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32:Quid pro quo.

 アルト様、アルト様、アルト様。俺は貴方にお仕えします。俺の剣は貴方を守るための剣。俺の身体は貴方を守るための盾。貴方の愛する何もかも、国も民も兵もすべて、俺にとっては宝です。


 「ランス、今からこの隠れ通路を使って外に出て、こっそり遠乗りにでも行かないか?カルディアの連中の顔が懐かしくなってな。ここは一杯向こうの酒でも引っかけに……」

 「無理を仰らないでくださいアルト様……都貴族達に見つかれば、益々城での肩身が狭くなります。お暇でしたら宮廷楽師でも手配致しましょう」


 早速手配を。そう言う俺をあの人は、複雑そうな顔で案じ見る。


 「アルト様?」

 「いや、あのなぁランス。そう私を腫れ物扱いしないでくれて構わないんだよ?」


 初対面時に私の道化っぷりに吹き出してくれたお前は何処に行ってしまったんだと、大げさなくらいにさめざめと嘘泣きをするカーネフェル王。


 「私はあの日のお前を気に入って、こうして傍に置いたんだ。お前達にまで距離を置かれては、この中年おっさんはとても悲しいとは思わない?」

 「アルト様はまだお若くいらっしゃいますっ!」

 「ぶっ……くくく、はははっ、いやそういう意味ではなくてだよ」


 アルト様は何がおかしいのか笑い泣き。やっぱりお前は変わらないねと嬉しそうにそっと俺の頭を撫でるのだ。


 「お、恐れ多いです」

 「やれやれ、年々お前は堅物になるな。それではいかんぞ、口喧しい男は運気が逃げる、ような気がしないでもない。ふわっふわの柔軟剤を見習うべく今日は有給休暇でも申請することにして中庭で昼寝でもしようじゃないか。いや戦争のない日々の昼寝は極上の娯楽だなぁ」

 「アルト様、恐れ多くも柔軟剤自体はふわっふわではありませんが、そのお申し出はお請けできません。判子押し作業が貯まるとますます貴方が無能と言われ権力を削られることになりますので」

 「何、政治なんぞそれが得意な者に任せていれば良いんだよ。私にその才能はない。そして私が二度と戦わないような国になっていくなら、それはそれで喜ばしいこと。王なんて、そんな風に廃れていけば良いんだ、お前もそうは思わないかランス?」

 「それは困りますっ!」


 思わず叫んでしまった。その声にあの方は深い青眼をぱちぱちと、瞬きながら疑問を口に。


 「困る?それはお前が、かい?」

 「王が、貴方がいなくなったなら……私は誰に仕えれば良いんですかアルト様っ!?」

 「……いいかいランス。王は身分ではない。王は心さ」


 ふっと優しく微笑んで、あの人はもう一度俺の髪を梳いてくれた。


 「どんな風に世が移ろっても、人の本質は変わらない。お前が王と認め惹かれた相手がお前の王だ。私は確かに王だけれども、私の中にも王はいる。憧れる人はいるんだよ」

 「憧れ……ですか?」

 「ああ、そうさ。此方においで」


 差し伸べられた手。唇だけで音には出さず、あの方が「命令」と微笑んだ。恐れ多い。そう思いながらもその手に触れて、俺の中の罪が浄化されていくような安堵がそこから溢れ出す。


(王……これが、王。俺にとっての……唯一人の、王)


 大きな背中、温かな手。その手だって子供の俺よりずっと大きい。何て頼り甲斐のある、何て大きな器。この世の全ての罪を抱き締めて、許し、浄化してくれるような光を纏う……その母なる海を思わせる深海色の目。こんな大きな人でさえ、王ではなく誰かの民であるとその人は言っていた。


 「ほら、これが私の王さ。彼こそ私の目指す王の姿だ」


 連れて行かれたのは長い回廊、その果てだ。一番奥に飾られた、大きな大きな肖像画。そこには顔を削り取られた古びた絵画が飾ってあった。しかし何とも歪な絵。彼は見事な金髪をしているが……顔のある部分だけが真っ黒に塗り潰されていた。


 「初代……カーネフェリア様、ですか?」

 「ああ、そうだよ。彼の治めた治世はなんとも平和なものだった。パクス=カーネフェリーナなんて誰も言わないけどね、私が歴史学者ならそこを太文字にして教科書に載せてやりたいくらいさ」


 子供の悪戯のように、何とも無邪気に王は笑った。


 「あの、アルト様……どうして初代国王陛下にはお顔が無いのですか?」

 「お前はどうしてだと思う?」

 「ええと」

 「そうだな、学説としてはこんなものが主流だ。初代様はね、生きている限りは平和な世を作った。けれど彼の死後国は内乱で荒れてね、それを怨んだ王族かはたまた貴族か……誰かが彼の顔を削った。ああ、こんなのもあった。マイナー学説だけど、彼は建国者として讃えられていただけ。伝説だけが一人歩き。しかし史実は違う。王は本当は無能でどうしようもない男だったから歴史から葬ってやろうとした王がいた。それでこんな風にしてやった。今日の歴史は全て嘘っぱちだという学説も、昔はあった」


 けれどそれは昔の話。数術が発達した今、シャトランジアは過去と未来、真実の歴史を知る術を持つ。聖教会の神子はそんな力を持つのだとあの人は俺に教えてくれた。


 「それでは前者が真実ですか?」

 「私はそうは思わないよ。多数決の原理で決まる真実なんて真実たり得ないのさ、そうだろう?」


 王は小気味よく咽を鳴らしほくそ笑み、先祖の絵を懐かしむよう見上げる。まるで彼にはこの絵の人物の気持ちがはっきりと解っていて、それが彼ら二人だけの秘密だと言わんばかりの物言いだ。


 「私が思うにね……」


 その秘密話の輪に、こっそり俺だけ加えてあげると言うように、あの人は俺を手招きして小声で話すんだ。きょろきょろとご丁寧に左右を見回す仕草までして。


 「あの人は自分で自分の顔を塗り潰させたんだよ。それ以外の記録の絵も全て始末させたんだろうなぁ」

 「どうしてそう思うんですか?」

 「ははは、私だったらそうするからだよ。私のご先祖様ならきっと、そんな風にしたんじゃいかな?」


 自分で自分の記録を消す。建国者としての名前、それ以外の記録を歴史から消す。それはどういう意味だろう。


 「ランス、国を建てるというのはどういうことだろう?誰かと戦い、勝ち取ると言うことだね?……それは、それはきっと悲しいことだ」

 「悲しい、こと……?」

 「勝てば官軍って言うけどね、そう。勝てば英雄になってしまう。本人が望まなくても人は勝手に人を祭り上げるのさ」


 英雄。それはヒーロー。世界の全てが彼を中心にして回る。神々に愛された存在。死して尚、後世にも語り継がれるそんな物語の主人公。騎士の家の子である以上、俺もその言葉には憧れる。死がどことなく甘美な響きを漂わせるのはその言葉の魔法だろう。

 歴戦の勇士の口から漏れたその単語に秘められた重みに俺は酔いしれる。英雄、なんて素敵な言葉だなんて、ぼぅっと浮かれた自分が情けない。あの時のあの人の顔を、俺は今でも忘れられない。

 彼の海色の青は、何の光も届かなぬ程の、悲しみを帯びていたのだ。


 「負けた戦を一度でも知ったなら、そんな風には人は傲れない。傲ってはならない。英雄なんて言葉に甘んじるのは生涯たった一度の挫折も敗北も知らない……可哀相な人だけなんだ」


 本当の戦いを知る人は、負けを知る人。負けて、奪われて、傷付けられて……そうして必死になって戦うんだ。勝ちたいんじゃない。守りたいんだ。もう二度と失いたくないから、だから必死に食らいつく。その先の勝利は喜ばしいこと。だけど二本の足の下にはかつて自身が味わった敗北が横たわっている。勝った以上、同じ悲しみを誰かに与える者になった。その事実を受け入れて、英雄なんて傲れる愚者が何処にいる?

 吐き気がするだろう。反吐が出るだろう?歴史家達は勝利を偶像の王を美化し賛美し、敗北者達の信念も願いも汚し、浅ましく醜悪な亡者として頁に記す。そんな主観は要らない。要らないのだと彼は言う。


 「彼はね、画家に命じてわざと崇める気もない、起こらない……醜い素顔を描かせたんだと思うんだ。けれどそれじゃあ示しが付かないと次の王が描き直させようと顔を削らせた。そうしたらあんな風に黒塗りの絵が出てきた」


 よくよく見ればそれは塗り潰したのではない。顔の部分だけが僅かに凹んでいる。王はまず真っ黒な絵をキャンバスに描かせ、その上に偽りの王を描かせたのだ。


 「これは願いだよ、ランス」

 「願い……?」

 「“誰も私を崇めるな、そしてこの地に光あれ”。そんな彼の言葉が私には聞こえてくるんだよ」


 嗚呼、そうだ。俺は思い出す。絵の中の王が手にしていたのは剣ではなく……何故か火の灯された松明だった。

 その願いは内乱の後に……勝者の胸に届いたのだろう。この絵を削らせた次代の王は、きっとこの絵を前に泣き崩れたのだろうな。そんな光景までありありと浮かんで来る説得力がそこにはあった。そこから暫くの間カーネフェルが平和を保てたのは、犠牲を出して玉座を手にした王が、初代国王の願いを守ろうと必死に国を立て直したからなのだろう。しかしその間玉座を守った王達は……回廊の中の額縁に姿はなく、名前すらそこには刻まれては居ない。


 「アルト様……これはその後の王が、彼を倣ってのことなのですか?」

 「いいや、この間は歴史書にも載っていてね。二代目が聖教会に掛け合って作った法律の力だよ。十字法の大元になった法だね。私利私欲の戦や内乱を起こした者は歴史にその名を刻んではならない。その姿を記録してはならない。そういう刑罰があったんだ。これは死刑よりも重い罰だね」

 「そうだったんですか……」


 空白の額縁が並ぶ回廊は、歴史書よりも悲しく重い……真実の残滓を感じさせる空間だった。その空気に押し潰されて、俯いた俺に向かって……あの人は世の中そう捨てたものじゃないさと軽く笑うのだ。


 「ランス、私は戦争の中に生まれた王だ。だからね、私は私より後に生まれた子供達には平和の中で生きて貰いたいんだよ。私の権力が減るのは平和の証。王が必要なくなっているという事実。そう考えればそう、悪くもないさ。権力争いに負けて、それで本当の平和が訪れるのなら、王は敗北を肯定するものだ。私の首一つで私の民が幸せになれるならそれは国王冥利に尽きる」

 「アルト様……」

 「しかし、私が負けて私の民が苦しむのなら……私は何があっても負けるわけにはいかない」


 侵略戦争。負ければ相手方に歴史を弄られ既存の文化も風習も汚される。けれど勝ったところで手にする物は何もない。お前達が大きくなる頃に起こるであろう戦は、私が生まれ育った戦場よりも悲惨なものになるかもしれないと王が呟く。


 「だからこそ私はそんな戦が起こらぬように、対話をしなければならないと思う。そう、対話も悪いものじゃない。シャトランジアの聖教会との対話を続けた結果、解決に繋がった問題も多い。対外交渉の場ではまだ私も戦わせて貰えるからね。都貴族達にも私腹を肥やすことよりも大事なことがあるのだと虎の威でもを借りてでも、訴えなければなるまいよ」


 王は諦めては居ない。腐りきった都貴族でさえ、この方にとっては民であり生きる宝なのだ。王は全てを肯定する。恥ずかしい王はあれど、恥ずかしい民など一人も居ない。胸を張ってそれすべてが自分の民だと言わなければならない。その人を恥ずかしいと思うなら、その人に恥ずかしい行いをさせるような国にしてしまった王が誰より恥ずかしく、罪深いのだとその人は言うのだろう。


 「それでも戦争が起きてしまった時は……ランス。私はお前の力を必要とするだろう」

 「……はい」

 「だからそれまでは、お前達には子供らしく、人間らしく生きていて欲しい。それが私の我が儘だ」


 だからもう少し肩の力を抜いて生きてはくれないか?王が俺に訴える。その言葉は身に余る光栄。けれど……この身体に流れる二人の人間の血が、優しい言葉を拒ませる。


 「アルト様……それでも私は、俺は……俺が許せません。貴方が大好きだからこそ、俺は俺の存在が許せないのです」


 俺は塗り潰したい。削り取りたい。恥ずかしくて堪らない。こんなにも素晴らしい王を傷付けたあの父親を、この俺自身を。


 *


 ゆらゆらと揺れる水面。見つめて思い出すのは懐かしい人との思い出。逆光に塗り潰された自身の顔が、俺の王が目指した英雄の話を多い起こさせたのだ。


(英雄、か)


 カーネフェルの、特に南部の人は俺をそう呼ぶ。しかしこの北部にあって俺は唯の色呆け領主の息子に過ぎない。ここでの英雄はユーカー。多くの敗北を知る彼を、それでもまだ人は崇めるのは何故だろう。

 俺にはたった一度の敗北も許されない。俺はそういう騎士の偶像になってしまった。父との再会以外にもこの土地は俺に多くの気持ちを与えてくれたけど、その明るい気持ちの一つ一つを消していき、暗い気持ちも消していく。一対の光と影をそこに残せば、あの不思議な思いを与えてくれる聖十字の少女の姿……そうしてそんな彼女を見つめる俺に、低俗な意識を植え付けようとする父親の姿。自身の罪を正当化したいのか?蛙の子は蛙だとでも?俺は俺だ、ようやくそれを思い出せたのに……あの男は俺が自身の一部でしかないと暗く語りかけてくる。


(アルドール様……)


 酷く脅えられていた。俺が貴方のために懸命になろうとすればするほど……俺は貴方を追い詰めていく。命令に従った。従いカーネフェルのために尽くした。それの何が問題だったのだろう。……などとあの方を王として接すること自体が誤りなのか?彼を唯の少年として接するユーカーなどを見るに、それが正解のようには思える。しかし王を友となど呼べるはずもない。父は、あの男はそうしてアルト様を裏切ったのだ。それを思い起こせば、益々俺の心は頑なに、アルドール様との距離を選ぶ。

 俺がアルドール様を裏切らないために必要なこと。それは適度な距離感。臣下としての礼を忘れず尽くすこと。それに尽きる。俺が俺なのだと言うことを思い出した今でも、俺は俺としてではなく騎士として生きることを選ばなければならない。それが俺という人間にとっての喜びだとしかと教え込まなければ、俺自身に。


(母さん……俺は)


 もしも俺がカードではなくて、この思いを諦めるためエレインを娶っていたのなら……俺は彼女を母さんのようにしてしまっていた。


(エレイン……)


 イグニス様の心遣いとユーカーの弱さで、隠された少女の死。つい昨日の今頃には同じ城の中暮らしていた。まとわりつく彼女を煩わしいと邪険にし、俺は何も知らないままジャンヌ様への思慕を募らせていた。


(何と愚かな……)


 例えそれが偶像であっても、俺はもう少し彼女に優しくできなかったのだろうか?何とも俺は薄情な。彼女と、彼女を演じてくれた者の死を聞いて、涙の一滴流せない。今朝の一勝は彼女たちの犠牲の上にあったはずなのに。

 どうして愛してやれなかったのか。自らの心に問いかける。それでもがらんどうの心は何一つ答えを返さずに、何処までも何処までも俺の投げかけた声だけ遠く響いて行くだけだ。

 今朝方俺を怒らせたのは、何だったのか。あんな父でも父親だと、はっと我を失ったのか。自分自身に繋がる者、幼少の寂しさに縋る未練がそこにある。二人の少女ためなどではあるまい。俺は未だ幼い心を忘れられずに、得難い思慕に焦がれ狂った。

 あの男はマリアージュという少女を庇って、罪の意識でそこに倒れた。嗚呼、俺はあの最低な男にすら、男として劣っている。勿論そんなことにあの時の俺は思い至らず、父との和解もならぬまま、彼を失うかも知れない我が身の不幸を嘆いただけだ。いや、それとも……アルドール様を悲しませたあの山賊が許せなかった?俺は無意識のうちに父に劣っていることに気が付いて、その怒りをぶつけるためにさも忠臣ぶろうと剣を振るったのだろうか?


(解らない……)


 何も見えない。自分が何を考え何を思い、動いているのか。まるで見えない。取り憑かれる怒りという感情は、俺の中で朧気な俺の輪郭を、益々歪めてしまうのだ。

 アルドール様を悲しませた、その非礼を詫びたい。けれど俺は再び同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。今朝の怒りの絡繰りを、己の心を正しく理解するまでは……仕える主を何度となくあんな風に脅えさせ……遠くに追いやってしまうかも。


(どうしてしまったんだ、俺は)


 少し前までの俺はこんな風ではなかったはずだ。カルディアでアルドール様に出会った頃、俺と彼はもっと上手く話が意思の疎通が出来て居たはず。

 あの時の距離感を、己の心を取り戻す。それだけで全ての歯車は噛み合うのに、どうして今それが出来ない?


 《ランス、ちょっと良い?》

 「どうしたの、母さん?」


 城を立つ前、湖に養母が現れた。ジャンヌ様が来る前……死んだエレインとこの湖に眠る母親に出立の挨拶をしようとしていた時だ。愚かな俺はこの数日、母に至ってはろくに探すこともしなかった。彼女は俺が嫌いだったから、多分死んでも俺に会いたくもないのだろう。エレインの亡骸のように浮かんでくることもなく魚の餌になったのか。

 自嘲の笑みを浮かべていたところで、自ら自己召喚数式を発動させたヴィヴィアン母さんがやって来た。


 《探すの苦労したわよ!もう!私があげた首飾り持ってないんだもの!》

 「あ、ごめん母さん。アルドール様が触媒失ったからちょっと貸してて」

 《あの子に?……うーん、水属性の攻撃少しは弾いてくれるからそれもいいとは思うけど、それならあの王様にくっついてて貰わないと困るわよ》

 「俺はそうしたいんだけど……アルドール様は俺が苦手みたいだから」

 《ランス……》


 俺の自虐話に養母は少し顔をしかめた。俺に対してこんな養母の顔が向くのは久々だ。そう言えばここ数年、養母には褒められてばかりで呵られたことがなかった。


 「どうかした、母さん?」

 《ランス、それじゃあ駄目よ》

 「どういうことかな?」

 《ねぇランス。もっと貴方は自由に生きるべきよ。私が世界中の水場を渡り歩いて貴方を逃がしてあげても良い。貴方が好きだって言う女の子も一緒で良いわ。そうして審判が終わりになるまで逃げ続けても私は構わないわ》

 「何言ってるの、母さん……?そんなこと出来るわけがない。俺はアルドール様に仕える、このカーネフェルの騎士なんだから」

 《ええそうね。貴方は騎士よ。それでもランス、騎士が貴方ではないの。もっと自分を、自分の気持ちを大切にして》

 「母さん……、それ……どうして」

 《自慢の息子を取られるのは悔しい。だけど私が、人間でもない私が育てた貴方が人間になれたことが、私は嬉しいのよ。あんたにはあんたをあんなに強く思ってくれる奴が出来た。私の自慢の息子をそれだけ愛してくれた奴が、あんたの幸せ願ってるのよ。母親の私がそこまで言われて黙ってるわけにはいかないじゃない!》

 「……俺の話は、筒抜けなのか」


 思わず苦笑してしまう。俺も大概だけど本当にユーカーは、俺に過保護だな。


 《あの子あんたのために大嫌いな私に土下座までしたのよ?あんたの最高の友人がそこまであんたの幸せ願ってくれてるのに、あんたは惚れた女の一人や二人も攫えないの?意気地無しっ!》

 「二人は犯罪だと思うな」

 《そう言う話じゃないわっ!》

 「俺の幸せか……母さん、俺は幸せだよ」

 《嘘っ!嘘ばっかり!》

 「いや、本当に幸せなんだよ俺は今」


 俺と一緒に生きてくれる人がいる。道連れになって、死んでやると言ってくれる人がいる。

 そう思えば濁り固まった心がすぅと浄化されていくようだ。


 「ユーカーがアスタロットに恋した時、俺は応援もしてやれなくて、彼女の死に清々したくらいの酷い男だ。一番の友達を取られたようで悔しくて」

 《あんたが前にも増して剣にのめり込んだのってその頃よね……?》

 「うん。そうだったね」


 だけど俺が今こうしていて。あいつはそんな俺を説得しようと嫌いな相手に頭を下げる。そんな親友、得難い友だ。


 「もし俺が死んで、何処かでもう一度生まれることが出来たとしても……俺はあいつみたいな相手は作れないと思う」

 《ランス……》

 「これを幸せと言わないで何を幸せって言うんだ、母さん」


 俺がそう微笑めば、ヴィヴィアン母さんはもう何も言えなくて……元の住処へと帰ってしまう。アルドール様と、もう一度ちゃんと話をしよう。怖がらせてしまったことを詫びよう。俺の心を洗いざらいお伝えしよう。大丈夫、今ならきっと出来る。あの頃みたいに戻れるさ。

 でももう少し、勇気が欲しい。深呼吸を何度かしよう。そうしてそれから立ち上がろう。


 「ランス様?」

 「へ?じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃジャンヌ様っ!」

 「ふっ……そんなに驚かなくても」


 しかしそこで彼女に出会った。穏やかに流れたはずの心の水面。そこに一気にさざ波を掻き立てる風の化身。綺麗事も吹き飛ばす、荒々しい嵐だ。息も出来なくなるように、彼女から目が離せない。

 嗚呼、他の誰に呼ばれても何も感じない言葉。名前を彼女に呼ばれただけで、俺はこれまで生きてきた間の記憶さえ、朧気に霞んで消えそうになる。

 友として、友として。置かれた壁を歯痒く思う心すらない。それを隠れ蓑にしてでも、貴方の美しい名前を音として発することが出来たなら、それだけで俺はこの恋が叶ったような錯覚と幸福感に包まれる。


(駄目だ、駄目だっ!)


 そんなことは出来ない。絶対に出来ない。甦るのは父の言葉だ。

 こんなに清らかなこの女性を、あの汚らわしい男の血が流れた俺が触れて良いはずがない。俺は生まれ出でたその刹那より、この世の誰より穢れているのだ。


(嗚呼、それでも……ジャンヌ様)


 何て甘美な響きだろう。かつてのユーカー、トリシュが見つめた世界とは、こんな風に美しく見えていたのか。俺は今まで何処で何をしてきたのだろう。世界はこんなにも美しく光り輝いて見えただろうか?

 それでも一度。たった一度で言い。貴女を呼びたい。名前で、恋人のように。

 言いたい。言ってはならない。多分それを口にしてしまったら、その時俺の命は終わってしまうだろう。そんな幸せ、一瞬で俺の命を吹き消すほどの僥倖だ。


 *


 ここは何処だろう?ランスはそっと目を開く。直後に甦る痛みに、自身の敗北を思い出す。相手が最弱Aのタロック王。それにも勝てないとは、俺の幸福がそこまで磨り減ってしまっているからなのではないか。俺の命はもう燃え尽きようとしているのではと、そう思ってぞっとする。


(どうして……俺は)


 これまで何度だって死を願ってきた。主を守れずおめおめと生き延びた生き恥。負け戦でもせめて弔い合戦に華々しく死にたい。そう思ってここまで来たのではなかったか?

 死をこんなにも近くに感じることで、一人ずつ見知った顔が遠離る。最後に胸の中に残るのは、新たに頂いた主である少年ではなく……これまで数度しか話をしたことがないあの少女。


 「……ジャンヌ様」


 ふっと零れた言葉。恐らく今俺はとても悲しい顔をしている。あふれ出る後悔は全てあの人への気持ち。何故貴女は戦うのか。いやそもそも貴女は何だ。年齢だとか趣味だとか、思えば故郷はどの辺りなのかさえ俺は知らない。貴女がこれまでどんな風に生きてきて、戦うことを選んだのか。それが知りたい。いや、違う。何でも良い、些細なこと。どんな下らないことでも良い。俺はもっと貴女を知りたい。

 こうして生かされているのは相手が俺にとどめを刺せないカードだからに過ぎない。


(何をやって居るんだろう、俺は)


 悔しかった。こんなに醜い悔しさで涙が出るなんて、俺は初めて知った。

 アルドール様の言うことはもっともだ。俺はユーカーが傍にいなければ、満足に戦うことすら出来ない。俺は騎士の中で一番弱いんだ。カードとしての強さはトリシュにユーカーにパルシヴァルに劣る。剣と数術だけが俺の力。それさえ幸福に見限られては意味がない。俺のこれまでの人生、その積み重ねも才能も、全てをそれは無に帰すだろう。

 当然だよな。ジャンヌ様の幸福値は俺ではなくカーネフェルに、アルドール様に向かって居るんだ。


(くだらない……)


 何を舞い上がっていたんだろう。彼女が俺を名前で呼んでくれた程度で。友と認めてくれたくらいで。それだけで俺は満たされたような気持ちになって、今なら誰にも負けないとさえ思えた。それがどうだ。この様だ。

 身を起こす気力すらない。黴臭い匂いのする牢の中、俺はボロ切れのように転がっている。自嘲の笑みで辺りを見回し、他には誰もいないことを知る。


 「そうか……俺は」


 ここで初めて俺はほっとする。ここにアルドール様が居ないと言うことは、俺は彼と彼女は守れたのだ。最低限の騎士としての務めは果たせたのか。そう思って、強がる心も潰え、堰を切ったよう嗚咽が漏れた。

 不運とはこんなにも、屈辱的なものなのか。運がないというだけで、天地は逆さに変わるのか?相手は最盛期も過ぎた老いた王。経験でこそ劣れども、力も体力も剣の鋭さも決して俺は負けないはずだ。俺の剣には何が足りない?幸運……?相手はたかがA!あの果てしなく弱いアルドール様と同じ最弱のAっ!それを前にして主の仇を取ることすら俺には出来なかったのか!


(何が、“ジャンヌ様”……だっ!)


 俺はあの男と同じにはならないっ!嗚呼そうだ!あんな少女どうでも良い!どうでも……どうでも良いと思うんだっ!思い込めっ!アルト様の復讐を、せめてそれだけ出来ずに何が騎士か!アルドール様を守れて良かった!?違うだろうっ!俺は誰の騎士だ!?あんな頼りない……小さな背中の子供の騎士か!?違うっ!俺の憧れた人は……俺の王は今だってあの方だ。


 「くそっ!」


 歯が軋むほど強く噛み締め、石床を拳で叩く。その衝撃で腹の傷口が再び開き、苦痛に呻いた。思っていたより傷が深い。どうしてそれを忘れていたのか。よくよく思い返してみて、忘れていた数術の気配をすぐ傍から俺は感じた。その気配に伴い、腹の痛みが段々とまた引いていく……?これは……


 「……アルドール、様?」


 首を動かせば、マント裏側、背中からしがみついた少年が居る。ここに来るまでに蹴られ殴られたのだろうか?あちこち切り傷青あざだらけのボロ雑巾のような姿。

 気絶している。気を失ったまま、回復数術を掛け続けてくれていたのだ。俺なんかを庇って……同じ牢に入ろうと、こんなになるまで、こんなになっても……。


(なんて、小さいんだ……)


 俺から離れないその手はあの人とは比べものにならないほど小さく頼りない。それでもそんな手を傷だらけにしてまで、俺にしがみついている。


 「アルドール様……俺は……」


 今の今まで貴方を王とは認めずに、貴方に仕えていました。俺の自己満足のために貴方を利用して、そうしてジャンヌ様とのことを羨むような最低な男でした。


 「アルドール様っ……」


 どうしてこんな俺を庇うんです?何なんですか貴方は!俺なんか、俺のこと……貴方は何も解ってない。いっそ惨めだ!ユーカーよりトリシュより、俺を理解していない。関わりの薄い、遠い人間だったはず。そんな貴方が何を必死に俺なんか守ろうって言うんです!?口先だけで仕えても、身体は貴方に跪いても、俺の心は貴方に服従なんてしていなかった!例え跪かなくとも、貴方を省みるユーカーの方がまだそうだ!立派な騎士だ!俺は最弱で最低な騎士!貴方だって、俺なんか本当はどうでもいい!要らないはずだ!そんな要らないゴミにどうして貴方はしがみつく!?こんなに……必死になって!下手をすれば……貴方は死んでいたかも知れないのに。

 ジャンヌ様が言われた言葉。アルドール様は、俺と友になりたいのだとそう仰った。その気持ちがここまでのことをさせてしまっている?これ以上彼を危険な目に遭わせないために、俺は臣下の礼節を捨てるべきなのか?


(いや……それ以前の問題だ)


 俺は迷う。残りの幸福値。命を削ってまで貴方を癒そうと思えない。貴方が死ねば……貴方が死ねば……


 「そう。アルドールが死ねば貴方が本当に最後のカーネフェリア」

 「っ!?」


 突然耳元で聞こえた女の声。くすくすと小気味よく笑うそれは……イグニス様とよく似た声色。いや……これには覚えがある。


 「道化師……っ」

 「しーっ、騒ぐと兵士が来ちゃう」


 その場に身を起こせば、道化師が片手の人差し指を俺の唇に押し当てる。すると俺の口が開かなくなる。麻痺の数術でも使われたのか?回復しようにも残りの幸福値が気になり、回復できない。それに気付いた道化師が、種明かしをしてくれる。


 「ああ、安心して。それ貴方の数術じゃ解けないよ?それに……私がここにいるってことで何か気付かない?」


 まさか。言われて思い当たった節に、彼女はにたりと笑んで頷いてみせる。


 「私暫く観察しようかなって思ったけど、ほらAってみんな私の敵みたいなものでしょ?敵状視察ってことで近くで見てたの。私ってアルドール大嫌いだし?タロックの王様の応援したくなる気持ちって解るよね?だから負けたのに、貴方ってとっても面白いのね、あはははは!」


 幸福値の差で負けたのではない。その場に味方する幸福の総量で負けたのか。その絡繰りにほっと安堵した。それなら何の気負いもなくアルドール様を回復できる。思わず自分の顔が緩むのが解るが、道化師はそこに疑いを潜り込ませる。


 「ねぇ、素敵な青目の騎士様?アルドールが死ねば貴方も万々歳じゃないの?」

 「……」


 何が言いたい。何故それをお前が知っている。凄みを利かせて睨み付ければ、彼女かどうかも怪しい道化師はにやにやといやらしい笑みを浮かべて俺を見る。


 「だって他に玉座を継ぐ人居ないじゃない。アルドールは咄嗟の嘘かどっかの女に種付けして遠くに逃がしたなんて言ってるけど」

(え……?)


 咄嗟の嘘?戦いに夢中になって途中からは記憶が曖昧だ。とはいえ全く覚えがない。それならその発言は自分が気を失った後?


 道化師はどうせ嘘だと言っている。しかし……アルドール様には、ジャンヌ様が居る。アルドール様はジャンヌ様を逃がした。まさかあのアルドール様がそんなに手が早いとは思えない。想像できない。けれど……完全に否定する言葉が見つからない。


(いや、そんなはずがない)


 彼女は兵士だ。戦いのために必要な人に手を出す馬鹿があるか。身重の身体で戦場に立たせるわけにはいかない。そうだ。カードの戦力を考えるなら、イグニス様もそんなことは許さないだろう。第一あの結婚は彼女をアルドール様の護衛として配置するだけのものであって、実際に次代の王を作るためではないのだ。


 「あれ……?その反応怪しいな。もしかして、アルドールの傍に女の子がいるの?みんな殺してあげたのに……まだ、いるの?」

(しまった……っ!)


 全身に冷や汗が浮かぶ。道化師がこれまで殺した人間は、全てアルドール様に関わる女性。ジャンヌ様は男装していたからまだ気付かれていない?しかし相手が本当にイグニス様と同等の数術使いなら見えているはず、性別すらも数字として目に映る。俺程度の純血の数術使いではそこまで至らないが……


(この女……それでは本当の正体は純血か?それとも、余程才能のない混血?)


 しかし勘が良い。妙に聡い所がある。アルドール様への執着を、嫉妬……鋭さそれを女の勘と形容するならこの女は本当に女?けれど女であるイグニス様とのやり取りは、女性らしさを感じさせない物言いだった。何なんだ、こいつは。よくわからない。それでもこの上なく危険。ジャンヌ様に近づけさせてはならない。


 「仕方ないな、話して良いよ」


 道化師が肩をすくめたところでようやく俺の声が甦る。大声は出せないが、小声は発せられるようになる。なってすぐさま俺は言う。他に女……、浮かんできたのは女装した従弟の姿。


 「イズーには手を出すな!」

 「イズー……?誰、その子」

 「くっ……」


 食らいついた。それを確信しほっとする心、そして後悔。俺は何てことを。しかし今更引き下がれない。王とその大事な方を守る。そ、それが騎士として正しいことだ。正しいことであるはずだ。俺個人の感情ではない、これは。


 「話してくれたら、私は貴方には手を出さない。その後貴方が何をするのも貴方の自由。この国の王になってもいいと思うよ」


 俺は振り返る。アルドール様は深く眠っている。この会話は聞こえていない。それを確かめて、俺は道化師に嘘の情報を与えてやった。


 「イズー……イゾルデは、俺の友人ブランシュ卿トリシュの恋人である美しい金髪の少女だ」


 ごめんユーカー。心の中だけじゃなくて、今度会えたら土下座するよ。買い物にも付き合うし食べたい物何でも奢るし作ってあげるし、肩でも揉もうか?

 コートカードとはいえ道化師相手では荷が重いのは重々承知。それでも道化師はシャラット領でユーカーを見逃したんだろう?タロックのキングカードですら好意的だった。この場を打開できるのは、俺が縋れるのはお前しかいない。こんな時だけ、本当都合良いよな俺は。本当に俺は最低だ。これでお前が死んだとしても、お前のために泣いてもやれない屑男だ。悔しげに唇を噛み締める様は演技じゃない。本格的に見えるだろうな。


 「それがアルドールとどう関係あるの?」

 「道中多くの親しい人を失ったアルドール様は塞ぎ込んで居られた。そんなアルドール様を支えたのが彼女だったんだ。アルドール様は彼女とトリシュが思い合う仲であるのに気付かず彼女に求婚してしまった」

 「へぇ、それで、ふぅーん……そっかぁ。でもその子ブランシュ卿の恋人だったんだよね?それじゃあその尻軽女、どっちの子供が宿ってるのなんかわからないんだよね?」


 語尾の上がりが奇妙に愉快。何とも楽しげに道化師は笑っていた。


 「ありがとう、素敵な騎士様。私その子のお腹かっ捌いてどっちの子供か調べてくるね」


 胎児の大きさから行為が推定何日前か、数術での解析でその父親を曝く。その上でアルドール様を嘲笑ってやろうと道化師は浮かれその場に消えていく。空間転移の一種だろうか。となればやはり純血の線は消えるか。


(あんな事を言ってしまったが……大丈夫だろうかユーカー)


 そもそも女性じゃないから大丈夫か。第一、彼は今うちの領地の守りに就いている。となれば道化師が探りを入れてきたとしてもイグニス様は適当な兵士を偶像のイゾルデに仕立ててなんとかしてくれることだろう。貴重なクィーンカードをむざむざ犠牲にするはずがない。そう結論づけて、俺は頷く。

 幸福値はまだあるらしい。問題は騙したと知られたときに道化師がどう出るか。となればこの場を早く脱出するのが一番だ。

 出し惜しみは出来ない。自分と主の回復を施して、水の刃で牢を切った。

 元々水の数術は守りや癒しに向いた技が多く、攻撃的な数術は難易度が高いかなりの大技なのだが、思ったほど幸福値が減っていないようにも思う。


(これは……)


 暗い牢の中、何かが光って見える。それはランス自身がアルドールに与えた、養母から貰った水入り水晶の首飾り。


 「ヴィヴィアン母さん……」


 触媒だったとは聞いていた。そうか、これは水の数術に特化した触媒だったのか。炎の数術がメインのアルドール様では使いこなせないかも知れない。ひとまずここは返して貰って置こう。首飾りを身につけて、今度は水の刃で天井と壁の一つに穴を開けた。視覚数術で天井の穴だけ誤魔化し、上の階へ。牢を破る音を聞いた兵達は、これを見れば侵入者が牢を破り壁から逃げたと思ってくれる。


 「俺は……俺は弱いな、本当に」


 何が最高の騎士だ。守られている。養母さんに、ユーカーに……今もこうしてアルドール様に。

 英雄なんてなるものじゃない。自我を見失う傍らで、自尊心だけ勝手に積み上げられる。俺の心は何時の間にやら傲り昂ぶり、他者を見下す目を頂いていた。アルドール様が詭弁でも俺よりユーカーが優れていると言えば俺はそんなはずはないと怒り、見下した父に俺が劣ると知れば暴走し、ジャンヌ様がアルドール様を見れば何故俺ではないのだと憤る。

 それを反省したところで、積み重なった自尊心を砕いて捨てることも出来ない。それが更なる怒りを生むのだ。

 いっそ死んでしまえば、こんな風に思い悩むこともなくなる。尽きてしまえばいい。俺の命の灯火すべて、カーネフェルとアルドール様のためだけに、ちゃんと使える内に、そう。

ランスは掘り下げれば掘り下げるほど悪い男になっていく。そこが彼の魅力です(え?)

恋の盲目っぷりを書こうと思ってるのにみんな面倒臭い性格のせいで言い訳がましいですね。

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