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君の瞳は誰よりも輝いている。  作者: 田舎の近衛兵
第1章 新世紀、誕生!
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第1章1 『穏やかな始まり』



雲一つ無い快晴。


季節は春。


草花広がる草原。


まだ残る雪が太陽に照らされて、神秘的な輝きを放っている。

うっすらと続く、土の道を一つの馬車が走っていた。

操縦するお爺さんは、真っ白な白髪に意外と筋肉質な身体をしている。年は70くらいだろう。

お爺さんは何かを言いたそうに、こちらを何度も見遣っている。

この馬車には、操縦するお爺さんともう一人乗っていた。


「お前さん、乗った時から不思議に思ってたんじゃが...変わった格好をしているのぅ。

一応、騎士なんじゃろぅ?」


唐突にお爺さんは話を持ち掛けてきた。

乗っていた男の格好は、誰が見ても生ごみを見るような目で見られる格好だった。


黒いTシャツに大きくプリントされた美少女。いわゆる、萌えTシャツだ。

顔立ちは悪くない。黒縁メガネ。銀髪。寝癖。腰には刃渡り60センチほどの剣を装備しているため、騎士とは分かる格好だが...側から見れば、騎士とは言っていいのか悩みざるを得ない格好&容姿だ。


「変わった格好?嫌だな、おっちゃん。全然変わった格好じゃねぇよ。騎士なんだよね?って疑問符持たれるほうが、おかしいと俺は主張したい」


指を鳴らしイイことを言ったかのように、目を輝かせ男はお爺さんを見た。


「............」


沈黙が続いた。


鳥が鳴いている。その鳥のさえずりに続くように、春風が穏やかに吹く。

まるで、この状況を励ましているようにも感じる。

「けど、嬉しかったよ。おっちゃん」

馬車に乗っていた男が微かに呟いた。

「どういう意味だ?儂は、お前さんに何もしてないぞ」

突然喋りだした男に少し驚いたお爺さんは、男の話した意味を理解するのに少々戸惑った。

「俺はこの世界で17年間生きてきた中で、おっちゃんみたいに優しく接してくれた人なんて一人も居なかったんだ...うっ、うわーーーーーぁ‼‼」


早々、話して大した時間は経っていなく、お爺さんも感動させる言葉も掛けたつもりも無いはずなのだが、真剣に語っていた男の姿はない。ただ、泣き崩れ、下を向く男が居るだけだった。

先ほどから、驚きという感情しか使っていないお爺さんはさすがに疲れたらしく、男のほうを見ながら

「分かった。だから、泣くな少年」としか、慰める言葉が出てこなかった。

ーーが、この状況が一変する。


「けどな、おっちゃん。人生色々あるもんだぜ。俺みたいにめんどくさい奴も居れば、

誰にでも優しく接してくれるお人よしもいたりと...」


 おかしい。さっきまでは下を向いて泣き崩れていた男が、泣いていたとは思えないほど

淡々と話を切り返してきた。


「...っ!?立ち直り早いのぅ。......というか、お前さんが語るでない!

儂よりこの世界を長く生きとらんじゃろうが‼」


 ーー何か違う......。

お爺さん何かに気づく。


「まあまあ、落ち着けよおっちゃん。立ち直りが早いところは俺の利点だと思ってるんだよ」


「お前さんは、何で上から目線なんじゃ!!」

お爺さんは大きく目を見開いて、男のほうを見た。


 ーーその時、


ーーーまずい。なぜ儂は突っ込みを、此奴なんかに入れるようになった...?

突っ込みを入れるキャラじゃなかったじゃろぅ?


 お爺さんは見失っている自分に問いかけた。

答えは、直ぐに分かった。

 そう、お爺さんの背後に座っている『男』の存在だ。男の態度にお爺さんは妙に引っかかる。

 こんな性格の持ち主は、お爺さんも付き合うのは初めてだ。

こんなことを考えながら、お爺さんは馬車を走らせている。

男も目を細めながら、過ぎていく景色を眺めていた。


 ーーこの時だけ普通の草原が


 ーー誰にも知られていない


 ーー誰も見たことのない


 ーー未知の場所に感じたのは、お爺さんだけだったのか


 馬車は一定の速さで走り続けている。40キロほどだろうか。速くもなく、遅くもなく

静かにただ、目的地を目指して走っている。


「そう言えば、名乗るのが遅れたな。さっきからずっと、俺のことを

『お前さん、パンはパンパンになるまで...パンダフル!!じゃ。』とか言って、

俺との距離保ったままだったしな」


「パ...パンダフル?...んなこと言った覚えはないわい!

......まあ、お前さんの言うことも一理あるわな」


 お爺さんは今日、一皮むけて『突っ込みキャラ』になりました。

突っ込みキャラになったお爺さんは、無意識のうちに突っ込みを会話中に入れてしまい

自分でも気づかないまま...。


「では、儂から名乗らせてもらおう。儂の名は、デナサマールだ。

家名は...お前さんに名乗る必要はないのぅ。改めてよろしくな」


「ちょっと傷ついた...。俺、メンタル弱いんだよ...。豆腐メンタルなんだよ...」

豆腐メンタルという男にデナサマールは、「よくその格好で言えるのぅ」と、

自分にしか聞こえない声で呟いた。


「じゃあ、お待たせしました!俺の名前の前に...ウシカ王国から来ました!

好きな食べ物は、たい焼きだ!作るのも上手いです...。

そして!!誰よりも『魔法少女るかるん♪』を愛おし、誰よりも思い、守り続けてきた、そんじゃそこらのアニオタとは違う、宇宙一のアニオタ!イイナギ・コウタだ!よろしく!」


 決め顔で名前をコウタと名乗った男は、長々と自己紹介をし、付け加えると突如出てきた謎の『魔法少女るかるん♪』の防衛兵のような発言をし、更に付け加えると、アニオタ界の神とでもいうかのような発言を連発してきた。

 デナサマールはもうコウタとの会話は慣れたらしく、コウタの発言を一言も見逃さなかった。


「魔法少女るかるん♪というのは...。その、......コウタの着ているTシャツにプリントされている女の子のことじゃな?」

「デナサマールさん、そうですとも。未だ脳は腐ってなくて良かったですよ」

「何でコウタはじじいを舐めるんじゃ‼」

「何か、名前で呼ばれるのって新鮮だなぁ......」

「話を聞けぇい‼‼」


 祖父と息子の言い争いに見えるこの状況。

コウタは腰につけている剣を触り、

「おっと、じいさん。そんな口調でいいのかよ?俺は騎士なんだぜ。」

 右目をつむり、横目でデナサマールを睨んだコウタ。

睨んでくるコウタに気にもせず、

「ほぅ。お前さんは儂の位が分かって無いようじゃのぅ。もっと勘の鋭い奴かと思ったんじゃが。

 デナサマールは頬上げ、コウタのほうに体の向きを変えた。

言ったことに意味が分からなかったコウタだったが、


「デ...デナサマールさん...まさか...!?」


 思わず息をのむコウタ。

デナサマールの出してきた左腕には、金色のリングに青く透き通った宝石が埋め込まれ、誰もが釘付けになってしまう輝きを放っていた。


「ほ、本当に聖騎士なのか......!?」


 少し間があったが、震える声でコウタは『聖騎士』という単語を口にした。

そのリングは如何やら『聖騎士』を意味するらしい。

 デナサマールは、コウタの反応が面白かったのか鼻を高くして


「随分とさっきまでの威勢がなくなったのぅ。がっはっはっはっはっは!!」


 ーー悔しいがここは、頭を下げるしかないのかっ...


 心で思いながら額に汗を掻き、笑うデナサマールに頭を下げたコウタ。

さっきまでは上から目線でデナサマールをただのじじい扱いとしか見てこなかったコウタはもはや、頭を下げることしかできない屍に見えてくる。


 ーーこの状況が早く終わってほしい...


 ただそれだけを願って、頭を下げていたコウタ。

デナサマールは茶化すのに満足した顔をして、コウタのほうに振り返った。


「コウタ。儂は何も気にしておらんぞ。寧ろ、楽しかったのぅ。こんなに楽しい会話をしたのは、昨日妻と話した夢の話以来じゃよ」


「昨日かよっ!!あと、奥さん居たのかよ!...あっしまった!」


 デナサマールの話につい、突っ込みを入れてしまったコウタ。が、

「がっはっはっはっはっはっ!」と楽し気な笑い声で笑うデナサマール。

その声を聴いたコウタは、張り詰めた緊張がふと抜けた。

姿勢を戻したコウタはデナサマールに告げた。


「ふんっだ。デナサマールさん、安心してんじゃあねぇよ。下だからって舐めてたら返り討ち食らって肋骨を三本くらい折れるぞ」


 コウタは始めと変わらない変わらない口調でデナサマールに言い放った。


「ほぅ。面白いのぅ。まさに、下克上じゃ。......ならば、儂を超えて見せろ」


「へぇっ!?」


 コウタは予想だにしていなっかった返答が返ってきたため、思わず素で驚いてしまった。驚いたコウタに追い打ちをかけるように、デナサマールは顔だけこちらに向けて


「超えて、聖騎士一番になれ。儂からのお前さんに向けて、最初で最後のお願いじゃ」


 真剣な眼差しでデナサマールはコウタに言った。


「ど...どうして、そんなこ...」

 コウタはデナサマールがなぜ、こんなことを言ったのか疑問を持った。

その時、デナサマールは言葉を重ねた。

「まぁ、深くは気にするでない。いずれ、コウタ自身が身をもって知ることになるじゃじゃろうからな」

 コウタは疑問の嵐へと吸い込まれていく。

デナサマールの言っていること、自分の置かれている状況。


 ーー今は、深く気にしてもダメだな...


いったん、コウタはデナサマールの言動には目を伏せた。


ーーそんなことを思っていると、デナサマールが正面を指さした。


「コウタ。見えてきたぞ!あれが、『キベリア王国王都』じゃ」


 デナサマールが指をさした方向を見てみると、誇らしげに佇む大きな城の影が見えていた。


「すっ...すげーーーーーー‼」


 あまりの迫力にコウタは、驚きと興奮に満ち溢れた少年のような声を出した。

揺れる馬車の中、コウタは立ち上がった。


「ここから始まるのか、俺の新たな英雄譚‼︎」


 コウタの目には光が灯り、両手を腰をやりながら語り始めた。

わが子を見るように温かい目でコウタを見るデナサマール。


「このキベリア王国に今、新たな騎士が舞い降ります‼......さあ!新世紀、誕生だーーー‼‼」

 コウタは声を張り上げ、飛び上がった。揺れを増す馬車、笑いあう二人。


 ーーさあ、始まる。アニオタ騎士の新たな英雄譚が!このキベリア王国で!

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