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第19話:若いってのも悪くない・1




なんだかんだと振り回された初めての文化祭も終わり、季節は10月も半ば。


最近じゃ、空気もすっかり冷たくなり、朝家を出るのも徐々に億劫になりつつある。


しかし、そうさせているのはきっと、気候の変化のせいだけではないのだろう。


学生の使命というのか…まぁ、本業な訳ですがι

この時期避けては通れない…そう、中間テストの時期な訳ですよι



そして俺は、この朝の寒さと、テストというダブルの攻撃で、いつもより重い足を無理やりに動かすような感覚で、駅から学校へと向かい一人で歩いていた。



周りの自分と同じ制服に身を包んだ奴らの話を盗み聞いても、やはり話題はなんの面白みもないテストのこと。


最近ではそんな会話を勝手に盗み聞いては、大きな溜め息をつき、更に足取りを重くしていく。

これが俺の登校時の日課のようになりつつあった。



そんな中、やっとの思いで学校にたどり着くと、相変わらずの周囲の会話から逃れるように、少し歩調を早めて教室へと逃げ込んだ。



そして席につくなり、俺は無意識のうちにまた深く溜め息をついた。



「何悠君、そんな溜め息なんかついて…。幸せが逃げちゃうぞv」


その言葉にハッとし、声のした方を向けば、いつもと少し様子の違う尚と視線が合った。


すると、尚は笑顔で続けた。



「おはよう♪悠君v」


「あぁ、おはようι」


俺が素っ気なく返事を返すと、尚は少し顔を曇らせながら言った。


「あらぁ…悠君元気ないのねぇ?」



「そう言う尚だって、朝の挨拶が飛びつかずに出来るなんて…今日は雨か?」



俺が負けじとそう言うと、尚は“しまった”という表情を浮かべてから、なんともつまらなさそうな表情になった。


「あ〜あιやっぱり悠君は鋭いなぁι」


「俺の目を誤魔化そうなんて、一億年と3ヶ月早い。」


「なにそれ〜!せめて3ヶ月を3週間にして!」


「どっちにしろお前も俺も一億年も生きないだろιで、なんで元気が湧かないわけ?元気しかとりえのない尚君は?」



冗談を言いながらも、俺は尚に問いかけた。


尚は机に突っ伏しながら答えた。


「ブ〜!だってみんなテストテストって…僕つまんない〜!」


そのちょっと意外な答えに、俺は目を丸くしながら言った。


「うわ〜ι初めてお前と気が合った気がするι」


と尚は俺の言葉に、聞き捨てならんとばかりに慌てて起き上がった。


「ヒドい〜!悠君と僕は一心同体じゃんvv」


「……キモい」


「ヒドい〜〜!」




そんなやり取りをしていると、教室の扉が開き、担任が出席簿片手に入ってきた。



俺は尚とのやり取りを中断し、後期も続投を余儀なくされた委員長の役割を果たすため、号令をかけた。

クラス全員がやる気なく立ち上がり、ダラダラと席に座り終えると、担任はここ一週間ほど毎朝聞かされる話を、また今日もいつもの調子でし始めた。



「え〜っと、遂に明後日からテストが始まるわね!みんな勉強してる?……」



全く、この話しを一体何回したら気が済むのかι変わったと言えば、日々カウントダウンされて減っていく数字くらいなもんだろうι



そんなことを考えながらも隣の席の尚を盗み見れば、“超”がつくほど憂うつそうな表情を浮かべ、机に肘をつき顎を突き出し、目線は斜め上方向を向いていて、正に遠い目をしていた。


こいつの意識はきっと、その目線の先にあるのだろう。

心ここにあらずとはこの事だι



相当グロッキーなご様子でι



俺は思わず苦笑いで顔をひきつらせながらも、今日何度目かも分からない溜め息をついて、隣のグロッキーな少年を見習い、同じく天井を仰いだ。
















――――ドン!!



「うわぁ!!!!!」


俺はいきなり感じた、首から頭が転がり落ちるのではないか。というような後頭部への衝撃に驚き、思わず声をあげた。


そして、それこそ首と頭が離れるという勢いで後ろを振り向くと、俺の真後ろにいた英太と、隣の尚の後ろにいた小沢と、数秒違いに目が合った。



「って!おい!なんなんだよιっとに…ι」



俺はまだ状況が飲み込めないまま、とりあえず抗議の言葉を口にした。



すると、英太と小沢は顔を見合わせ、いかにも呆れたという表情を浮かべた。



「あのなぁι悠斗?」


「なιなんだよ?」


英太の静かな口調に、ちょっとした怖さを感じ、俺も同じような口調で答えた。



「ありゃ…ιマジで聞こえてなかったみたいι」


「だから、何がだよ?!」


今度は、何が言いたいのかはっきりしない小沢に、俺は苛立ちながら言った。



すると、相変わらずの表情のまま、英太が口を開いた。



「いやιだからな?」


そう言って英太は、俺の後頭部に衝撃を与えるに至った経緯を話し出した。



―――――――



「おぉ〜いι」


「なぁ英太ιこれこういう置物か?」


「いやιまぁ一応生きてるみたいだなι」


「マジ?息してる?」


「小沢ιお前半分楽しんでるだろ?」


「え?とんでもない!全力で楽しんでる♪」


「ははι」

「まぁ…そろそろ気づいてもらおうかι」


「あぁιだんだん虚しくなってきたしなι」



「せ〜のっ!」



――――ドン!!



―――――――


「…ってな訳だι」


英太が話し終えて、なんとなぁく事情を理解した俺は、そんなやり取りがされていた事など全く身に覚えがなく、反論のしようもないため、場をごまかすかのように苦笑いを浮かべた。



「あ…アハハぁ…ハ…ι」



すると、俺の貼り付けたような苦笑いを見て、顔をひきつらせながらも小沢が話し出した。



「ほんとにιてか、悠斗は戻ってきたけど…こっちがι」



そう言って小沢がそっと視線をずらした。


不思議に思い、後ろに立っている英太を見上げると、同じく不思議そうな視線を俺に向ける英太と目が合い、なんの合図があった訳でもないのに、自然と全く同じタイミングで首を傾げると、これまた全く同じタイミングで小沢の視線の先を追いかけた。




するとそこには、何かの銅像を思わせるような、天井を見上げるグロッキーな少年がいた。



「俺、結構な力出したぜ?」


小沢が俺たちの表情を伺いながら言った。



「てことは……もう銅像になったんじゃね?」


俺がそう言うと、英太は顔を最大限にひきつらせながら、ゆっくり2〜3度首を縦に振った。



「もぅそういう事にしといていいかなぁ?ι」


呆れている様な、どこか見放した様にも見える表情で小沢が言った。



すると、英太が大きな溜め息をひとつつき、先ほどと同じ様に首を縦に振った。


「ほかっとこうぜιとりあえず飯だ飯〜ι」



………ん?



「だね〜ιご飯だご飯〜♪マジ腹減った〜ι」



………飯?



俺は多少の嫌な予感を胸によぎらせながら、疑問を口にした。



「あの…?」


「ん?」


いつもの昼食時のように、俺の前の席に腰掛けながら、英太が返事を返した。

その隣に座り、もう既に弁当を机の上に置いた小沢も、俺に視線を向ける。



「……今何時?」



俺の質問に、2人の表情は一気に凍りついた。


そして顔を見合わせてから、ゆっくりと俺を見やった。



先に口を開いたのは小沢。


「悠斗さ〜んι只今12時15分でございま〜す。」


続けて英太も口を開いた。


「っとにι因みに、今悠斗の机に出てるのは1限目の世界史。つまり、お前が銅像になってたのは4時間。」


「ほんとに〜ι全部の授業自習になってあいさつカットになったから良かったけど、悠斗も尚みたく思いっきり固まってたんだからなι」



俺は隣で相変わらず固まっている尚を眺めた。


相変わらず朝からの姿勢を崩さず、ちゃんと息をしているのかと確かめたくなるほどの制止状態のなか、ごくたまにするまばたきだけが、この銅像らしき物体が生きていると証明していた。



そして俺は、その見事な像が、先程までの自分だと想像すると、なんとも奇妙な絵が浮かび、思わず口元をひきつらせた。



「マ…マジっすかι」



確かに…朝の担任の話し以来記憶が曖昧なんだよなぁι

まぁι小沢の言う通り、あいさつカットで助かったぜι




俺は少し胸をなで下ろし、英太と小沢のように自分のカバンから弁当を取り出した。



「いただきま〜す♪」


そう言って小沢が元気よく弁当を食べ始め、英太もそれに続いてコンビニのパンにかじりついた。


俺も続いて食べ始めようと弁当の蓋を開け、玉子焼きに箸を伸ばした。



「…悠君の玉子焼きの匂い!」



俺の伸ばした箸が玉子焼きについたかついていないかという絶妙なタイミングの声に驚き、俺は思わず箸を握った手を引っ込めた。



そしてゆっくり隣を見れば、先程までのグロッキーな少年が、まるで別人かのように、今度は目をキラキラと輝かせてこちらを見ていた。



「あ…お目覚め?」


俺が尚にそういうと、尚は俺が言った言葉の意味が分からないとばかりに首をかしげた。



「へ?お目覚めって…まぁ良いや。そんな事より〜玉子焼き〜!!」



……なんだこいつι



あの〜さっきまで死んでたのはどこのだれでしょ〜か?


分かります〜?


はぁ〜い!もちろん正解は……




お前だよお前!!君だよ!そぅ!今俺の目の前で玉子焼きに目を輝かせてる君〜!



俺は尚の変わりように、心の中で激しく突っ込みを入れた。



そんな俺をよそに、いつの間にやら出してきた自分の箸をのばしてきた尚にまんまと取られた玉子焼きも、いつもならばその手をパシンッとひと叩きだが、今日はそんな労力さえもめんどくなくなり、そののばされる手をただ眺めて見送っていた。



ふと英太と小沢を見れば、二人も思いっきりの引きつった表情を浮かべていた。


もちろん、俺も。



するとそんな俺たちにやっと違和感を感じたのか、尚はいつもよりも幾分か楽に奪い取った玉子焼きをほおばりなから俺たちの顔色を一人一人伺った。



「……みんなお腹いっぱい?もぅ♪言ってくれれば良いのに!大丈夫!僕が食べてあげるから!」


「………。」

「………。」

「………。」



その言葉に、俺たちは誰も答えず、すっかり止まっていた食事をただ黙って再開した。



「あれ?みんなどうしたの?無理しなくても僕が食べてあげたのに〜!」


ったくι



「もぅ良いからιお前は黙って自分のそのでかい弁当箱からにしろ!」



俺は尚の机の上に置かれた二段重ねの重箱に視線を下げながらそう促した。



「はぁ〜いι」



ったくιこのちっこい体のどこにそんなに入るんだよι


俺は尚の手によって開かれた重箱に、相変わらずびっしり敷き詰められたそぼろご飯と、尚の顔を交互に見ながらそんなことを思っていた。






他の生徒が参考書とにらめっこをしている中、俺たちはいつもと変わらない昼休みを過ごしていた。




テスト週間。




俺たちには……。




あまり関係ないようです。





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