其の8
「タロさん、これは一体どういうことですの?」
「あ、いや、だから」
桃太郎は今、宿の部屋で正座をし、小さく畏まっています。
紗瑠々の一言に、小さい体は亀のようにもっと縮こまってしまいました。
桃太郎の眼の前には、怖い顔をした紗瑠々と難しい顔で腕組みをしている戌成が、ど~んと威圧するように座っていました。
桃太郎の顔色は、いつもの桃色ではなく熟していない桃の様になっています。
部屋の隅ではお雉がこの光景を面白そうに眺めていました。
お雉は懐から扇を取り出して口元に当てていますが、面白そうに眼元が緩んでいるのが分かります。
お雉の口元は、間違いなく歪んでいるに違いないと桃太郎は思いました。
そもそも、こうなった経緯はお雉も全く関係が無い訳では無いのに、何故自分一人がこんな事になっているのかと内心ボヤきながら考えました。
宿へと連れてもらった桃太郎は、無事に戌成と紗瑠々に再会できました。
宿まで案内してくれた、お雉のお陰です。
三人はお雉に、それぞれお礼を言いました。お雉が居なかったら、この広い町の中で無事に再会できたかどうかも分からなかったでしょう。
無事に再会できた三人は喜び合いました。さらに、何故だか桃太郎は戌成と紗瑠々に慰められてしまいました。
何だか微妙な気分です。
しかも、その後桃太郎はこんこんと二人に注意されてしまいました。
本当に子供扱いです。
否定したい所ですが、今回ばかりは二人に心配を掛けた手前、文句も言えません。
桃太郎は大人しく、二人の話を聞いていました。
この様子だと、桃太郎ががらの悪い男達に絡まれた事や、お雉が仲間に加わった事をどうやって伝えたらよいでしょうか。言い出し難い事此の上ありません。桃太郎は都合の悪い所は黙っていようと思いました。
「あ、あの。実はお雉さんも鬼退治に参加する仲間になったんだが」
「ええっ。いつですの?」
「はぁっ?」
二人はその言葉を聞いた途端、お雉にお礼を言ったのも忘れて、二人の形相は鬼のようになってしまいました。
「タロさん、聞いています? ぼんやりしてないでしょうね」
紗瑠々の眼つきが怖いです。桃太郎は回想するのを止めました。
「も、勿論、聞いている」
「紗瑠々の言うとおりだ。迷子になって、無事に帰ってきたかと思ったら、どうしてそんな事になってんだ。鬼退治は遊びに行くんじゃ無いんだぞ」
「勿論、分かっている」
「それに、言っては何だがこんなちゃらい格好の奴に付いてこられても困るぜ」
「こんなとはどういう事だい、随分な言い方じゃないか。あんたこそ、桃ちゃんの一体何なのさ」
「俺は桃太郎さんの保護者の様なもんだ」
「あら、わたくしもですわ。戌成さんなんかより、ずっと頼りになります事よ」
「あ、あの~。皆、落ち着いてくれ」
おいおい、一体いつの間に保護者なんかになってたんだ?
桃太郎は突っ込みたくなりましたが、ここは大人しくしていました。
突っ込む代わりに、お雉に助けてもらった事や、鬼退治についてくる事になった経緯を説明します。
もちろん、絡まれた所を物凄く省略したのは言うまでもありません。
「大体よ、お雉と言ったか。見るからに怪しい奴だぜ。一体何者だ?」
「あたしは楽士なのさ。貴族の前で笛を吹いたり舞を踊ったりするんだよ」
「あたしだって? おい、見かけは女のなりをしていても、俺の鼻はごまかされねぇぞ」
「ふん、失礼なやつだね。あんたは美ってやつを理解できないのかい? 桃ちゃん、この顔は良いけど失礼で、保護者面の男は何なの?」
「いや、私の護衛になるのかな?」
「ふうーん。あたしだって腕には自信があるんだけどね。物騒な所に行くんだろう? 少しでも、使える奴が居た方が良いんじゃないかい?」
紗瑠々は難しい顔をしていましたが、その表情を崩して言いました。
「……確かにそうですわね。どんな凶暴な相手か分からないし、腕に自信がある人は少しでも多い方が良いですわ。オカマさんでもかまわないです事よ」
「オカマさんと呼ばないで頂戴。あたしには、お雉っていう名前があるんだからね!」
「ふん。男は俺一人で良いんだがな。仕方ない、桃太郎さんが良いって言ったんだろ。しょうがねえな」
戌成はブツブツ言いながらも、お雉さんを仲間として迎えてくれました。
「では、お雉さんも今日から我らの仲間だ。お雉さん、この二人は戌成さんと紗瑠々さんだ、宜しく頼む。皆! 明日は遂に鬼ヶ島に向かうぞ」
「よし! 心して掛かろうじゃないか」
そう言う訳で、鬼退治は四人で出かける事になりました。
四人はそれぞれ鬼退治に向けて、今日は英気を養う為に早めに就寝したのでした。
今回も読んで下さいまして、ありがとうございます。