其の9
日の光は眩しく海面を照らし、波に揺らめいて美しく光が反射します。刻々と姿を変える波は美しく、海は底知れぬ青さを孕んで深く広大です。
今、桃太郎達は鬼ヶ島行きの船に乗り込んでいました。
桃太郎の髪を潮風が何度も揺らしては攫っていきます。
船上での桃太郎達は、鬼ヶ島に上陸した後どのように行動するか、四人で話し合いました。
まず、鬼ヶ島に上陸した後はどうしましょうか?
鬼ヶ島に入るには、大きな城門を越えなければなりません。つまり、その城門をどうにかして開けさせなければいけないのです。
まずはそこからでした。
それをクリアできたら城に侵入するのです。出来れば穏やかに事を進めれたら良いのですが。
さらに鬼の首領に会い、相手かどんな者なのか見極めなければなりません。果たして町での噂はどれが真実なのでしょうか。
鬼退治は交渉を行った後に対応を決める事になりました。
「見えたぞ~! 鬼ヶ島だ~!」
船乗りが大声を張り上げました。
視界の遙か先に、海の上にポツンと存在している小さな島が眼に入りました。
「桃タロさん、遂に鬼ヶ島に来ましたわね。わたくし柄にも無く落ち着かなくってよ」
紗瑠々は少しこわばった表情をしています。その瞳には怯えの色と、それを上回る強い光が浮かんでいました。
「あんたはいつだって騒々しいだろうが。だが、鬼ヶ島で何が待ち受けているのか、楽しみだな」
戌成はいつもと変わらぬ飄々とした表情でしたが、その口元には不敵な笑みが浮かんでいます。
「はん、なんだかんだと言っても二人共緊張しているんじゃないかい?」
さらに様子の変わらないお雉が、面白そうにそのやり取りを見ています。
「ああ? 何言ってんだ。いいか、俺が鬼ヶ島に着くのを、鬼の女達が今か今かと待ちわびているんだぜ。ああ、一体どんな女達か想像するだけでも血が滾るぜ。やっぱ、妖艶な鬼女か、それとも男勝りの女王様気質か。おおう、たまんねぇ!」
「あんたってば本当にケダモノね。こんな美を理解しない男の妄想なんて、気持ち悪いったらないよ」
「そうですわ。戌成さんったら最低でしてよ。はっ、桃タロさんは今まで大丈夫だったののかしら? 変態の毒牙にかかって……」
「かかってないから! 変な誤解をしないでくれ」
「まあぁ」
「そうだ! 俺はなぁ、どんな女でもドンと受け止めるが子供は守備範囲外だ。桃太郎さんがもう少し育ったら、その時は覚悟しとけよ」
「……何の?」
「いやああ」
「嫌っ! このケダモノっ」
「オカマのお前に言われたくは無い」
一体何の覚悟なのだか。桃太郎は呆れて物も言えません。傍らでは、紗瑠々が奇声を上げていました。
桃太郎は、紗瑠々に複雑な眼差しで見られている様な気がするのは、気のせいでしょうか?
痛い結果になりそうなので、これ以上は想像するのを止めました。
それにしても、戌成もお雉も驚くほど落ち着いているように、桃太郎の眼には映りました。
二人は今迄に一体どんな過去を持っているのでしょう。そう思わずにはいられない桃太郎でした。
その桃太郎も、刀の柄を無意識の内にぎゅっと握りしめていました。掌にはじっとりと汗が滲んでいました。
みるみるうちに鬼ヶ島はその姿を現していきます。
小さかった小島は視界一杯に広がり、やがては収まりきらなくなりました。島の頂上には巨大な城が圧し掛かってくるかの如く、その姿を晒しています。海鳥達が不気味な声を上げて、競う様に鳴き声を響かせました。
岸壁に打ち付ける波が、荒々しくうねっては砕け散り飛沫を飛ばします。
船は大きく波に揺られながらも、無事桟橋の傍に着岸しました。
遂に四人は鬼ヶ島へと上陸したのでした。
今回も読んで下さいまして、ありがとうございました。