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69:Nulla avarita sine poena est.

刹那姫のセクハラ&暴走回。もうなんかすみません……

 会談を通じて理解した。相手は俺に興味が無いよう。それならそれで構わない。ジャンヌ様に危害が及ぶことがないように、俺がこの女王を攻略するのだ。

 ランスは意気込み、晩餐会と踏み込んだ。


(自信を持つんだ。ユーカーに散々言われたじゃないか、俺は顔だけの男だって。顔が良いから許されてるようなもので、お前の性格最悪だよなって)


 そこまで言ってねーよという従弟の幻聴が聞こえる。俺もエアユーカーの術を会得していたようだと頷いて……これは彼のためでもあるのだと気を引き締める。


(どんな手を使っても、手に入れなければならない)


 一番確実なのは、女王の誘いに乗ること。誘われるような展開に持って行くこと。


 「そこな美青年っ!」

 「……!?」

 「これで邪魔者が入らぬぞ。妾の傍で夕餉にせぬか?」


 完全に油断していた。相手は俺に興味が無い。そう思わせてからの奇襲だと!?

 女王の姿を探す前に、背後から女王に抱き付かれた。


(扉の裏に隠れていた、だと!?)


 子供か策士かわからない。隠れる必要などないだろう。遊びなのかこれは!?俺の思考を邪魔するために、通常では考えられないような手を打ってきた?


 「ふぅむ、遊び慣れていると思ったが意外な。これだけ顔が良いのにあの童貞王以上に初心とは」

 「せ、刹那様!既婚者である女性がこ、こここのようなお戯れは」


 背中に押し当てられる柔らかな感触に狼狽えれば、からかうように女王は胸を押しつけてくる。


 「悲しいことに妾は夫に先立たれてのぅ、妾のような若い女が一人寝とは可哀想とは思わぬか?」

(助けてくれ、ユーカー)


 こんな時、どうすればいい?エア従弟に問いかけてみるが、答えは無い。よく考えればそうだ。彼にも答えが分からない。従弟は女性と接点があまりないし、婚約者はもう死んでいる。その後迫ってくる相手は何故か男ばかりだ。こんな状況に陥ったらあいつは俺以上に狼狽えているかも。そう思えば少しは冷静になれる。エア従弟からの反論があったが、聞こえない振りをした。

 しかし、ここまで近くに女性を意識したことはこれまでなかった。俺の間合いに軽々と踏み込むなんて。殺気が無い?そんなまさか。この女王はある意味無邪気、邪気が無い?信じられない、こんな残虐な女が。


(まるで、赤子のようだ)


 けれどその身体は成熟した女性の物。抱き付く白くなまめかしいその腕。白い指が意味ありげに俺の胸や腹を服の上から撫でている。


 「其方もなかなか良い身体をしているな。これが奪うためではなく、守るために鍛えられた肉体か。だが、妾の胸の方が良いじゃろう?」


 押しつけられるどころか、滑らかなその胸をすりつけられてきている。


 「其方があんまりにも良い男だったからのぅ、ドレスの下は何も付けてなくてのぅ」

 「!?」


 こ、こんな薄い生地のドレス一枚で抱き付いている!?冷静になろうという気持ちも奪ってしまう。彼女の香水の匂いで頭がくらくらして来た。


(ジャンヌ様も、こうなのだろうか……?)


 いや、彼女は鍛えている。温室育ちの王女様とは違う。だからこんなに柔らかくは無いはずだ。名誉の筋肉が……でも抱き締めたら、抱き付かれたら。こんな風に……


(いやいやいやいや!駄目だ!惑わされるなっ!)


 ジャンヌ様はアルドール様と結婚されるのだ。想像の中でもそんなことを考えてはならない。自分に強く言い聞かせるのに、耳元で女王が甘く囁きかけてくる。


 「忠義ものよの。主があんな子供だからか?主を立てて女遊びもしないのか?その歳だ、惚れた女くらいはいるだろう?」

 「そ、そのようなものは」


 真っ赤になって俯いた。そんな反応を楽しむように、女王は小気味よく笑う。


 「美味そうな顔……こんな美男が手付かずとは、さすがはカーネフェル!妾も欲しくなってきた。其方のような手付かずの良い男が大勢居るのだろう?まとめて妾が飼ってやりたい」

 「ご、冗談を」

 「ふふ……、国を妾にやれないなら、其方くらい妾の物にならぬか?友好の証に妾に仕えよ。さすればセネトレアはカーネフェルに良いよう立ち回ってやるぞ?」

 「え……?」


 俺の身一つでカーネフェルを守れるのなら安い物だ、喜んで。とは言え簡単に信じるわけにはいかない、しかしそれが本当ならば……そんなことで良いのかと俺は驚く。驚いた此方の顔を見て、女王も少し驚いている。


 「……信じられん。本当に忠義者らしい。あの少年王に、其方のような男が仕える魅力があるとは思えぬが」

 「刹那様、社交辞令でも褒めて頂けて光栄です。ですが私の仕える人は立派な人です。それ以上は侮辱と捉えます」

 「ふむ……少々堅物だが、あの男ほどでは無いな。悪くない。セネトレアにはいないタイプだ。本気で妾に仕えてみぬか?」


 あの男?誰と俺を比べてのことだろう。疑問に思う俺を放置し女王は話しを進めていく。


 「妾の機嫌を損ねればどうなるか、考えながら答えを出すが良いぞ?返事は今晩まで待ってやる。食事の後、仕度を調え妾の部屋まで来い」


 俺の手に、鍵を握らせ女王はようやく俺から離れていった。


 「どれ、食事が冷えてしまっては勿体ない。頂くとしよう」


 用意されたご馳走を前に、にこりと笑う刹那姫。その笑顔は無邪気な子供のように愛らしい。何の悪意も感じられないような顔。


 「ほぅ、給仕係が混血か。流石はシャトランジア。我が国からの移民を随分受け入れて下さっただけのことはある」

 「わっ!」

 「ちょっと触ったくらいで、大げさな。皿を落とすとは、折角の料理が台無しだ。妾の服まで汚れてしまったわ」

 「も、申し訳ありません」

 「良い良い、妾は寛大じゃ。汚れた服をこの場で其方に舐めて貰うくらいで許してやろう」

 「え……」


 美しい女王が今度絡んだのは、混血の少女。彼女は美男に目がないと聞いてはいたが、女性にまで絡むとは何事だ?


(まさか……わざと!?)


 女王はここで遊んでいる。どちらでも良いと言っているのだ。本気で戦うのも、戦わずして奴隷を得ることも。どちらに転んでも、自分は何一つ困らない。彼女の中には自分の死がない。手駒を使って遊ぶことしか考えていない。自分の敗北を、彼女は想定していない。負けたことが一度も無いのだ。それを彼女は知らないから、あんなに邪気なく悪意を振りまく。


 「何?出来ぬと申すか?妾の大事な服を汚されて、そのままとは。恥ずかしくて妾はこんな服もう着られぬぞ!?其方はこの妾に、こんな公の場で全裸で歩けと?随分な物言いだな。早くやらねば、妾に控える狂犬が暴れるかもしれん」


 言いなりにならなければ自分の騎士がこの子を殺すが、良いか?女王が此方に聞いてくる。止めて俺が代わるのは容易い。


(しかし……)


 ここはシャトランジア。それも聖教会の総本山。ここで女王が悪さをしたなら、話をより確実に戦争まで持って行ける。そう、あの子を見捨てれば。

 イグニス様も何も言わずに状況を見守っている。ならあれは、必要な犠牲だとでも言うのか?


 「刹那様っ!」


 駄目だ。ここにアルドール様が居たなら、きっと……そんなことは認めない!

 俺は走るがその前に、女王は傍に控える騎士に命令を下す。


 「やれ」


 振り下ろされた白刃。間に合わない……!思わず目を逸らした俺の耳に、飛び込んだのは刃と刃が激しくぶつかった音。


 「お戯れが過ぎます、刹那様」

 「ほぅ……其方もカーネフェルの騎士だったな。今までどこに隠れて居た?」

 「テーブルの下です。私は犬の鳴き真似が得意ですので」


 彼女が指差すは、一番近くのテーブルだ。彼女はそのクロスを押し上げ飛び出してきたのだろう。


 「犬……?」

 「万が一食事の席で不都合がありましたら、私が犬の鳴き声を出して皆様が失礼が無いよう努めさせて頂く予定でした」


 絶世の美女相手に「どうぞご安心下さい、噯気でも放屁でも何でもなさって下さい」と恩どころか喧嘩を売るようなその語り。なんという出任せだ。女王が何かを起こすのを見越して、ジャンヌ様は隠れていたのだろう。いや、ひょっとしたら全てのテーブル……そのクロスの下には人が配置されていたのかも。


 「シャトランジアには聖教会には犬もおらんのか?セネトレアから輸入してはどうか」

 「生憎、教会は人間の保護で手一杯ですので、保健所は城に任せたいところです。セネトレアからの亡命者が年々増えましてねぇ」

 「はっはっは、違いない。送り返してくれても良いぞ?送料は其方持ちでな」


 女王とイグニス様の歓談。二人とも笑っているが、水面下で毒の送り合いをしている台詞だな、これは。


 「しかし食事の席で剣を抜くとは、些か礼儀に欠けるのでは無いか?しかもこの妾に向けるなど」


 どの口が言う。身分を盾にするなら、ジャンヌ様だって……負けてはいない。けれどそれを言えないのだから、この場をどう凌ごう?


 「申し訳ありません、私は聖十字上がりで祖国に仕えるようになったもので。つい、長年の習慣と申しますか、十字法が身体の隅まで行き届いているのです。目の前で幼気な少女に危害を加えられそうとあっては、見て見ぬ振りは出来ません」

 「……」


 ジャンヌ様もジャンヌ様で謝るようで謝っていない。それどこかやはり女王に喧嘩を売っている。なんと危ないやり取りだろう。


(だが……先程のように激昂はしていない)


 静かな怒り。あれは確かな目的を見据える目だ。ジャンヌ様は策がお有りのようだ。この場は彼女たち二人の独壇場。口を挟むことも出来ない俺は、ただそれを見守ることしか出来ない。しばし睨み合う二人……先に口を開いたのは!


 「片耳の聖十字……か。面白い!よもやこんな場所で、再びこんな目に会おうとは」


 俺の不安を吹き飛ばす程の明るさで、女王はからから笑い出す。もっとも、この場に似合わぬ異質さが、より大きな不安を連れてきた。


 「貴様、名は」

 「カーネフェルが王宮騎士(ロードナイト)、ジャン……アーク!」


 偽の肩書きと偽名を名乗るジャンヌ様。まさか本当に、何かするつもりなのか!?一人では危険だ。


 「ジャン!」

 「ふむ……」


 ジャンヌ様の傍へと駆けつけた俺を見て、刹那姫はにたりと笑う。


 「良かろう、そこな娘の無礼は其方二人のの顔に免じて水に流そう。代わりに妾の着替えを其方二人に手伝って貰いたい。これで如何か?」

 「そのくらいなら、喜んで。だろ?ランス」

 「は、はい!」


 ジャンヌ様は俺の同僚になりきっている。当たり前のように俺を名で呼ぶ。偽名だと思えば俺も多少は接しやすい。そうだ、相手は男だ。そう思え。これはジャンヌ様じゃない。ユーカーか何かだと思って接すれば良いんだ。

 彼女一人を女王の部屋に向かわせずに済んで本当に良かった。二人がかりなら目的を達成することもそうは難しくは無い。


(ジャンヌ様はコートカードだ。相手は元々王族、カードの相性では此方が絶対に有利!)


 どちらにしろ、もう戦争は避けられない。逃げる理由もない。如何に向こうに非がある形で終われるか、問題はそれだけ。始まりは既に刹那姫が悪。このまま逃がせばそれは何処にも残らない。ジャンヌ様のご友人の命さえ……その犠牲さえ無意味になってしまう。

 刹那姫を傷付けて、その血液を手に入れる。殺してしまっても構わない。

 カーネフェルのため、ジャンヌ様のため、そしてユーカーのため。素晴らしいじゃ無いか、これだけこの行動に、俺の大切なものが含まれている。迷わず俺は手を下せるはずだ。その過程だって……もう迷わない。


 「新しいお召し物は此方で宜しいでしょうか?」

 「シャトランジアの威張り散らす飾り狂った服など妾は好きではない」


 最高級の服を用意させても、女王はそれを身に纏わない。王家の姫がこんなはしたない姿で……と言いたくもなるが、そう思わせないだけの無駄な色香を彼女は纏う。例えこの女性が全裸で情けない振り付けの踊りを踊り狂っていても、世の男の八割は変な気持ちが起こるに違いない。


 「では此方など如何ですか?刹那様ほど妖艶な方ならば、カーネフェル風のドレスもお似合いになるかと」

 「臍出しドレスか。土産に二着くらい貰っていくか。このサイズで手配しろ」


 ジャンヌ様が差し出したドレスにも、女王は袖を通さない。下着姿のまま寝台に寝転がっている。


 「お優しいですね、どなたにか贈り物ですか」

 「可愛くない猫を一匹、それから可愛い可愛い女中姫を一匹飼っておる」


 扇で口を隠しながらケタケタ笑う、刹那姫。話したい話題に上手く繋げた俺を褒めるよう、彼女は一度目を細め微笑む。確かに美しい。そう思う。でも彼女は好みではないはずなのに、愛らしいと思ってしまう。そんな恐ろしい微笑みだ。


 「アニエスはからかい甲斐があってな。セネトレア王族唯一の生き残りだ。あの悔しそうな目、実に愉快。先日など妾のデザインした服を着せてやってな。その後城で号泣していたわ!あれは最高だった」

 「そんなに素晴らしいドレスを貰って嬉しかったんですね」

 「其方は愉快な男よの。本気で悪意を知らんらしい」


 其方の荷物を開けて見よ、女王に言われるまま荷物を開いたジャンヌ様。


 「こ、これは……」

 「す、凄いデザインですね」


 一見普通のドレス?いや、違う。わざと胸部を露出するようになっている。こんなデザイン着せられた人間はとんでもない生き恥だろう。


 「妾の愛妾だと晩餐会で見せびらかしてやったわ。始終涙目、怒りと羞恥で真っ赤で俯いてぶるぶる震えていてな。其方のどちらかでも着てみるか?本当はあの教皇聖下にでも土産として着せてやろうと思ったのだが、笑顔でばっさり返されたわ」


 生き残りのお姫様に、こんな物を着せるなんて。セネトレアという国に対する侮辱。それを行っているのが外部からやって来た女王様。セネトレア女王は遊んでいる。国内に対しても、国外に対しても。正しい統治を行う気など、さらさらないのだ。自分の愉悦のために、遊んでいるだけ。


(こんなことが、許されるのか?)


 その美貌だけで、国一つを作り替えた。凄いとは思う。恐ろしいとも。

 俺達は、腐ったカーネフェルを変えるために、一度都を手放さなければならなかった。だというのにこの女性は、その美しさで人を魅了し意のままに操る。この女さえ思い通りに出来たなら、真の平和を作り出すことも叶うかもしれない。だが、彼女はその美貌をそのためには使わなかった。


 「何だその顔は。妾がただのセクハラ目的でこれを作ったとでも?そんなわけがなかろう!妾も思ったのだ。タロックは肩、カーネフェルは腹露出服が民族衣装。シャトランジアでは上半身がっちり着込んで太腿露出ドレスが流行っている。となれば我がセネトレアは何か……スリットスカートだけではまだ足りぬ!そして思い至ったのがこれじゃ!片乳露出服っ!!」


 こんな変なことを真剣に語る刹那姫。これは完全に悪意の固まりだが、やっぱり何処か無邪気ささえ彼女からは感じられる。これは悪意のない、悪意……違う、悪気のない悪意だ。

 完全に、心の底から自分は何も悪くないと肯定している。あり得ない、自分が百パーセント正しいと思い込める人間がいるなんて……


 「契約騎士も、議会の連中も全員片乳露出服を強制しようとしたのだが……流石に見苦しくてのぅ」

 「な、何故そんなことに……」

 「我がセネトレアは、王がハーレムを持っておる。その権利は妾が継いだがの。後継者争いで血生臭いことなど日常茶飯事。女装やら男装、変装の暗殺者もよくある次第。胸を露出させれば余程の事が無い限り、性別など一目瞭然よ」


 一応目的があったのか。しかし賢そうには見えない。計算高いのに発想が馬鹿げている。そう思わせて裏を掻く……油断できない相手だな。この数時間で俺達はずっと彼女の掌の上。そこから逃れたのはイグニス様とジャンヌ様くらいなものだ。


(彼女のペースに惑わされてはいけない)


 気を引き締めて、俺は寝台の傍に跪く。


 「それで、刹那様にはどのドレスを?」

 「言わせるか?どうせ脱がせるのなら着る意味など無いだろう」

 「脱がせる楽しみがあるのでは?」

 「それは妾も同意見。着込んだ男は美しいな。何の欲も持っていないような顔を、曝く楽しみが出来る」


 生白い手を伸ばし、俺の頬へと触れる刹那姫。


 「ふぅむ……面白い仮面を付けておるな、美青年」

 「刹那様?」


 素顔を晒している俺に、彼女は妙なことを言う。


 「あの童貞王と似た瞳」

 「あの、ですから……アルドール様を」

 「人であって、人にない。かつては人であり既にそうではなくなったか、まだ人にすらなっていないかのどちらかな」

 「興味深いお話ですね。詳しく聞かせていただいても宜しいですか……もっと貴女の近くで」

 「先程まで狼狽えていた男には思えんな。そんなに祖国のために身を売るのが嬉しいか?」


 格好付けてもお前未経験なのお見通しだからなと釘を刺される。釘を刺した彼女はにたにたと危ない瞳で俺とジャンヌ様を見る。


 「だが、妾は何故二人も呼んだと其方は思う?」

 「見られていた方が燃えるタイプ……とか」


 相手は毒使い。長話は危ない。風の数術は俺は使えない。部屋へ来る移動中、自分たちの目、咽、鼻に水の数術で毒を防ぐ水を張ったが……長時間は保たない。早めに事を済ませたい。だけど女王ははぐらかす。


 「其方のその迫り具合からして、口説きの方は手慣れたものだ。カーネフェリーはろくな女がいないからのぅ……男にでも走ったか?」

 「は!?」

 「其方は顔は満点、性格も愛らしい。向こうの男は其方に比べればやや地味だが、痛めつけてやりたくなる愛らしさ。其方二人とも良い男で妾は選べなくてのぅ」


 い、嫌な予感だ。何か悪い流れになって来ている。アルドール様が倒れて良かった!!でも、嗚呼どうしてここに居ないんだユーカー!!お前とトリシュを連れてくれば良かった!!……いや、可哀想か。そ、それならせめてパルシヴァル!性格はどうあれあの程度ならやれなくはない、はず!俺でも!どうせ元々不仲だし、疎遠になっても困らない。……なんて最低な現実逃避で逃げられるものならっ!脳死覚悟で空間転移を……ああ、そんなわけにもいかないだろう。


 「長い船旅で疲れている妾では、流石に二人相手は無理じゃ。それから妾はまだカーネフェルのことに疎い。まずは其方二人の一戦を拝見させて貰うつもりで其方を呼んだ。そこな色男、其方のクソ生意気な男を女のように抱いてやれ」

(じ、ジャンヌ様を……俺が!?)


 絶対許されない駄目だ駄目だそんなことっ!そんなことするくらいなら俺はこの場で死ぬっ!!

 ジャンヌ様は、アルドール様の……。カーネフェルの希望だ!俺なんかが触れて良い方じゃない!俺は絶対に、あの男と同じ過ちは犯さない!犯したくないっ!俺が愛したいのは、誰でもない……この、カーネフェルだ!


 「断るのならそれでも良いぞ?先程の混血を始末させよう。ジャンとやら、其方はあの少女の侮辱の身代わりになるつもりで妾に刃向かったのだから、断るならばそれが自然な流れだろう」


 跪いた床、見つめる目が涙でにじむ。国のために、この人に触れられる。僅かでも、そんな心が芽生えた自分に吐き気さえする。俺は、結局は父と何も変わらない。最低な男なんだ。死にたい、死んでしまいたい。どうして俺なんか、まだ生きて居るんだ。アルト様……もっと早くに、貴方のためにこの命を使い果たしたかった!そうすれば、こんな風に悩むことも、苦しむこともなかったんです、俺は……。


(俺なんか……生まれて来なきゃ良かった)


 涙と嗚咽に震える俺を、すぐ傍に膝をついたジャンヌ様が優しく強く、抱き締める。俺は意識されていないんだ、こんな状況にあっても。聖十字に務めてきた彼女だ。傷ついた子供とか、女性とか……民間人相手への慈愛と同じだろう。そう思えば溢れる涙の粒も増えていく。


 「……灯りを消して頂けませんか?二戦目からは、ご覧に入れます」


 まだ諦めていない、強い口調でジャンヌ様が女王に告げる。それが叶えば大きな隙は出来る。彼女も俺も、国のためなら……自分を犠牲に出来る。それでも……信じて貰ってる。俺は信頼はされている。

 灯りさえ消えれば、俺も貴女同様女王を狙うと思ってる。このチャンスに、貴女に触れるなんて思っていない。俺には貴女に一切やましい気持ちはなくて、例え貴女に手を伸ばしても、それは貴女を傷付けたくてではないと。俺と貴女の正義のためだと貴女は信じてくれている。


(どうしてこんなに、悔しいんだ)


 例え戦友の一人に加えられても、俺と貴女の思いは同じじゃない。俺は国より貴女を選べないのに、貴女にそうされたことが……こんなに辛いなんて、俺はおかしいじゃないか。

 優しく気高い、スペードの女王。だけど貴女はカードその物で、俺をこんなに深く抉る相手は……貴女の他にいないだろう。


(残酷な人だ……貴女は)


 貴女の敵になれたなら、もっと貴女に近づけただろうか?嗚呼、馬鹿らしい。そんなことを思うまで俺は弱っているのか?


(助けてくれ、ユーカー……)


 お前を助けるために、ここに来たのに。お前の助けを求める俺を、愚かだと笑ってくれ。


 「よかろう、泣くほど嫌がるわけだ。男の顔が見えていれば反応もしないだろう、よいよい灯りは消してやる」


 灯りが消える直前俺が見た女王は、最後まで笑っていた。三日月のようにつり上がった口元は、確かな悪意をそこに刻んで……

ということで、ランスをひたすら苦しめる回。

やっとジャンヌがちゃんと6章のヒロインやってる気がして来ました。

ランスを友情とか忠義から恋愛に目覚めさせるのが本当難しくて、こんなに話数増えてしまってます。


ランスがこんだけジャンヌに恋狂ってるのに、惚れた理由が一目惚れっていうあれ。恋のはじまりに理由はないってことであり、「アルドール(カーネフェル王)の妻に問答無用で惚れる」っていう予定調和の恐ろしさを書きたかった。

別の周回ゲームなら、別の人にそうなってた……って思うと、今の彼の葛藤もとても可哀想に思える。今回ジャンヌをそこに配置したのはイグニスなんだから、……目的のためとは言え、酷い人ですね。

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