第17話:初めての文化祭・2
文化祭も無事に開会式を終えて、生徒達は晴れて、この独特の雰囲気を堪能していた。
今は昼時の12時半を回ったところ。
俺たちは朝からの店番を交代して、校舎の外に出て、各々食べたいものを頬張りながら、何時もと違い、店の立ち並んだ校門から校舎までの長い道を、何の目的があるわけでもなく歩いていた。
と、何の前ぶりもなく小沢が、わざわざ頼んでマヨネーズを多めにしてもらったたこ焼きを、口いっぱいに頬張りながら話し出した。
「へもはぁ、はんへいひひひほーふふぁんはろ?」
ぅんι予想はしてたけど…やっぱ何言ってるかわかんねぇよ?!
と、小沢の意味不明の発言に、英太がいつものごとく突っ込みを入れた。
「あのなぁ小沢?」
「ほへ?」
「とぼけた返事返してる場合じゃないっつの?!食べながら話すな!何言ってるかサッパリわかんねぇっつのι」
尚でさえが『うんうん』と頷くなか、小沢はその突っ込みの意味が分からないとばかりに首を傾げた。
いやι分かって下さいよι
俺は小沢の心底のキョトンとした顔に、呆れと面白さを覚えながら、とりあえず助け舟を出すことにした。
「小沢?」
「にゃに?」
俺の問いかけに、小沢はまた一つたこ焼きを口に運びながら、また間抜けな返事をした。
「うんιとりあえず、口の中のもんゴックンしてから話そか?」
と、俺がここまで話すと、鈍い小沢もやっと意味が分かったらしく、俺達3人の顔を順番に見回してから、『あぁ!』っと言う表情を浮かべ、口の中のたこ焼きを急いで飲み込み、水で流し込んで、少しむせながら、さっき全く通じなかったことをもう一度話し出した。
「ゴホッ!ごめんごめんιゴホッ!だからね、でもさ、なんで1時にホールなんだろうね?って」
小沢のその質問で、俺達3人は、朝のまいちゃんとの一件を思い出した。
ーーーーーーーーー
「で、俺にとっておきの情報って?ι」
俺は、まいちゃんの使う“とっておき”イコール、どうせまた全く必要ない情報だと思い、大して当てにしていなかった。
だってι
この前、だって…ι
――――――――
「悠斗君!!」
俺がまいちゃんの声に、ハッと後ろを振り向くと、走ってきたのか、まいちゃんが少し息を切らせながら立っていた。
「何?!そんなに慌てて?!」
「あのね?!悠斗君にとっておきの情報なのよ!!」
「え?な…なに?!」
「あのね…。」
俺は、ドキドキしながらまいちゃんの“とっておき”の情報を待った。
「あの…。私のクラスの美佳が、犬飼ったんだって!!!」
「って誰だよ?!」
思わず瞬速で突っ込みいれちゃったよ!ι
てか“美佳”ってどなたですか?!
そして“犬飼った”のどこがとっておきなんですかお嬢さん?!
俺はどこの犬好きだ?
!
てか重要なのは…ι
「俺…犬苦手何だけどι」
――――――――
このレベルだぜ?ι
その前は確か
「お姉ちゃんが携帯替えた」だったし…?
てか会ったこともなけりゃ、お姉さんの存在自体その時知ったよι
だから、どうせまた大した事では無いのだろう、と思い、俺はほんのかけらさえの期待を持たずに、まいちゃんに返事を返した。
するとまいちゃんは、俺がこれっぽっちの期待も持っていないことに気づいていないらしく、
「聞きたいでしょ?!」と言わんばかりのテンションで話し出した。
「あのね…w」
と言いながら、まいちゃんは“ニヤリ”と言う効果音がピッタリ合う笑みを浮かべた。
え?なんか怖いんですけど…ι
あ!尚の黒い笑いにソックリ?!
って違う違う!ι
俺はそんなことを思いながら、そっと尚の様子を伺うと、尚はいつもの天然そうな顔で、キョトンとしながらまいちゃんの発言を待っていた。
と、ここでまたまいちゃんが話し出した。
「フフッwwここで言っちゃうのもなんだから…取り敢えず、1時にホールに来て♪」
…1時にホール?
……なんで?
「なんで?」
と、隣で聞いていた英太が、俺の疑問を気持ち悪いくらい正確に、そのまま口にしてくれた。
するとまいちゃんは、さっきの誰かさんを思わせる様なで笑みではなく、ニカッと明るい笑みを浮かべて言った。
「良いからwきっと悠斗君に良いことがあるよw」
ーーーーーーーーー
と、これが朝の出来事。
確かに疑問なんだよなぁ…。
なんでホールに俺を呼び出したんだ?しかも時間までご丁寧に指定して…?
ホールって確か…文化祭中はステージ企画が行われている。
バンドだったり演劇だったり…。あ、漫才やるって言ってたやつもいたなι
にしても、俺をホールに呼び出すってことは、俺に何かしら見せたい企画があるってことか?
いや、でも俺にわざわざ見せたいものって何だ?
俺が悶々と一人の世界に入って、地面を睨めつけながら考えていると、隣から英太が、落ち着いた口調で話しかけてきた。
「お〜い。悠斗?こっちの世界戻ってこいιなに難しい顔してんだよ?」
俺は英太の声に驚き、ハッと顔を上げた。
「え?…あぁ、別になんでも?ハハッ」
と、小沢と並んで俺と英太の前を歩いていた尚が、勢いよく振り向いて言った。
「もぅ、悠君ったらぁwまいちゃんの言ってたこと気になってんでしょ?w」
うゎ、でた黒笑いι
俺は心の中で密かにそんなことを考えながらも、尚に言葉を返した。
「いや、まぁ正直…気になる反面期待はしてないなι」
まぁ正直…ねぇ?まいちゃんの“とっておき”には引っかかる訳ですよι
と、俺の返事を聞いた尚が、少しつまらなさそうにな目をしながら会話を続けた。
「ふぅ…ん。でも気になるは気になるんでしょ?」
「いや、まぁな?」
俺が率直に返事を返すと、尚はニカッと笑った。
うん。明らかになんか企んでんな?ι
俺が警戒心を持つ中、尚はその企みを口にした。
「じゃあいいやvv何が起こるか僕知りたいし…せっかくのまいちゃんからのお誘いなんだし…ホールへゴー!」
「って、はぁ?!」
今なんつった尚?
俺がいきなりの尚の発言に驚く中、大人しくたこ焼きを頬張っていた小沢が、キラキラ目を光らせながら口を開いた。
「え?良いね〜v実は俺も気になってたんだよなぁv」
「ってお前らの事じゃないだろが?!」
話しを勝手に進めていく2人に、俺はすかさず突っ込んだ。
だってよ?俺以外はまいちゃんの“とっておき”事件を知らないから気になるだけであって、俺にとったら期待するだけ損な気がしてならない訳ですよι
しかし、俺のそんな不満を全く察していない目の前のおチビ2人は、完全に期待に胸膨らましていた。
「でもさぁ、尚的にはどんなとっておきだと思うよ?」
「えぇ〜?分かんないけど…でも絶対面白いことだと思うなぁvv」
「だよな?絶対面白いことなんだよ!」
てか…ι
「勝手に人事で楽しむな!」
俺は目の前の、完璧に楽しんでいる2人に突っ込みをいれた。
ったくι
と、当の2人は、俺の言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、全くの右から左状態で話を続けた。
「あ!じゃぁそろそろ行かないと!」
「そっか!ホールってここから10分かかるしねι」
只今の時刻は12時45分を回ろうか…という当たり。
この学校は、4階建ての校舎が3つ。校門から一つ目の校舎までは歩いて5分以上はかかる。その上、ホールのあるのは真ん中の校舎の最上階。
俺達が今居るのは、校門と一つ目の校舎のちょうど真ん中当たり。
まぁ、距離と階段を上がる体力を考えたら10分くらいが妥当だろう。
っじゃなくて!何冷静に考えてるんだよ俺!
とりあえず、この2人をとめなきゃだなι
「お前ら!勝手に話し進めてんじゃねぇよ!」
俺はなおも楽しそうな2人に、再び突っ込みを入れた。
と、それとほぼ同時に、俺は自分の肩に急に重さが加えられた衝撃にハッとし、首が千切れんばかりの勢いでそちら側の肩を向いた。
そこには俺より大きめな手が置かれていた。
俺はそっと、その手から腕…肩…首…と視線を上げていくと、たどり着いたのは、先ほどまで黙って俺達のやりとりを見ていた英太の、見たこともないような満面の笑みだった。
………嫌な予感ι
俺はその笑みに、背中に虫が這うような感覚を覚え、直感的にむちゃくちゃ嫌な予感がした。
そして、俺のこの直感は、見事的中した。
「よし♪じゃあホール行くぞ〜!」
マ…マジっすか…ι
英太さん?!
「って英太〜!このおチビ2人にのっかってんじゃねぇよ!!」
俺は英太の発言に慌て、なおかつ全力で突っ込んだ。
てかいつもの突っ込み役が何言ってくれちゃってんだよ!
俺が内心、慌てふためいているなか、3人はどんどん話しを進めていく。
「やった〜♪英太のお許しも出だし、行こうぜ悠斗!」
「バカ!行かねぇよ!」
「バカなんてひどい〜!
もう、ほら行くよ!悠君v」
「何が『ほら行くよ!』だよ!俺は行か…ってこら!小沢!尚〜!なにしやがる〜!」
「もう、悠君ってば聞き分けがないんだから…。」
俺は両腕を小沢と尚にガッシリと掴まれ、この2人のどこにこんな力が?!という力で引っ張られ、ホールに向かってズルズルと引きずられていった。
そして、俺達の前を歩く英太が、いかにも楽しそうな声色で言った。
「さぁ悠斗、文化祭楽しまなきゃな!」
いやιお前らは…
「文化祭の楽しみ方が違〜〜〜う!!」
しかし、俺の心底の叫び声は、文化祭でにぎわう人混みの中へと、虚しく消えていった。
高校生初めての文化祭…。
楽しくなるのは…
今から?




