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EP02 断罪者、新生

 地獄に建つ掘っ建て小屋。

 そこで閻魔は銀髪の少女と会話していた。


「うーむ、どうやら666(祷理)は獲物を取られた子とリンクしたようだね」

「そうね、でもそれがどうだと言うのかしら。

リンクなんて結局EXP(断罪度)を横取りされるだけですのに」

「ははは、確かにそうだね。

でも設定すればEXPを分配できるし

少しのボーナスもプラスされるんだけどな」

「ふうん、興味ないから知らなかったですわ」

「残念だなあ、仲間うちでわいわい()るのが楽しいのに」

「ふん……。

ワタクシそう言うのは特に反吐が出るほど嫌いなの」


 少女は不愉快な目を閻魔に向ける。


「あははっ!

それは置いといてリンカーは多いに越したことはない。

危険な罪人だって山ほどいるしね」


 少女は話をつまらなそうに聞いていた。


「残念だけどワタクシ、ぬるい仲間なんて信用しませんから」

「あっはっは!

確かに高ランクな君なら仲間なんていらないかもね。

裏切るリスクだって伴うわけだし」

「そういうことですわ」


 少女はESDを強く握る。


「もう帰るのかい?」

「ええ、用事も済ませたし

今日のノルマを果たしたいですから」


 少女のESDにはCL(罪人リスト)が起動しており、

処刑する対象者のナンバーと顔写真、

その他諸々の情報が表示されていた。


「はは、なんにせよお仕事ご苦労様。

君たち断罪者のおかげで私の仕事が捗るよ」


 閻魔はニッコリと微笑んだ。


「ふん、別にあなたのためじゃありませんわ」


 少女は悪態をつきながら、その場からパッと姿を消した。


「相変わらずクールぶってるお嬢様だねえ。

まあ、そこん所も人間臭くて大好きなんだけどね」


 閻魔は笑顔を絶やさず

祷理の映るパソコンのディスプレイを楽しそうに眺めていた。



「ただいまー」

「おかえり、黄泉」


 祷理を連れた黄泉が

府中市内のとあるマンション4階で卯ノ花家のドアを開けると、

中から爽やかな顔の青年が姿を現す。


「少し遅かったな、ちょっと心配したぞ?」

「あはは、ごめんね兄ちゃん」

「まあいいけど。

それより黄泉の後ろにいる子は友達かい?」


 黄泉兄は、黄泉の背中でおどおどする祷理を見て目を丸くする。


「うん、でも人見知りな子だから気にしないであげてよ」

「わかってるって。

それにしても黄泉が友達連れてくるなんて珍しいなあ」

「あ、あの、その……お邪魔します!」


 祷裡父以外の男性と初めてマトモに会話した祷理は

緊張のあまりカクカクしていた。


「あはは、そんな固くならないで大丈夫だよ。

別に君をとって食べたりなんてしないから」


 それでも黄泉兄は嫌な顔一つせず、

むしろ笑顔を振り撒いていた。


「まあホントに食おうとしたらあたしが許さんけどね!」

「あう……」

「黄泉は手厳しいなあ。

ウチには何もないけど、とにかくあがってよ」

「は、はい……」

「じゃあ兄ちゃんはさっさと部屋に戻る。

いのりんが落ち着けないでしょ?」


 言いながら黄泉はシッシッと兄を追い払う。


「あはは、分かってるって黄泉。それじゃあね」


 とにかく黄泉兄は笑顔を絶やさず自分の部屋へ戻っていった。


 黄泉兄が完全にいなくなったのを確認すると

祷理は脇腹の血痕を隠し通せた事にホッとひと息吐く。


「はあ……お兄さんに見られなくてよかったです」

「んふふ、とにかくこのままあたしの部屋について来なよ?」

「うん」


 祷理は黄泉の後ろを着いていった。



 黄泉の部屋に入って緊張の糸が切れた祷理は

床にぺたりと座り込んでしまう。


「ふああ……疲れました」

「あっ。少し休む前にさ、ちょっと上の服脱いでよ?」

「あ、うん。でも……あまり見ないで欲しいです」

「何言ってんの、あたし達女の子同士っしょ?」

「それはそう……ですけど」

「とにかく脱ぎなってー」

「あっ!」


 痺れを切らして黄泉は祷理の上着を無理矢理脱がした。

 それで祷理の下着姿が露出されてしまう。


「おおー、服の上からでも感じてたけど

この大きさ……ちっと予想外」

「だ、だから見ないでっ」


 祷理は耳まで真っ赤に染め、両腕で自分の胸元を覆い隠す。

 だが、それが逆に深い谷間を強調しまう。


「ほおほお、これはいいモノ見れた感じだわあ」

「やだ……っ。そんな目で……見ないでよ!」


 祷理は堪らずブワッと涙を溢れさせた。


「ああメンゴメンゴ、ちっとからかい過ぎた。

ホントごめん、反省してっからそんな泣かないでってば」

「ぐす……だっ、だって黄泉さんが……ひゃっ!」


 ぼろぼろと泣く祷理に

黄泉は洋服タンスから取り出したバスタオルをフワリと被せてあげた。


「ほい、しばらくそれで隠しててね」

「あ、ありがとう……ございます」

「んじゃ、あたしはあっちの部屋から服持ってくるから

いのりんはゆっくり休んでてよ」

「うん……」


 祷理を1人残して黄泉は部屋を出ていく。

 その間に祷理は体にバスタオルを巻き、

部屋中をまじまじと眺めていた。


「黄泉さんの部屋、とても綺麗に片付いてるな」


 黄泉の部屋にはコレといった目立つものはない。

 あるのは綺麗に片付いた勉強机と参考書の並んだ本棚。

 それとフランスベッドぐらい。


「あ、机の上に写真立てが……」


 祷理はいそいそと立ち上がって机に寄り、写真立てを手に取る。


「これ、黄泉さんがお兄さんに

とても楽しそうに抱き付いてる写真だ。

あは、なんだかかわいいな」


 写真の黄泉は今と違って目が生き生きとしており、

とても元気な印象を祷理に与えていた。


「それに後ろには黄泉さんのご両親、なのかな?」


 祷理が写真で推測しているとカチャリと音を鳴らしてドアが開く。

 その先には小さめな洋服を持ってきた黄泉がいた。


「いのりーん、替えの洋服持って来たよー……おっ?」

「あ、えっと、これはその……」

「あーその写真が気になったんだ」


 勝手に写真立てを見て怒られると思っていた祷理は、

何も気にしていない黄泉にホッとする。


「うん、なんだかこの写真の黄泉さんは

その……とても元気ハツラツでしたから」

「そだね、この時はクソ無邪気なお子ちゃまだったなー」

「今は違うの?」

「いやあ、今はこの通りというかさ。

イヤなもの見てからおかしくなったのかな?」

「イヤなもの?」

「気が向いたらいつか話したげる」

「あ、うん……」

「それよりもさ、とりあえずこれ着なよ?」

「あっ、ありがとう」


 祷理は黄泉から洋服を受け取るとすぐに着始めた。

 その上着は可愛らしいものだが小さく、

祷理の胸元をキツく強調してしまう。


「ちょ、ちょっと苦しいな……」

「コラ、ワガママ言うなっつーの」

「は、はいっ、ごめんなさい!」


 祷理は勢いよく頭を下げた。


「いや、まーそこまで一生懸命頭下げることないけどさー」

「あう……」

「じゃあさ、いのりんが帰る前に大切な事を教えたげる」

「断罪者の……こと?」

「そそ、いのりんに知っておいて欲しい事が山ほどあるんだ。

なんせ命に関わるかもだからねー」

「命に……関わる?」


 祷理の体が恐怖で震え始める。


「そうだよ。

本当はいのりんが家に帰ってから

ESDでゆっくり話そうと思ったんだけど

いい機会だし早めに教えたげる!」

「わかりました。

でもその前にお家に連絡しても……いいですか?」

「うん、いいよ。ESDだと普通の電話には繋がらないから

そこの電話を使ってよ」


 黄泉は机の上にある子機を指差す。


「あ、それでは借ります……」

「とぞー」


 祷理は子機を取ってその場で自宅に通話した。


『もしもし、鬼頭ですけど』


 すると祷理父が電話に出てくる。


「もしもし、パパ?」

『おっ、その声は祷理かあ!』

「うん、ちょっとお友達のところに用事があってね。

帰るの遅れそうだから連絡しなくちゃと思って」

『おお、そっかそっか~!』


 祷理父は祷理に友達ができた事を大変喜んでいた。


『んで、どのくらい掛かりそうだ?

なんなら後で電話くれたら迎えに行くぞ!』

「ううん……大丈夫だから。

えと、それだけなの。

いつもありがとね……パパ」

『気にすんなって、祷理は大切な娘じゃないか!』

「あはは……それじゃあね」


 祷理は照れ臭そうに電話を切った。


「へえ、陽気そうなパパさんだねえ。

というか声でかいね。

こっちまで丸聞こえだよー」

「ご、ごめんなさい……うるさいパパで」

「いいよ、あたしそういうの大好きだしー」

「う、うん……わたしもそう思います」

「ふふっ、じゃー断罪者のシステムで一番大切なこと教えたげる」

「お願いします」


 黄泉はズボンからESDを取り出した。


「まずコレについてだけどさ。

いのりんはどこで拾ったの?」

「わたしは……」


 祷理も手に持っているESDをまじまじと眺める。


「先ほどの公園で拾いました」

「そっかあ。やっぱそんな感じなのね」

「黄泉さんはどこで?」

「うん、あたしのはポストに入ってた」


 祷理は目を丸くしてしまう。


「そんなこともあるんですね」

「まあ出どころはどっちも不明だね」

「あの……」

「ん、どったのいのりん?」


 モジモジしながら何かを呟く祷理を見て、黄泉は首を傾げる。


「変なこと言ってしまうかもしれませんけど……

聞いてくれますか?」

「うん、もちろん聞くよ」

「あのね、このESDを知ってる閻魔と名乗る方にですね……。

恐い男の人に刺されて死んじゃった時に出会ったの」

「え、なにそれ?」


 黄泉にはそんな経験がなく、呆気に取られていた。


「あっ、や、やっぱりこんな話……信じてもらえませんよね?」

「ううん、信じるから続き話してみ」

「あ、はい。

えっと、それでえんまさんはわたしに

ESDの使い方を少しだけ教えてくれました」

「ふうん……確かになんか怪しい感じだね」

「確かに怪しいかも……です」

「そうだね。

まーこれ以上憶測で話すのもなんだし話を続けるよー」

「うん、お願いします」

「まず一番に覚えて欲しいのはさ。

このSOEのリストに載った罪人以外の奴に

EWを使って絶対危害を加えないこと」

「EWって……?」

「ああごめん、エクスキューショナルウェポンの略だよ。

いのりんが使ってるあのデカい剣とかのことね」

「なるほど……ですね」


 祷理は頭の中にしっかりと単語を叩き込む。


「でさ、もしも危害を加えた場合は

罪人リストに載るみたいなんだ」

「あの……載った場合はどうなるの……ですか?」


 イヤな予感がして、祷理の顔が青白くなってくる。


「罪人と同じく処刑される対象になるんだってさ」

「そ、そんなことが……」

「ああ、やっぱ怖いよね。

いのりんめっちゃ震えてるもん」

「そんなの当たり前……です」

「でも正当防衛……んっと、

あたしやいのりんに殺意が向けられたり、

リンカー以外の断罪者に処刑の妨害をされそうな時は

EWを使って抵抗してもいいことになってるみたい。

そんなことがESDの規約に書いてたよ?」

「規約……ですか」

「そうだよ。

エクスキューショナルアグリメントってアプリがそれね。

んっと、EAって文字のアイコンがあるから

後で絶対に読んどいてね」

「あっ、うん。わかりました……」

「そんじゃ次だけど、

EWを形成するのも実はタダじゃないんだよね」

「どういうことでしょうか?」

「えっとね、まずはESDの画面を右に2回ぐらいフリックしてよ」

「フリック?」


 祷理にはその意味が分からなかった。


「画面に指を触れたまま右にさっと動かすの」

「えと、こうかな?」


 祷理が言われた通りに右に2回フリックすると、

ESDに祷理のステータス画面が左からサッと表示された。


「あ、ゲージと数値がたくさん……出てきました」

「そそ、それがいのりんのステータスだよ」


 一番上にはランクと総合EXPの値と現EXPの値。

 その下にゲージと数字が表示されて上から疲労度、魔力。

 さらにその下には筋力|(STR)、敏捷力|(AGI)、

器用さ|(DEX)、知性|(INT)、

精神力|(MND)、運|(LUK)の数値が表示されていた。


「わたしの疲労度は26って表示されてますけど……

疲労度の上限はあるんですか?」

「詳しくは分からないけど

マニュアル見ると疲労度は100が限界らしくてね」

「マニュアルもあるんですか?」

「もちろんよ。

とにかく100になると

気絶しちゃうみたいだから気を付けてねー」

「は、はい。気をつけます」


 ズーンと重苦しく感じた祷理の疲労度が2上がってしまう。


「次に魔力だけど

これはランクやINT、それにMNDが上がる度に

最大値が増えるから覚えといて」

「は、はい!」


 黄泉は自分のESDでリンカーを起動し、ウィンドウを眺める。


「因みにいのりんの魔力最大値は312しか無いね。

そんで現在値は228と」

「は、はあ……」


 言われても祷理にはサッパリである。


「んとね、この魔力がある意味一番重要でさ。

あたしが適当に導き出した計算式だと

この世界にEWを出すには魔力最大値の25%必要みたい。

そんで出してから1分経つ毎に2%減ってくの」

「そんなに減るん……ですか?」

「ゲージ見ながら

EW出したらそれだけ減ったんで間違いないよー」

「つまり……25%を切ればEWが出せないので

処刑自体できなくなる……ということなんですね?」

「そうだよお、だから魔力の消費には気を付けないとね。

まあ自然に回復するから割と大丈夫だけど」


 言い方がとても軽い黄泉に対して祷理は不安を抱く。


「な、なんだか怖いです」

「まー大丈夫。そこでこれをーー」


 黄泉はESDを操作してアイテムリストを開き、

プリンを手元に出した。


「ジャーン、魔菓子プリンLV2だよー」

「あの、これはどうしたんですか?」

「罪人をEWで倒すと手に入るやつでね。

あたし達の魔力を即効で回復したり、他にもボーナス貰えるんだ」


 言いながら黄泉は祷理にプリンを差し出した。


「はい、これあげるから食べてみ」

「あの……いいのですか?」

「気にしないでって。

元々祷理が手に入れるハズのおやつなんだから」

「そ、それって……」


 祷理の額に一本の嫌な汗が垂れる。


「うん、あの男|《ボンタンの仇》を倒した時に手に入れたヤツだよ」

「そうなんだ……」


 予想通りの答えに祷理は複雑な気持ちを抱いてしまう。


「まあとにかく食べてみ?

ご丁寧にお皿とスプーン付きだからさー」

「う、うん……」


 なかば強引にプリンとスプーンを手渡された祷理は

おそるおそるスプーンで口に頬張る。

 すると祷理の舌にプリンの絶妙な味が広がって

疲れもすっかり吹き飛んでしまう。


「あっ、これ甘くてふんわりして……とっても美味しいっ!」


 祷理はご満悦ながら、ぎこちない笑顔だった。


「あはは、じゃあゲージを確認してみてよ?」


 祷理がESDの画面を確認すると疲労度が23下がり、

現在魔力も最大値まで回復して、

EXPが0から120に増えていた。

 それを見た祷理の興奮は覚めやらない。


「すごい、何かたくさん上がりましたっ」

「それが魔菓子の効果だよ、スゴいっしょ?」

「うん、本当にすごい……ですね!」

「あっはっは。

でね、リンクボーナスって言えばいいのかな。

どうやらリンカーの数が多いほど

魔菓子の効果も上がるみたい」

「それはどういうことでしょうか?」

「まだ試したことないから知らないけど

魔菓子をリンカー同士で分けて食べると効果が上がるみたい。

ただし上昇効果は5人が限度なんだってさ」

「あの、もしかして黄泉さんとさっきのプリンを

分けて食べたほうが良かったのではないでしょうか?」


 黄泉はしまった言わんばかりに両眉毛が曲がる。


「あー……まあ今回はいいさ!

いのりんにわかりやすく説明したかったしーっ!」

「そ、そうですよねっ」

「うんうん、そうだよー!」

「あのっ、黄泉さんのくれたプリンは

とっても最高の味……でしたっ」

「当たり前さー!」


 黄泉はだいぶヤケになって叫ぶが

どうにか冷静さを取り戻して続ける。


「コホン、話を戻すね」

「あっ、お願いします」

「魔菓子にはレベルが存在してね。

罪人のランクによって上がるんだって」

「そうなんですね」

「んでさ。

おやつとは関係ないけど魔力の自然回復もあるんだ。

さっきのEWの時に話したヤツね」

「はい、聞きました。

あの、自然回復とは一体なんなのでしょうか?」

「なんかね、5分毎に魔力が回復するみたい。

EW出してる時は回復しないけどさ」

「そうなんですね」

「うん。まあ回復量は微妙だけど

おやつ節約のために知っといた方がいいよ?」

「うん、わかりました」


 祷理はこくこくと首を縦に振る。


「じゃあ、次で最後だけね」

「お、お願いします……」


 黄泉の深刻そうな顔を見て、祷理は緊張する。


「1週間に1人は確実に罪人を処刑すること」

「やっぱり、そうなのですね……」

「ありゃー知ってた?」

「いえ、そういうわけではないんですけど

なんとなく察してました」

「おお、流石はいのりんだねー」

「でも……わたしに罪人を処刑するなんてとても」


 祷理は自分で傷付けた厳つい男の血の感触を思い出して

辛そうに俯いてしまう。


「うーん、そっか。

それならもういのりんとは一緒にいられなくなるね」

「えっ、どういうこと……ですか?」

「規約にもあるけどさ。

1週間のうちに罪人を1人も処刑できなかった場合、

ESD所持資格は自動消滅し、

断罪者としての活動はできなくなり、

断罪者に関する記憶の一切が消えて亡くなる……って書いてあるんだわー」

「そ、そんな……っ」

「だからそのノルマが達成できない場合、

あたしといのりんは赤の他人になるワケ。

そんで規約には

ESDを所持しない者に

断罪者に関する情報の一切を漏洩してはならない。

って書いてあるし」

「そんなイヤだよ……。

せっかく……お友達になれたのに」


 祷理の目に再び涙が溜まる。


「それはあたしも同じだよ。

でもいのりんが処刑したくないなら

あたしには勧められないよ」

「で、でも……」

「とにかくさ、2日は待つから答えを決めといて。

絶対にいのりんが後悔しないようにね」

「う、うん……」

「ホントにちゃんと考えてね。

いのりんはまだ誰も手にかけてない普通の女の子なんだし」


 黄泉は俯き気味にそう言った。


「あの……黄泉さんはどうして

罪人を処刑しようと思ったんですか?」

「そうねー、好き勝手してる

罪人どもが憎くて仕方がないからだね。

中でも平穏に暮らす人達を無下にする奴なんか特にさっ」


 黄泉の死んだ目がわずかにギラつく。


「そう……なんですね」

「うん、とにかく今日はもうヤメヤメ。

話し過ぎても覚えられないし」

「わかりました」

「じゃー、いのりんをお家まで送ったげる」

「そ、そんな悪いです」

「いーのいーの。

なんせあたしは強いし基本的にヒマだから!」


 黄泉はESDを祷理にデーンと見せ付ける。

 そこにはランク4と、総合EXP2071が表示されていた。


「うん、とても頼もしい……です!」

「あはは、もっと頼ってねー」

「けど、最後の一言は余計かもです」

「手厳しーっ。けどその通りだわー」


 黄泉が自分に対して面白おかしく笑う声が部屋中を響く。


 そんな黄泉とは違い、

祷理は心を和やかにして微かな笑顔を灯していた。


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