EP05 はじめてのクエスト!
時刻は午後6時頃。
誰もいなくなった小さな公園に
漆黒のローブをまとった魔女をモチーフにした少女――
棚田歌織の消えた地面がキラキラと輝き出す。
光に混じって消えた筈の歌織が
何事もなかったかの様にじわじわと復元された。
「うっ……うう……カオリ、生きてるの?」
目眩のする歌織は立ち上がり、
自分の所持するESDを懐から取り出した。
「あの銃弾を食らったハズなのに……」
歌織は撃たれた胸部を弄って何も無い事が分かり、
美果と寿栄子の事を思う。
「あの2人は――そんなっ!」
歌織はリンカーを起動してリストを確認したが、
そこには何も載っていない。
美果と寿栄子が死んでしまったのだと歌織は思い込む。
「あの女に……撃ち殺されたの!?」
歌織は絶望して脈拍を上げ、呼吸を乱す。
「はあ、はあ……っ!
ダメ、落ち着くのカオリ……。
まだ2人とも殺されたと決まったわけじゃ……ないの」
自分を落ち着かせ、どうにか冷静さを取り戻す。
「ふう……執行完了」
執行完了の言葉に反応して、
歌織が着ていた黒いローブから落ち着きめの私服へと戻る。
「さあカオリ、今日はもう帰るの」
自分に言い聞かせ、そのまま公園を後にした。
○
同時刻のLOKの世界。
シンパシータウン南にあるシンパシー高原で、
黄泉に負けて気絶していた祷理が目を覚ます。
「あれ、ここは……?」
「おっ、やっとこさ目を覚ましたー」
祷裡の眼前には、見下ろす黄泉の心読みにくい顔。
祷理は驚き、正座する黄泉の膝から頭を起こした。
「あっ、ごめん黄泉ちゃん!
わざわざ膝まで貸してもらって」
「ううん、オッケーよ」
「あう……」
「それよりあたしこそゴメンね」
「えっ?」
祷理はポカンとする。
「あたしったらついマジになって、
いのりんを一方的に痛め付けちゃったから」
「あっ――ううん、それこそ大丈夫。
怖くて何もできなかったわたしが悪いんだもの……」
「うん、それは間違いないね」
キッパリ言われて祷理は少し落ち込む。
「うう……」
「だからさ、これからいのりんの特訓を始めよう?」
「あの、また黄泉ちゃんと闘うの?」
「ううん、この世界の魔物と闘ってレベル上げだよー」
魔物と聞いた祷裡はハッとする。
「あっ、ガイドさんが言ってた?」
「そそ、気持ち悪い生き物ね。
だからひとまず町に戻ろっか。
効率よく魔物と闘うためには
町でクエスト依頼受けないとだしー」
「ええっと……ええ?」
黄泉は戸惑う祷理の腕を無理矢理引っ張る。
「ほらほら、モタモタしてたら時間が勿体無いってー」
「わ、分かったから引っ張らないで」
そのまま2人はシンパシータウンへと戻り、街中を歩き始める。
「あの、どこに行くの?」
「そこの家だよ?」
黄泉が指差した先は赤レンガ造りの小さな民家。
黄泉が民家に躊躇なく入ろうとして祷理は心底焦る。
「か、勝手に入るの?」
「当たり前じゃん。入らなきゃ依頼受けられないでしょー」
「そ、そうだけど……」
「ほら、さっさと入るー。
それともそこで待ってるかい?」
黄泉の意地悪そうな目配せに祷理はヤケになる。
「もう……わたしも入る!」
「おし、行こー」
それから祷理は黄泉と並んで渋々民家に入り、
「お邪魔します……」と小声で呟いた。
民家に入った祷理は
中世の西洋的な内装を眺めて呆気に取られる。
「わあ……すごいね。
外もそうだけど、まるで中世ヨーロッパみたいっ」
「んふふ、スゴいっしょ。ほら、あの人に話し掛けてみ」
黄泉は堂々とお婆さんを指差す。
「ちょっと、人を指差しちゃダメだよ」
「ん? NPCだしいいじゃん別にー」
「確かにそうだけど……」
「ほら、早く近付いて話し掛けて」
「う、うん」
黄泉に急かされた祷理はお婆さんに近付き、
「あの、お婆さん?」と声を掛ける。
「ああ、うちの孫娘は一体
いつになったら帰ってくるのかしらねえ。
誰か様子を見てきてくれる方はいないかしらあ」
「えっ?」
「ほら、そこですかさず任せてって答えんの」
「あっ、うん!
お、おばあちゃん……わたしがお孫さんの様子を見てきますよ?」
答えるとお婆さんが祷理に顔を合わせる。
「おやおや、それは助かりますねえ。
孫娘はこの町から南の高原を奥にある
シナジー花畑へ花を摘みに行ってますよ。
どうかお願いしますねえ」
「は、はい。わたし達にお任せください!」
例え相手がNPCでも祷理は嬉しそうに返事を返していた。
「あはは、いのりん真面目ー」
「そ、そんなこと……」
「ふふん。それでさいのりん?」
「なあに?」
「ESDを確認してみなよ」
「あっ、うん」
祷理のESDの画面には、
『老婆の孫娘を探せ!』
というクエスト名がデーンと表示されていた。
「わあ――すごく楽しみっ」
「うんうん、それじゃ南のお花畑に行こっか」
「うんっ!」
それから二人は民家を出ると、
シンパシータウン南から平原に行き、
そのまま真南にあるシンパシー高原へ向かって
現実時間で3分ほど掛けて移動する。
すると辺り一面に
真っ赤なシナジー花で一面覆われた
シナジー花畑へと辿り着いた。
「うわあ、こんなに赤い花が咲いてるなんて……いい眺め!
ラベンダー畑を思い出すよ!」
「そうだね」
祷理は広大な花畑を眺めて感動していたが、
黄泉は別にどうでもいい感じ。
「うう、黄泉ちゃんは淡白だね……」
「そうかな、綺麗なのはわかるよー?」
「ううん、そうじゃなくて……。
あっ、なんかあっちに大きなハチの群れがいるよ?」
祷理が指差した方向には
この花畑に生息する
ミツバチの群れがそのまま大きくなった様な魔物3体が
花蜜を求めて飛び回っていた。
「あれはビースウォームって比較的おとなしい魔物よー。
基本的に襲ってくる事は無いけど1体でも手を出したり、
不用意に近付いたら群れで襲ってくるから気を付けて」
「うん、分かった」
「それとあいつのHPゲージがいのりんには見える?」
「えっと、黒い棒がハチの上に見えるけど……」
「そーだよね。
あれを1体でも倒したら棒が緑色に変わってゲージがわかるよ」
「あっ、なるほど」
「まー詳細な敵のHPはESD見ないと分からないけどね。
それと今はEXPを個別取得に設定してるから、
いのりんが全部攻撃するんだよ?」
「う、うん」
「あたしは回復役に徹するから安心してね」
祷裡は微笑んだ。
「うん、黄泉ちゃんありがとう」
「いいよん。
それとあの蜂全部レベル2だからちょっぴり強いんで
絶対に遠慮しちゃダメだよ。
ちょっとでも手抜いたらこっちが 蜂の養分だよー?」
「わ、分かった!」
祷理は気合いを込めて禍々しい大剣を強く握り締め、
勇気を出して真ん中にいるビースウォームに駆け付けた。
「てやあっ!」と気合いを込めて縦に斬り下ろした大剣は
ビースウォームの女王蜂に命中。
>ビースウォーム:HP?→0
>祷理:TEXP79→199
519の白い数字が、
倒れたビースウォームの上に表示される。
「残りは2体、蜂さんのゲージも分かるね!」
ビースウォームLV2の体力ゲージは
ESD上で500の値を示していた。
「おお、やるねえいのりん」
「えへへ!」
「でも残り2体がいのりんに向かって飛んで来てるよ?」
「えっ!?」
祷理が微笑んでるのも束の間、
2体のビースウォームが祷理を取り囲んで攻撃してくる。
「痛っ!」
祷理はビースウォーム2体から同時に突き刺し攻撃を食らった。
>祷理:HP1183→1018
83と82の赤い数字が痛がる祷裡の上に浮かぶ。
「いのりん、落ち着いて狙いを定めて!
こいつは大体4秒おきにしか攻撃してこないから!」
「うん!」
祷理は一呼吸おいて心を落ち着かせ、
左側にいるビースウォーム目掛け
「たあっ!」と勢い付けて大剣を叩き下ろした。
>ビースウォーム:HP500→270
「うう、さっきよりダメージ少ない……」
「大丈夫だよいのりん。
与えるダメージにムラがあるのも仕様だから
メゲずに攻撃を繰り返して」
「う、うん!」
ビースウォーム2匹から反撃の突き刺し攻撃。
>祷理:HP1018→988
祷理が反撃する隙を見付け、
「はあっ!」と気合を入れて同獲物に叩き込む。
>ビースウォーム:HP270→0
>祷理:TEXP199→248
「うんっ、あと一体!
でもさっきよりEXP少ないね……」
「EXPにボーナスが乗ったりするからね。
さっきの場合は一撃で倒したから多かったんだと思う」
「な、なるほど……痛っ!」
祷理達が話している間も
ビースウォームは突き刺しを繰り出す。
>祷理:HP988→861
「むう……とりゃあ!」
少し頭に来た祷理ががむしゃらに大剣を振り下ろすと、
残ったビースウォームに渾身の一撃を与える。
>祷裡:クリティカル!
>ビースウォーム:HP500→0
753の数字が派手に強調されながら、
ビースウォームの真上に浮かぶ。
その後ビースウォームは消え去った。
>祷理:TEXP248→327
「やった……なんとか倒したーっ!」
初めて魔物を倒した祷理は、
あまりの嬉しさに気分が高揚していた。
「うんうん、やったねいのりん。
ランク1でその威力、マジスゴいってばー」
「えへへ……わたしもビックリしてる」
「ふふっ、記念にこれあげるから今使ってみー」
祷理は黄泉から赤い液体の入った瓶を譲り受ける。
「ありがとう! でもこれ何だろう?」
液体を真近に見て疑問に思う。
「それはLOKでのみ使える薬でね。
ポーションって言うのさ」
「そうなんだ」
「そうだよ。
そんでそのポーションの正式名称はベーシックポーションって言って
体力を最大値の15%回復するんだ。
さあ使うのだ祷裡くんよー」
「あははっ、それでは遠慮なく頂きます」
祷理はコクコクと瓶に入った液体を飲む。
>祷理:HP961→1038
「わあ、本当に回復した! 味は全然無いけど……」
「まあ仕方ないね。
なんせアイテム屋で一番安いポーションだしー」
「あ、お店なんてあるんだ。ええと、お金は?」
「クエストクリアしたら報酬として貰えるよん」
「あっ、なるほど」
「うん。
じゃーサッサとクエストクリアして、
報酬もらって色々アイテム買おうよー。
ここって仮想世界なのに美味しい料理のレストランもあるんだよー?」
「そうなんだ! 早くクリアしなくちゃ……」
祷裡は思わず涎をこぼす。
「んだねー。
じゃあここを捜索して
おばあちゃんのお孫さんを見つけよー!」
「うん!」
俄然やる気のわいた祷理は、
黄泉と共に花畑の奥へと駆けて行く
○
「ただいま……」
歌織が自宅玄関で挨拶をすると、
奥から少しやつれた顔の母親が顔を出す。
「あら歌織、どうしたの? 元気なさそうだけど」
「うん、ちょっと疲れたの……」
歌織の顔はすっかりと青ざめていた。
「大丈夫かしら? 晩御飯は食べれそう?」
「ううん、お腹空いてないの。少しだけ横になりたいの」
「そう……それじゃあ気が向いたら食べるのよ?」
「そうするの」
歌織は気落ちしたまま、
2階にある自分の部屋へ向かう。
部屋に入ると私服姿のままベッドに入り、
ESDを取り出して額に当てた。
そのまま「リンク」と囁き、LOKに意識を移動させる。
○
渦巻く奇妙な形をした謎の草や、
熱帯性の植物があちこちに生える本大陸から離れた孤島。
そこは鳥獣や野獣が凶暴化した魔物達が住み暮らし、
孤島で暮らす先住民達の作物や先住民を襲う。
そんな過酷な環境だが観光がウリであり、
唯一の安全地帯の村――トロピクビレッジの宿屋に、
墨色の眠たそうな顔した丸い鳥のマジサポを連れた
漆黒のローブを羽織る魔法使い姿の棚田歌織が現れた。
「ふう……暑いけどいい空気なの。
現実は本当にゴミみたい。
やっぱりここが一番落ち着くの」
歌織はESDを操作し、リンカー登録リストを確認する。
「はあ……本当に2人とも消えてる。
ふん、使えない人達なの」
歌織は涙を溜めて肩を震わせたまま、腕で涙をグッと拭う。
「でも……もうどうでもいいの。
今までだってカオリはソロで頑張ってたし。
そう、結局はいつもの生活に戻るだけなの。
さあプーティン、一緒にノルマのEXP1万を稼ごう?」
マジサポに話しかけながら歌織は宿屋を出ると、
魔物の巣窟である孤島の中心へ歩いていった。
○
祷理と黄泉が花畑に入ってから数十分後、
『老婆の孫娘を探せ!』クエスト達成に必要な、
見ため幼い孫娘を見つける。
「あっ、あの子がおばあちゃんのお孫さんかな?」
「ちょっと待って、いのりん!」
焦る黄泉に強く腕を掴まれ、祷理は吃驚する。
「ど、どうかしたの?」
「あの子に話し掛けるとボスが出るよ。
だからしっかり準備しなきゃ」
「ボスって?」
「さっきの蜂よりもずっと強い魔物のことー」
「さっきの蜂さんより?」
「そうだよ、とにかくあたしも一緒に闘うから準備させて」
「うん、わかった」
それから黄泉はESDを操作し、
EXP分配方式を個別から団体に設定する。
その後、9つある四角い枠の1番目に
ポーションを20個ストックした。
その様子を隣で見ていた祷理は疑問を浮かべる。
「あの、どうして四角い枠にポーションを入れるの?」
「これはアイテムショートカット欄と言ってね。
ここに予めセットしておけば
無駄なく取り出して使えるんだー」
「そうなんだ」
便利な機能があるんだなと、祷裡は心の中で感嘆する。
「ごめんね、いのりん」
「えっ、どうしたの突然?」
「さっき黙ってたけど、
実はポーション系の回復アイテムって頭から浴びるだけで効果あるんだ」
「えっ……それって別に飲まなくてよかったってこと?」
「その通り!」
「あうっ、なんか恥ずかしい……」
祷裡は赤面する。
「まあそんな気にしないでよー。
あたしだって一番初めは飲んでたしー」
「うん、やっぱりそうするよね」
「やっちゃうよー。
因みに手持ち料理系の回復アイテムは食べないと回復しないから
戦闘中だと時間掛かって逆効果だよん。
覚えといてね」
「うん」
素直に頷く祷理に、
黄泉はベーシックポーション10個を手渡した。
「はい、これはいのりんの分」
「え、こんなに貰っていいの?」
「いいよー、けっこう安く買えたヤツだから。
100個2000Gだったからね!」
「あの、それは安いのかな?」
「うん、普通に買うと1個30Gだもん」
「あっ、それはお得……だね?」
祷理は少し頭を捻る。
「あはは、メッチャお得ー。
じゃーさっきのあたしみたいにアイテムセットしてみ」
「う、うん!」
祷理はESDを操作し、
ショートカット1にポーション10個ストックする。
「これで問題なさそう?」
「問題なーし。
それとアイテム使う時はアイコンをこうやってタップするか、
『ショートカット・ベーシックポーション』か
『ショートカット1』って言えば出てくるから」
黄泉の手に3個のポーションがポポンッと召喚される。
「うわあ、マジシャンみたい!」
「ふふん。
まあ使わずに戻す時は『キャンセル』って叫べば収まる」
黄泉の手からポーションが消えた。
「うーん、すごい便利だね……。
ショートカット・ベーシックポーションっ」
祷理がそう叫べばポーションが出て、
「キャンセルーっ」と叫べば消え去る。
そんな風に祷裡は楽しんでいた。
「すっごく楽しい……たまらない!」
「たまらないよねー。
でもそろそろ行こうか。
リアルの時間も勿体ないし」
ESDは現実世界時刻1820を表示していた。
その時刻を見て祷理はグッタリしてしまう。
「あうっ……ごめんなさい」
「いいよー。
それとこのクエスト自体は――
まーリアルで5分程で終わるし問題なし。
とにかく早く行こうねー」
「う、うん!」
祷理は時間の話を聞いて疑問を抱くが、
とにかく今はクエストに集中しようと心を決めて孫娘に近付いた。
「あ、あのお?」
恐る恐る祷理が話し掛けると、
花を摘んでいた孫娘が顔を上げる。
「あら、あなたは誰かしら?」
「えっと……祷理です」
祷理が名前を教えると、孫娘は微笑みながら頷く。
「イノリと仰るのですね、私はミントと申します。
どうぞよろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします!」
どう見ても小学生低学年にしか見えないミントが丁寧にお辞儀し、
釣られて祷理もお辞儀をし返す。
その様子を眺めていた黄泉は口元をニヤニヤさせていた。
「何かあったのでしょうか?」
「あっ、はい。
ミントさんのおばあちゃんがその……
ミントさんを心配をしていて、
それで……」
「あら、おばあちゃんたら相変わらず心配症なのね。
私はぜんぜん平気なのに」
「えへへ」
祷理はどう答えを返せばいいか分からず苦笑いする。
ミントはシナジー花でいっぱいの籠を見て
首を1回縦に振った。
「そうですね。
お花もカゴいっぱいですし、そろそろ帰ろうかしら」
「わたしもそれがいいと思います」
「よいしょっ」
ミントが腰を上げて歩き出そうとしたその瞬間、
彼女の背中に花畑のボスである
馬鹿でかいビースウォームが忽然と姿を現す。
ボスビースウォームはミント目掛けて飛んでいく。
「ミントさん危ない!」
「えっ、どうしたのイノリ?」
ミントは何がなんだか分からないのか、
その場を動かずポカンとしていた。
「っ……ダメ!」
無防備なミントの背中に祷理は急いで移動すると、
向かってくるビースウォームに禍々しい大剣を向けた。
「よしっ、やっとこさボスとのバトル!
あたしの雷電もビリビリ言いまくってるよー!」
この時を待ってましたと言わんばかりに黄泉は祷理の隣に駆け付け、
高圧電流の流れる茨の鞭のEW――雷電を構えた。
「よ、黄泉ちゃん?」
「ふふん、気を付けていのりん。
こいつ地味に強いから」
「うんっ、分かったよ!
ミントさんは下がっていてください!」
「は、はい」
隣に黄泉がいる事で安心した祷裡は、
ミントを退避させてボスと戦闘を始めた。
「とりゃあー」と黄泉は少しだけ声を張り上げ、
ビースウォームに雷電を素早く2回振り回した。
>ボスビー:HP5000→4686
祷理も負けじと「やああっ!」と大声を張り上げ、
馬鹿でかい女王蜂を狙って大剣を思いきり振り下ろした。
>ボスビー:HP4686→4336
しかし働き蜂数匹が盾となり、ダメージが半減する。
「ふう……ボスだけゲージが表示されるのは分かったけど、
わたしの攻撃は効いてるのかな?」
「うん、問題なし。
1ターンを2人で10%以上削ってるしすぐに倒せそー」
ふたりが話している間に、
働き蜂達が大きい針で祷裡を突き刺す。
「痛ーいっ!」
>祷理:HP1183→864
「うう、小さいハチさんより痛みが激しい……」
「大丈夫だっていのりん。
リアルの痛みに比べたら全然平気だからさー……多分」
祷理は脇腹を刺された時の事を思い出してゾッとする。
「ううっ、確かにその通りだけど……。
でも痛いものは痛いよう!」
黄泉は二度目の攻撃を行う。
>ボスビー:HP4336→4066
続けて祷理の斬撃。
>ボスビー:HP4066→3882
「あはは、まあ落ち着きなよ――稲妻落としー!」
>黄泉:稲妻落としLV1
>黄泉:MP606→586
>ボスビー:HP3882→3381
>黄泉:攻撃不能 4s
「――黄泉ちゃんはカッコいい技が使えてズルい!」
祷理は力強くボスに振り下ろす。
>ボスビー:HP3381→2974
「でもいのりんの素の攻撃力はめっちゃ高いしイイじゃーん」
ボスの突き刺し攻撃。
>祷理:HP864→590
「痛いっ、だから刺されるの痛い!
この鎧は飾りなの?」
「うん、ただのオシャレだし痛みは気合で何とかだね。
ショートカット1!」
黄泉はベーシックポーションを召喚し、
祷理に液体を振り撒いた。
>祷理:HP590→767
「あ、ありがと黄泉ちゃん!」
お礼を言いつつ祷理はボスを斬りつける。
>祷裡:クリティカル!
>ボスビー:HP2974→2281
「大丈夫よん。
どーせスキル使った反動で4秒くらい攻撃できないし」
「そ、そうだったんだ」
祷理の斬撃。
>ボスビー:HP2281→1990
「しかもボスは普通の魔物より攻撃速度が遅いから
安心して攻撃を繰り出せるしー」
黄泉の2回攻撃。
>ボスビー:HP1990→1770
「あっ、黄泉ちゃんの方にハチさん来る!」
「おわあっ」
ターゲットが黄泉に移り、そのまま突き刺し攻撃。
「うぎゃっ」
>黄泉:HP972→571
「うっはあ……やっぱ痛い」
「ほら痛いでしょう?
そ、そんな事よりショートカット・ベーシックポーション!」
祷理はポーションの液体を黄泉に振り撒いた。
>黄泉:HP517→717
続けてボスに斬撃。
>ボスビー:HP1770→1462
「おおう、いのりんもだんだん
システムを理解してきてるじゃーん」
黄泉の2回攻撃。
>ボスビー:HP1462→1086
「えっ、そうなのかな。
ただ攻撃したりアイテムを使ったりしてるだけなんだけど」
「んーん、いい感じに攻撃と回復の両立してる」
祷理の斬撃。
>ボスビー:HP1086→780
「うーん、よく分からないけど……とにかく楽しいね!」
黄泉の2回攻撃。
>ボスビー:HP780→558
「そうだね。
ちょっと不便なシステムだけどなんだかんだで楽しいかもねー」
「楽しいよ――痛っ!」
ボスの突き刺し攻撃。
>祷理:HP767→596
「うう、またわたしに攻撃来てる……」
「あははー。もしかしたらいのりん持ち前の不幸のせいじゃない?」
「そんなひどい!」
2人は戦闘に対する緊張感を持たず、
ただ純粋にゲームとして楽しんでいた。
○