91:Bis interimitur qui suis armis perit.
本来ならば、マリアージュの仕事。再びこの服に袖を通すと思わなかった。でも、カードが散りすぎた。だからそうするしかなかったんだよ。
視覚数術で、カーネフェル王を装った。保護した混血自体に、道化師は危害を加えない。なぜなら彼は……私とそっくり入れ替わるつもりなのだから。
「ギメル様!」
「カーネフェリア様?」
「今はギメル様でいいんだよね?」
「うん。でもね、悪い人達が来た時はちゃんとそう呼ばなきゃ駄目よ?私今はね、その人の影武者っていうお仕事なの」
囮の役目は、効いてる。しかし都を取ったという知らせは来ない。アルドールは敵に翻弄されているのだろう。だからここが潮時だ。混血達との触れ合いで、感じるのは心苦しさ。いつもそう。運命の輪と接する時と同じ気持ちに私はなる。
「大丈夫よ。私には凄いせーれーがいるんだもの。だから安心して寝てて良いのよ。絶対、守るから」
保護した幼い混血達を、寝かしつける歌は……眠気を誘う言霊数術だ。念には念を、これで準備は終わり。頃合いを見て……野営を離れ、私は一人になった。本当に戦わなければならない相手を誘い出すため。近付くのは島で一番大きな火山。奴隷として第四島に潜入していた部下も一緒に眠らせた。運命の輪を一人も側に残さない。それは私の死を意味する。
「いいのかい、そこは君が一番苦手とする場所だろう?」
「私が焼かれて困るのは、お兄ちゃんでしょう?」
見ていられなくなったのか、待ち人が現れる。いつもの赤いドレスじゃない。黒い礼服を纏った道化師が。
「確かに時間は稼げるだろう、君が一人になったなら……間違いなく僕はそこへ行く。だけど、死に場所は選ばせてあげたかった。本当にこんなところで良いのかい?」
今、一人になった理由を問いかけられる。彼を殺せる自信があるからとは、道化師も私も思っていない。
「火山じゃなくても良いの。本当は何処でも」
教会兵器、十字銃を突き付けるのは……相手ではなく自分自身に。
「弾は、“数値分解弾”。どんなものか、知ってるよね?」
これは、最悪の教会兵器。これを当てさえすれば道化師さえ滅ぼせる。当てるだけの幸運を、持っている者がいないのが欠点。これを使ったなら、死体は骨、灰……塵一つ残らない。生者の縋り付く未練が、数値情報が一切なくなり、残るのは記憶だけ。
「身体を人質にして、何が望みだ?遺言でも誰かに伝えたい?」
「神様は結構ケチなの。無から有は作れない。貴方の願いを叶えるために私は絶対必要」
「命乞いをするような子ではなかったよね、君は。……いや“君”ならするか。大事な人を犠牲にしてでも生き延びる、浅ましい物なんだ……、……達は」
「“聖女だけには手を出すな”。それ以外はどうしても良い。僕の部下も好きに使え。仕込みは既に終わった。後は車輪は一人で進み続ける」
「……?何故、彼女を?“ギメル”、君にとって彼女ほど許せない相手はいないだろう?」
勿論、死なせる前提で配置した駒だ。いつか必ず死ぬ。お前が手を下さなくとも。
「……だって、あいつ馬鹿だから」
まだ、何にも見えてない。何も見ようとしない。本当は分かっているのに、いつもそうやって逃げている。多分……僕が死ぬまで、僕が死んでも、君はそうやって行くんだ。全てを失うまでアルドールは気付けないから。だから、僕は彼の側には残れない。
アルドールでも気付けなかった。そんな“私”を誰かと気付いたジャンヌ。彼女は僕にも彼にも何も言わなかった。だから僕は思ったんだ。まだ、生きて居て欲しいと。
「知ってるよ、お前に言っても逆効果だ。僕は嘘を言えば良かった。お前と僕は、嘘吐きだから」
「つまり理由はそれ以外にあるってことか。僕に彼女をどうしても殺させたいってことなんだねギメル?やっぱり許せないんだろう?あの男が、君以外を愛するなんて」
「“僕”は嘘ばかりを吐いてきた。だから、最期くらい嘘は言いたくなくなった。それだけだっ!」
銃を自分に向けたまま、火口に身を躍らせる。それを許せない道化師はすかさず続いて飛び込んだ。
「聞け“フェスパツァイト”っ!」
「何っ!?」
部下にセネトレアで回収させた、炎の大精霊。それは“僕”には扱える。この身は水の元素でも。唯一母から貰った祝福を、父から奪った言霊数術で歌う!
僕と奴ごと燃やし尽くす、炎を作る。道化師は全ての元素を扱える、しかし生まれ持った身体は大きく変わらない。無理な回復数術を、二人分かけるとなれば……お前の数値は抉られる。あの子達が目覚める前に、この僕の振りをしていなければならない。視覚数術をも見抜く、混血達の目を欺せるほどの……元通りを装う義務がお前にはある。この名を僕から奪うのならば!
「我が名は“炎”!!」
*
(どうしたものか)
翌日、リオは大いに呆れた。アルドール王もジャンヌもアロンダイト卿も寝不足なのか酷い顔をしている。それでも美形に見えているランスという男はさすがであるが、残りの二人は王族としての威厳など感じられない不健康さ。
(セネトレアは、毒だ。彼らは純真だから、こんなにも影響を……)
カーネフェル人にとって、ここは刺激が強すぎる。ギメル様がここに居ればと思う気持はあるが、今更どうにもならないことで……彼女の分も私が彼らを支えなければならないと、新たに気持を強くする。
「リオ先生、あの子は……どうしていますか?」
朝になり姿が見えない少女のことを、ジャンヌは気にしているようだ。私は落ち着きながら話してやった。
「連れ歩くのは危ないため、部下一人に任せたよ。第五島にも我々の拠点はある。そこで本格的な手当と共に解析をさせる予定だ。今、余計な荷物を増やすわけにはいきません。我々を信じて下さい、カーネフェリア」
私の言葉に安堵したのか、誰もそれ以上の追求をしなかった。本当に、お人好しだ……生粋のカーネフェル人は。愛すべき人間らしさと、支配者としての至らなさ。私の主が彼らを必要とする意味がよく分かる。イグニス様とは正反対だ。だからこそ……二国が手を取り合えば、正しい未来に辿り付ける。私もそれを信じよう。
「このまま我々は北上します。第一島と第五島を繋ぐ、二つの関所さえ抜けられたなら、いよいよ敵の本陣第一島です」
「……正面突破で大丈夫なんですか?」
「頭が良すぎる相手は、裏の裏まで考えるものです。あの女王もそのタイプ。正攻法が、一番見逃されやすいのだと……私の主が言っておりました」
暗にあの方の名前を出せば、カーネフェル王は引き下がる。言いなりではなく、自分で歩いていながらも、あの方の影響は強すぎるよう。
(どこまで気付いているのだろうな)
この幼き王は、意外と鋭い。本能的に真実を見い出せる。しかし何かと理由を付けて、自分の世界に嘘を吐く。自分自身を愚かと呼んで、わかりきった答えを見失い、彷徨い続ける様は滑稽。他人には誠実であろうとする反面、自分に吐いた嘘はあまりに多く……相手にとっての都合の良い現実しか事実として認識できない。
(いや、それならば)
昨晩のことだって、流されてしまえば良かったのに。事実はどうあれ精神に余裕があればあるほど強いのが、カーネフェル人の特性だ。こちらの騎士も私の教え子も典型的なそのタイプ。人身御供の王ならば、好きにさせてやれば良いのに。自分に近付かれる、踏み込まれるのがそんなに恐ろしいことか。他の何かを体内に保有する、そんな保管数術の才能が彼に芽生えることはないだろう。
(この意気地無しめ)
教え子贔屓なのは謝罪する。それでもまったく呆れた王だ。イグニス様とは覚悟も器も違うのだ。ジャンヌが懸想する以上、悪人でないことは確かだけれど。
「視覚数術で顔や姿を変えることは出来る。しかしそれを見破る技量があるなら、嘘を吐いていますと言いながら歩いているようなもの。道化師には通じないと思って良いでしょう。道化師を、ギメル様が釣って下さっている。此方へ入る邪魔は、セネトレアとタロック側だけだと当面の間考えて頂いて宜しいかと」
「……プロイビート様。教会関連施設から、馬車は借りられませんか?」
アロンダイト卿の言葉に私はしばし考え、合点がいった。
「さすがはアロンダイト卿……名案です。それ以外はないでしょう」
*
危険を回避するには、危険に進んで飛び込まなければならない。あの女王の裏をかくにはと……そんなランスの言葉に俺も皆も頷いた。
(本で、名前も聞いたことが無い)
死都ハイレンコール。第五島の北西部に位置する山村。都なんて呼べるほど栄えた町じゃない小さな村が、なぜそんな呼び方をされるのか。それは実際踏み込んで……俺達は思い知る。第五島で、目立った教会施設がある場所は……敵にも警戒されているだろう。なるべく人目に付かずここから比較的近場で融通が利きそうな場所。難しい条件だったが、リオさんはそれを見つけてくれた。
「アルドール様、呉々も用心して下さい。人目には付きませんが、危ない場所です」
「ええと……」
「聖教会はこの島では医療施設も置いているのです。捨てられた人々への救済であり、数術の実験でもありますが」
人体実験と言えば聞こえが悪い。医者が匙を投げた人々を救うべく、新薬と回復数術のの研究をしている隔離施設と言うことか。敵も近付きたがらない。必要な物もある。行くならそこ以外はないとリオさんは言った。
俺以上にジャンヌが一番辛そうだ。あんな事の後だ。彼女が気にはなるけど、何て声を掛けたら良いのかわからない。事実、こんな場所に来るならば……ジャンヌのやろうとしたことも、誤りではなかったように思えてしまう。
「私が話を付けてきます。それまで皆さんは余計なことをしないように」
そう言い残し、リオさんだけが教会施設へ入っていくのを見て、俺はほっと息を吐く。緊張していたんだ。危険な場所だと散々煽られたものだから。
「セネトレアらしく、ありませんね」
ランスの言葉に俺も頷く。危機感をなくしてはいけない、だけど……ここは本当にセネトレアと思えない。まだこの国の全てを知ったわけではないが、イメージとして全く別世界なんだから驚きもする。
「確かに。思ってたより綺麗な場所だよな」
辺りは手入れもされていて、花なんかも彼方此方に飾られて……セネトレアの気候では育成が難しいような異国の花々まで咲いている。こんな奇跡があるならば、自分の病気も治るんじゃ?そんな風に感じないかな。
ハイレンコールという村自体が誰かの屋敷の庭であるよう。町の中心には聖教会併設の小さな診療所があり、家々を巡回し、病人の世話を行っている。砂漠の広がる第五島に残された奇跡の空中庭園。全てに見放された人々が流れ着く場所。
現代の数術治療で彼らをまだ救うことは出来なくても、世俗まみれたセネトレアに信仰という愛で慰みを得る。一種の救いであることは否定できない。
「……ええ、天国みたいです」
「うっ……」
ジャンヌと会話が続かない。気まずい、気まずすぎる。何を言っても互いに墓穴に変わってしまう。
「こっちに来てくれ!危篤なんだ!!早くっ!!」
俺達の会話が途切れると同時に、近くの民家から声が上がった。すると、知らせを受けて慌ただしく、教会の人が其方へ駈けていく。
「鎮痛剤!回復数術を、……!」
家族だろうか。泣いて訴える声がする。呼ぶ声はまだ若い。俺が気になり出すより先に、ジャンヌが其方へ向かってしまう。じっとしていられないんだな。バラバラになるわけにもいかず、慌てて俺もランスも彼女を追った。
「痛い……いたい、よ……いや、助けて……はやく。まだ。まだ……どうして?なんで治らないの!?」
叫び声。憎しみに染まった声も若い。寝台で暴れる少女は金髪で、彼女の側で泣いている青年も金髪。共に、カーネフェル人。
「……」
なんの解決にならないかもしれないけど。一時的に痛みは和らげられる。少女に近付こうとする俺を、ランスが止めた。ランスの目が言う。同じ事だ、と。昨晩あの少女を見捨てた俺が、ここでこの子を救うことは矛盾している。ランスに命をすり減らせと命令することも出来ない。一人を救ってしまったら、皆がそれを求めるだろう。ここが俺達の死に場所になる。カーネフェルを救えもせずに。だからランスは言うのだ。俺達が薬になってはいけないと。
一度、俺達をジャンヌが振り返った。俺達の顔を見て、彼女も俺の判断を理解する。少し、悲しそうな顔をして……それから彼女は少女の側へと膝をつく。
「大丈夫。何も怖く無いから」
ジャンヌは少女の手に触れ、笑う。回復数術なんて使えない。彼女が彼らにしてやれることは何もない。
「痛むのは、あなたが今ちゃんと生きてるからよ。あなたは生きてるのよ。大丈夫。必ず先生が……主が、あなたを治して下さるから。ね?だからそんなに泣かないで」
「うん……」
涙をジャンヌに拭われた少女は笑顔を浮かべた後……そのまま息を引き取った。眠るように旅立ったのが、せめてもの救いか。泣いていた青年は暗い瞳ではあったけど、ジャンヌに礼の言葉を返せるようにはなっていた。
「貴方がたは新しいお医者様ですか?」
「いいえ、知人がここにいると聞きまして……その、妹さんのこと、何も出来ずすみません」
気に入られたり、不審がられても問題だ。なるべく目立たずここから出て行かなければ。俺は青年に頭を下げ、ジャンヌをその家から連れ出した。
*
教会内の祭壇に、祈りを捧げたリオは絶句した。そこには自分の名宛の情報数術履歴がある。システム自体は共有されているから、何処からでもあの人は痕跡を残せるが、直接連絡を忘れるなんて、あり得ないのだ。私を通じて私と個別の回線、運命の輪専用の回線とのアクセスを図るようだけど……それの意味するところは。
(嘘だ)
『いいえ、嘘じゃない』
聞こえなくなった、主からの声がした。“リオ”と。仲間内の誰だ?どの馬鹿がそんな失態を犯した!?彼方から私に連絡できると言うことは、私以外の誰かが教えてしまった!
念話数術。それは何も普段と変わらないようで……全てが変わってしまっていた。取り乱さぬように、するのは大変だった。平静を装ったが、恐らく相手にもバレている。
(何と言うこと……)
回線を切った後、私は塞ぎ込む。何も気付けなかった。次に会うまで回線は繋げないと、主が私に言ったのに……回線が繋がった。近況を聞くあの人の声は、イグニス様そのものだったけど、それはイグニス様じゃない!一人きりの私にだけ、聞こえる声。
(お前は何者だ!?)
『私を保護するなんて言葉だけですのねぇ。邪魔な荷物はこうやって、眠らせて隠して持ち歩いて。まるで物みたい。嗚呼、便利なものね』
(その口調……声、貴様は!)
聞き覚えがある。声色は幼くなってはいるが、ペイルビーチで出会った女貴族のそれと同じだ。次から次へと問題が!泣きたくて堪らないのにそんな暇さえ私には許されないのか。
『リオ=プロイビートさん?貴女の切り札、私ある方から聞いていたんですの。本当にあの人の言った通りの結果になってびっくりですわ』
保管数式は、生きた情報は飲み込めない。人を隠して運ぶことは出来ない。それは、建前。相手が昏睡状態や、深い眠りに就いているなら持ち運べる。死体とさして変わらぬデータ量なら。
「くっ……」
この女は危険だ。吐き出さなければ、私という箱が壊れてしまう。はっきり意識を持ち目覚めた女の情報量で、私はパンク寸前だ。
『うふふ、殺せば良かったのに私をあのまま死なせれば。本当に、カーネフェルの聖女様はお優しいのねぇ?私、益々好きになってしまいそう』
「私の教え子に、手出しはさせないっ!」
『あら?自害ですの?そっくりですのね、貴女の飼い主に』
「!?」
イグニス様を殺した相手と、この女は繋がっている!?殺さなきゃ、殺せない。聞き出さなきゃ、殺さなきゃ。
呑み込んだ相手を、分離し保管数術を解除!間に合った。私が壊れる前に、吐き出せた。それでも消耗は激しい。私は少女に銃を突き付け威嚇する。
「知っていますか?セネトレア式の憑依数術って、いくつか必要な行程があるんです」
「喋るな!これから私に質問されたことだけを答えろ!」
「被憑依者の心をね?ぽっきり折らなきゃいけないの。私、好きよそういうの。大好きなの。可愛い子が絶望する顔、とても好き」
「撃つぞ!私に近付くなっ!」
「“教皇イグニスは死んだわ。それに気付いた貴方含めて数人の運命の輪は、これから追われる身となる。かつての仲間に言葉は信じて貰えず、命を狙われるだけの生よ”」
「嫌ねぇ軍人って。身体を鍛えれば良いって物ではありませんのよ?うふふ……もう聞こえてないかしら?」
大事なのは心。それを鍛えなきゃ……こんな風に簡単に、私に乗っ取られてしまう。手にした銃の中身は何か知っている。抜け殻になった金髪の少女に発砲すれば、彼女の姿は崩れるように消えていく。そこから逃れる術は一つだけあったけど、少女の中に逃げれるものも、帰れるものももはや残されてはいなかった。
*
死都ハイレンコール。その歴史は比較的新しい。シャトランジアとタロックにとって、因縁の地。第五公の居城、城下町ブラウデ・ザートから離れた山中に作られた隔離施設。先の大戦時に、シャトランジアの姫が作った物だ。かつては死者をも蘇らせる……医療軍がいるという噂もあり、そんな大層な名前が付いた。蘇生軍団と。それが今となっては……死者蘇生。その名を縋った半死人共が流れ着く最後の場所だ。俺の主の読みでは、ここが再び地獄となる。そのための駒も送り込んだ。それでも、せめてもの慈悲だろうか。こんな綺麗な場所で死なせてやるんだ。何より求めただろう場所に似た……最悪の、楽園で。
「死者蘇生……因果な名だな」
城下町の宿屋から……遙か山頂を眺める俺の独り言。そこに加わる声一つ。
「正確には違うな。死者は蘇らない。あのお姫様は大層な回復数術の使い手だが、さすがに死者までは無理だ」
振り返れば寝台に影二つほどが増えている。美しい顔を陰らせた、俺の主がそこにいる。仕事を遂に成し遂げたのか。主の傍らには死んだように眠る少女が見えた。……いや、違う。眠るように、死んでいるんだ。人とは思えない程美しいその娘。彼女は足りない、何もかも。
「随分遅いお帰りで」
十分早い方ではあるが、瞬殺も出来るだろうに。わざわざ遊んでやったのか。俺の主はお優しい。皮肉めいた俺の言葉に、主は何も返さない。思えば先程の皮肉めいた返答も、声が震えていたようだ。死者蘇生の都。そんなものが本当にあるなら、この人が誰より早くそこへ向かっていただろう。そして俺も。
「お前は、道化師なんだろう?笑えよ、今はまだ。最後に笑うのはお前だ。だから……道化がそんな悲しい顔をするもんじゃない」
「分かってる。これからが大忙しだ」
俺の手を拒むよう自ら涙を拭った後に、主は死者のような暗い瞳で微笑んだ。
「時が来るまで君にこの子を頼む。逃げ隠れするのは得意だろう?それ以外は……僕の仕事だ」
「……本当に、そっくりだな」
「似てないよ。僕は多分……こんな顔で死ねないから」
主はそれだけ言い残し、再び姿を消した。寝台に横たわるは……白いドレスを着た少女。死に装束にも花嫁にも見える、哀れな娘だ。
「前は、笑ってたのにな」
そっくりじゃないか。今にも泣き出しそうな顔。辛い夢を見ているような……俺の主とよく似た顔で彼女は眠る。眠り続ける。
やっと書けた。書きたくなかったけど書いた。6章終りの足音がしてきました。




