第13話:夏休み
今日も空は晴れ渡り、まさしく晴天だと言わんばかりに、雲一つない青空が広がり、うだるような、激しい太陽の日差しが射している。
俺、秋野悠斗は今日も…。
「暑〜〜い!ι」
暑さに負けておりますι
ここ最近は、“雨”とか、“曇り”とか。そんな言葉があった事すら忘れてしまいそうな位…。
毎日毎日。晴れ!晴れ!晴れ!
ったく…。
ふざけんな!!暑さに著しく弱い俺を干からびらせる気か?!
干物になるぞ干物!俺の干物なんか旨かねぇぞ?!臭うだけだ!
俺が心の中で、最高級に毒づいていると、英太が大体察しがついたのか、俺に話しを振った。
「悠斗さ〜ん?!目が死んでま〜すι」「悠斗さ〜ん?!目が死んでま〜すι」
俺は暑さのせいで、イライラしながら口を開いた。
「っるせぇ!死んでるのが目だけで良かったよ!」
「いや、もう何から突っ込んで良いかもよく分かんねぇよι」
と、俺と英太のやり取りを、隣で見ていた小沢と尚も、俺のただならぬ感じを察したのか、会話に加わってきた。
「まぁまぁ悠斗ι明日から夏休みなんだからιそぅイライラしないで…な?」
「そぅそぅvv明日からは〜、楽しい楽しい夏休みvvだよ!」
………ハハハ。
「バカかお前等?!その話しを悠斗に振るな!!」
英太が気付き、とっさに止めたがもぅ遅い。
「…ハハハvv君達は良いねぇvv明日から楽しい楽しい夏休みだもんねvv」
俺の怒りを感じ取ったのか、3人の顔が瞬間的に凍りついた。
………。
3人が恐る恐る、俺の顔をのぞき込んだ。
「ゆ、悠斗〜?」
「フフフッ」
「?!」
「ふざけんなよ?!お前たちは良いよなぁ?!楽しい楽しい夏休みなんてよ!!ハッハッハ〜〜」
「え、英太さんι悠斗が壊れましたι」
「だなι」
「悠君怖〜いvv」
「コラ!バカ!尚!黙れ!余計に悠斗の怒り煽る事言うな?!」
英太の必死な行動も虚しく、俺の怒りは見事に爆発した。
----ブチッ
あ、懐かしvv
切れた…斬れた…着れた…。
…キレた♪
「お、お〜いι悠斗〜ι」
「フフッ」
俺の、自分でも驚く程の冷たい笑いに、3人が凍り付いたその瞬間に、俺の怒りは、見事に爆発した。
「ふざけんなっての!お前等は良いよなぁ?!あぁ?!明日から遊び放題の自由気ままな生活が待っててくれるもんな?!ハッハ!どうせ俺は学校での楽しい夏休みを過ごしますよ!」
流石の尚も、“学校での楽しい夏休み”の意味を、嫌みとして飲み込めたらしく、3人は冷や汗をかきながら、更にガチガチに凍り付いた。
ったくι俺の立場にでもなって見ろよ?!
この学校では、文化祭は9月の中旬。つまり、それまでに準備を済ませる必要がある。
もちろん、クラスの事はそれぞれのクラスが、夏休みを利用して、各々計画を組んでやることなのだから、俺はそれなりに楽しい夏休みが過ごせる。…がι
問題は、俺が委員長だと言うことだ…ι
文化祭を行うにあたって、準備が必要なのはクラスだけではない。
学校の細かい所の整備や、開会式だの閉会式だのの準備。パンフレットの作成だの何だのと…ι
そして一番厄介なのは、『全校作成物』たるものだ…ι
今年は『巨大な絵』。勿論、提案者は“例の生徒会”だι
ハハハιやっぱりろくな事にならなかったなι
その絵とやらを、学校の机3つ分位に切り分け、それを各クラスが仕上げ、また貼り付ける。
この学校のクラス数、30クラス分を全てだ。
そぅ…ι夏休み、俺が夏休みを喜べない理由こそここにある。
----3日前
俺が用事を済ませ、職員室の前の廊下を歩いていると、正面からやって来た、見覚えのある顔が、満面の笑みで近づいてきた。
「あ!秋野く〜ん!」
あのテンションの高さ…ι
間違いなく…生徒会長だなι
俺は回れ右をして、その声に対して無視を決め込んだが、生徒会長がそんな事で怯む訳がなかった。
今度は俺の背に向かい、更に大きな声で叫んできた。
「秋野君〜!夏でも秋野君〜!」
「いや?!夏だけ夏野君とかになりませんからι」
俺はまた、無視を決め込むつもりだったが…やられたι
クソ!この生徒会長と絡むとろくな事無いんだよ…ι
と、俺が返事をしてしまった事で、生徒会長が小走りで俺の所に来た。
「私の勝ち〜vv」
ある意味アンタの反則負けだよι
俺がそぅ心の中で悪態をつく中、生徒会長はサッサと話しを進めて行った。
「あのさ、全校作成物なんだけど、やっぱあれ大きいし、何かと力も要るし…だからと言って、やっぱ芸術性も要る訳よ〜?」
「あ…はい…?」
それは分かったけど…んでなんだ??
「でね、そういうことで、担当、秋野君と、助っ人の麻衣子になったからよろしく♪じゃ♪」
そぅ言って、生徒会長は帰って行った。
……。
………おい。ちょっと待て…?
全校作成物…?
…ってふざけんな?!はぁ?!あれって一番厄介なやつだろ?!
全クラス分のパーツ集めて。パズルのごとく並べて。くっつけて。補強して。挙げ句の果てに修正まで入れて。
それを…俺にやれと?!ふざけるな〜?!
----
と、まぁこんな訳で今にいたる。
なんで俺が…ι
せっかくの修了式も、全くもって嬉しくない。
はぁι
と、気づくと、何時の間にか、長ったらしい担任の話しも終わって、皆続々と帰り始めていた。
「じゃぁな〜!夏休み楽しめよ〜!」なんて会話をしている奴に、一旦は引いた怒りに、再び火が着きそうなのを必死で抑え、俺は帰ろうとする英太達に声をかけた。
「英太!小沢!尚!楽しい夏休みを〜♪」
そして3人は、俺に申し訳無さそうに、控え目に手を振って答えた。
「ゆ、悠斗ιが、頑張れよ?じゃ!」
英太がそういうと、3人は走って帰って行った。
世間は明日から夏休みだそうです。
…“夏野君”は、夏も休まず営業です。
俺は心の中で、生徒会長を憎みながらも、しょうがないιと諦め、教室を出た。
深い深い溜め息をつきながら。




