハエルにご執心では話が違う。そう思うのだが、思い切り睨まれては何も言えないジャンである。


「だから睨むなというに。すまんなジャンよ。こいつは面食いでな、ミハエル殿にちょいちょいちょっかいを出しておるのだ」


「うおっほん。まあ、そういうことだ。そのマタライとやらがミハエル以上の器量ならばよかったのだがな」


 あのパーティーでミハエル以上の美男子はいなかったと、それだけは覚えているリリクルである。


「さ、左様でございますか、なれど、貴族としての器量とは、お顔の良し悪しだけではありません、経済力は抱える兵の数や、取引できる商人の数に関わってきますし、商人との関わりとはすなわち他領の貴族との関わりにも直結し、さらに神聖ガロマン帝国への納税にも深く関連します。自領の産物をより良く、多産にし、自領民を豊かにすることこそ、貴族の本質といえるでしょう」


「む、そのマタライとやらはそれらが得意と申すか」


「はい」


 自信ありげに深々とうなずくジャン。


 確かに、いくら面が良くても、領民を飢えさせる貴族は愚かな貴族だ。その点、ミハエルはそういう内政、統治関係ではそこまで熟達していないと言わねばなるまい。無能というわけではないが、基本的にノルベルトやディルツからやってきた文官のような修道士が一手に担っているのが現状だ。一応、北方十字軍騎士としては剣を振り回すのが本来の役回りであるのでそれでいいのだが、話が復興となると求められるものが違ってくる。


 なるほど、復興の手伝いと称して押しかけてくるわけだ、と納得するリリクル。とはいえ、具体的な話は聞いてみないことにはどうにもならないが。


「………ミハエルたちも後からやってくるだろう。その時にでも詳しく聞こう」


「はっ」


「しかし、シシスナのように美を手にできるとは、プロンゾもどんどん文明的になってゆくな」


「ふむ、確かに凡百の貴族がかすむ美貌、しかし、負けておらぬのは美貌だけではないな」


 遠巻きに見ていたカトリーナがすっとシシスナの前に立つ。


「そちらの、方は?」


「カトリーナと言います。わたしの親友です」


「ミミ様の………」


「うむ。カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイクと言う。ブラウツヴァイク家は永世枢機卿という一門で、貴族でいうなら侯爵か伯爵にあたる。しばらくやっかいになる、よろしく頼む」


「は、はい、こちらこそよろしくお願いいたします。シシスナ・プリムゾと申します」


「うむ。いきなりで不躾ではあるが、そなた、武に長けているのみならず、魔法でも素養があるのではないか?」


「魔法、ですか? 普段使わないので分かりませんが、どうなのでしょう………」


「そうだな、シシは魔力が並のプロンゾ人よりはある。かと言って巫女を目指すほど多量というわけではない」


 シシスナの魔力量を図るディレル。ちなみに、ディレルだけがシシ、と呼んだのは単純な距離感である。ディレルからみれば孫の嫁であるシシスナであるが、リリクル、ミミクルからすれば義理の姉になるからで、敬意を込めて馴れ馴れしくしてはいけないという自制からである。とはいえ、族長、方伯たるリリクルからすれば彼女らは家臣という立ち位置ではある。


 すでに、巫女以外は魔法を使えるものがめっきり減ったプロンゾ人である。平素より刀や弓に偏重しており多少魔力があったとしてもそこから魔法を使うことを目指すものは全然いない。虚仮威しの魔法が使えるより、一射でも多く矢を放って鍛錬しろ、というのがプロンゾの考えだったからだ。


「うむ、巫女を目指す必要はない。わらわの母上が考案された身体強化魔法を伝授するにふさわしい逸材であればよいのだ」


「え! カトリーナ、シシスナさんに教えるの!?」


「身体強化、ですか?」


「そうだ。この魔法は多少魔力がないと話にならんからな」


「ぐ。どうせわたしに魔力はないからな」


 それぞれにする反応面々に、悔しそうにするリリクル。


 帰還の旅の途中で、カトリーナから身体強化魔法を教えてもらったのだが、ミミクル以外はまったくといっていいほど魔力がなかったのである。魔力とは生命力から湧き出るものであり、大きく体力と二分される。まったく素養のないものでもまれに鍛錬によっては魔力が湧き出ることもあるからだ。とはいえ、どうして人によっては魔力が出たり出なかったりするのか、に関してはカトリーナと言えども不明だが、生まれつきの素養以外では、イメージ力が大きく関わると言われている。


 自分の手から生み出されるのが、ただの筋力・膂力か、それとも目に見えぬ波動か、を具体的にイメージできるものがやはり魔法を使いこなせるようだ。たとえば、大きくジャンプする時に必要なのは脚の膂力なのか、それとも己の魔法なのか、となった時に、やはりイメージ力がないものは脚で跳ぶ以外には想像できない。その、未知の己の中の力を信じられるか、否かが魔力が湧き出るか否かの境目だと言われる。


「体を巡る魔力を転換することによって劇的に膂力や強度を増すという魔法だ。一段階上の強さを手に入れたくはないか?」


「………皆様のお役に立てるのでしたら、喜んで」


 しばしの逡巡の後に、こくりと頷くシシスナ。カトリーナが天使を憑依させてコボルド相手に奮闘した、という話は、すでにタイルドゥ司教区でのタルトーム防衛戦の戦いに参戦した多くの兵士によって語られるところだったからである。


「うむ。落ち着いたらそなたらの鍛錬に付き合おう」


「はい」


 自分の母、セシリーニの研究結果を天鋼聖拳の門弟以外に広めることでさらなる声望を得ようと考えているカトリーナである。とはいえ、この魔法の元が、天使の憑依であり、しかも、研究段階で何人も爆発四散して亡くなっている、という事実を知っていればシシスナの逡巡はもっと大きかったであろうが。


「うむ。シシは美にも武にも磨きがかかって大変結構。さて、宴の準備が整うまでしばし時間がかかる、それまでは各々ゆるりとするがよい」


「じゃあ、カトリーナ、わたしの部屋にいこ。何もないけどね」


「うむ」


「妖精たちからの貢物である宝石なんか珍しいよ」


「あ、そっか」


 ミミクルがカトリーナを自室に誘う。何もない、というがケット・シーのニーモが言うのは、妖精や精霊が時々ミミクルに宝石や海岸に打ち上げられる琥珀などをプレゼントするもののことだ。妖精や精霊などの秘蔵の品を献上するだけあって非常に希少で価値が高いのだが、ミミクルにそういうもの価値は分からないのである。


「ならわたしは化粧品とやらを見に行くか。ジャン、案内いたせ」


「かしこまりました」


「ではわたしもお手伝いいたします」


 リリクルやジャンたち、シシスナが客間に行く。


「ふ。やはりアトゥーレトゥーロを移転させて正解だった」


 側仕えたちが席を整える中、一人残ったディレルは、玉座といってもよい巫女専用の椅子に座って、満足そうに微笑むのであった。ディレルとて、何の前例もいわれもないことをいきなりすることにためらいがまったくないわけではなかったが、それでも良かれと思っての行動だ。


 ここまでで様々な変化に直面してきたプロンゾだが、多分、貴族化よりもアトゥーレトゥーロ移転の方が最大級の変化であった。それが、簡単な説得にころっといってしまうのも、いまさら、という感覚もあるからだろう。とはいえ、あのグナクトすら黙り込んだのはさすがにちょろすぎるだろう、とは思うが。


 いや、最大級の変化でいうのなら、グナクトの変化が一番か。


 予備に落とされてしまったグナクトが、前線に復帰したのだ。そこから巻き起こる精神的変化は、恐らく自分で考えるより大きいのだろう。だから、アトゥーレトゥーロ移転を目にしてもそこまで異を唱えるには値しなかったのかも知れない。


 プロンゾにとってグナクト復帰はあまりにも影響が大きい。もしかすると、族長、方伯復帰などと言いだすものもいるかも知れない。だが、自分の娘に代を譲ったグナクトが未練たらしく雑音に同調するとは思えないし、何よりディレルがそれを許しはしない。


 それをしてしまえば、ディディクトの死が、何より汚されてしまう気がするから。シシスナだって複雑な思いになるだろう。


 とはいえ、意想外のところから最大級の懸念が払拭され、ディレルは心から安堵したのも事実。馬鹿でも阿呆でも、大事な息子であることには変わりはない。右腕を取り戻し、そして、同様に失ったものもこれから取り戻してゆくのだろう。孫たちだけでなく、馬鹿息子の成長まで見られることになるとは。


 生きていれば良いこともあるものだ。


 ふふ、と笑うディレル。これからが楽しみで仕方がない。楽しみといえば、あれが楽しみだ。つい、口からこぼれる。


「ザーモス、ザーモス」


 と。

 



 わっほー♪ わっはー♪ ヘ(^o^ヘ)≡(r^o^)r


 さて。


 昨今のおっさんの学問のコーナー(?)


 王道。


 これも東洋と西洋ではずいぶんと意味に開きがあるようで、王道でwikiると、王にとって楽な道、というので、古代ギリシアの学者ユークリッドが「学問に王道なし」と言ったのが由来とか。それが後々に、王道といえば正攻法、定石、みたいなニュアンスになっていったんだとか。


 しかし、王道が楽な道、と解釈できるところが西洋はすごいですね。


 東洋で王道といえば、理想の道、誰もが欲していながら実現できない理想郷、桃源郷みたいなニュンアンスで語ります。孔子様も、【己を脩めて以て百姓を安すんずるは、堯舜も其れ猶お諸れを病めり】とおっしゃったように古代の聖王でも王道をゆくは苦労したのだ、となるわけですが。さすが平民を家畜扱いしていた西洋は違いますね。


 また、文中にもでてきました揮う。


 他にも、振るう、とか書きますが、林先生の言葉検定によれば、本来は振る、となって、う、はいらないのだそうですね。とはいえ、揮う、があるので文脈によるのだとか。さすが日本語むずかちい。


 さらに、話は変わりますがこういうのがあります。美貌が武器というくだりですが昔の詩で、


【大阪本町 糸屋の娘

姉は十六 妹が十四

諸国大名は 弓矢で殺す

糸屋の娘は 目で殺す】


 というのがありますね。年齢が様々な詩によって変動はありますが起承転結の良い見本だそうです。なかなか洒落てますね。


 もちろん、この詩を下敷きにしてのリリクルのセリフです。


 では、今回はこのくらいで。


 したらばな~

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