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心配と徹夜と小さな幸せ




              知美




 「おはよう。よく眠れた?」

 目覚ましの音で目を覚ますと、ベッドの脇に寄り添っていた三浦くんが優しく声をかけた。

 なぜ三浦くんがわたしの部屋に居るのかわからず、まだ夢の中に居るのかと思った。やがて頭が起きてくると、昨日の出来事がよみがえってくる。



 「もし山田さんを襲った犯人が、邪魔者を排除したと思っているとすると、すぐにでも篠原を迎えに来る可能性がある」と三浦くんは早口でまくしたてた。

 わたしも山田先輩もわけがわからず顔を見合わせていると、焦れたようにさらに続けた。

「だってそうでしょう?山田さんを襲った犯人は『こいつがいなくなれば』って言ってたんでしょ。『こいつら』なら少なくとも僕も含まれているから、邪魔者の排除は終わってないってことになって、まだ篠原を迎えに来る段階じゃないけど、たぶん犯人はもう終わったと思ってるから、このままじゃ篠原が危ない」

三浦くんは一息でそこまで喋ると、思い出したように息を吸い、肩を上下した。そして、なるほど~。と感嘆するわたしたちに「どうして当事者と襲われた本人がそんなに能天気なんだ」とあきれた。

 とにかく篠原を一人にしておけない、と三浦くんは語調を強めて、今日は僕が見張る。と言いだしたのだった。



「三浦くん、ホントに寝てないの?」わたしは着替えながらバスルームの扉越しに声をかけた。遠くから三浦くんの声が聞こえる。

「何度か寝そうになったけどね、何とか耐えられたよ」

 その言い方がゆったりしていて、今も相当眠いんだと思った。

 僕も今日は仕事行かなきゃ、と部屋を出て、鍵をかけるわたしの後ろで三浦くんはひとり言のように呟いた。

「気をつけろよ、篠原はもう狙われてるかもしれないんだから」

「うん。気をつけるよ」

「仕事中は一緒に居られないからなぁ、心配だよ」

「大丈夫だって、もし何かあったらすぐに連絡するから」

 心配する三浦くんをよそに、わたしはこのやり取りに少し幸せを感じていた。わたしを本気で心配してくれるひとがそばに居てくれることが嬉しかった。


 隣のドアが開いて、松葉杖をついた山田先輩が顔を出す。

「あ、おはよう。今日は俺も仕事に行こうと思って」




             達也




 鳥のさえずりが朝の訪れを伝える。重力に負け、今にも閉じてしまいそうな瞼を、意思を総動員して無理やり押し返し、時計を見ると7時を少し過ぎたところだった。

 いつ第2のストーカーが襲ってくるわからない状況で篠原を一人にするわけにもいかず、僕は篠原の家で寝ずの番をしていた。


 眠ってしまいそうな僕をすんでのところで眠気から救い出したのは、篠原の寝顔だった。正直、寝息を立てる篠原のすぐそばで寝られなかった、と言った方がいいだろうか。今も淡いオレンジの布団の中で静かに篠原が寝息を立てている。幸い昨日は何事もなく時間が過ぎていき、出番のない番人は途中何回か睡魔に負け、舟を漕いでは、はたと飛び起き、うろたえる。を繰り返した。


 ベッドの枕元に置かれた目覚まし時計がカチリと音を立て、あらかじめ設定された命令に従い、大きな音を立てた。眠気が体の隅々にまで行きわたった僕を、さながら上官のように「眠るんじゃない」と叱っているかのようだ。篠原はそれが毎日の日課のように、布団の中から細い腕を伸ばし、頭上の時計をまさぐり、ぶっきらぼうに音を止めると、眠そうな顔を布団から出した。

「おはよう。よく眠れた?」

「あれ、三浦くん・・・」篠原は寝ぼけ眼で僕をじっと見つめ、やがて思い出したようにおはよう。とほほ笑んだ。


 篠原を仕事に送り出した後、さすがに2日続けて休むわけにもいかず、急いで家に戻り、あわてて支度をし、遅刻ギリギリで会社にたどり着いた。

 デスクに座り、PCの電源を入れ、立ちあがるまでに色々と準備をしていると、僕に気付いた課長がやってきてお母さん大丈夫か?と訊ねた。僕はわけもわからないまま、ええ、何とか。というのが精いっぱいだった。きっと吉田さんが適当につけた理由が母の病気か何かだったのだろう。



 何度も睡魔に負けそうになりながら、かじりつくようにデスクにしがみつき、時計の針がようやく2本とも真下を向いた頃、僕はPCの電源を切り、仕事に区切りをつけた。

 たった一日の徹夜で底を尽きてしまう体力に、長年蓄積された年齢を感じさせられた。今日は早く帰ってすぐにでも眠りたかったのだが、よろけるように椅子から立ち上がると、運悪く吉田さんと目があってしまった。

「三浦、ちょっと外に出ない?」案の定声をかけられた。





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