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28:Beatus, qui prodest, quibus potest.

少しグロ回注意報。敵も味方も死に回です。

 夜が長い。そう感じるようになったのは何時からか。イグニスは一人考える。

 今日は誰とも一緒にいたくはなかった。こんな日は弱音も吐きそうになる。計画が変わってしまった以上、尚更。


 部下を死地へ赴かせる事は慣れない。これが何度目の……気が遠くなるほどの繰り返しなのだとしても、彼女は今ここに生きていて。その命を奪う選択をしたのは間違いなくこの僕なのだ。僕の一つの償いがまた新たに多くの罪を生むのだ。その自覚を僕は誰より強く胸に抱いていなければならない。


(誰がお前達に祈るものか。これは彼女への祈りだ)


 囁きかけてくる声に僕は断りを入れる。その上で僕は祈る。

 僕は運命の輪全てを死なせることになるだろう。アルドールを生かすと言うことは須くそう言うことなのだ。

 だからこそ僕は平時は彼らを甘やかす。僕に出来ることは何だってする。教会の地下本部が彼らの帰ってくる家だ。任務の度に彼らにお帰りと言ってあげることが僕の仕事だった。

 だからこそ僕は次期神子になってから審判が始まるまでの時間を、彼らの教育育成全てに費やした。唯の一秒もアルドールのために使ったことはない。会いに行く時間などあれば、その時間を死に行く彼らのために使った。割高の給料は自由に使わせた。その金で本格的に女装に目覚めた子もいるし、美食に目覚めた子もいる。その金で女遊びをした馬鹿もいるし、その金をそっくり僕に戻してお布施にと笑った子もいる。みんなバラバラ。そんな個性派ばかりをまとめ上げるのは何度繰り返しても大変なことだった。それでも手を焼くからこそ、何時しか……何度目くらいからだろう。僕は彼らを本当に好きになっていったんだ。だからこれは不器用な僕からの、僕なりの彼らへの愛し方だったのだ。


 「№13死神(ラディウス)、№12吊された男(ラハイア)。そして……№6結婚(マリアージュ)


 これで三枚目。運命に刈り取られてしまうのは。


(運命の輪、か)


 なんとも皮肉な名前だ。誰が居なくなっても運命は回り続ける。これは犠牲の墓標だ。車輪は最後の一輪になるまで回り続ける。そんな彼らを回すのがこの僕なのだから、僕は残酷な運命の化身そのものか。全ては僕の責任で僕の咎。僕が背負わなければなるまい。誰に甘えることも出来ない。今日ばかりは、この夜は……僕はアルドールにだって甘えられない。精神的にボロが出る。


 「マリアージュ……」


 それは僕が与えた名前。思えば彼女も……哀れな子だった。

 僕が彼女を拾ったのは墓地でだ。迫害による処刑。彼女は死の直前でそこから鳥か獣か何かに変身して逃げ出したのだろう。けれど、元の姿に戻れないと泣いていた。自分か誰かも解らない。何か得体の知れない物体へと成り果てていた彼女に、名前と姿と情報を与えたのは僕だった。

 彼女の本当の顔は僕も知らない。彼女自身覚えていない情報を、僕が情報として抜き出せるはずもないのだ。彼女が処刑される前に助けることは出来るだろう。それでもその時会いに行っても彼女は既に彼女ではない。

 それにそれでは彼女は僕の仲間にはならない。彼女の不幸を見過ごして、僕の手助けを欲しがる場面を再び作り出す。初めて出会った時のように。そんな僕の行動は偽善に満ちあふれている。僕は僕のそんな偽善者面には心底反吐が出る。


 「それで君は、君の魂は救われたのだろうか?」


 これがもう何度目かになる問いかけだった。答えは……今回も聞こえなかった。

 それならまもなく……僕の所に彼が殴り込んでくるだろう。さて、どうした物だろう。寝たふりをするか。実際消えるか。それとも甘んじて一発殴られるか。

 いや、そのどれでもないだろう。今回の彼は今回の僕を殴らないだろうから。


 *


 マリアージュ。それが私が新たに頂いた名前。

 幼い頃から私は自分という物がよくわからずに生きていた。混血であることは、自己を否定されること。否定され続けた結果、私が編み出した式が変身数術。

 自分ではない誰かになること。自分を否定してでも誰かに望まれる何かになる。昔、私を魔女だとか悪魔と呼んだ人がいた。その人が初めて私に暴力以外の物を贈ってくれた。それがマリアという名前だ。その日から、私はマリアになった。それは確か、私の母だった人の名前だと……頭の片隅で覚えていたけれど、私は気にしなかった。彼女であることが私が生き延びる方法だったのだ。

 だけど何時からだろう。私の存在を訝しむ者が出てきた。男は偏屈で村のみんなに嫌われていた。だからその男の妻が死んだと言うことを知らない人間は多かった。数年姿を見せないから死んだという噂があっただけ。きっと他の所に逃げていたのだ。そう思う者も多かった。

 それが怪しまれるようになったのは、私の変身数術に無理があったから。


 「お義兄様、私が完璧に使える変身数術は死んだ人間だけなんですよ。けれどそれも完璧ではないんです」

 「どういうことだ?」


 馬を走らせる騎士の背中に抱き付く内に、私は昔話をする気紛れ気分になっていた。


 「死んだ人間は成長できない。私の変身数術では、停滞した人間の日々の変化まで表すことが出来ない。だって亡くなってしまった人がその後どうなるか何て誰にも解らないことですから」

 「そうか」

 「ええ。ですから神子様のお許しが出たとしても私は、ずっとこの少女を演じることは出来なかったと思います」


 イグニス様の声が聞こえる。ああそうか。彼にバレてしまったか。なら、私達の作戦は変更しなければならない。

 馬のスピードが落ちたのは、乗せた重量の変化。私が重くなった証拠。それに気付いたお義兄様……いや、ユーカーが振り返る。


 「お前……どうして」

 「あはは、結構似てるだろ?」


 驚きのあまり、彼は馬を止めてしまった。まぁ、驚くか。驚くよね。

 口調も声色も変化した。今の私……いや俺は何処からどう見てもカーネフェル王アルドール。身体の傷一つまでそっくりそのまま彼になる。


 「まぁ、死んだ人間じゃないから完璧には変身出来ないんだけどさ」


 あっけらかんと笑う俺に、ユーカーは目を瞬いた。


 「まぁ、それでも数日は余裕」


 死んだ人間なら半永久的に成り代わることが出来るけど、生きた人間はそうもいかない。定期的に情報更新をしなければ変身数術が解けてしまう。もっとも、私は元の自分の姿なんて覚えていないから戻れる自分が何処にもいない。だからその時は、新たに死んだ人間の情報を得なければならない。データ保存は二体まで可能でも、私のキャパシティでは一度に内に抱えることが出来るのは人間一人分の情報。脚本を二冊まで保持できるけど、一度演じればその脚本は手には残らない。だから以前演じた人間に戻るためにも再びその情報を得なければならないのだ。変身数術特化型とは言え結構面倒臭いものなんだよな。


 「どうしてアルドールなんかに……」

 「ランスがエレインさんのこと知っちゃったみたいでさ、そうなった時は作戦移行するってイグニスから聞いてるんだよ。流石は俺の親友っていうか、俺の情報は完璧に把握しておいてくれたみたいで、こういことも出来たりして」


 安心してよ。不可視盗聴防止数術は紡いでいる。そう俺が笑ってみせると、彼は微妙な顔で苦笑する。


 「本物より使えるじゃねぇか、お前」

 「彼の潜在能力的にはこの位楽勝なんだけどね。元素に愛されているしさ。でも、まぁ……精神的にブレがあるからどうにも」


 変身数術特化型の俺はそこそこやるんだよ。変身した相手そのものになる。つまり今の俺はアルドールの潜在能力として使える数術全てをマスターしている。エレインさんの時は教会兵器がなければ満足に戦うことも出来なかったから、正直これはありがたい。


 「マリアージュ?」


 突然、馬から飛び下りた俺に。ユーカーはそんな風に名前を呼ぶ。優しい人だな。俺、結構好きだよお前のこと。ランスよりは全然好みだ。


 「イグニスと同僚以外で、お前が初めてだよ」

 「何言って……」

 「俺を名前で呼んで、くれた奴」


 俺は笑った。心からの笑みだ。そしてそこで俺は空間転移の式を紡ぐ。数字の檻からは数術使いではない彼は逃げられない。見えない鎖も作って彼を縛った。

 作戦が変わった以上、これ以上彼と一緒には居られない。だから俺は彼を旧チェスター領送り返すことにした。


 「何の……つもり」

 「ここからは教会機密なんだ。ごめん」


 半分嘘だよ。ごめん。


 「お詫びにさ。もし俺が生きて帰れたら、お前のアスタロットになってやってもいいよ、この戦争の間だけでも」

 「っざけんな!」

 「あはは。そう言うと思ったよお前なら」


 それが俺自身、そして彼女自身にとっての冒涜だと思うんだろうな。可哀想な人。少しでも自分が楽になる道を選べないんだな貴方は。

 もう一度彼がマリアージュと叫んだところでその声も遠くへ運ばれた。


 「久々の祖国というのも、悪くはないものだなぁ……」


 セネトレアで潜入捜査ばかりしていた。しかしこの時期にカーネフェル送りされたのは、例の名前狩りだけが原因でもなかったみたい。流石はイグニス。このためか。

 俺は苦笑した。涙が出るほど、俺は笑った。困ったな。この身体はこの心は、随分と涙もろい作りになっている。情報通り、軟弱だ。

 俺が殺されかけた村はもう滅んだらしい。その村を終わらせた鬼に怨みはないけれど、これも仕事なんだ。仕方ない。


 「さて、仕事仕事」


 俺と本物の違いは何か。それは一つ。幸福値の差。俺は本物より下位カード。それでも元素の加護は彼と同じ。それってつまり、数術をもっと上手く合理的に扱えるってことだろ?

 数術の反応に気付いたのか、敵側にも動きがあった。悠然と歩く俺に向かってくる馬。あっという間に山賊達に取り囲まれるが俺は臆さない。


 「何者だ、てめぇ……」

 「俺はカーネフェル王、アルドール。俺も王だ。民は我が宝。兵は我が友。なるべくなら犠牲は最小限に留めたい。故に俺は俺とそっちのお頭との一騎打ちを申し込む!」


 *


 「お頭……」

 「っち、なんだよ……人が折角盛り上がってたってのに」


 山賊レーヴェ。俺の機嫌は悪かった。何故なら愛しのエルスが都に行ってしまったと聞いたからだ。この同僚という男から。


 「そうかそうか。いや、俺も解る解る。俺も愛しのセレスと離れ離れになっちまった。こりゃあ酒でも飲まないとやってられねぇよ」

 「お前、なかなか話の分かる奴だな」

 「いや、勿体ねぇ。これでレーヴェ、お前さんが貧乳だったら俺も口説いてたんだが」

 「だからこれは胸板だって言ってんだろうが。脂肪なんかと一緒にすんな」

 「あ、そうだったな。悪い悪い」

 「解れば良いんだ」


 第一騎士だという男は割と乗りが良い。俺も悪い気はせず酒を振る舞っていた。こいつも都に向かわなければならないそうなのだが、しばらく腹いせにここに留まるとのことらしい。


 「お頭、あの……」

 「五月蠅い!酒盛りの邪魔すんな!」


 先程から邪魔をする手下を叱り付けるがまだ帰らない。


 「んだよ、何かあったのか?」

 「へぇ、実は……カーネフェル王を名乗るガキが現れまして。お頭と一騎打ちをお望みで」

 「カーネフェル王が俺と?」


 一瞬にして酔いが醒めた。


 「面白れぇっ!」


 俺は得物を担いでにやっと笑う。


 「敵陣に一人で乗り込んでくるとは、好感が持てるぜ。だが容赦はしねぇ!エルスの腕の仇、今日こそ取ってやる!レクス、お前も見物するか?」

 「いい余興だな。楽しませてもらうぜ」


 同僚と連れだって外へと赴けば、外には確かにカーネフェル王。以前見た金髪のロン毛。小さなガキだ。それでも以前よりは凛々しい顔つきになっている。ここしばらくで成長したのだろう。これなら戦ってやる価値はあるかもしれない。


 「勝負方法は、死んだ方が負けで良いか?」

 「ああ、それで構わない」


 「んじゃ、俺を殺せたならお前はここから生かして帰らせてやる。レクス、俺が死んだ場合はお前がそれを果たしてやってくれ。邪魔するなら俺の手下も斬って良い。まぁ、うちの馬鹿共にはそこまで義理堅い馬鹿はいないだろうがな」

 「ははは!流石はお頭!」

 「俺達のことをよくわかってやがるぜ」

 「金の切れ目が縁の切れ目ってね」


 はははと笑い飛ばす手下共。流石の俺もここまで言われては黙っていられない。


 「おいてめーら、先に死にてぇか?」

 「めめめ、滅相もない!」

 「お頭!そんな奴一ひねりですぜ!」

 「ここでそいつの首取って、もっと出世してくだせぇ!」

 「ったく、調子の良い奴らだぜ」


 呆れからだが、俺も笑ってしまう。なるほどね、俺も大概ろくでもねぇ。こんな人間の屑共とつるんでるのにすっかり慣れてしまった。鬼になるってこういうことか?エルス。

 俺は今楽しい。この下らない空気に浸る時間が笑えて仕方ねぇ。俺もなかなかいい鬼になってきただろエルス?だから安心して俺の物になっていいんだ。俺は鬼だ。俺も鬼だ。お前と同じ、化け物だ。俺もそこまで一緒に落ちてやる。何処までもついて行ってやる。だから俺に惚れちまえ。


 「さて、始めるかカーネフェル王」

 「待て。俺がここから生きて帰るのは当然だ。その時は俺は誰を殺してでもここから帰る。だから俺が勝ったなら、この領地から手を引き撤退しろ。俺は一人でやって来たんだ。その位の褒美あってもいいだろ?」

 「言うことだけはでかいな。……まぁ、ここに一人で乗り込んで来た気概は買ってやる」


 この俺に勝てると思ってやがるのか。いいね。そういう馬鹿は俺も好きだ。


 「いいぜ、俺に勝てたならそうしてやるよ。そこのレクスが反対した場合、そいつともう一戦あるかもしれねぇけどな」

 「……解った。ならそれでいい」

 「俺はそういう命令出てねぇしなー。まぁ、その時は撤退賛成すっけど。んじゃ、ま……そろそろはじめて良いのか?」

 「おう、頼む」


 カーネフェル王が手にしているのは煌びやかな装飾剣。売れば良い金になりそうだ。

 俺が手にするのは天九騎士に任命された時に頂いた剣。今じゃ身体の一部みたいにすっかり手に馴染みやがる。


 「……始めっ!」


 レクスの声に俺達は走る。距離を詰める。身体能力は俺のが上だ。跳躍し、一気に攻め込む。そして決まった、打ち込んだ一閃。その手応えが軽い。


 「何っ!?」


 近場で見たカーネフェリアは優美に笑っていた。どんな術を使ったのか知らないが俺の攻撃を流しやがった。

 驚きに思考が停止した逡巡。攻撃に乗り出したのは相手方。


(食らうかよっ!)


 俺は剣を避ける。避けたはずだ。なのに俺は別方向からやって来た熱風に嬲られる。

 そこから軽い火傷をくらいつつ、間一髪で逃げ出した。その頃には手品の種も見えてきた。幾ら相手が真正面から現れるような潔い男であっても、戦いの局面で正々堂々かはわからない。そういうことか。


 「なるほど、数術使いか」


 涼しげな顔をしているが、内心もうバレたかと焦っていることだろう。

 相手方に数術使いが居るとは聞いていた。エルスから対策、打開策も教えられている。

 確か、聖教会の神子以外は物理攻撃、接近戦が勝負になる。神子は物理無効化の術を練る前に叩けば痛くない。数式が完成してしまった場合は、卑怯な手で人質でも取ってその解除を迫れ。数術使いも人間に過ぎない。鬼ではない。その心の弱みと突けと言われている。それはあのアロンダイトとか言う若い方の騎士も同じだ。


 「エルスから聞いてるぜ。数術使いの弱点は、接近戦。それをカバーしているあの騎士は質が悪いって。だけどてめぇはどうだ?カーネフェリアっ!!」


 相手の剣は剣じゃない。恐らく数術でそう見せているだけのまやかし。そもそも身軽。剣を持っているならもう少しスピードが落ちる。

 ならこいつは丸腰だ。数術で剣らしきものを俺に見せ、剣の形に似た壁を作っている。斬り合う内にその壁の正体が見えて来る。それは熱い。切られれば傷口が焼けるようだ。そう思ったのは何も間違いではない。


(此奴の剣は炎で出来ている)


 炎の生み出す風圧。それで俺の攻撃を受け流し、炎を俺が切った所で俺が火の粉でダメージを食らうというなかなか強かな戦法。


 だが、相手が身軽ならこっちもスピードを上げればいい。俺は戦いながら防具を外す。鎧なんか重いだけ。スピードを上げ猛攻を始めた俺に食らいついてくる少年王。しかしそれは防戦になっていく。

 おいおい、俺はまだまだウォーミング。簡単に殺しては、エルスに申し訳が立たない。両手両足切り落として、後はエルスにプレゼントしてやる。首を刎ねる役はエルスに残しておいてやらねぇとな。

 炎を真正面から叩き斬り、その勢いで俺はその手まで刃で触れる。


 「まずは、腕一本」


 流石は狂王からの賜い物。半端ねぇ切れ味。こいつなら人間真っ二つにするのも容易いかもしれねぇ。そう思うと心も踊る。ぞくぞくするぜ。嗚呼、俺ってやっぱり鬼なんだな。

 しかし、この男……悲鳴一つ上げないか。敵ながら見上げた根性だぜ。こんな滅びかけた国の長でも王は王。心だけなら立派なものだ。


 「立ちな、カーネフェル王。てめぇは殺す価値のある男だ」


 だが、王は人間。鬼の前では食い物だ。食ってやる。バリバリとその頭から。俺がにぃと笑えば、奴は残った手を突き立ち上がる。逃げる素振りは見せない。あくまで鬼退治に挑むつもりか。


 「お前。殺し甲斐あるな」


 *


 火柱が夜明け上がった。それはアロンダイト領の方だった。目覚めてから、兵達がそんな話をしているのをアルドールは耳にする。


 「イグニス……?」


 覗き込んだ作戦会議室の中。もうみんな揃っている。満足に寝ていなそうな顔色の悪いユーカー、二日酔いで気持ち悪そうなランス、そんな二人の顔色を心配そうに見つめるトリシュ、そして機嫌の悪そうなイグニス。


 「遅かったですねアルドール」


 ああ、それに一人ぐっすり眠ったのか隈一つ無い朗らかな表情のジャンヌ。彼女は何も間違ってはいないのだけれど、彼女一人が少し空気を読めていないようにも思えた。俺が言うのもあれだけど。


 「何か、あったんだよな?」

 「とりあえず進軍だ。アロンダイト領に行けば解るよ」


 素っ気ない態度のイグニスに言われるがまま、俺達は早朝……アロンダイト領へと乗り込んだ。乗り込んだ……と言っても殆どの兵は城に置いていった。それで十分だとイグニスは言った。ジャンヌともう一人の部下であるというカードを一枚城に残し、後は兵とその子一人で持ちこたえられるとまで言って。


 「一体何があったんだ……?」


 領内の山賊達は死屍累々。正確には全員酔いつぶれている。とりあえず全員縛り上げてみたところ、目を覚ました一人が俺の顔を見て絶叫。それに起こされた連中も同じ反応。わけがわからない。


 「イグニス……これは?」

 「僕の切り札の一枚。マリアージュがやってくれたんだ。彼女は君に化け、山賊のお頭に一騎打ちを挑みに行った」

 「そんなの、俺は聞いてないっ!」

 「聞いたら止めるだろ。だから言わなかった。君の言うとおりに戦争なんかしてたらカーネフェルは終わる。最低巻き返すまでは僕の指示に従って貰う。僕は負け戦なんかするつもりはないんだ。僕の部下達のためにも」

 「……イグニス」


 そんな言い方ないだろ。そんな言い方されたら、俺は何も言えなくなる。


 「カーネフェル王に勝ったとなれば、そりゃあ祝杯の一つや二つ、上げるだろう。こういう展開になった時のために、ヴァンウィック様には眠り薬を渡しておいて、酒蔵の秘蔵の酒にはそれを混ぜておくように頼んだんだ。予め僕がここを乗っ取られて何日目にその酒に辿り着くかを計算した上で、その樽と瓶から」

 「それじゃあ……」

 「簡単に勝てただろ?領地一つ取り戻すのに、犠牲が一人で済んだ。それも僕の民だ。君の民じゃない。カーネフェル側としては嬉しい話だろ」

 「そ、そういう話じゃないだろ!?だってエレインさんは……俺達にも親切にしてくれて……それに昨日まで……」

 「それは僕が渡した台本通り。彼女は役者。配役を演じていただけ、気に病む必要はない」


 イグニスの言葉に狼狽える俺。周りを見回すと、ユーカーが鋭い目付きでイグニスを睨んでいるのが見えた。


 「ユーカー……?」

 「っち」


 ユーカーは俺に名前を呼ばれると舌打ちをして俺から離れる。


 「おい、ユーカー……」


 ランスがその後を追いかけて……その方向から声が上がった。駆けつけてみると、そこには倒れた人間がいる。それは両手を無くした小柄な少女。


 「マリアージュ……」


 ユーカーは両手を無くした少女を悲しげな瞳で見つめていた。

 おそらくその少女が、エレインさんだったもの。イグニスの部下。だけどその死に顔は俺ではなく別の少女……


 「……僕も初めて見ましたよ。最期に……思い出したんでしょうね、自分自身の姿を。本当の姿で会いたい人でも、いたんでしょうか」


 ユーカーに視線を送るイグニスは、憐れみの中にも少しの慈悲が滲み出ていた。それはユーカーにではなく、部下に。その部下に救いを与えてくれた彼への感謝の気持ち。



 「さ、彼女のためにも時間の無駄は出来ません。眠り惚けている山賊達を全て捕らえましょう」


 その後は領内を巡りに巡って、数十人もの山賊全てを捕獲した。その中にはその頭という少女の姿もある。更に領内からは重傷を負ったアロンダイト卿ヴァンウィックも発見された。

 やがて集められた山賊……領主の屋敷、その中央。縛られた山賊達の中、いち早く目を覚ましたのはその少女。彼女はギリと目を釣り上げて、イグニスを睨んだ。


 「騙し討ちか、流石教会の人間は卑怯だな」

 「騙される方が愚かなんだよ。後味の悪い殺しの後は、飲んで忘れたくなる。酒に逃げたところで、こうなることは決まっていたんだ。一騎打ちの邪魔でもされたんだろうさ、その甲斐虚しく……とあれば敵も味方も嫌な気分にはなるだろう」

 「イグニス……それって」


 イグニスは、ヴァンウィックがここで彼女を庇うと思っていたこと?流石にそれはないだろう。そう思って彼女を見つめる。だけど彼女はそれも解っていたように頷いた。


 「彼は本物のエレインさんを死なせてしまったことに負い目があるんだ。僕が本物のアルドールを送り込むはずがない。マリアージュの存在を知っていた彼なら、牢を抜け出してでも庇わずにはいられない」


 元々領主なんだ。抜け道や合い鍵くらい持っているはずだろうとイグニスは笑った。


 「例えそれが偽者のエレインさんだったのだとしてもね……。浮気性のろくでなしに見えたって、彼も人間だったってことだよアルドール。……或いは成長したランス様と会って、何か思うところがあったのかも知れないな。騎士としても、父親としても」


 そうか。イグニスは本当は……二人とも死なせないつもりで二人をここに配置したのか。彼女の言葉から、そんな気持ちを俺は感じる。

 だってヴァンウィックは、あの山賊頭相手に一度はあの余裕の素振りを見せた男だ。山賊レーヴェだけが相手だったなら、二人は勝てていたはずだ。


 「イグニス、ここにまだ一人……いるかもしれない。エルスか、あの騎士かは解らないけど」

 「いや、気配はない。彼はもう王都に旅立ったようだ」

 「……レクスの野郎か。あいつ……何考えて」

 「ユーカー……?」

 「うっせー。ほっとけ」

 「そうはいきません、一つお願いが」


 立ち去ろうとしたユーカーの行く道をふさいで、イグニスが微笑む。


 「彼女は命と引き替えに、山賊の幸福値を削ってくれた。今なら簡単に殺せるはずだ。セレスタイン卿、お願いします」

 「お前がやれよ。出来るんだろ」

 「はい、僕がやっても良いのですが、それではシャトランジアがタロックの将を討ち取ったことになります。これはまだカーネフェルとタロックの戦い。カーネフェルの騎士である貴方がタロックの将を殺すことに意味があるのだと僕は思います」


 イグニスはユーカーに釘を刺す。それはそうさせることでユーカーにカーネフェルの騎士としての自覚を持たせる。タロック側に靡かないように仕組んでのことのようにも思えた。


 「勿論無理にとは言いません。その場合、僕が城まで飛んで彼女を連れて行き、ジャンヌ様に頼もうかと思います」

 「女に汚れ役させられるか」

 「でしょうね」

 「イズー……ここは私が」

 「お前より下位ナンバーだろ、下がってろ」


 代理を申し出たトリシュを断り、ユーカーは剣を手に取る。

 俺はユーカーと山賊を交互に見返して……その距離があと少しと言うところで二人の間に飛び込んだ。


 「い、イグニス!ユーカー!」

 「てめぇ、何のつもりだ?」

 「そ、その子はカードだ。おまけにダイヤだ。そんなに簡単に殺していいのかな」


 ユーカーじゃ駄目だ。俺はイグニスに訴える。


 「彼女はタロック側についてまだ日も浅い。説得すれば俺達の側についてくれるかもしれないじゃない!殺すのは早計だ!他属性のカードが欲しいっていうのは俺達にとって事実問題だったはず!」

 「アルドール、君はこの国の王だ。その王がおいそれと敵に情けをかけて良いの?彼女は確かにカードだ。それならまだ使い道もある。それは確か。口説けるならそれに越したことはないけどね、それならその部下はどうするの?カーネフェルには百害あって一利無し。奴隷貿易に荷担していたような連中だ」

 「そ、それは……」

 「ましてやアルドール。仮にもそれはここの連中のお頭。手下を皆殺しにされた上、自分だけ生かされ敵に降るなんてすると思う?出来ると思う?仮にその逆はあったとしても、その子もタロック軍人。それはあり得ない」

 「でも、敵とはいえ女の子を……」

 「女じゃない。侵略者は侵略者だ。アルドール、そんな甘いことを言っていると、君は本当に国を無くすよ?アルドール、君は何?君は王だろう?君は手を汚さない。それでも君は命令する必要がある。女子供であろうとも、国に仇成す者は討て。それを君は命令する義務がある」

 「俺は……」

 「それともアルドール、君はそれをジャンヌ様に言わせるつもりなのかい?彼女にその罪の重さを背負わせたいの?」

 「っ……」


 女の子が。そう言った言葉が、他の女の子にのし掛かる。俺が逃げれば逃げるほど、それはそうなっていく。


 「仲間になってやっても良いぜ」

 「え?」

 「お頭!?」


 俺に一筋の光明を与えたのは女山賊。振り向けば、彼女は笑っていた。それはこれから処刑されるような人間の顔ではない。


 「ただし、そこの本物が俺を一騎打ちで打ち負かせたらだ。その時は俺も此奴らも煮るなり焼くなり殺すなり、仲間にするなり好きにしろ。だが、俺がお前を負かした時は、大人しく俺達を解放しろ」


 レーヴェは手下に視線をやって、鼻で笑う。


 「まぁ、俺も此奴らの頭だ。俺を仲間にするなら此奴ら全員を生かせ。俺を殺すなら仕方ねぇ、野郎共てめぇらも腹括れ。そこまで面倒見切れねぇ。どっちみちお前らみたいな人間の屑、この俺以外にまとめられるか」


 レーヴェはそこまで言うと身体を縛る縄を筋力だけで切ってしまう。逃げようと思えば逃げられるのだろうに律儀にここに残るのは、自力では逃げられない手下達を思ってか。山賊とはいえ立派な頭だ。彼女は小さな国を治める一人の王なのかもしれない。


 「……解った。その条件で、受けて立つ」

 「アルドール!?何馬鹿なことを。幾ら幸福値を減らしたとは言えAの君が勝てるわけないだろ!?」


 すぐさま俺を窘めるイグニス。何かの数式を紡ごうとしているが俺がそれを制止するよう目を向ける。イグニスは不満そうだが、一応式の展開は中断。だたし解除はせず、必要とあらばそこから続行できるようにしていた。仕方ないか。

 俺は山賊に向き直り、続きの言葉を伝えることにした。


 「ただしっ!俺は勝負しない」

 「はぁ?」

 「俺の勝負は俺の剣に、ランスに任せる。カーネフェル最強の騎士だ。俺の騎士に勝てたなら、お前達全員俺の仲間になって貰う」

 「余計馬鹿なのアルドールっ!ランス様が今戦えるとでも……」

 「アルドール様のご命令とあらば……何なりと」

 「ランス様!?」


 呼ばれるがまま現れたランスが俺の足下に跪く。


 「試合方式は?」

 「降参した方が負け。それか先に死んだ方が負けだ」

 「ですが俺は上位カードです。降参の言葉を引き出すのは難しいかと」

 「……レーヴェ、その場合止めを刺す場合だけ、此方の下位カードを使っても?」

 「ああ、構わねぇよ」


 山賊の方へとランスが向き直ると同時に、イグニスが俺の腕を引き、屋敷の陰まで連れて行く。そしてすぐさま俺に詰め寄る。


 「アルドール、君仲間にしたいとか命乞いしておいてあの山賊殺す気なの?」

 「いや、そういうわけじゃないけど、ランスに任せておけば大丈夫だって。それにランスもあの山賊との勝負つけたがってるはず。幸福値が減った今ならいい勝負出来るんじゃないか?」

 「そういう問題じゃないだろ馬鹿っ!正直……今のランス様は危ない」

 「え?だってランス程騎士らしい騎士もいないだろ。女の子を手にかけるようなことは流石に……」


 幾らエレインさんのこと、マリアージュのこと、それからヴァンウィックの怪我のことがあるとはいえ、ランスはランスだ。そこまで自分を見失うこともないだろう。俺はそう思うのだけれど、イグニスはそうは思わないようだ。


 「第一今は難しい時期だ。初っぱなから敵全員を生かすなんてやったら敵はすぐに命乞いに走る。本当に忠誠を誓うか解らないような連中まで。そんなのに寝首を掻かれたら堪らない。その辺はランス様も理解しているはずだ。大体ねアルドール……そこの子だって最低村一つ以上は滅ぼしてる。十分カーネフェルに害為す存在だ。それをすぐに許してしまうだなんて、民からの信用を無くすよ」

 「そんなことない。侵略者と戦うって事は違うやり方で、違う道を示して模索していくことが大事なんじゃないのか?同じやり方で戦ったら俺達も……同じだ。イグニス、勝負を見に行こう」


 屋敷の前まで戻る。トリシュの顔色は悪い。ユーカーもやるせない顔だ。ランスが劣勢なのだろうか?いや……


 「アルドール様」


 だけどランスが俺を呼ぶ。いつもの声だ。嗚呼、無事だったのか。良かった。俺は顔を上げる。ほらやっぱり、優しい声だ。ランスが殺すはずがない。これからどうしますかとこれは俺に尋ねる声だ。


 「終わりました」

 「え?」

 「流石にカードはユーカーの手を借りましたが、山賊全員、俺が始末させていただきました」


 言われるがまま、彼の示す方を向く。ごろごろと転がる首。それは船で道化師が俺に見せた、姉さんの姿にそっくりだった。エルス=ザインが焼いた村での惨状にも似ていた。


(う、嘘だ……)


 だって、何も聞こえなかった。相手の悲鳴も、手下の逃げまどう声も。悲鳴を上げる間もなく、斬り捨てたというのか?いや、恐怖で声さえ凍ったか?


 俺は戦うと言うことを、まだよく理解していなかったのだと……この後の及んで、思い知る。味方が死ねば悲しい。だけど……敵を殺すことが、こんなに後味の悪いことだったなんて……俺は、知らなかった。

 ランスは俺の剣。その剣を汚したこの血は全て、俺の罪。俺が背負うと言った物は、これだけ重く罪深いことだったのだ。


 「アルドール様」


 彼が再び跪く。まるで褒めてくださいと言わんばかりに、ランスは俺を見上げるけれど……俺は意識が遠くなるのを感じていた。


 *


 「ボクとしたことが」


 エルスは呆れていた。自分が恥ずかしくて堪らなかった。

 さっさと北部に帰ろうと思っていたのにこの様は何だ。いや、それだけでもないけれど。

 あのカーネフェリーの子供を都に送り届けて、そのまま城に数日寝泊まり、双陸に懐かない人質を叱り付ける作業を行った。あの人質料理も食べようとしなかったんだ。

 仕方ないから目の前で料理を作り毒が入っていないことを見せる。見せる。見せつける。その上で、もうこれでもかというくらい見せびらかして食す。それを続けること三日。ようやく人質も箸を付けるようになった。そうなれば後は双陸に任せられる。作り置きの料理も置いてきたししばらくは大丈夫だろうと……今朝早く再び北部へ飛んだ。

 こっちでも腹を空かせて待っている子がいるんだ。レーヴェ達山賊がいつもの山にいる物だと思って料理をしてあげてから、彼らが仕事は仕事でもタロック軍の手伝いに借り出されていたことを思い出す。作った料理を数術で……アロンダイト領の厨房へと運ぶ。

 しかし料理の匂いに釣られてレーヴェが出て来ないのはおかしい。


 「レーヴェ?まだ寝てるのかな」


 見れば彼方此方、酒盛りの後が見て取れる。まったく羽目を外しすぎだ。確かにここを攻め落としたのだからそれは立派な物だけど。


 「レーヴェ?」


 こんな調子で飲んだくれてたら何時また向こうに攻め込まれるか……会ったら少しは叱ってやらないと。そう決意しながら屋敷内を徘徊。誰にも出会さない。何かおかしい。そこの頃には思い始めた。そして窓からそっと外の様子を窺った……

 ぞくと、肌が震えた。


 屋敷の前には、死屍累々と転がされた大勢の死体。その一つ一つに見覚えがある。あのゴミみたいに積まれている山は、僕を歓迎し、慕ってくれた人間の屑共。そして……僕と同じ物になりたいとまで言ってくれた、あの少女。レーヴェの首と胴体だ。


 「あ、……ああっ……うあっ………っぁ」


 カーネフェルの奴らは人間だ。自分たちと違う生き物はそうやってすぐに狩る。鬼も悪魔も妖怪も。姿、価値観が違えばそれだけで。

 殺さなければ、殺されるんだ。此方が手を出さなくたって。人間は鬼を殺しに来る。だから鬼は人間を殺さなければならないんだ。恐れられなければいけないんだ。


(殺さなきゃ、あいつら全員、皆殺しにしないと……)


 そう思うのに、手足が震える。満足にも立っていられない。

 こんなんじゃ駄目。戦えない。戦術的撤退だ。逃げないと僕も殺されるなんて思ってない!思ってない!だけど今は、逃げなきゃっ!人間なんか怖くない、怖くない、人間が……人間が怖いっ!

 這いずるように逃げる屋敷の中。なかなか上手く式が完成しない。僕の傍にいる精霊も心配そうに僕を伺う。裏庭ではザクザクと穴を掘る音がする。パチパチと火の燃える音がする。その全てが死の香り、足音だ。

 その足音はやがて現実の物となって僕の前に現れる。

 同じように見ていられなかったのだろうか。屋敷に下がっていたらしいそいつは、カーネフェル王アルドール。アルドールは僕がここにいることに僅かに驚いた後、何も言わずにそこに佇む。僕を味方に告げないのか。僕は今、ここでお前を殺すことだって出来るんだぞ。何だその目は。僕の震えに気付いているのか。


 「そんな目でっ、ボクを見るなっ!」


 怒りの力でようやく完成する数式。消え去る間際まで僕を見ていた。あの目は……あの目は、この僕を哀れむ目だっ!


 「あの男っ!またこのボクを哀れんだっ!!」


 泣きながら、地を叩いた。許せなかった、何もかも。

 泣きじゃくる僕が帰ってきた場所。飛んだ場所は……懐かしい毒の香り。ああ、それじゃあここは王が身を寄せているというブランシュ領か?


 「須臾……」

 「子鬼か。血の匂いがするな。また暴れてきたか?」

 「っ……違うっ!」


 不思議な物だ。何処に飛ぶか解らなかった。僕はこの男の前に尻尾を丸めて逃げ出してきたのか。嫌だ嫌だ嫌だ。こいつも人間だ。僕の天敵だ。どこかに鬼は居ないのか。僕と同じ、化け物は。

 上手く言葉も喋れずに、唯泣きじゃくる僕を、子猫でもつまみ上げるよう……男は僕を膝に置く。


 「離せ人間っ!」

 「我とてとうに人など止めて居る」


 そう、言われてみれば確かに。今更のようにそう思う。だけどこの男はこれまで一度だってそんなことを僕に言ってはくれなかった。


 「……して、何があった?」

 「……っ、カーネフェル王達がっ!レーヴェをっ!山賊達を皆殺しにっ!」

 「なるほど。今度のカーネフェリアはそこまで甘くもないらしい」


 「其方はそこで丸まっていろ。少しばかり我が遊んできてやろう」

 「須臾っ!」

 「仇は取ってやる。我の子鬼を泣かせた罪は償って貰わなければな」


 王は笑いながら、その重い腰を上げたのだ。強張った手で、不器用に一度僕の頭を撫でてから……

当初、レーヴェは仲間にする予定でした。その場合レーヴェが料理に釣られてランスに惚れるか、ジャンヌの男気に惚れるかでした。

でも書いて行く内に「駄目だこの子エルス一筋だ」になってしまい、鞍替えはあり得ないなと考え直し……そうなれば死ぬまで戦う、しかなくなるわけで。


酒で酔っぱらわせて鬼退治。昔話じゃよくあるパターン。

主人公サイドがそれやっても何故か爽快としないのは、これが“悪魔”の絵本だからでしょう。どっちかっていうと物語で言う悪役に荷担、感情移入して書いてる小説だからな。


イグニスさん超鬼畜。

でもさらっとランスさんも鬼畜警報入ってますね。ランスの父ちゃん、また死亡フラグを回避しやがった。一度今回で死んだ話を書いた後、いや、何か違うなと書き直し。結果見事生還。まだ引き出し残ってるから仕方ないね。


ランスに惚れてるエレインを演じてたマリアージュだけど、自分の正体黙っててくれたユーカーにちょっと惹かれてたみたいです。

ユーカーに惚れた女は例外なく死ぬ。惚れられても死ぬ。どうしろって言うんだ。

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