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第22話:若いってのも悪くない・4




「うあ〜〜〜!」



「悠斗ι今日14回目」



「え〜?あ〜。うん。」



こんな会話を初めて、かれこれ一週間。テストも無事終わった。


だがあの日から…俺はモヤモヤした自分と必死で戦っていた。


お陰様で、残りのテスト期間中、周りの会話に苛立つ余裕もない日々でしたよ。はい。


この一週間、俺の頭の中では、あの麗奈と帰った日の、麗奈の表情が変わったところから自分がとった行動、そしてそれに対する麗奈の反応の映像と感覚とが、エンドレスにグルグルと巡っていた。



そして、あの麗奈の表情の意味はだとか、なぜ自分はそんな行動を起こしたのかだとか…。そして何より、あの握り返された手の意味は…。


だが何度考えても行き着く所は同じで、まぁつまり…わかりませんι



てな訳で、行き詰まるとやっぱり…。


「あう〜い〜!」


と声を出したくなるのは…俺だけなんだろうかι



「悠斗ι15回目ι」


と、俺が声をあげるとすかさず律儀に数えて下さってる回数を告げる小沢。


「え〜?あ〜。うん。」

「…ダメだこりゃι」


今は体育の授業中…って言っても、今日は体育の教科担任が休みらしく、急遽自習。


ただ体育の自習なんて、ボール蹴ってる奴もいれば、投げ合ってる奴もいる。ふざけあってる奴もいれば、ボーっと座り込んでる奴もいる訳ですがι




勿論俺は一番最後の部類なのだが。



俺は広いグランドで遊び回っている奴らを、『元気だなぁ〜。』なんて眺めながら、グランドの一番端にある花壇に腰掛け、ボーっとしていた。その隣には、小沢が少し呆れたような、どこか疲れたような表情を浮かべて、チラチラとこちらの様子を伺いながら座っていた。




すると、小沢が静かな口調と、呆れてますと言わんばかりの声色で聞いてきた。


「なぁ、悠斗一体何があった訳?ここ最近ずっとそんなじゃんか…。」


「え?あ〜。うん。」


俺はその質問も、右から左に綺麗に流れていき、全くもって理解はしていなかった。が、なんとなく質問されたことを感じ、反射的に応答の声を発した。



俺の返事を聞いた小沢は、先程の声色に不機嫌さがプラスされた声で言った。


「悠斗ιその返事も何度目だよιっとに…ι」


「そっちは数えてないんだ。」


「って意識あるのか無いのかどっちかにしろよ!」



小沢は俺が久々に突っ込みを入れたことに、驚きながら言ってきた。



んなこと言ったって…ι

四六時中頭が寝起きのように働かない俺に、そんなにガミガミと言わないで頂きたいι



と、小沢はまた俺の意識がどこかに行っていると判断したのか、完全に呆れた表情で口を開いた。



「っとにιそんなんだからクラスのマドンナが心配すんだよι」


「……はぁ?」


俺はさっきと同じ様なテンションで言った。


マドンナ…?


マドンナねぇ…?



「佐伯さんだよιさ・え・き!」



あぁ、佐伯さんね…。


「小沢も佐伯さん好きなわけ?」


俺が全くもって平坦なテンションでそう問いかけると、小沢は噛みつかんばかりに反抗してきた。


「んな分けねぇだろ?!てか!どっからどうなってそうなんだよ?!」


うんι実に分かりにくい日本語ι


「別に…聞いてみただけだよ…ι」


俺がそう返すと、小沢は『っとにι』とかなんとか言ってため息をついた。


そして少しの間を置いて話し出した。



「いや…なんか…悠斗がそうなって一週間位だろ?この一週間佐伯さん、毎日のように『悠斗君まだ調子悪いの?何かあったの?』って聞いてくんだよ。」


「佐伯さんが…?」


俺はただそうたずねた。


「そう。佐伯さんが。」


小沢もただそうとだけ答えた。



佐伯さんがねぇ…。


小沢にそう言われても、俺には特に正気を取り戻すきっかけにもならず、結局は右から左状態。



すると、俺のその様子を感じ取ったのか、小沢が溜め息混じりに言葉を発した。


「…ダメだこりゃ…ι」


そして、それとほぼ同時になった授業終了を告げるチャイムが鳴り、それを待っていたかのようにぞろぞろと教室に戻っていくヤツらに続いて、俺達もゆっくり立ち上がり、それに続いていった。




ーーーーーーーー


「はい,じゃぁ今日はおしまい!さようなら〜♪」


担任のこの声と同時に、みんな一斉に立ち上がり、ガヤつきながら教室から出て行く。


今日も無事1日が終わり、授業中とはうって変わり、それぞれが爽快な笑顔を浮かべて家路についていった。



そんな中でも俺の心は相変わらず上の空で、結局またどうしようもないことをただ永遠に考えを巡らせていた。



はぁ…ι

マジでやってらんねぇι



そして相変わらずのテンションのまま、俺と真逆のテンションのヤツらの後ろに続き、自分の脚を必死に動かし、教室を後にした。



いつ転がり落ちてもおかしくないような足取りで、なんとか階段を下り、昇降口のすぐ前までたどり着いた…そのときだった。


「悠斗〜!」


その突然さと、叫びに近いような声の大きさに驚き、後ろを振り返った瞬間、それと同時に俺の視界はガクンと下がり、俺はただ呆然とした。


「ごめん…そんな強かった…?」


強く床に打ちつけたことで、徐々に感じる腰の鈍い痛みに顔をしかめていると、俺の目線に合わせるためにしゃがみ込んだ女の人が、俺の表情を伺うように顔を覗き込んだ。



「……麗奈…?」


その光景があの日の情景にあまりにリンクしすぎていて、俺は思わずその名を口にしていた。



「悠斗…?」


俺の名前を呼ぶその声に、段々と覚醒してきた自分の頭が、やっとその人物を正しく認識し始めた。


「あ…あぁ、ゆうちゃんかι」



俺が正気に戻ったのを理解したゆうちゃんは、少し安心したような笑顔を浮べた。



「よかったぁι派手に転けたがらびっくりしたよ〜♪」



誰が転ばせたんだよι


心の声を悟られまいとしながら、俺も笑顔で答えた。


「いやぁι考え事してたらついね…。」



そう言うと、ゆうちゃんは至って普通に訪ねてきた。


「考えごと……おやつは何にしようかって?」


「いやι俺一応高校一年生ッスι」


「えぇ〜?違うの?!」


いやιそんな驚く事じゃなぃだろうι



俺が完全に呆れて居ると、ゆうちゃんがまた閃いたような声をあげた。



「あ〜♪じゃぁ麗奈の事だ?」


「うっっ……ι」


俺はその問いかけに思わず声を失った。



んっとにこの人は…ι

ワザとボケてるのか?


さっきまでボケてた癖に…いきなり核心突いて来やがったよι



俺の心の声を知ってか知らずか、ゆうちゃんは更に話しを進めていく。



「で…何があったの?」


「いゃ…あのぉ…。」


ってちょっと待った!!


「てか何で分かったの?」


ついゆうちゃんのペースに流されながらも、俺はやっと切り返しに成功した。



すると、ゆうちゃんは急に表情を変えて、どこか不安定さを持ったような表情を浮かべた。



「やっぱり悠斗だったか…」


「え?」


俺はその言葉の意味が分からず、頭の上に疑問符を浮かべた。



「いや…なんか麗奈も最近おかしいから、なんとなぁ〜く悠斗関連かなぁ〜?ってね…ま、女の勘ってやつ?(笑”」


「麗奈が…?」




俺はその名前が出でも、ゆうちゃんの言っている意味がよく飲み込めないでいた。



するとゆうちゃんは、俺の思いを知ってか知らずか、少し口角を優しく上げて、こっちこっちと手招きした。


「ま、ともかく…ちょっとついておいで。」


そう言うと、ゆうちゃんはさっさと歩き出した。



「え?あ…ちょッ」


俺はその急な行動に慌てながらも、とりあえずゆうちゃんの背中を追いかけた。






「どこまで行く気〜?ι…ってぅわ!」



俺が声をかけると、前を歩いていた背中が急にピタリと歩みを止めたため、俺は思わずその背中に体当たりしてしまいそうになり、つい声をあげてしまった。



だが、当の本人は何もなかったかのように俺を振り返ると、右腕を真横に伸ばし、ピシッとそちらを指差した。



……はい?ι



その指先には…一本のさくらの木。




その木は、学校の中庭にあって、いかにも樹齢の長いと言わんばかりの貫禄を持っていた。


……ん?



俺は顔全体で疑問符を表現した様な表情を浮かべて見せた。


全く意味が分からないι


さくらの木…?



花を咲かす気配など、当たり前だが全く無いさくらの木は、ただ黙って俺達を見下ろしている。



そして、今黙ってそれを指差している彼女も、全く口を開く気がないらしい。



うぅ…ん、困ったι


「ゆうちゃん?このさくらに…何かあるの?」


「……。」


……ι聞こえてんか?


「ゆうちゃん…?」


俺は先程より少しだけ大きな声で呼びかけた。



「彼女は今、迷っています。」


「え…?」


だんまりだった彼女は、今度は何の前触れもなく話し出した。


「さくらはまだ咲かない。春まであとどれくらいなのかも分かりません。来るのかどうかだって分かりません。」


そう言って一息つくと、ゆうちゃんはまた続けた。


「彼女が迷っている限り、彼女自身が道を見つけられない限り、彼女のさくらはまだ咲きません。」



そう話し終えると、ゆうちゃんはそっと腕を下ろし、ニコッと笑って見せた。



「ま、そういうことだから♪じゃ!」


「ぅえ〜?!」


俺に止める間を全く与えないで、何かの物語を語り終えた彼女は、その意味を説明する事もなく、颯爽と俺の前から消えていった。



「…あの…ι」


俺のその問いかけは、誰の耳に届くこともなく、少し冷たい秋の風に溶け込んでいった。










一体あの人は、俺の悩みを取り除こうとしたのか…。



はたまた、もっと深めて楽しみたかったのか…。



その真相は彼女だけが握っています。




ただ…俺の悩みは…。



間違いなく後者の方に進んでいっている。


今日この頃です。





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