夫婦喧嘩からはじまるー
暖かい目で読んで下されば幸せです。
今、思えば、些細な事で夫と喧嘩をした。
私、鈴野サクラ36歳は毎日育児と家事とパートの仕事に追われ、息をするのも忘れるぐらい忙しい日々を送っていた。
まー実際、息しなかったら死んじゃうけど、そこは物の例えという事で…
小学3年の長男、大輝は優しいがどこか抜けている息子でさっき牛乳をコップに入れようとして、ダイナミックにこぼし。
小学1年の次男、晴也はそんな兄を見て育ったからか、ちゃっかり者で兄が困っているのを横目にひとり牛乳を飲もうとしている。
私はそれを見て
「大輝!!雑巾!晴也!ひとり飲んでないで手伝いなさい!!被害を最小限に食い止めろ!」
なんて、怒鳴ってたりする…
いや、まぁ、怒ることでも無いってわかっていますよ。
もっと、心に余裕ってやつがある時は私だってこんなんじゃなかった…と、思う。
でもねー仕事に家のことに学校行事、ママさんの付き合い、その他モロモロ毎日毎日、私が休む時はいつあるのかしら?という感じが続いて本当、私疲れていたのです。
そんな、ある朝
「は?新年会?そんなの行く必要ない」
普通のサラリーマンで夫の鈴野心光40歳から理解不能な言葉を頂いた。
結婚して約10年、何度となく喧嘩の原因になった、夫の束縛?
とにかく私が飲み会やらに行くのを嫌がるのだ。
付き合い始めの頃はなんで?意味解らない?と喧嘩をしていたが、段々と喧嘩するのも面倒くさくなり、結婚して子供が出来てからは子供が小さいからという理由で飲み会関係は全て断っていた。
しかし、パートで働き出して送別会や忘年会など社会人としてここは出ておいた方が良いでしょ-というのはお酒を飲まない、早く帰るのを条件に許してもらっていたのだが…
「なんで?新年会ダメなの?」
「忘年会行ったばかりだろう、必要ない」
「社会人として、付き合いってある程度大事でしょ?これから先、どんな縁が役に立つかわからないし!」
私は子供が大きくなったら正社員として何処かで働きたいので、人脈は大事だと思っている。
独身時代の人脈は全て当時彼氏だった夫の束縛のせいであまりないし、今の職場の人がどこの誰と繋がっているかもわからないし。
そんな私の意見なんて聞く耳を持たない心光さんはムスッと不機嫌になり黙り込む。
でたでた、いつもの無視攻撃ですか。
心光さんは良く言えば、優しく少し控えめで真面目な性格だ。
ギャンブル、タバコ等はしないし、お酒にはとても弱く、仕事終わったら直帰するタイプ。
まー悪く言えば、余計な事はしたくない、付き合い面倒くさい、今時の草食系?ってやつ。
身長は172センチで毎朝決まった時間に懸垂機で体を自己流で鍛えてソコソコの隠れマッチでスタイルはよく、顔も優しい塩系だ。
会社では、目立たないけど出来る奴を気取っているようだが、妻の私は知っている。
実はアニメ・ゲームが好きでオタクっぽい所もあることを。
まぁ、私も好きだから別に良いけど。
それよりも、心がミジンコのように小さい所が許せない。
結局、喧嘩した日から数日間、心光さんは私を無視するのだ。
私は子供に余計な心配かけまいとある程度普通を装うけど、極端に嫌がる心光さんの態度にブチ切れそうだった。
なんで、私、この人と結婚したのかな?
そんな事を考えながら、物凄ーくイライラしながら夜、深い眠りについた。
ピピピ、ピピピ、ピピピピピピピピピー!!
うるさい!!
普段、聞き慣れないアラーム音にイライラしながら私は飛び起き眠たい目を無理やり開けてアラーム音がする物を探す。
音は昔使っていた二度寝防止機能付き目覚まし時計で私はバン!!と勢いよくアラーム停止ボタンを押した。
なんで、こんなモノがあるんだ?
これは確かに結婚して新居に引っ越す時に捨てたはず。
私はまだ夢を見ているのかと思って周りを見回すと、15年前ひとり暮らしをしていた部屋の光景だった。
懐かしい…
きっと夢だな。
私は勝手にそう決めてベッドから降りるとすぐ横の壁に立て掛けてある姿鏡を見た。
そこには、まだ若くピチピチお肌にスタイルも今と違いスーとした私がパジャマを着て立っていた。
おおー若い!そして、身軽!
嬉しくなって鏡の前で色々なポーズをとっていると、懐かしいガラケーのアラームが鳴り出した。
これは、会社に行く準備の合図だ。
夢だから会社に行かなくてもいいのだが、つい懐かしくて、そのアラームの合図でいそいそと会社に行く準備を進めて電車に乗って会社に行ってみた。
「おはよう、氷田さん。今日は早いのね」
色気ムンムンの相田先輩が少しイヤミったらしく私に話し掛けてきた。
15年前に働いていた所は派遣で紹介してもらった仕事で役所関係の会社で事務の仕事をしていた。
あー懐かしい、相田先輩…この一年後ぐらいに上司と不倫して大変な事になるんだよね-。
さっき、携帯電話でこの時点では私は21歳だと判明していた。
まだ、ピチピチで結婚してなくて、自分の事だけ考えていればいい。
あーなんて、幸せな夢なんだ。
そう、思いながら懐かしい仕事をこなして懐かしい人達とふれあい無事に家に帰って来た。
そろそろ…夢から覚めてもいいのでは…
私は小さな不安を胸に抱き、夜眠りにつくと次の朝
また、あの鬱陶しいアラーム音で目が覚める。
…もしかして…夢じゃなくて
タイムスリップ!?
顔色を変えて頭を抱え、しばらく考えこむ。
そんな…大輝や晴也は…夫は…
ん?
待てよ。
まだ、夫心光さんと付き合ってない。
これは、もしかして…チャンス!?
あの、心が小さい夫じゃなく、もっといい人と結婚出来るかもしれない。
そして、その人と大輝と晴也を産めばいいのよ!
昔から立ち直りが早い私は、前向きに考える事にした。
確かこの頃は派遣の仕事をしながらインテリアコーディネーターの勉強を独学でしていたはず。
自分の部屋を見回すと、確か勉強道具がある。
なかなか、試験合格出来なくて大変だったな…
携帯電話のアラームが鳴ったので会社に行く準備をしようとしたが、携帯電話をよく見ると土曜日の休みだった。
こういう設定が適当な所は昔っからか。
ピロリン
携帯電話のメールアドレス着信音が鳴ったので、メールを確認する。
『From隆 会って話がしたい。今から行ってもいい?』
隆…私の元彼だ。
林隆は5つ年上で18歳の時から付き合っていた。
若かった私は年上の彼がかっこよく見えて、彼女がいた隆にさりげなくプッシュして彼女と別れたと同時に私と付き合うようになった。
まぁ…ハタから見たら、私が彼女から奪ったって感じに見えるけど…
そんな隆だけど、付き合って2年ぐらいたった時、お互い慣れてきた関係になって、隆が私にあるお願いをした。
それは…お金貸してって。
私は自称堅実派でコツコツお給料を定額貯めて行くのに対して、隆は自由に後先考えず使うタイプだった。
私と付き合う前に新車を買ってローンに苦しんでいるのにお金をかけて遊びに行く。
そりゃ私も一緒に遊びに行くし、おごってもらったりもしてたけど段々と
「あ、今日財布忘れた」
とか言い出して、私が出すことが増えていった。
そんな隆を尊敬出来ないというか、将来が見えないと感じて私からフッたのもこの頃だ。
苦い記憶を思い出して、心光さんの代わりに私の夫になるのは隆ではないと確信した。
朝の7時過ぎにメールとか、普通相手の迷惑考えるでしょー
そう呆れながら、返信をうつ。
『Fromサクラ もう会わない』
確か電話は着信拒否していたはず。
メールは残しておいたけど、あまりしつこいようなら拒否するしかないか。
隆の事も懐かしく、ちょっと会ってみたいなぁーと思ったけど、ここはグッと我慢。
私はとりあえず朝ごはんを食べてインテリアコーディネーターの勉強をすることにした。
久々にした勉強はチンプンカンプンで頭が重たくなり、お昼ごろ気晴らしに買い物に行くことにした。
この頃、私の普段着はパーカーと短パン姿で自分のナマ足姿を恥ずかしがりながりも、近所のスーパーに出かけた。
わ、若いから許されるのよ!
適当な食品とお菓子と飲み物を買って家に帰ろうとスーパーの駐車場に目をやると見覚えるガンメタのセダン車が停まっている。
間違い、隆の車だ。
私はこのまま家に帰ると隆が待ち伏せしているかもしれないと不安になり、どうしようか悩んだ。
「…ヒタちゃん?」
不意に話かけられ振り向くと、そこになんと心光さんがキョトンとした顔で買い物袋を持って立っていた。
心光さんは実は隆の友達の友達の同僚で、私は隆の遊びの集まりの時、紹介されて知り合った。
心光さんも若くなっており、服装もティーシャツに少しダボダボしたデニムパンツ姿だ。
「あ、むね…じゃなくて、鈴野さん」
「偶然だね。ん?顔色悪いけど、どうかした?」
「あ、いえ別に…」
思い出した。
この時、確か昔の私は心光さんになんとなく隆の事を相談したんだ。
すると、心光さんは隆がいなくなるまでドライブしようと連れて行ってくれたんだ。
それから、私と心光さんの仲は急接近したはず。
ここで、私が心光さんに甘えなければ…もしかして。
「ほ、ほんと大丈夫です。ちょっと、お腹空きすぎて…」
「ハハハ」
「それでは、私はこれで失礼します」
「あ、またね…」
基本ガツガツしていない心光さんは脈が無さそうな女を追いかけて来ないタイプだ。
私のあっさりた態度で身を引くだろうと思ったのだが…
「…あ、あの、ヒタちゃん。今からごはん食べに行かないかな?」
「へ?」
顔を少し赤くして視線を逸らし照れている心光さんが私の予想と反した行動に出た事に私は驚き変な返事をしてしまった。
「あ、いや、予定とかあるんだったら別にいいよ。気にしないで、はは…。じゃ、またね」
私を食事に誘ってなんだかちょっとあたふたしている心光さんが少し面白く、不覚にも可愛く感じてしまった。
あの夫が…
ぷっと小さく噴き出してしまい、そんな私を見て心光さんが少しムッとした表情を浮かべる。
「あ、ごめんなさい。えっと、ごはん食べに行きましょう!」
クスクスと笑いながら私が食事に行くことを了承すると心光さんは少し照れ笑いを浮かべていた。
結局、その後は心光さんの車に乗って近くのファミレスに向かい、ごくごく普通に食事をした。
心光さんは少し緊張しているのか、口数か少ないので基本私から話題をふる事が多いかった。
そういえば、心光さんは慎重派で親しくない人にはなかなか心を開いて話してくれなかったなー。
そこがミステリアス?で良かった所でもあるが…
食事を済ませ、フリードリンクのアイスコーヒーを飲みながらジッと心光さんの顔を眺めていると、ふと視線があってしまい、心光さんは顔を赤くして視線を逸らした。
私より5つも年上なのに…恥ずかしがり屋なのね…
確か当時は私も21歳でまだまだウブな所があって、私も顔を赤くして下を向いているシーンだろうが…残念なことに今の私の中身は36歳の立派なマダム。
視線があったぐらいで「きゃー」とはならないです…
「この後、どうする?」
「そうですね…」
家に帰ってもまだ隆がいるかもしれないし…
アイスコーヒーを飲みながらちょっと考えていると心光さんから提案が出た。
「どこか行きたい所ない?ドライブ行こうよ」
「…んー行きたい所ないな」
「そっか…」
ここでドライブに行ったらいい雰囲気まっしぐらですよね。
私は心光さんと結婚しない事を目指しているので、お食事をする友達程度の関係でとどめておきたい。
「じゃあ、ちょっと買い物付き合ってよ。すぐ近くの店だし」
それならちょっと時間が潰せるからいいかなと思い私は了承した。
心光さんが向かった店はファミレスから車で10分の所にあるアウトドア用品が置いてあるお店だった。
お店の中に入るとキャンプ用品や登山用品など沢山置いてあり、いかにも心光さんが好きそうな店だ。
そういえば、昔何度かここに二人で来たな…
お店の中の商品に目を輝かせて見ている心光さんはアウトドア好きでキャンプ用品とか地味にコツコツ集めている。
しかし、それをいつ使うのか不明で独身時代は一人でキャンプでもしてるのかと思ったがそうではなく、結婚して子供が大きくなった頃からキャンプなど行った時に初めて使うアイテムがほとんどだったのに驚いた。
独身時代から4人用テント持ってるって…一回しか使った事ないのに防水フィルムはがれるほど昔から持ってるって、どうよ?って思った事がある。
まあ、結局最近新しいテントを買うことになったんだけど…
心光さんはランタンスタンドを真剣に見つめて値段の確認をしていた。
「このスタンド格好いいなーでも、すぐ倒れそう」
知ってる。
この数年後にニューモデルが出て心光さんの理想的なスタンドが出ますよー買わない方がいいですよー
「すぐに使う予定がないなら、まだ買わない方がいいですよ?ほら、セールとか始まるし」
「そうだよねーヒタちゃん、キャンプとか行かないの?」
「あまり行ったことないです」
もう毎年4回は貴方に半無理矢理連れて行ってもらってますよ…子供は喜んでるからいいけど。
ちなみに独身時代は一回も行ったことなかったな。
「そうなんだ。今度、一緒に行こうよ…みんなで」
そういうと、心光さんはまた顔を赤くして誤魔化すように他の商品を手にとって見ている。
私は知っている。
本当はみんなで騒いでキャンプするよりも、気心しれた家族だけで静かなキャンプが好きな事を。
私に気を使っていることがわかるとまたフッと顔がにやけてしまった。
一時間ぐらいお店の中をぐるぐる回って結局心光さんと何も買わず店を出た。
その後は元のスーパーに送ってくれた。
「ありがとうございました」
「こっちこそ、ごめん。付き合わせちゃって…またね」
少し苦笑いを浮かべている心光さんは少し申し訳なさそうにしているが、私は正直言って楽しかった。
あの心光さんがこんなにも初々しく私に接してくるなんて…笑いを堪えるのに必死だった。
私はスーパーで買い物したレジ袋を持って車の助手席から降りると目の前に逢いたくない人が立ってこっちを睨んでいる。
げ…隆…
私を待っていても帰って来なかったので帰ろうとしていた途中なのかわからないが偶然スーパーの駐車場で鉢合わせになってしまった。
隆は私に歩み寄って来る。
私は逃げようかどうしようか悩んだが、自分は何一つ悪い事はしてないと考えその場で隆が来るのを待つことにした。
「…どういうことだよ。なんでコイツといるんだ?」
威圧的な態度で私を責める隆を私は黙って睨み返した。
助手席から降りた私がその場を動かず誰かと話している事に気が付いた心光さんが運転席から降りて、こちらを心配そうに見ている。
ああ、ごめんなさい…こんな修羅場見せたくなかったな…
「別に隆に関係ないじゃない。どいてよ。」
私はわざとらしく振り返り笑顔で心光さんに挨拶をした。
「鈴野さん、ありがとうございました。それじゃ」
今の心光さんには私はどんな風に映っているのだろう…
元彼とこじれている厄介な女て所かな…嫌われちゃうよね…そんな女。
でも、まぁ心光さんと結婚しない作戦は成功するかもね…
なんだか、気持ちがかなり落ち込んできた。
私は隆の横を通って帰ろうとすると隆に肩を掴まれ止められた。
掴まれた肩はとても痛く、私は少し顔を歪める。
「っい…」
「待てって!」
そんな私たちを見て心光さんは駆け寄ってきた。
「林さん、その手離してもらえますか?」
「…鈴野さんには関係ないです」
隆と心光さんが睨みあって私は喧嘩でも始まってしまったら心光さんが危ないと思い。
「あ、あの「俺達付き合っているんです」」
は?
私は心光さんの言葉に耳を疑った。
え?いつから?
いや、まー将来結婚はしてるみたいですが…
「だから関係なくないです。林さんはもう別れたんですよね?」
「…まぁ」
「俺の彼女に付きまとわないで下さい」
心光さんは毅然とした態度で無表情だが目力強く毅を睨みつけている。
その迫力に私は顔を引き攣らせ少し身を引いて小さくなった。
こ、これはマジで怒っているパターンだ…
隆もこの迫力に気負けして、バツの悪い表情を浮かべ何か私に言いたそうだが、そのまま何も言わず去って行った。
私はそんな毅の後ろ姿を見送り、心光さんに迷惑をかけたことへのお礼を言った。
「スミマセン…変な迷惑かけちゃって…」
あははっと小さく笑いながら言うと心光さんの眼が冷たい…
てか、怖い…
私が少し怯えていると、心光さんは小さくため息をついて、いつもの柔らかい表情に戻る。
「さっきはとっさに嘘をついたけど、大丈夫?」
嘘というのはやはり『付き合っている』という部分だろう。
「はい。鈴野さんこそ…周りに何か言われたら適当に別れたとかフッたとか言ってて下さいね」
「…別に俺はそのままでいいけど」
お?
「付き合ってるって事でいいよ。俺は…」
おお…
なんと回りくどい告白の仕方なんだ…
そうだった…心光さんはこういう人だった。
男らしくズバッと『好きです!!』とか言わず、ぼやーと誤魔化しながら気持ちを伝える。
鈍感な人にはわからんぞ!っと思ったけど、はっきり言わないんだよね…
私はここで「いや、結構です!」と突っぱねれば終わる話だが、あーどうしよう。
普通にドキドキとときめいている。
こんな気持ちになってたんだ…忘れてた。
「…じゃぁ…よろしくお願いします…」
私は俯き真っ赤になった顔を隠し、少し上目づかいで心光さんを伺うとちょっと不敵な笑み?を浮かべている。
ん、んん?
この顔は…
「ヒタちゃん、家まで送るよ」
そう言って私は再び車の助手席に押し戻され、心光さんも運転席に乗り込む。
一応、付き合う事になったので彼氏彼女の関係な訳で私は自宅の場所を教えると車で送ってくれた。
スーパーから徒歩10分車だと3分ぐらいの近場で近くに大きな公園があるのでそこに車を停める。
少し気まずい雰囲気が車内を包み込み、私は息苦しく早くその場を離れたかった。
私の頭の中で無意識に黄色信号が点滅している…
「で、ではこれで…」
「ヒタちゃん。林さんのアドレス消して」
おう…ですよね。
いや、それはごもっとも意見だと私は了承してその場でアドレスを消去した。
これでいいですかね?と携帯の画面を見せるとどんどんと心光さんの顔をが近づいて来る。
私は顔を引き攣らせ顔を後ろに引いて心光さんから逃げた。
「付き合い出したその日にキスするような軽い女に見えます?」
「…そうじゃないか今確かめてる所」
これと同じやり取りを昔やった事を想い出した。
その時は素直に身を引いてくれたけど、次のデートでは普通に唇を奪っていったな…
私が思い出に浸って薄ら笑っているとグイッと顔を近づけられキスをされた。
それは軽く唇が重なる程度のモノだったが私は目を丸くして固まった。
「他の男の事でも考えてる?」
「…いや」
貴方の事を考えてましたよ…
そうだった。
心光さんって…草食系かと思いきや実は隠れオオカミさんだった…
だから嫉妬したりヤキモチやいたりすると、独占欲が強くなる。
そういうやつだった…
そうかー私疑われているんだよね…10年近く経った今でも心配されているんだよね。
あーもう、バカだなー
「心光さんの事しか考えられなくて困っています」
この言葉が着火剤だという事も私は知っている。
だって将来結婚して夫婦になるんだもの。
そのくらい、私は貴方の事を知っている。
心光さんの瞳は情熱の色に変わり、今度は深く私の唇を奪った。
その後は、まーあれだ、心光さんの男の理性の葛藤を私は冷やかして楽しんだ。
流石に付き合ったその日に肉体関係になるほど心光さんは残念な男ではなかったらしく、何度かキスをしてかなーり名残惜しそうに帰って行った。
私も家に招待しようかどうしようか考えたが、心光さんが苦しむ姿を楽しむことが出来たのでそのまま車の中で過ごした。
その日の夜、胸のドキドキが止まらず上機嫌に眠りにつくと…
チュンチュンチュン
お気に入りの曲がスマホのアラームから聞こえる。
眠たい瞳を無理やり開けてスマホの停止をタップするといつもの部屋で家族4人川の字なって眠っている布団の中だと気が付く。
夢…覚めたのか…
面白かった…まだ胸がドキドキしている。
なんかもーこの夢だけで今日一日楽しいような気がする。
私は快調に朝の準備をして子供を起こし、自分も仕事に行く準備をいそいそとしていた。
夫、心光さんも起きて朝ごはんを食べて、私は子供たちが家を出るのを玄関で見送ると自分もパートの準備をして家を出ようとした。
「じゃ、いってきます」
喧嘩をしてから私の『いってきます』を無視していた心光さんだったがこの時は何かが違った。
「…待って」
そういうと不機嫌な顔をしながら私の元に近づき突然キスをしてきた。
私は化粧した口紅がーと思いつつも、あまりこういう事をしない心光さんに驚き、ぷっと噴き出してしまった。
「もーなに?新年会断ったから。じゃ、遅刻しちゃう!」
照れながら私は家を出て行った。
今までだって、これからだって喧嘩くらいするし、結局折れるのは私の方だし。
束縛だって、その心を返せば心配しているって事だと私は思っている。
それだけ…想ってもらっているのかな?と思うとそれも、まぁ悪くないかも。
だから、私は心光さんを選んで夫婦になったのだ。
この事を後悔しない。
これから先もずっと…
ふ…もしも自分なら再び夫を選ぶだろうか…?という小説ですw
結局、惚れた弱みがありますよね…
何かの縁でみんな繋がっているから、それを運命とか赤い糸とかって。
別になにが正解で何が間違っているとかもないけど、私は縁を大事にしたいと思います!
読んで下さった方たちとも何かのご縁!
ありがとうございました!!