プロローグ『始まりの鼓動』
緑の風は山を伝って吹いていく。
谷 峠 集落を超えていく。
それに伴い、人々を安堵にさせる暖かい風が春の始まりを告げる。
――――ここは、ケニラリアの北部に広がる大国キベリア王国。
このキベリア王国で分断された四つある国の中の一つで最も大きな大国である。
キベリア王国は昔獅子をかたどったお面をつけた獅子王が支配していたため、獅子王の国とも呼ばれていた。
キベリア王国の権力は強くほかの国の実権を握り、植民地支配をしていた。
植民地であったウシカ、ヨキエラ王国。
どの国も勢力は弱く、キベリアに対する不満なども聞き入れられずどの国も王が仕切る絶対王政の世の中だった。内戦も頻繁に起こり、国の柱も崩れつつあった。
この状況は約200年もの間が経った今でも変わることがなかった。
――――が、一つの国はキベリア王国の植民地を受けずに独立していた国があった。――――アズダ王国。
この国から独立を求めていたわけではなかった。
キベリア王国から断じたのだ。
そのアズダ王国には人間という種別は居なく、代理に『ヴァンパイア』と言われる吸血鬼の住処だった。背中には月光に輝いた黒く大きな羽に数々の獲物を殺してきたであろう殺意で満ち溢れた牙。
国の誕生前までは、人間とヴァンパイアは助け合い共存をしていた。
だが、突如として彼らは姿を消した――――
人間との生活が癇に障ることがあったのか。また別の事情があるのか。
人々は悩みつづけ、彼ら達の帰りを待っていた。
ある日、その考えが消えた。人間たちはいつしかヴァンパイアの復讐に恐怖を持つようになった。
そして、王国内でヴァンパイアとの交流を反対する運動が流行し始めた。
それ以降、ヴァンパイアとの接触はなく存在すら人々の記憶から消えかけているのが現状だった。
――――この物語の舞台は、キベリア王国。
今日もいつものように、朝日が顔を出す。
次々に紅色に染まっていく建物。
目を覚ます人々。
こんな当たり前が今日は違った。
――――ふと、キベリア王国王都に南風が強く吹く。
――――それは、新たな騎士の英雄譚を告げるものか。
――――それとも、既に染まりつつある魔の手の脅威を告げるものなのか。
――――それは、未だ、誰も知らない。