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天と地と人  作者: 豊臣 亨
二章  鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク
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鉄拳修道女 カトリーナ・フォン・ブラウツヴァイク (十五)

5/17 誤字やら色々訂正。



 ガラタリア。


 ガロマン教皇領、バティキュノ宮殿。


 白を基調とした宮殿や、宮殿内部。廊下や天井にいたるまで様々なクルダス教の伝承に基づく壁画が描かれ、それに補足、強調するかのように絵画がかけられている。ところどころに彫刻や宝飾された燭台が配置されていて、さすがと言わざるをえない静謐さと清浄によって支配された美しい宮殿であった。全ユーロペタのクルダス教の総本山、クルダス教の教権を掌握する中枢である。


 その一角にある応接の間。


 暖かな陽光が、当然の如くガラスでよそおわれた出窓から降り注ぐ。


「お初にお目にかかる。ジョヴィルリッヒである」


 真紅の帽子を被った大きなスキンヘッドを傾けて会釈をし、鋭い眼光を発する大男。枢機卿しか着られない真紅の聖職者の服を身にまとっているが、それを押し上げるかのように筋肉が躍動していた。


 僧侶にして、格闘家。いわゆる武闘僧(モンク)である。


 ユーロペタ唯一、肉体を極限まで鍛え上げ特殊な武具をもって戦う、天鋼聖拳という独自の流派を極めた格闘術の大家。二メートル半の巨躯にして鋼のような肉体をもつこの人物こそ、カトリーナの父、1000人の門徒を擁しガロマン教皇を護る近衛隊長であり、七人の枢機卿の一人。


 ジョヴィルリッヒ・フォン・ブラウツヴァイクである。


 教皇グレゴッグス九世へのとりなしを頼まれミハエルらの待つ応接の間へとやってきたのだ。


 ミハエルとて屈強な武人ならいやというほど見てきたが、ここまで全身を筋肉で鎧われた人間を見たことは無い。首と頭でさほどに太さに差が無い。何をどうすればここまで全身の筋肉を鍛え上げることがかなうのか、見当もつかなかった。相対しただけで凶悪なまでの威圧感に押しつぶされそうになる。拳のでかさも規格外だ。ミハエルですら一発殴られただけで即死しかねない気がした。アイアンクローを食らったらすっぽりと頭を包まれてそのまま握り潰されてしまいそうだった。


 緊張の面持ちで強力無比な戦士にして枢機卿たるジョヴィルリッヒと向き合うミハエルたち。


「カトリーナさんには何度も助けられており、感謝の言葉もございません」


「この者のじゃじゃ馬加減には拙僧もいつも困っておる。しかもアルクスネに行くと聞かぬ。迷惑なら申してくれ」


「父上、余計なことは言わなくていい」


 ごっ、とわき腹にカトリーナの左フックが炸裂する。しかし、何事もないようなジョヴィルリッヒの表情。普通の人間が受けたら胃の内容物が逆流しそうな勢いのあるパンチだったが、どこ吹く風だ。どうやらこの程度はじゃれあい程度のことなのだろう。


 格闘家という特異な家族のスキンシップの加減がわからず戸惑うミハエルである。


「いえ! カトリーナには本当によくしてもらいました!」


「それなら良いのだが」


 伸び上がるようなミミクル・フォン・プロンゾに青眼を注ぐ。


 カトリーナに親友ができたと聞いて、ものすごく喜んだジョビルリッヒである。仏頂面を維持してはいるが、内心の喜びがあふれにあふれ、口の端がつりあがっていた。ミミクルを見つめるその目は、鋭さの中にも得も言われぬ慈愛がこぼれている。巌、という言葉を擬人化したらこうなりました、というような男だが、超のつく子煩悩、親バカだ。


 筋骨隆々、一髪もはえないスキンヘッドに真紅の枢機卿の帽子を乗せた二メートル半の巨躯の大男に見つめられても、ミミクルに狼狽はない。だてに巨躯の大男を父に持ってはいないというところか。


「父上、教皇聖下には何時ごろ目通りがかないそうか?」


「うむ。先ほど執務を終えられ、休憩に入られた。もうまもなく、目通りもなろう」


「ならよい」




 カトリーナがチチリカ島に飛来して、一週間が経っていた。


 あの後、貧民街で負傷させた人々を回復させ、ただちに逃げ出したのだった。


 貴族たるミハエルが貧民に襲撃を受けたのだ。非難されることも咎めを受けることもないのだが、その襲われた理由が闇の存在であって、それを証明するものは何ひとつないのだ。もちろん、完璧な物証だの証言だのと求められることもないが、貧民が集団で操られた、という状況を説明するより、余計な事態になるより立ち去るのが一番、ということになった。


 ケット・シーのニーモをして絶望の淵に叩き落した、闇の存在の言葉。未曾有の災害、それを防げるのは恩寵を受けたもの、という内容が気にはなるがとはいえ出来ることなど何も無い。周囲に助けを呼ぼうにも、何らかの証拠をつかんだ上でならともかく、何もないままに不用意に発言しようものなら無用な混乱を生むだけであるし、そもそも、未曾有の災害というのが現実に起こるという確証とて無い。現状、ただ黙っているしかなかった。


 天の恩寵を受けた二人に対する、闇の勢力からの悪意による横槍が今後もありうるのだろうと、警戒は緩めてはいけない、という危機感はもって。


 また、貧民の少女はただ気を失っていただけだった。完全に操られていたのだ。もしかすると、銀貨をもらったことも分からないかもしれない、とミハエルは密かに手紙を少女に握らせた。迷惑をかけたお詫びだと、さらに多くの銀貨を彼女の服の小さなポケットに詰め込んだのであった。


 その後、ようやく時間がとれたディルツ騎士団総長レオポルト・フォン・シュターディオンに第三位階の座天使(スローンズ)が呼び出せてしまったという件と、カトリーナのアルクスネ移動の件を相談することになった。


 その事を知ったレオポルトの顔色。


 上位の天使をほいほいと呼び出せてしまったミミクルが強力な戦力となったと喜ぶ一方、今後の風当たりを思うと素直に喜べないという点。


 過去の事例として、クルダス教の内部で異端と認定された教派が征伐された例がある。


 シドリ派。


 ユーロペタ西方、スフランザ南方において起こったこの教派は、精神は神から、肉体は悪魔からできていると信じ、それゆえ肉体的な欲を徹底的に排除するという極端な信仰をもっていた。しかも、ガロマン教皇の指導すら拒否したため、やむなしと異端認定を受けた。


 北スフランザを領するスフランザ王、イルユー八世の王国領土拡大の野心にも利用され、ジョーアビルワ十字軍によって攻め滅ぼされたという例がかつてあった。


 それは、教皇の支配すら拒んだ例であるためであるし、スフランザ王イルユーの領土拡大の野心にまんまと利用されたということでもあり極端な例ではあるが、とはいえ異端認定を受ければ同じクルダス教徒といえど征伐の対象になる、という実例でもある。


 理屈など、後からどうとにでもくっつけられる。利用したいものがおり排除したいものがおり、そこに野心や欲が加われば火に油だ。盗人にも三分の理、とも言う。その盗人が、王権や教権をもっていればもはや誰にも止められない。


 常人には絶対に真似できない、第九位階の天使を呼ぶはずの召喚魔法でもって第三位階の天使が現れた。そんな非常識な事態を、利用したいもの、排除したいものからすれば格好の材料を目の前にぶら下げたとも言えなくもない。現在のクルダス教に対して不満をもつものや満足しないものが、宗教改革や宗教戦争を起こすに、これほど分かりやすい神輿はないのだ。もし、そんな事態に至ればどんな騒乱が惹起するか、計り知れない。


 ましてやこの時代、宗教騎士団は数多の寄進を受け、財力的にも領土的にも余り有るほどのものがある。どこから横槍を受けるかわかったものではないのだ。


 ミハエルといい、どうしてこいつらはこうも予想を裏切りまくるのか。


 もはやため息もでないレオポルトであった。


 それにより、教皇面会に関してはレオポルトは同行しないことになった。


 下手にディルツ騎士団総長としてのレオポルトが同行して、ディルツ騎士団とクルダス教教皇との政治的な駆け引きにしてしまうより、カトリーナからジョヴィルリッヒにとりなしを願った方がよい、というわけだ。ミミクルはカトリーナの友達でもある。友達の身を案じて使えるコネを使ったのだ、ということにすれば教皇グレゴッグスとしてもまだ波風が立たないだろうとの判断だった。


 カトリーナのアルクスネ移動の件もあるし、教皇も無下にはできまい、との考えだ。もちろん、アルクスネ移動そのものには何の問題もない、とのことだった。むしろ、コボルドとの戦闘で活躍してくれ、ミハエルのごときはいくらでもこき使ってかわまん、との仰せだった。




「ミミクル、と申されたか。もう一度確認するが、本当に第九位階の天使を呼び出す召喚魔法しか、授けられておらんのだな?」


「は、はい。間違いありません」


「わらわもこの目でみた。まごうことなき、第九位階の天使を呼び出すことしかできん詠唱であった。第三位階、座天使(スローンズ)が現れた時にはさすがに開いた口がふさがらんかったぞ」


「ふむ。左様なことがあるものか」


 ジョヴィルリッヒには、天の恩寵、などというそういった目に見えないものを感じ取ることはできない。


 生粋の武闘家だ。


 さらにいうなら聖職者として当たり前の天使召喚魔法とて駆使できない。本来なら枢機卿とは司教の最高位職なのであり、最高位の天使召喚魔法を授けられる。それなのに枢機卿を勤める、というのはグレゴッグス九世の直属の近衛隊長だからである。枢機卿とは、教皇の補佐役、顧問団であり、教皇によって任意に選出できるのである。


「先程申したとおり、これは好意によって座天使(スローンズ)が来てくれた、ということであって決してミミが企図したものではないということを強調したいのだ」


「なるほどな」


 ちなみに、第九位階の天使を呼び出す召喚魔法しか使っていないので、魔力消費量もそれに準じている。お得なお話ではあるが、それによってこの事態になったので素直には喜べない。


「天の父や母の恩寵を受けている者には天使からも好意を得られるとは、拙僧からすれば実にありがたいとは思うが、いらぬ疑惑を招きかねん、というわけか。世俗の難しさよな」


 教皇自身が何とも思わなくても、それ以外のものがどういった讒言(ざんげん)に及ぶか、など誰にもわからない。そうなる前に教皇直々にお墨付きを得る。そのための今日のこの日だ。


 渦中に放り込まれたミミクルはかすかに不安に表情を曇らす。


 その変化を見逃すジョヴィルリッヒではなかった。


「ミミクル、左様におびえずともよい。教皇聖下は助けを求めてすがるものを見捨てになるようなお方ではない。こうして、慈悲を請いに参ったものを、どうして無下にできようか」


 無骨な、という次元をとっくに超えた、プロンゾ前族長グナクトと同じ鬼のような顔面に、申し訳程度の笑みを貼り付けて。


「ありがとうございます」


「天の恩寵を得るばかりか、妖精まで自ら親しくする。世にまれなこともあるものよ。そなたの高潔な魂を、これほど証明することもあるまい。安んじて、教皇聖下との謁見を待つがよい」


 ミミクルのそばには、片時も離れずニーモが寄り添っている。


 やがて、取次ぎ役の神父が現れる。


「ジョヴィルリッヒ様、教皇聖下がお呼びでございます」


「うむ。あい分かった。では参ろうか」


 いよいよ教皇との謁見だ。


「わたしたちも同行してよろしいか?」


 リリクルが問う。


「うむ。制限は伺っていない。たとえ神格にある妖精といえど問題はない」


「なら良いのですが」


 ジョヴィルリッヒとカトリーナを先頭に進む。


「いまさらですが、教皇聖下とはどのようなお方なのですか?」


 生粋の貴族であるミハエルに比べると、リリクルはこういった場所が不慣れだ。だから緊張を紛らわせるために問う。


「うむ、齢70にもなろうかというご高齢だが、頭脳明晰にして神がかった深謀遠慮の、いまだ衰えぬ精力をお持ちの方だ。拙僧もかくありたいと思っておる」


「なんと、すごいですね」


 この時代の人間の寿命は40年あればいい方だ。

 

「衰えぬ知性ゆえ、見知らぬものには酷薄に思えるやも知れぬが、決して表面だけで判断するでないぞ」


「は、はい」


 いくつかの角を曲がり、廊下を進む。


 壁画も無くなり、絵画も少なくなる。その代わりに花瓶に生けた花が増える。


 荘厳すぎる印象もあった宮殿内部が、どんどん落ち着いた雰囲気へとなる。


 しかし、緊張するものにのしかかるように、どっしりとした空気がまとわりつく。


 実は気のせいではない。


 教皇の執務室に近づくにしたがって、邪悪な精神や魂をもつものが決して近づくことが出来ないような絶対神聖の結界が幾重にも張り巡らされているのだ。それは、高位の天使によって授けられた結界である。いかなる存在であれ、邪悪なものは髪の毛一本といえど入り込むことはできない。同時に、魔法などは一切使用できない。攻撃、防御、精神操作系など、あらゆる魔法がこの場では無効化される。そのような場であるから副作用として息苦しく感じるほどの空気が辺りを覆っているのである。


 しかも、この絶対神聖の結界は、運動を阻害するという要素もある。


 物理的な侵入を企てても容易には進めないように圧力がかかっているのである。まるで自分の体重が増大したかと勘違いするような圧力だ。そこまで強力なものではないが、それでもこの差が戦場ならば絶対的な差となるのである。事前に注意を受けていたとはいえ、実際に経験してリリクルなどはびっくりしていた。神父の着る聖職者服にはこれらの結界を無効化する糸で出来ている。


 やがて黒褐色の荘厳な扉にたどり着く。


 教皇の執務室だ。


 扉の前で警護する神父服を着る屈強な体躯の男が二名立っていた。その二名はジョヴィルリッヒを認識し、頭を垂れた。天鋼聖拳の門徒のようで、教皇の執務室を直接護衛するとあって並みの戦士ではない。ミハエルは冷や汗を感じざるを得なかった。


「お連れしました」


「入れ」


 取り次ぎ役の神父の声に反応。


 神父が扉を開ける。


「失礼します。連れて参りました」


「………うむ」


 ジョヴィルリッヒが先に入室し、臆することなくカトリーナも続く。


 わずかに遅れて、ミハエル、リリクル、ミミクル、ニーモと入る。


「教皇聖下、先に説明があったと思いますが、(サイン)の二名、ミハエル・フォン・ヴァレンロードと、ミミクル・フォン・プロンゾと、縁者のリリクル・フォン・プロンゾ、守護妖精でございます」


 ジョヴィルリッヒが恭しく頭を垂れる。


 クルダス教の最高権威である教皇の前であるとしても、妖精であるニーモがいても咎められることはない。


 妖精や精霊、天使や悪魔がさしたる懸隔もなく人の世に現れる世界である。守護妖精として、召喚魔法でなく自由に動き回っていたとしてもそこまで忌避されはしないのだ。


 ましてや、強力な結界が働き、魔法は一切使用できない場所だ。神格にある妖精といえどこの場では無力だ。なので、いつものように宙を舞うこともできず、ミミクルに抱えられてはいるのだが。


「ご苦労」


 手をあげる教皇。


 グレゴッグス九世。


 身長はおよそ130cmほど。真っ白な教皇服をまとった、小柄な白髪まじりの老人である。


 70を過ぎたというかなりの高齢の故もあってか血色はよくはない。ぎょろりとした目つきでミハエルらを見る。しかし、この時代では稀な高齢だが、その目には衰えなど一切感じさせない冷徹な知性をみなぎらせていた。そのせいか、血色の悪い顔つきとは対照的に目だけは強い意思を反映してらんらんと輝いていた。


 一切の表情がない相貌に、ぎょろりとした目だけが強く意思を示しているせいで、確かに言われたとおり酷薄な印象は拭い去りがたかった。


「お初にお目にかかります。教皇聖下におかせられましてはご機嫌麗しく、喜ばしく存じます。ディルツ騎士団アルクスネ管区長、ミハエル・フォン・ヴァレンロードでございます」


 片膝をついて深々と頭を垂れる。


「謁見をお許しいただき、恐悦至極でございます。リリクル・フォン・プロンゾ方伯にございます。こちらはミミクル・フォン・プロンゾ。こちらはケット・シーのニーモでございます」

 

「ご機嫌麗しゅうございます」


「………よくぞ参った。余がグレゴッグス九世である」


 にこりともしないグレゴッグス九世。


 その横には側近である枢機卿、ゴーフー・ディ・キュスタリカが控えている。


「教皇聖下。すでにお聞き及びのことと存じますが、クルダス教に入信した縁をもって聖下にさらなる忠誠を誓いたいとのことでございます」


 ジョヴィルリッヒ。


「殊勝な心がけ、真に結構である。世には、余の言葉に逆らう不届きなものが多い。いやがうえにも、その忠節が際立つ」


 フリーデルンのことである。


 そのフリーデルンの右腕として活躍するレオポルトに属するミハエルや、この前爵位をもらったリリクルなどは苦笑いしかでない。


「ヴァレンロード卿のことは以前から耳にしておる。そういえば、プロンゾ卿も、先程、貴族として認められたようではあるな。大変喜ばしいことである」


「恐縮です」


「うむ。そんなプロンゾ卿にも、(サイン)が現れたとのよし。我らが父と母の意を受け継ぐ子の出現、余も自然と身が引き締まる思いである。真に重畳。そんな(サイン)が余に庇護を求めること、このような敬虔の情を訴えられて、どうして手を差し伸べずにいられよう」


 ミハエルの頭に手を置き、ついでミミクルに手を置くグレゴッグス。


「ありがたき幸せ」


 恐懼するミミクルに満足そうにうなずくグレゴッグス。


「コボルド征伐のことも、伺っておる。人智の及ばぬ、極北の地にて亜人を征伐せしその豪勇、真に結構。そなたらの働きによって、どれほどの人々の安寧が守られるか、計り知れぬ。今後も、存分に働くがよい」


「はっ」


「さらには、第九位階の天使を呼び出すはずが、第三位階の座天使(スローンズ)が現れたとのよし、これは十二分に奇跡の名に値するものである。生前に行われた例はないゆえそなたの存命中のことではないが、ずっと後には列聖もありうるということ、心の片隅においてほしい」


「お、恐れ多いことでございます」


 列聖。


 クルダス教において目立った活躍、活動をなし、さらに奇跡を起こしたと認められる人間が、その死後、教皇によって聖人として認められその列に加えられることを言う。


 数多いるクルダス教徒が尊敬してやまない聖人の列に加えよう、とまで言われミミクルも現実感を失う。


「そうだの、ジョヴィルリッヒの息女、カトリーナがこの度、ヴァレンロード卿の厄介になるとのこと。手助けになれば幸いだ」


「ミミの前に立ちはだかるものはすべてわらわの拳にて打ち砕いてくれよう」


 自信満々のカトリーナ。グレゴッグスの前であってもまったく恐れる様子もない。


 カトリーナにだけは、まるで孫と会っているかのように相好を崩すグレゴッグス。


(サイン)を持つものが二名も現れ、その下に人傑が集まる。何やら、頼もしいではないか」


 ぎょろり、とミハエルに、次いでミミクルに視線を移すグレゴッグス。


「ふむ………。本日は実に意義深い邂逅であった。情勢が不安定なゆえ、此度のこと公には出来ぬが、余はそなたらの忠誠を信じておるぞ。さらなる忠勤を期待する」


「はっ。ありがたき幸せ、我が行動をもって、忠誠の証といたします」


 さらに、深々と頭を垂れるミハエル。


「教皇聖下にお目通りかない、これほどの幸せはございません。ありがとうございました」


 精一杯の感謝の意を表するミミクル。


「うむ、励めよ。若者よ。父も、母も、そなたらの味方だ。もちろん、余も、だ」


「はっ。ありがたき幸せ」


 立ち上がるミハエルたち。


「では、送ろう」


 ジョヴィルリッヒの先導によって退室する。


 改めて、深々と一礼をしたミハエルたちが出て行き、執務室には静寂が戻る。


 そこに、ぽつりとこぼすゴーフー枢機卿。


「………よろしかったのですか。あそこまで厚遇なさらずとも」


「よい。あの、プロンゾとかいうぽっと出の貴族も、フリーデルンに手によるのだからな」


「………そうですな」


 ガロマン皇帝フリーデルンによって、プロンゾという貴族が保障された。つまりは、現状親帝国ということになる。そこに、同じプロンゾから恩寵を得たミミクルが現れ、それを教皇が好意的に迎えたという事実があれば教皇側にも恩義ができる。いざという時の保険、というわけだ。


 先程も言ったとおり、プロンゾもアルクスネも、対コボルドの最前線ともなりうる。今のところは、厚遇して損は無い、というところだ。


「しかし、(サイン)をもつものが、ひと(つが)い、ですか。これは一体何の冗談でありましょうか」


「それよ。子を生せば、どういったものが生まれるのであろうな。鬼が出るか蛇が出るか、まことに面倒なことになったものよ」


「今後、監視を厳重にいたします」


「当然だ。もし、子を孕むような事態にもなれば………」


「………御意」


 皆まで言わずとも分かっている。


 ゴーフー枢機卿は芝居じみて大げさに、深々と頭を下げた。




イタリア=ガラタリア


フランス=スフランザ


 ちょいと変えただけでけっこう変わって見えるような気がするのはおっさんだけ?w

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