第1章2 『始まらない物語』
「それではデナサマールさん。短い間だったけど、ありがとうございました!」
デナサマールに語り掛けたコウタ。停車するデナサマールの馬車。馬車の前には
大きな白い門があり、門を超えた先は『キベリア王国王都』だ。
「儂は短く感じなかったわい。コ...いや、お客さん」
コウタの乗車時間は十五分程だっただろうか。
デナサマールは短く感じなかったらしい。
「まあっ!楽しい時間はあっという間に過ぎるのが掟だからな!」
「じゃあ、短く感じなかったのはお前さんとの時間が楽しくなかったてことじゃな!」
「予想だにしていなかった返答‼さっきも言ったけど俺、豆腐メンタルなんだからな!」
「よくその格好で言えるのぅ!」
変わらない会話の混じり合い、二人の中で何故かこの会話が終わって欲しくないと思うようになっていた。
※
※
「それじゃあ、俺はそろそろ行くぜ。俺を止めても無駄だ。一度決めた道は曲がらないのも俺の利点だと思っているんだよ」
コウタは自己自慢をして、デナサマールに乗車代を手渡し降りようとした。
ーーーだが、
「......これ、もしかしてウシカ王国の金じゃないか...?」
デナサマールはまさかの展開を想像しつつコウタに問いかけた。
「うん。そうだけど...ま、まさか...?」
コウタもまさかの展開を想像した。
二人の頭には『嫌な予感』が過った。
ーーこいつ、キベリアのお金持ってないんじゃ......?
ーーキベリア王国とウシカ王国のお金の通貨は...違う...!?
この答えに気づいたとき、コウタは帆に冷や汗が流れた。
「あ...あのー...これって猫に小判って奴っすよね......あははははは」
コウタは愛想笑いで誤魔化そうとした。--が、
「笑って誤魔化せないのが、社会の常識なんじゃよ。お客さん」
デナサマールにも心がないわけではない。このかわいそうな状況に陥っているコウタを見て、掛ける言葉を考えている。
顔をしかめるデナサマールが言葉を掛ける前にコウタが切り返してきた。
「分かった、わかったよ。デナサマールさん。俺はこのキベリア王国で稼ぐ!
......だから、乗車代は待ってって貰えないかな...?」
実に信じがたい話だ。コウタの性格、話し方、服装、どこをとってもダメダメな人間なのに序にアニオタ‼コウタも自分の発言に無理を承知の上での発言だ。
「...はあ、仕方ない...。お前さんを信じよう」
「-------っ!?」
コウタは驚きという感情で一瞬に染まった。
デナサマールは承認確立ほぼ、ゼロに近い頼みを承認したのだ。
「そんなに驚くでない。儂が見る限り、お前さんは相当な悪い奴じゃないと見えるんじゃ。」
「......ありがとう‼ありがとう‼‼」
流れる涙を拭い感激するコウタ。デナサマールの馬車をジャンプで降りて、
デナサマールに向き直る。
微笑むデナサマール。
涙腺が崩壊しているコウタ。
「口数の減らない男じゃったわい」
「褒め言葉として受け取っておく」
さよならの挨拶。コウタは照れくさそうに頬を掻いた。
やがて門へ向かって歩いていき、小さくなっていく姿。
デナサマールは後姿を見て気が付いた。
「あいつ、マント着けてたのか...しかも、ま...魔法少女...るかるん?」
コウタの装備していたマントは『魔法少女るかるん♪』と大きく書かれ、
るかるん♪と思われし人物が印刷された手作りマントである。
「最後まで、儂を驚かせよって...」
デナサマールは呆れた顔でコウタを見送った。
「この世界を救ってくれよ。新しき英雄」
デナサマールはそう言い残し、馬車を走らせるのであった。
乗っていた男の面影もなく、静かに地を走っていく。
デナサマールの言葉の意味が分かる日は、そう遠い日ではない。