時空を超えた出会いー2
月を見るために近所の展望台のある公園へ向かった。最後にここへ来たのは何年前だろうか…。そんなことを思いながら、一目散に階段を登って展望台を目指す。が、5分も経たないうちに息が切れた。想像以上に体力が落ちていて自分でも驚いた、前は軽く2キロぐらいは走れた気がするんだけどなぁ…。
そんなこんなで、展望台に着きベンチに腰かけ月を見た。改めて月が綺麗だと思う。その日に見た月は黄色じゃなくて真っ白に光り輝いていた。もちろん、月が太陽の光を反射して光っているというのは、知っている。
だけどこの時の俺には、月が自分で光っているように思えてならなかった。
暫くの間ぽけーっと空を眺めていた。よーく見てみると、雲がすこしずつ動いていて、ゆっくりではあるけれど動いていることがわかるぐらいの速さだ。月が雲に覆われると、その後ろが少しだけ光って雲の輪郭が浮き出てくる。そして、周りの星と合間ってまるで……、駄目だ。うまい例えが浮かばない。
だけど、まあいいかと俺は思う。いい例えが思いつかなくてもこの景色が綺麗なのは変わらないのだから。家から歩いて20分くらいの距離にあるのに、今までこの景色を知らなかったと思うと、もったいないような気がした。
俺はここ半年ぐらいロクに自分の部屋から出たことは無かった。人とコミュニケーションをとるのが怖かったとかそういう感じではなく、ただ単に面倒だったからだろう。昔からどちらかというと消極的ではあったが、ここまで酷くはなかった。中学生になってから自分でも知らないうちにあらゆることが面倒になったのだ。部活も勉強も宿題も大好きなDVDの鑑賞も趣味の読書も、友達や家族でさえ。結果今のような、小学校時代に周りから真面目と言われていたとは思えないほど堕落した生活を送っている訳だが、俺は今のような生活を望んでいたのかと聞かれれば、違うと答える。
俺は友人に囲まれて、ありきたりながらも充実した生活を送りたい。だが、面倒臭く思っている。矛盾しているな。そう思って笑みがこぼれた。自嘲するような哀れに思うようなそんな笑みだった。
俺は気付いたら泣いていた。どうしてこんな風になってしまったのだろう。小学校時代のみんなは俺のことを見てどう思うだろうか。あの頃はよかったな、今だからこそ光輝く毎日だったといえる。男女関係無く色んな子と話し、周りからも信頼され、同じ学年の子はみんな友達と言っても過言ではなかった。何もかもが楽しかった。
「あの頃に戻りたいよ」。心の中に閉じ込めていた悲しみや不安が溢れ出て止まらなかった。「みんなともっと話をしたい、友達ともまた会って遊びたい。毎日毎日虚しくなったり、後悔して過ごすのはもう嫌だ。あの頃の様に…あの頃の様に毎日楽しく過ごしたい。」
夜空に輝く月はいつも空高くから全てを見守っている。だから知っている、今ベンチに腰かけている少年の苦難が。
少年は地元では有名な中学校に受験して落ちてしまい、急遽滑り止めで家から遠い私立の中学校へ通うことになったのだ。
少年の通う小学校から進級する子はいなかった。だから、最初は嫌がって必死に抵抗したが両親は頑なに認めてくれなかった。泣いても喚いても聞いてくれなかった。結局少年は折れて私立の中学校へ行くことになった。誰にも言い出せないまま…
月はただ見守っていた。慰めることは出来ないが、いつかこの少年が昔のようにまた笑える日が来ることを願って。