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第18話:初めての文化祭・3




「なんでやねん!」


「ハハハハ…」









はい。只今ホールにいますとも。えぇ。




そりゃあもう、これでもか?!ってくらい拒否しましたよ。えぇ。




でもまぁ…あれですよ。

人間諦めも肝心ってことですよ。えぇ。




自分の全体重をかけているのに、全く気にもせず歩き続ける3人に、ホールのある校舎に入った当たりで悟りましたよ。


こいつらに抵抗しても無駄だとね。はい。










そんなこんなで…結局、校舎に入ってからは、大人しく抵抗をやめ、自分の足で一段一段階段を上り、ホールへとやって来た。



只今の時刻は、1時2〜3分前。


ステージでは2年生の先輩2人の漫才が繰り広げられていた。


もちろん素人だが、ホールはそれなりの人と、笑い声に溢れていた。




でも正直…。




全く耳に入って来ないんですけど!!



今日は他校生やら生徒の親やらも来ていて、ガヤガヤしている中でも、そのざわめきさえも、全く耳に入ってこない。



「………君!」



あぁ!もう!やっぱり来るんじゃなかったよ!



「……ってば!」



ダ〜!期待しちゃないけど…なんでこんなビビってんだよ俺!



………ドカッ!



「うッ!」



俺が後悔の念に駆られている中、突然起きた鈍い衝撃に、俺は思わず声を上げた。


その衝撃は、俺の腹に見事にヒットし、俺は一瞬息をつめた。



と、俺はそっと、衝撃を感じた自分の腹に視線を下げていった。



すると、そこには、見覚えのありすぎる後頭部があり、その瞬間、なにがあったのかを悟った。


「ってぇ!尚!お前なにしてんだよι」


「頭突きvv」


「普通に答えるな!ι」


「頭突きじゃわれ〜!」


「そういう事じゃねぇよι」



俺が呆れながら言うと、尚はやっと俺の腹から自分の頭を離し、俺と向き合う形で直立した。


そして、ステージのみ照明が光り、客席の照明が消えている薄暗い空間の中、それでも尚の表情が呆れと不安に溢れていると汲み取れるほど、尚は複雑な表情を浮かべながら口を開いた。



「もぅ〜ι悠君が僕が呼んでるのに全っ然聞いてくれないからでしょ!」


「え?呼んでた?」


俺は全くもって入ってきていなかった声に首を傾げた。

すると、俺が明らかに聞いていなかったのが分かったのだろう。

尚はさらに不満そうな表情を浮かべて話し出した。


「呼んでたの!さっきから!」


「ごめんごめんιで、何の用だったんだよ?」


興奮気味な尚に、俺は少し圧倒されながらも尚をなだめるように話しかけた。


俺の言葉に、まだ若干の不満を残しながらも尚はまた口を開いた。



「だからね?さっきから後ろの方の女の子たちが、チラチラチラチラ悠君を見てるよって。」



「え?」



尚のその言葉に、一瞬何を言われたのか分からなかった。



俺達は席には座らず、ホールの一番後ろにある出入り口付近の壁に、寄りかかりながら立っていた。


俺はそっと視線を上げ、周りを見渡すと、尚の言うとおり、本来前を向いているべきであろうこの学校の生徒、並びに他校生の女子達と目が合った。



「もう、悠君ってば…相変わらずモテるんだからvv」



そう言うと、尚はもともと居た、俺の隣に居る英太の…そのまた隣の小沢の隣に戻っていった。



ってそんなけのために来たのかよ?!



俺は思わず心の中で突っ込みを入れた。


…と、そんなやりとりを全く気にしていなかった様子の英太が、少しキョロキョロしながら話しかけてきた。



「なぁ悠斗…なんかだんだん人増えてねぇか?」


「そうか…?」


英太に返事を返しながら、俺も英太の真似をするかのように、ホール全体を見回した。


すると確かに、俺達が来た時よりも人が増え、会場は満席に近いような状態になっていた。



「本当だ…。」


「だろ?この後そんな面白い事でもやんのか?」


「さぁ…?」


俺も疑問に思いながら、思い当たる節もなく、英太に返事を返した。


「にしてもだ、なんか…やけに男が増えてねぇか?」


次なる英太の問いかけに、俺は更に目を凝らして見渡した。


「本当だ…。」


英太の言うとおり、確かに…その観客の3分の2くらいが男だ。



俺と英太がそんな会話をしていると、いきなりホールに観客の拍手が鳴り響いた。


俺達はその音にハッとし、舞台に視線を上げると、さっきまでそれなりの笑いを誘っていた漫才コンビが、『ありがとうございました〜!』と元気な声を上げながら、舞台の袖にはけていった。



すると、ホールに場内アナウンスがながれた。


「楽しい漫才ありがとうございました!では次のステージの前に、少々準備のお時間をいただきます。」




俺はその声に、何故か分からないが…不意に、小学校の頃味わった、遠足の日が近づいて来る、楽しみな…ワクワクした気持ちと、ちょっとした緊張が合わさったような、なんとも言えない不思議な感覚に陥った。




時刻は…1時。



指定の時間。



きっと、今からのステージを、まいちゃんは俺に見せたかったんだろう。



スタンバイの為に、真っ暗になったステージを見つめながら、なんとなく、俺はそう悟った。




そして再び、場内アナウンスがながれた。



「お待たせしました!それでは次のステージにいってみましょう♪お願いします!」




まいちゃんの“とっておき”を、あれほど期待していなかったはずなのに……なぜだろうか?



俺の緊張はピークに達し、鼓動の音が邪魔をして、アナウンスの最後当たりも良く聞こえなかった。


手には不思議な汗を握りながらも、俺は黙ってステージを緊張の眼差しで見つめてはみたものの、1人の不思議な緊張の世界に入っているためか、上手くステージにピントを合わせられず、なんだか地に足がついていない感覚すら覚えた。



まるで…麗菜に出会った、あの朝礼の日の様な感覚だ。



……?


………れ…麗菜…?



俺が、この緊張感に麗菜をリンクさせた時、俺はハッと何かを思い出したような気がした。


そして一気に現実世界の感覚に帰り、しっかりとステージにピントが合った。正にその瞬間。




その瞬間を待っていたかのように、バッと、一気にステージが眩い光りに明るく照らされた。


それと同時に現れる、白いシャツの上にベスト、それにホットパンツと黒い膝上のソックスという、揃いの衣装を身に着けた5つの人影。


ホールは一気に歓声に包まれた。


そんな中、眩い光りに目をくらましながらも、俺はしっかりと目を凝らした。


そして発見した。


「……麗菜だ。」



そう、その陰達の、正にセンターのあの陰は、間違いなく麗菜だった。



と、俺にワンテンポ遅れて気付いたのか、尚がそっと口を開いた。


「まこちゃん…あれって麗ちゃんだよね?!」


すると小沢も口を開く。

「あ…あぁ?本当だ!」

その会話を聞いていたのか、続いて英太も話し出した。


「マジだ!てことは…まいちゃんの“とっておきの情報”ってのは…ハハッ、そう言うことな♪」


そんな3人の言葉も、俺には、耳には入るものの、そのまま逆の耳に抜けていって行ってしまい、ちっとも理解なんかしていなかった。


なぜなら、俺の頭のてっぺんから足のつま先までの、体中のありとあらゆる神経は、全てステージ上に集中しているからだ。



そしていつの間にかホールには、今時なかっこいい音楽が流れ出した。


すると、先ほどまでポーズをとりながら固まっていた5人が、そのリズムに合わせて動き出した。


始まったのはダンス。



テレビで見るような、クールでかっこいいダンスだ。



観客もそれぞれ、体を動かしてリズムをとっている。



そんな中、俺の視線はやはり麗菜に向いていた。


というか…自然に目線がそちらに向いてしまうのだ。



だがそれは、“麗菜”を見てしまうというよりも、“麗菜のダンス”に吸い込まれてしまう。そんな感覚だ。



俺はダンスはしないし、特にダンスのなにを知っているわけでもない。


しかし俺の知り合いにも、何人かダンスをやる奴が居る。

だからよく、そいつらのダンスは半強制的に見せられていた。



しかし、そいつらと比べても、ステージに居る他の4人と比べても、麗菜は何かが違った。


キレが違うというのか…雰囲気と言うのか…。

素人の俺には、ズバリこれだとは言えないが、麗菜には、素人の俺にも分かる何かがあった。




そんな風に、俺が完璧にステージに釘付けになっていると、不意に小沢が言った。


「なぁ…麗菜の右端に居るのって…あれってもしかして……ゆうちゃん?」


それに反応して英太が少し驚きながらもステージを確認する。


「あれは…もしかしなくてもそうだなι」


少し遅れをとって小沢も気付いた。


「本当だ…ι今更気付いたι」



3人がそんな会話は、一応耳には入ってきたが、俺は相変わらず麗菜に目を奪われていた。



ゆうちゃんねぇ…。


てか麗菜マジすごいなぁ…。


でも他の4人も上手いなぁ…。


へぇ…あれゆうちゃんなんだぁ…。


………。


……?!


「ゆ、ゆうちゃん?!」

----ジャン!----


----パチパチパチパチ…


俺がゆうちゃんの存在にやっと気付いたその瞬間。

相変わらず格好良い決めポーズと共に音楽が終わり、それと同時に、ホール全体が大きな拍手とざわめきに包まれた。



そして、5人は深々と一礼し、舞台袖へとはけていった。



すると、例のごとく場内アナウンスが流れ出した。


「むちゃくちゃ格好良いダンスありがとうございました!それではここで30分間の休憩とさせていただきます。次の……」



休憩をとると言うアナウンスが流れると、先ほどまで座っていた観客達は、一気に立ち上がり、ゾロゾロと俺達の居るすぐそばにある出入り口に向かって歩き出した。



そんな中、俺達は一歩も動かず、ただそこに突っ立ったままでいた。



他の観客達は、ごく自然にできた出入り口までの列を乱すことなく、ホールを後にしていった。



そしてその列を、俺は全くの無意識で眺めていた。




ただ、まだ完全に覚醒しきっていない頭でも、誰の会話かが分からないほどの多数の人間が、同じような話題の会話をしていたのを、俺は聞き逃さなかった。




「すごかったなぁ…マジで!」


「麗菜さん…光ってたなぁ!」


「だよな!やっぱ違うよなぁ!」










秋野悠斗



初めての文化祭。



初めてまいちゃんの“とっておき”に感謝しました。



ただ…。



初恋の相手は…。



やっぱり、『高嶺の花』みたいです。








ーーーーーーー


「悠斗く〜ん♪」



他の観客が居なくなり、ガラリとしたホールに俺たち4人が残っていると、それに気づいたゆうちゃんが、興奮覚めやらぬ感じで先ほどの衣装のまま駆け寄ってきた。



「ゆうちゃんvvダンスすごかったねぇ♪」


「ありがとう♪尚ちゃんvv」



と、いきなりゆうちゃんが俺に正面から向き合って口を開いた。


「ねぇねぇ悠斗は…どうだった?」


俺はギクリとしながらも返事を返した。


「あ、あぁ…マジ良かった…良かったよ!」



すると、俺が言葉を言い終わったか終わらなかったかというタイミングで、ゆうちゃんはいきなり飛び跳ねた。



「マジで?!本当に?!良かったぁvv超うれピー!!」


うれぴーってあなたι










ただ、このはしゃぎっぷりを目の当たりにして…ι



『終わる直前にゆうちゃんだって気づきました。』


とはとても言えない…今日この頃ですι





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