鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク (三十)~ヴィーディナンへ~
「ほお、コボルドですか」
「はい。戦ったことはおありですか?」
ヴィーディナンへと続く森林街道を行くミハエル一行と、アルスレイド・ディ・フィエキバルド一行。
ミハエルの馬車に解体できるだけのファイアドレイクを載せて戻っている最中だ。距離の一番近いヴィーディナンで売りさばく予定なのである。
なにせ、全長15メートルもの巨大なドラゴンだ。馬車に載せるだけ載せてもあと何回往復せねばならないか不明なのだ。なので脳とか目玉とか内蔵とか、腐りやすい部位を切り取って運搬している最中である。町に到着したらアルスレイドは町の手の空いている荷役人足を雇うつもりだ。
ビーククト・ブロンゾの御する、グナクト・フォン・プロンゾの乗る荷馬車にも大きなファイアドレイクの腕がおさまっている。ドラゴンの指がグナクトの欠損した右腕側の竜革甲冑に一番適しているからだ。そう考えると、グナクトの腕と同じような大きさとは、さすがはドラゴンの指というべきか、もしくは15メートルものドラゴンの指に匹敵する腕を持つグナクトの方こそさすがというべきなのか。
また、貴重な素材なので盗賊にもっていかれても面白くないとフランコ・ビニデン、バルマン・タイドゥア、ガンタニ・ティーリウムの三人が残って見張ることとなった。何故なら、アルスレイド一行の馬はファイアドレイクとの邂逅で焼き払われてしまっていたからだ。付近の農村に出没したとの報を受けてファイアドレイク目掛けて馬を走らせただちに戦闘態勢に入ってしまい、馬を避難させることができずブレスを受けてしまったというわけだ。現在足のない彼らはミハエルらの馬に乗せてもらっており、街に戻り次第馬を調達する予定なのだ。もちろん、見張りの賃金もドラゴンを売り払ったお金からいただくことになっている。
そんな道すがら、である。
「いえ、我々はここガラタリアを中心に活動することが多くて。北方にまで脚を運んだことはないですね」
「そうですか。ですよね」
「コボルドは、強いですか?」
興味深そうに訊いてくるアルスレイド。ミハエルの後ろに座っている。
強いか弱いか、で判断するところがいかにも冒険者らしい、とミハエルは顔をほころばせた。
「そうですね、コボルド・ロードともなれば強敵でしたね」
「うむ。あやつはわらわが相対したのだ。なかなかにつわ者であったぞ。ミハエルとて死にかけるほどであったからな」
ふふん、と尊大に胸をそらすカトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク。得意げなカトリーナに反して、悲しい事実を暴露されたミハエルは手で頭をおさえていた。
もっとも、死にかけたのはカトリーナも同様だが、あれは不運な事故という区別がカトリーナの中でできあがっている。
「ふえ~、そりゃ、わたしもお手合わせしてみたいね」
カトリーナの馬に乗せてもらっている斧の戦士ケイト・ブランショット。
他にも、リリクルの馬に乗るのが魔法使いルーシャ・モナハンで、ノルベルト・グリモワールに乗せてもらっているのがドワーフ戦士のカタキリ・カイナナコ、ヨハン・ウランゲルの馬には神官のビルディ・ブルードが乗っている。
ミハエルの同乗にルーシャが希望したりと一悶着あったが、現状に落ち着いたというわけであった。
他にも、ドラゴンの胃袋をケイトが割いた時、中から無数の人のなりをした溶解物がでろりと出てきた時にはミミクルが卒倒したりという一騒動もあったわけだが。
「コボルドといえば、ここ最近、とみに人界に圧迫をくわえているそうですな」
ビルディが能面のままいう。
「はい。コボルドは急激にその数を増やしており、対応に迫られております」
ミハエル。そのためにも、アルクスネに戻ったらリリクルの母方の一族であるディーム族への融和を進める予定である。また、復興を更に進めつつも、プロンゾの大森林全体を防衛するための拠点の構築も行わなければいけないだろう。
「北方では亜人に対抗できる王家も少ないでしょう。討伐依頼をいただければ、我々も参加しますよ」
「そうですね、ありがたい申し出ですが、冒険者の方々を雇う余裕があるかどうか、わたしの裁量では何とも………」
アルスレイドの発言に苦笑いするミハエル。
凄腕の冒険者の日当がどれほどなのか、皆目見当もつかないのだ。ディルツ騎士団アルクスネ管区もそうだし、ようやく自給自足の目処がたったところのプロンゾ領に、冒険者を雇う余裕があるとも思えない。
「いいじゃねぇか。レオポルト総長に催促してみようぜ」
ノルベルトがにやりと笑いながらいう。対コボルド防衛網強化は喫緊の課題だ。そのための費用なら、たとえ高額になろうとディルツ騎士団総長レオポルト・フォン・シュターディオンは出すのではないか、というのだ。
現状、ディルツ騎士団は様々な寄進を得て、財政的には豊かなはずだ。ただ、アルクスネに目立って回って来ないだけで。今後、コボルドがさらなる脅威となるならば、冒険者を雇うという選択肢もでてくるであろう。
「検討してみますか………」
「ははっ。ご用命とあらば、いつでもお呼びください」
「ミハエルさんがお困りでしたら、何をさておき馳せ参じますわ」
リリクルの後ろにいるルーシャが艶然と微笑む。
「ん゛ほん゛ッ! ディルツ騎士団は女人禁制。冒険者といえど入ることはできぬぞ」
ものすごくわざとらしい咳払いをするリリクル。
「ならば、どうしてリリクルさんたちはご一緒されているんです?」
「ははは! わたしはプロンゾの当主としてミハエルと共に復興に当たらねばならないのだ! いや、つらい身だ」
ルーシャの軽くむくれた声に高笑いのリリクルである。さらに、大げさに嘆くが芝居なのがバレバレである。ルーシャがミハエルの馬に乗りたがった時、強固に反対したのがリリクルなのだ。そして自分の馬に乗せたのも監視のためというわけだ。
ちなみに、確かにディルツ騎士団自体は女人禁制だが、アルクスネの町にそんな縛りはないわけで自由に冒険者が出入りできるわけだが、冒険者にとっては常識であり説明の必要はないわけだ。
「なら、カトリーナさんは?」
「わらわは、そうだな。グレゴッグス教皇の命による援兵ということになろうか」
「ほう。さすがはブラウツヴァイク枢機卿のご息女、当然、教皇聖下の信任も厚いようですな」
神官のビルディが目を丸くする。
カトリーナの存在はその世界に属するものなら周知の事実だ。だが、カトリーナの母、セシリーニの危険な研究が結実したということを知るものはそこまで多くはないはずだが、何故かアルスレイドらは知っていたようだ。とはいえ、さすがに天使を憑依させるという内容の仔細までは知り得ていなかったのだが。
「されど、ブラウツヴァイク枢機卿のたった一人の愛娘をそのような危険な地に送り出すとは、どのような奇縁ですかな?」
確かに、本来ブラウツヴァイク枢機卿とディルツ騎士団にさほどの接点はない。
探るような視線を送るビルディ。
「ふむ、簡単な話だ。かつて、わらわはピウサという北限の修道院におった。そこにコボルドが襲撃をかけてきて、その救援にミハエルが派遣されたというわけだ」
「………なるほど。そのような縁が」
「その時に死闘を演じたコボルド・ロードとはいまだ決着はついておらぬ。今度こそ決着をつけるべく、彼の地に舞い戻るわけだな」
「亜人がそんな律儀に再戦を望むのかしら?」
小首をかしげるルーシャ。
暗黒大陸の亜人を知る彼らからすると、亜人とは正義も秩序も礼儀も道徳もない、ただただ数と暴力で相手を屈服させようとする存在でしかなかった。薄汚い野盗か盗賊以下の存在という認識しかない。いや、亜人との戦争の歴史がそういうものだったのだから多くの人間にとって亜人とはそういう認識でしかないのも当たり前なのだが。
亜人に、正々堂々、とか、卑怯、などという概念はない。
よって、南方における亜人対人間の戦いで、一騎打ちなどというものは一度たりとて起こったことはないはずである。
「いや………あのコボルド・ロードは武人だ」
ぽつり、とつぶやくようなカトリーナ。
「あの死闘を上回るさらなる強さを得て、わらわの前に姿を表すであろうな」
「ふえ~、そりゃあますます興味がわいてくるねぇ!」
静かに闘志を沸き立たせるカトリーナにケイトが目を輝かせる。
カトリーナに向かって静かに頭を下げたコボルド・ロード、ヴォルゴノーゴは確かに、次の戦いを期していた。間違いなく、あの時よりももう一つ上の高みに至ってくるはずだ。
「だが、親父がいればその心配もなさそうだけどな」
リリクルがドラゴンの腕を枕に高いびきのグナクトを見ながらいう。
「………わらわはまだ彼奴との再戦を譲るとは言っておらんぞ」
どちらがヴォルゴノーゴと戦うかで、まだ話はまとまっていなかったのだ。
何より因縁があるカトリーナが再戦を主張するし、再戦を望んでいるのはあのヴォルゴノーゴとて同様であろう、とカトリーナは言うが、単純な戦士としての強さで言うのならグナクトの方に軍配が上がるだろうとミハエルらは思っているのである。これは武術大会ではないのだ。一歩間違えば死が待っているのであり、さらにカトリーナに死なれたらジョヴィルリッヒやセシリーニがどれほど嘆き、グレゴッグス教皇からどれほど不興を買うかわかったものではないのだ。
冷淡なことを言えば、すでにリリクルやミミクルという立派な後継者を得ているグナクトの方がその点で心配がないのであり、一人娘であるカトリーナの、いくら本人が望んでいるとはいえ、今後の将来を考えるのならミハエルらはより安全な方でいきたいと思ってはいるのである。とはいえ、カトリーナが説得に応じるとも思えないので強く言えないというわけだ。
「ん? そのコボルド・ロードとの再戦を望むカトリーナさんと、グナクトさんということ?」
不思議そうに頭をかしげるアルスレイド。
「そこのカトリーナ嬢が再戦を望んでグレゴッグス教皇に働きかけて援兵に押しかけ、それを知らずコボルド対策にひっぱりだされて来たのがそこのグナクト前当主ということだ」
ノルベルトがかいつまんで説明する。
「ならいっそのこと、どっちと戦うかそのコボルドに訊いてみてはどうだ?」
カタキリがそう提案する。
「フンッ、彼奴なら、わらわと戦いたいと申すに違いないわ」
揺るぎない自信をもって胸をそらすカトリーナ。
「ほう。そこまで言い切るとは、よほど印象的な対戦をしたと見える」
「うむ。彼奴にとっても初めて骨のある人との出会いであったのだ。しかも、奴は三メートルに至ろうかという巨躯、わらわはこの通りの身長。圧倒的な身長差を覆しての死闘であった。再戦となれば油断も慢心もなく向かってくるであろう。ふふ、いつも脳裏にあるのは奴との戦いよ」
脳内では常にヴォルゴノーゴを想定したシャドートレーニングを続けているということだ。
「その若さで驚くべき闘争心であるな」
カタキリが嘆息する。
何がそこまでカトリーナを武に駆り立てるのであろうかと思案に暮れるほどだ。
「妙齢の女性にしては禁欲的だよね」
「カトリーナもお姫様なんだから、おしゃれとかすればいいのに」
ケット・シーのニーモとミミクル。カトリーナは一応、修道女なのだから禁欲的なのは当然とも言えるが。もっとも、修道院を離れた時点でそこらへんの区切りは相当曖昧と成り果てている。
ちなみに、ケイトがファイアドレイクの胃袋を割いてその中から大量の人のなりをした溶解物が流れ出し、ミミクルが卒倒するという騒動があったとき、さらなる騒動となったのがニーモだ。
神官のビルディに速やかな鎮魂と埋葬を願ったのだが、神格に至るほどの高位の妖精が大慌てでミミクルの介抱を始めたのを見てアルスレイドたちは開いた口が塞がらないほどであったのだ。
通常、召喚魔法による精霊の顕現と言うものは、非常にドライな契約関係になるものだ。精霊を召喚し、魔力を対価として与え、その分の働きをしてもらうというものがほぼ、すべてであるからで、ここまで情実の絡んだ関係が人と妖精の間に結ばれることがあるとは、と彼らとしても初めて目にすることだったからだ。
「ふ。おしゃれなど、誰に媚びる? わらわの伴侶はこの拳によって得るのみだ」
「………あはは」
苦笑いを浮かべるミミクル。天鋼聖拳一の門弟の面目躍如と言うべきだろうか。多くの貴族女性がカトリーナの思想に共鳴すれば大事となるであろうが。まあしかし、貴族の女性と言えば政略結婚の具としか見られぬ時代であり、そうでなければ修道院に送られるだけだ。幸か不幸か、先進的すぎて賛同は得にくいであろう。
「わらわのことなどよい。それより、冒険者というものは」
「ん? 何かな何かな?」
「皆そなたらのように強者なのか?」
カトリーナが背後のルーシャに問う。
「んー、そうだねぇ。まあ、一口に冒険者と言ってもピンきりだけどわたしたちは、確かに上位にいるかな?」
「ほう………わらわは冒険者、というものをあまり知らぬのだがそれで生業とできるものか?」
「そうねぇ。さっきのファイアドレイク討伐で、一年は遊んで暮らせるかな」
「なんと」
「そうですね。今回は討伐依頼と、素材を売り払うことで最低でも一年、上手く売れば二~三年分のお金は稼げますね」
「そうなんですか? ノルベルト」
アルスレイドの発言に、ミハエルがノルベルトに問う。
ノルベルトはディルツ騎士団に所属する前、十字軍華やかなりし頃の南方の砂漠地帯に傭兵として従軍していたのだ。冒険者まがいのこともやっており多少の相場がわかる。
「そうだな。普通、ファイアドレイクなんて五人で狩れるような生きもんじゃねぇしな。魔法が使えない俺たちなら、100、いや1000人はいるか? それを五人で討伐、依頼料と素材売却金を分配となれば数年は楽に暮らせるだろうさ」
「なんと………」
ノルベルトの言葉に素直に驚嘆するミハエルたち。
確かにあんな凶悪なブレスを吐く強大な存在を、魔法、という手段もなしで討伐するとなると1000人は必要であろうと思う。彼らはあの尋常ならざるブレスを防ぎ、さらに強力な魔法でドラゴンをうち落としていたのだ。その手段もない1000人の騎士では、途方も無い労力を要するだろう。
つくづく、この五人の冒険者がとんでもない存在なのだと分かるミハエルたちなのである。
「ふむ。先程、ガラタリア中心に活動していると言ったな。ガラタリアはそんなに依頼があるのか?」
「いえ。教会のおかげで情報が集まりやすいのがガラタリアというわけです」
「なるほどな」
クルダス教による教会制度とは、世界各地の神父を通じて情報をガロマンに一手に集積するのも重要な要素の一つだ。
この世界最大の情報網こそが、クルダス教の強さの根幹といえる。
世界中の貴族はもちろん、王族といえどクルダス教、ひいては教皇に逆らうことが出来ないのはこのためだ。世界最大の情報網とは、何も情報を引き出すだけではない。教皇の意志が、この情報網を通じて各地に速やかに伝達されるのだ。クルダス教と真っ向から対立できるのは神聖ガロマン帝国皇帝くらいのものだろう。
冒険者たちは、その情報網によってもたらされる依頼に目を通しているのであろう。彼らの中に、僧侶であるビルディが加わっているのも故ないことではないというわけだ。
「キシュタルコンの亜人討伐に参加したこともありますし、砂漠にもいったことはありますね」
キシュタルコンはルベリコ半島における大規模な亜人討伐運動をいう。各王家が強い紐帯をもって利害反目を乗り越え亜人を討伐すべく連携しているのである。共通の敵を前に同族で争っている場合ではないというわけだ。
「ほう。世界中のつわ者にまみえることができるということか」
「あ!? カトリーナもしかして興味わいてきた!?」
「冒険者になるならんはともかくとして、修行の一環にはいいかもな」
「ふへへ~。こっちはいつでも大歓迎だよ~。強い相手だってもちろん、珍しいものや美味しいものだって食べられるよ~」
相好を崩すケイト。当然のように勧誘をはじめ、びっくりするのはミミクルだ。
「えっ、カトリーナ、冒険者さんになっちゃうの………?」
「ん? い、いや、冒険者になるならんは分からんと言うておろう。父上の跡を継ぐまでの修行として、だな」
カトリーナの今回の援兵、グレゴッグスを動かしてのディルツ騎士団への強引な転入も、確かにヴォルゴノーゴとの再戦もあるが、主な目的はミミクルと一緒にいたいからである。
そのことを当のミミクルにもはっきりと言ってはいないが。
目をうるませたミミクルに問われ、うろたえるカトリーナである。
「カトリーナさんの実力なら、すぐに冒険者として名をはせることもできるでしょうね。冒険の醍醐味は、何と言ってもあのドラゴンのような強敵との邂逅です。一瞬にして消し炭になってしまいそうな強力な攻撃をいなし、必殺の剣を突き込む。何より、生きているという実感を感じられますよ」
興奮気味に己が剣を鞘走らせるアルスレイド。
「カトリーナ、冒険者さんに、なっちゃうの………?」
「だ、だから冒険者になるていで話を進めるなというておろう!」
「しかし、アルスレイドさんのその剣、すげぇ業物だな」
優れた武具に目がないノルベルトが、アルスレイドのもつ剣を興味深げに眺める。
「そういえば、ファイアドレイクへの一撃、お見事でした」
「恐れ入ります」
「魔法剣ですか?」
ファイアドレイクの巨大な頭蓋を突き破った、アルスレイドの腕前と、剣に賛辞を送るミハエル。
アルスレイドのもつ剣、長さはおよそ90センチほど。幅は広めで余計な装飾もないシンプルな作りで、厚みはあまりなく材質はミスリル。グナクトのもつ炎熱剣と同じような、大きな宝珠が鍔の中心に据えられている。魔力を変換するためのものだろう。
「ええ。わたしも原理のほどはよくは分かってはいませんが、音の魔法がかかっています」
「音?」
「はい。通常ではありえない、また人の耳では聴くことのできない音をこの剣に発生させることで、何故かは分からねど、はるかに優れた切断能力を発揮します」
「ほ~。音にそんな力があるとは、初耳だ」
「すでに失伝してしまった技術と聞きます。恐らく、世界でも相当に珍しい剣と言えるでしょう」
「なんと。そうなりゃ、どこぞの王侯貴族が目の色変えて欲しがるんじゃねぇか?」
自分も欲しそうな目を送るノルベルト。
この世界は昔の海賊の気質が色濃く残っている。
すなわち、殺してぶんどれ。だ。
欲しいと思ったのなら、力づくで奪う。それが、ある意味この世界での正義であり本質だ。それが、国であろうが城であろうが財宝であろうが、または女であろうが同様。人間のやることは昔から少しも変わらない。
ノルベルトならずとも、王侯貴族ともなれば私兵を差し向けてでも奪いに来そうなものだ。
「はは、これは大事な商売道具ですからね。確かに、譲ってほしいと言われることはありますが、お断りしてきました」
「だろうな………」
ファイアドレイクを鮮やかに撃退してみせたこのパーティだ。敵が王族、貴族であろうと実力で撃退せしめてしまうだろう。静かにノルベルトたちの話を聞いていたアルスレイド一行、ビルディやらカタキリやらだが、決して油断などしていない。爽やかに微笑むアルスレイドだが、その過去を伺うと背筋が凍る様な話が出てきそうだな、と思うノルベルトだった。
「ようやくヴィーディナンが見えてきたな」
そろそろ森を抜ける。ミハエルのことを教えてくれ、とルーシャにせがまれていたリリクルがうんざりしつつようやく開放される、と声をあげた。
ヴィーディナンの街壁が見えてきた。門には、行商やら交易商やら、農作物を抱えた農民やらが手続きを待っているのが見える。
「本当に助かりました。これで馬を買うことができます」
「いえ。こちらこそ、貴重なドラゴンの皮革を譲っていただきすいません」
「とりあえず、街に入ったら素材を売り払って美味しいものでも食べて英気を養いましょう。もちろん、お付き合いいただけますよね?」
「え、です―――」
「いやっほう! 酒盛りだぁ!!」
見張りに残したフランコたちを思って遠慮しようとしたミハエルを、恐るべき速度で遮るノルベルトであった――――。
誰でも考えそうな超音波キター。
ちなみに、アルスレイド、はエルスリード、をもじったものです。
エルスリードなんてしらねぇ、って人は、検索検索♪
もっとも、わたしがエルスリードを知ったのはラングリッサーですけどね。最近SFC版のデア・ラングリッサーのBGMをようつべで聞いてますが、全体に渡って名曲ばかりで耳が幸せでした。デア・ラングリッサーも分岐する物語といい、鬼のような難易度といい、非常に楽しかったのを覚えております。あの頃は素晴らしいゲームばっかだったなぁ………。




