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EP06 悲しきルーチンワーク

 一方その頃、

棚田歌織は離れの孤島でサブクエストを熟しつつ、

断罪度(EXP)上げをしていた。


「ごにょごにょ……フレイム」


 歌織が解き放つ放射状の炎が魔物を焼き尽くす。


>歌織:フレイムLV4

>歌織:MP1326→1195

>歌織:スキル使用不能 3s

>チェインビースト:HP3356→815


 チェインビーストは反撃に大きな爪を振り下ろす。


>歌織:回避


 更に3秒後、歌織は再びフレイムを放った。


>歌織:フレイムLV4

>歌織:MP1195→1064

>歌織:スキル使用不能 3s

>チェインビースト:HP815→0


 チェインビーストを撃破。


>歌織:TEXP185085→185862


 歌織は魔術的スキルを駆使し、

離れの孤島に湧き出る鎖の魔獣――チェインビーストを

延々と倒し続けていた。


 彼女が目標とするノルマEXP1万ポイントを

効率良く稼ぐために。


「ふう……後9匹でノルマ達成だしクエストも熟せるの。

たまに痛い攻撃をもらってもここが一番効率いいの。

ねえ、プーティン」


 歌織はプーティンに語り掛けるが

マジサポには例外を除けば会話する機能はなく、

ただ聞き流すだけだ。


「でも、わいて出るのが少し遅いの。

1匹わくのに1分掛かるなんて退屈過ぎるの」


 一人で愚痴をこぼす間に、もう2匹目の魔物が現れる。


>歌織:フレイムLV4

>歌織:MP1064→933

>チェインビースト:HP3356→1445


 チェインビーストの突進。


>歌織:HP1798→1291


「痛いの!」


 歌織は突進をかわせずもろに食らって後方に吹き飛び、

不満気な表情を浮かべていた。


「むうっ……フレイム!」


>歌織:フレイムLV4

>歌織:MP933→802

>チェインビースト:HP1445→0

>歌織:TEXP185862→186639


「うう……ごっそり三割持ってかれたの」


 歌織のすぐ横に浮かぶライフゲージを見て落ち込む。


「はあ……こういう時こそ剣崎さんと西奈さんがいたら――っ」


 二人を思い出した歌織の表情が一気に曇る。


「ううん、もうふたりは関係無いの。

カオリは1人で頑張るって……決めたもの!」


 歌織は哀しみのあまり涙を零しそうになるが、

それを堪えて再びわき出た魔物にフレイムを2度放って倒す。


>歌織:TEXP186639→187416


「そうだよね、プーティン?」と

寂しげな声でマジサポに話しかけながら。



 広大なシナジー花畑で鬼頭祷理と卯ノ花黄泉は

未だにボスとの戦闘を続けていた。


「うう……これで倒れてーっ」


 ボス・ビースウォームのしぶとさに

少し疲れ気味な祷理は力強く大剣を握り、

渾身の一撃を繰り出す。


>祷裡:クリティカル!

>ボスビー:HP558→0

>祷理:TEXP327→603

>祷裡:ランクアップ! RANK1→2

>黄泉:TEXP2204→2480


 853の派手な数字と共に

魔物は崩れるように消え去った。


「た、倒せた……やったーっ!」


 祷理はボスを倒した事を相当喜んでいたが、

疲労もそれなりに増していた事もあり

その場に膝をついてしまう。


「ふわああっ、疲れた……」

「いやーっ、やったねいのりん。

本当におつかれごちそーさーん」


 祷理の隣に黄泉も座り込んだ。


「ふわあ……すごく嬉しいけど疲れたね」

「あはは、まあ疲労度も上がってると思うしね」


 楽しそうに笑う黄泉の横で、

祷理は恐る恐るESDを確認した。


「あっ、本当だ。50%こえてる……」


 その数値を見た祷理の疲労度が更に増す。


「でもほら、さっきのでいのりんのランクも2に上がったじゃん?」

「あっ……本当だ!

総合断罪度(TEXP)も600超えてる!」


 祷理は嬉しさのあまり、少し疲労が減った気がした。


「それに能力も上がってるでしょ」

「うん、本当にSTRは3上がってるねっ。

うっ……INTは1しか上がってない」

「あはは、気にしちゃ負けー」

「あうう……」


 祷裡は頭を抱える。


「とにかく魔物を倒しまくれば強くなるのさー。

これも経験ってやつだねー」

「うん、なんとなくわかったかも。

でも本当に黄泉ちゃんが一緒に戦ってくれて良かった。

わたしだけだときっと、

さっきの大きなハチさん倒せなかったもの」

「うん、それはあたしも同じ。

1人だったらもう少しレベルあげないとだしねー」

「わたしたちの友情パワーのおかげ……だね!」


 祷裡は照れ臭そうにはにかむ。


「うん、ほんとそのとーり!」

「えへへ……」

「でもまー実際ソロでクリアするなら、

街中でクエストこなしつつ回復アイテム集めなきゃだもん」


 祷理は疑問を顔にして首を傾ぐ。


「えっ、魔物さんを倒さないクエストなんてあるの?」

「もちろんあるよー。

ただ人助けしてアイテム貰うクエストもあるし」

「あう、最初にそれから始めれば楽だったんじゃ」


 しょんぼりする祷理に対し、黄泉は首を左右に振る。


「ううん、時間掛かるしEXPも貰えないもん」

「そうなんだ」

「うん。

まー街中のクエストはいのりん1人でも簡単だから、

やりたい時にやればいいよー」

「うん、わかった。

黄泉ちゃん、今日は本当にありがとうね!」

「いいよん。

じゃーササッとこのクエスト終わらして

今日はもう終わりにしよう。

だいぶいい時間だし」


 ESDは現在時刻1850を表示していた。


「あっ、本当だ!」


 祷裡は急いでポカンとしたままのミントに語り掛ける。


「あのお、ミントさん大丈夫ですか?」

「ビックリしました。

まさかあんな大きなビースウォームがいるなんて

思いもしなかったです。

これからは虫除けのお守りを装備しないとですね」


 ペラペラと自分勝手に語り出すミントに祷理は困惑する。


「あ、ええと……?」

「さあイノリ、もう帰りましょうか。

私が帰り道をご案内しますよ」

「あっ、はい。お願いしま――か、体が!」


 突如として祷理の体が白く輝き出す。


「うん、もうすぐおばあちゃんちに自動で帰るんだよ?」


 黄泉も祷理同様に輝く。


「じ、じど――」


 祷裡が言い終わる前に、

お花畑から三人の少女達とマジサポがヒューンと姿を消す。



 ESDが現実時刻1855を表示する頃。


 かれこれ現実時間で10分程狩りを続けていた歌織は、

あと3匹チェインビーストを倒せば村に戻ろうかと考えていた。


「はあ、はあ……っ。

だいぶ疲労が溜まってきたの……。

でも、ここで高価なメローレーションは使えないの」


 歌織は魔術スキルを使いまくっていたため

疲労もかなり蓄積されていた。


 メローレーションという

携行用のオレンジ味のスティック菓子パンを食べれば

疲労が20%程度回復する。

 だが1つの価額がベーシックポーション100個分に相当するため、

歌織は食べるのを渋っていた。



「でもあと3匹……戻らないでとにかくやるしかないのっ」


 言いながら次に湧いて出たチェインビーストを、

フレイムで大ダメージを与えて倒した。


>歌織:TEXP188970→189747


「ふうっ、あと2匹……あっ」


 歌織が気合いを入れていた時、

彼女の目前に三人の高校生らしき断罪者が忽然と姿を現す。


「あーマジだりー。

いくら3人いてもコイツラめっちゃ硬いし痛いしで、怠くねーか?」

「確かに怠い。

これならまだランクの高い罪人処刑した方がマシだ」

「2人ともそう愚痴るなよ。

罪人が狩られて少なくなってるんだからさ」


 他愛ない会話をする少年3人を前に、歌織は萎縮する。


「あ、あの」

「アキラの言う通りだ。

とにかくあとランクが2上がるまで我慢してやるか」

「そうだな、マジ疲れるけど」


 筋肉質な少年とスレンダー少年は歌織を無視していたが、

アキラと呼ばれた顔の整った少年だけは違った。


「ちょっと待った2人とも。もう先客がいるじゃないか」

「先客だと?」

「あのチビの事かー?」


 チビ呼ばわりされ、歌織はムッとする。


「タケシ、お前そういう事言うなって。失礼だろ」

「カオリはチビじゃないのっ」

「おっ、なんかチビが怒ってんぞ」

「ああ、確かにチビだ。小学生なのか?」

「うう……っ!」


 歌織は今にも泣きそうになる。


「ユウジお前もさ……とにかくごめんな?

こいつらちょっと機嫌が悪くて」

「あ、ううん。カオリは別に……」

「うるさいなアキラ。

今日も発砲女に獲物取られてイラついてるのによ」

「おうよ!

しかも人を平気で殺しそうな冷めた目してんだぜ。

あんなのぜってー相手できねーっつの」


 歌織は発砲女と聞いてハッとする。


「あの、もしかしてあなた達は横浜市に住んでるの?」

「あっ、うん。そうだけどよく分かったね」

「やっぱり……」

「もしかして君も発砲少女に罪人を横取りされたの?」


 非常に落ち込む歌織を心配したのか、

アキラは優しい声で尋ねていた。


「あの……お友達がそいつに……殺されたの」


 その話を聞いたアキラは驚愕し、

隣で魔物狩りをしていた少年二人は手を止める。


「おい、それは本当か?」

「ほ、本当なの……」


 眼光鋭いオールバックのスレンダー少年は

歌織の心情を察するが、

鋭い眼光と口が悪い故に歌織は萎縮する。


「うわっ、マジありえねーよ発砲女!

人間の心を持ってねーぜ!」

「そうだったのか……可哀想に」

「カオリ……何も出来なかったから悔しいのっ」

「だけど規則第3条の1号には

『同業者に危害を加えてはならない』

とあるんだ。

だからすぐCLに載るだろうし、

君が仇を取らなくてもその子は時期に裁かれる筈だ」


 歌織はまごまごする。


「あの、その、それは……」

「もしかしてお前達さ。

発砲女に喧嘩売ったんじゃねーの?」


 ツンツン頭をしたゴツい少年の何気ない一言が

歌織を更に萎縮させる。


「あう……っ」

「バカっ、だから小学生相手にそんな向きになるなって!」

「違うのっ、カオリは高一だもの!」


 歌織は小学生呼ばわりされた事に憤慨し、

悲しみながらも思わず怒鳴る。


「へっ……? あっ、ご、ごめん!

てっきりだいぶ年下なのかと」

「ひどいのっっ!」

「本当にごめんっ、この通り謝るから!」


 誠心誠意、頭を下げて謝るアキラに対し、

歌織は逆に申し訳なくなる。


「あっ、ううん、カオリこそ叫んだりしてごめんなの……」

「いや、君が謝る必要なんて……」

「ううん……カオリも悪いの」


 何とも言えない空気のふたりを察したのか、

筋肉質な少年とスレンダー少年が

楽しそうな顔でヒソヒソと耳打ちしあう。


「おい、どうしたんだよお前ら?」

「アキラ、俺ちょっとリアルでやる事あるから抜けるぞ」

「オレもユウジと同じだぜ。

つーわけでアキラはここで、

おチビちゃんと好き勝手遊んでろよなー?」

「はっ、お前ら何勝手な――」


 頬を少し染めたアキラを無視して

少年2人がESDを額に当て、

「リンクアウト」と叫んで姿を消した。


 ここに残るのは、

苛立つアキラとモジモジする歌織のみ。


「あいつら勝手な事ばかり言いやがって……」

「あの、ごめんなさいなの」

「いや、君が悪いんじゃないんだ。

それよりさっきの話の続きを聞いても大丈夫かい?」


 アキラが優しい笑顔で尋ねると、

途端に歌織の目が泳ぐ。


「ご、ごめん……なさい」

「わかった。

とりあえず落ち着きがてら

人の少ないシンパシータウンへ行こうよ」

「でも、あなたも狩りに来たんじゃないの?」

「大丈夫、流石に今の君を放ってはおけないから。

それに今は狩りの気分じゃないよ」

「あう……」

「でも君がどうしても俺と一緒にいたくないのなら

無理強いはしないけど」

「カオリは……」


 俯いたまま顔を上げない歌織の気持ちを察したのか、

アキラは申し訳なさそうに謝る。


「ごめん。

やっぱり初対面の男と一緒なんて、

例え同級生でも女の子だったらイヤだよね。

じゃあ俺も今日は元の世界に――」

「待って!」


 アキラがESDを額に当てた時、

歌織が必死になって彼の腕を掴んで止めた。


「お願いだから……1人にしないで」

「君……」

「もうやだよ!

ソロなんてつまらないし……とっても辛いの!」


 歌織は涙をボロボロと零す。


 それからしばらく2人の間に沈黙が訪れるが、

先にアキラが穏やかな顔で口を開いた。


「そうか、わかった。

それじゃあさ、まずは俺とリンカー登録しないかい?」

「ひっく……登録……いいの?」

「当たり前さ、だって俺達はもう友達だろう?」

「……うんっ」


 言いながらアキラはリンカーを起動する。


「さあ、君もリンカーを起動して?」

「うん……」


 歌織とアキラがESDを向き合わせると

二人の情報がお互いにリンクされた。


「よし、リンク終わったね」

「無事に……終わったの」

「それじゃあ話の続きは

人の少ないシンパシータウンでしようか。

そろそろこの狩場も他の人でいっぱいになる時間帯だしね」

「うん、賛成するの」


 歌織は徐々に元気を取り戻し始める。


「移動石は持ってるでしょ?」

「もちろんなのっ」


 二人が移動石と言われる、

仮想世界内で行った事のある町やダンジョンに行ける

青い石片をESDから呼び出し、

天に掲げた。


 するとふたりの体が青白い光に包まれ、

その場から姿を消してしまう。


 2人はシンパシータウンの中央広場へと瞬間移動した。


「ふう――相変わらず何もない平凡な町だけど、

ここも久しぶりだといい感じだね」


 アキラは広場全体を眺めてホッと一息吐く。


「そうなの、なんだかとても懐かしいの」

「とりあえずレストラン・シナジーにでも行かないかい?

改めて自己紹介したいし、

久しぶりにシンパシービーフステーキも食べたいしね」

「うん、カオリも大賛成なの!」


 歌織は誰かが側にいるという感覚を心から噛みしめ、

眩しいほどの笑顔を咲かせていた。



 少し時間を遡った祷理と黄泉。


「うわ、本当におばあちゃんちだ……」


 祷理はワープの最中に目を閉じており、

恐る恐るゆっくりと目を開いた先が

老婆の家であることに驚いていた。


「あはは、まあ最初は驚くよねー。あたしもビビったし」

「うん、本当に。

それじゃあ、おばあちゃんと話すね」

「おう、そうしなー」


 祷理は老婆に、孫娘と共に帰ってきたことを伝える。


「おばあちゃん、ミントさんを連れてきましたよ?」

「おやおや、本当にどうもねえ。助かりますわあ」

「もう、おばあちゃんったら心配性ね。

イノリに迷惑かかっちゃったじゃないの」


 少し強めの口調で語るミントを

祷理は慌てつつ宥める。


「ま、まあまあミントさん。

おばあちゃんもミントさんの事が

心配で仕方がなかったんですよ」

「うふふ、それは分かっているわイノリ。

だからおばあちゃんには感謝してるし、

もちろんイノリにだって感謝しているの。

本当にありがとうね」

「い、いえっ、そんなに感謝される事ではっ」


 祷理がNPCの2人と会話を終えると

ESDから『テッテーン』と効果音が鳴り響き、

『あなたは【老婆の孫娘を探せ】クエストをクリアしました。

報酬をお受け取りください』と

機械的な音声が鳴り響いた。


 その後ESDの画面に

【おばあちゃんのクッキー】5つと、

1000Gが表示された。


「わあーっ、なんかいっぱい貰えたっ」

「うんうん。

因みにおばあちゃんのクッキーは

食べるだけで疲労度を30下げるアイテムなんだけど、

レアっぽいからあたしは使うの控えてる」

「へえ、そうなんだ」

「んふふ。

とにかくこの世界の通貨も入ったし

美味しいもの、食べてみない?」


 黄泉は丼を箸でパクパクと食べる仕草をする。無表情で。


「うん、ぜったい食べたいっ」

「あはは、あとこの世界の料理を食べると

疲労度も下がるからマジオススメー」

「ああ、早く食べてみたいなぁ……」


 祷理は口元が緩み、危うく涎を零しそうになる。


「締まらない顔してんね、いのりんったら」

「えへへ……恥ずかしい」

「それじゃーあたしに着いてきて」

「うんっ、お願いするね」


 それからふたりはレストラン・シナジーへ向かう。


 実時間3分掛けて辿り着いた

レストラン・シナジーにふたりは入店する。

 そこで祷裡は黄泉に勧められて

200Gのシンパシービーフステーキ500gを注文する。


 ステーキが目の前にやってきて初めて、

その贅沢すぎる大きさを実感し、

祷理はキラキラと目を輝かしていた。


「うわあ、この肉厚すぎるステーキ……素敵すぎる!」

「おっと親父ギャグかい、いのりん君よー?」

「あっ違っ、別にそこ狙ったわけじゃないの!」


 祷裡はわたわたする。


「うんうん。もちろん知ってるから

そんなムキにならないでってー」

「むう……」

「あはは、まったくいのりんはマジメで可愛いなー」

「わたし……そこまでマジメなのかな?」

「うん、めっちゃマジメ」

「あう……なんだか嬉しくない」


 祷理は悲しそうに俯く。


「どうして?」

「だってマジメってことは面白くない人ってことでしょ」

「あー、それはちょいと違うよ?」

「そうなの?」

「うん。

むしろあたし的には

マジメな子の方がからかい甲斐があって面白いしー」

「なんだかそれは褒められてない気がする」


 祷理はジトっと黄泉を睨め付ける。


「あははー。

まーそんな事よりこの素敵なステーキを

一口頬張ってみなよー」

「引っ張らないでっ!」


 そう祷理は叫びつつ、

切り分けられたステーキを一切れ頬張った。


「んんっ!?

このお口の中いっぱいに広がる

濃厚なアップルソースの風味、

しつこくなく優しい油の香り――

ホントにホントに美味しーい!」


 祷裡の目はキラキラ輝いていた。


「あっはっはーっ、マジでウマいでしょー」

「うん、これならいくらでも入りそうだよっ」


 祷理は2切れ目、3切れ目と

どんどん口の中へステーキを頬張っていく。


 その様子を見ていた黄泉は満足気な無表情であった。


「うむ、すごい食べっぷりだねーいのりん」

「だって、すっごく美味しいんだもん!」

「そっかー、そりゃおっぱいもそんだけ育つよねー」

「えっ、何か言った?」


 ステーキに夢中になっていたせいか、

幸いにも黄泉のイジワルは伝わらなかったらしい。


「ごめん、なんでもないから気にせず食べなって」

「うんっ」


 そして再び祷理はパクパクと食べ始めた。


「さて、あたしも食べようかなー……」

「なあ、君はもしかしてリンネじゃないか!?」

「あーん?」


 呼ばれた黄泉が振り向いた先には

驚愕したアキラの姿があった。


「えーっと、あんた誰?」

「その顔と落ち着いた風貌……やっぱりリンネじゃないか!」

「いや、あたしは黄泉ってんだけど」

「悪いけど……ESDの認識番号を見せてくれないか?」


 真剣な眼差しを向けるアキラの提案を

黄泉は仕方なさそうに受け入れる。


「わかったよ、はいどうぞ」


「失礼するよ」とアキラは言ってESDを受け取り、

裏側下面に記載された認識番号を確認した。


「613……ごめん、人違いみたいだ」

「さっきからそう言ってるじゃん。

というか、いきなり失礼な人だね」

「本当にすまなかった」


 アキラは深々と頭を下げる。


「まあ別にいいけど。

因みにそのリンネって人、そんなにあたしに似てんの?」

「ああ、瓜二つだ……まるで生き写しみたいに」

「ふうん、まあいいや。

それじゃー用が済んだならもういいかな?

早くあたしもステーキ食べたいんだけど」

「ああ、それじゃあ失礼するよ」


 再びアキラは頭を下げると、

歌織の座る席の方へと戻っていった。


「なんなんだろーね、いったい。

ごめんねいのりん、うるさくしちゃって……?」

「もぐもぐ……美味しいよお!」


 黄泉がアキラと話している間、

祷理はステーキに夢中だった為に話を聞くどころか

気付いてすらいなかった。


「あれ、黄泉ちゃんステーキ食べないの?」

「ううん、食べるけどさ。さっきの話聞いてないの?」

「えっ、なんのこと?」

「あー……あーっはっはっは!」


 突然大笑いする黄泉に、祷理は吃驚する。


「ひゃっ!

いきなりそんな大声で笑ってどうしたの?」

「ごめん、ホントなんでもないからっ!

というかいのりんったら

ご飯に夢中になっちゃってマジ可愛すぎだよーっ」

「うう、そんなことないのに……」


 黄泉が大いに笑う中、祷理は不満気だった。


 だけど再びステーキを頬張る頃には

そんな不満なんてどっかへ吹き飛んでいた。


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