my sweet ice candy
30歳の夏。私はお盆休みで実家に帰省をしていた。実家とは無条件でだらけられるすごい所だ。タンクトップに短パン姿、髪の毛を頭の上にお団子にして、リビングのソファーにあられもない格好で寝っころがると、心も体も開放された気分になる。
「せっかく夢を持って会社入ったのに、嫌になっちゃうよね」
社会人3年目でまだ実家暮らしの妹が、同じようにダラダラと床に寝転がりため息まじりに言った。私はそんな妹に悟った口調でとがめる。
「社会に期待なんかしちゃダメよ。所詮はみんな他人なんだから」
「せめていい恋してたらなぁ。お姉ちゃんは彼氏とどうなったの?」
久しぶりに会った時のお決まりの質問だ。
「別れた」
彼氏とうまくいっていたら、30歳の夏に実家になんか帰省しない。もしあのまま付き合っていたら、今頃、結婚式の日取りとかを決めてたに違いなかった。
「なんで?」妹は寝転がったまま、目だけ大きくした。
「外でも、ウチでも完璧を求めてきたから」
「……お姉ちゃん、外面いいもんね」
見た目から入ったのが悪かった、と今になって思う。あっちも私の外行きの姿が気に入っただけだったのだ。一緒に住もうってなってから、上手くいかなくなった。私はこの世知辛い世の中に向かって嘆いた。
「あー! しょっぱい! しょっぱい!」
そんな時、母さんが何かを持って台所から出てきた。
「はい、どうぞ」
皿には、冷凍庫の氷冷機で作った四角いアイスキャンディーがコロコロと並べられていた。この蒸し暑い日には最高のおやつだ。緑のアイスキャンディーを一粒つまんで口に放り込む。しかし、そのアイスキャンディーの甘いこと。私はその甘さにむせかえった。
「何これ、母さん、甘すぎるよ!」
「じゃあ、塩でもかけたら? 母さんは甘いのが好きよ。おやつも人生もね」
母さんはふくふくとした体を揺らしながら笑って塩を差し出した。
塩を振ったアイスキャンディーは、急にバランスのとれた丁度良い甘みになった。しょっぱいが、美味しさに変わる。
「塩ってすごいね」妹がボソッと呟いた。
しょっぱいっていうのもあながち悪いことではないのかもしれない。もしかしたら、これから来る甘い生活に備えて、バランスを取っているだけなのかも。そう思ったら、この甘いアイスキャンディーに、少しだけ明るい未来を見た気がした。