其の7
「オラオラ~! かかって来いや~!!」
女性は見事な腕さばきで、ガラの悪い男達をバッタバッタと倒していきます。
あっという間に女性は一人で男達をやっつけてしまいました。
桃太郎の出る幕など全くありません。というか、茫然と見守ってしまいました。
「ふん、口ほどにも無い奴らだ」
桃太郎があんぐりと口を開けて見ているのに気が付いた女性は、少しの間固まっていました。
「……」
「……」
空白の時間が流れます。二人の間にひゅうと風が吹きました。
「いやああん! 怖かったぁん!」
女性は口元に両手を当てて身震いしました。
物凄くわざとらしいです。急に思い出したように女性は態度をころりと変えると、ついでに声も野太い物から涼やかな声へと変えました。
「ええと、大丈夫だったかい? 怪我とか無かったかしら?」
女性の緋色の着物には一つも乱れた所はありません。
それにしても、先程の野太い声は一体どこから出したのでしょう? 本当に不思議です。桃太郎は幻聴を聞いたのでしょうか。
「い、いや、どうもない。先程は助かった、ありがとう。私の名は桃太郎だ」
「怪我が無くて良かったわ。あたしはお雉だよ」
「お雉さんか。よろしく。ん? 手に傷が」
桃太郎はお雉が差しだした右手を握ろうとした時、女性の手の甲に先程の騒ぎでかすり傷ができている事に気が付きました。
「ああっ、本当だわ。くう~、女の肌に傷が! 奴らめ、許さんぞ! もう一回ぶん殴ってやる!」
興奮するお雉を桃太郎はなだめようとしました。
「お雉さん、落ち着いて。あの、これを食べてみてくれ。このきび団子を食べれば、この程度の傷なら治るはずだ」
「何だって? この程度とは、聞き捨てならないよ。あたしの白魚の様な手に傷を作るなんて、許せないね!」
「まあまあ、取りあえずこれを食べてくれ」
「ふん、分かったよ」
そう言うと、桃太郎のGきび団子を一つパクリと食べました。
すると、かすり傷がすっかり治ってしまいました。
「ゥ美味い! おおっ、体がぽかぽかするかと思ったら傷が治ってる! すげえよ!」
お雉はまたもや野太い声になっていましたが、気が付いていないのでしょう。桃太郎はやっぱり幻聴で無かった事が分かりました。
「あ、ああ。Gきび団子は少しの傷くらいなら治してしまうんだ」
「なあ、これをもっと食べたい! 桃ちゃん、ちょっと分けてくれ」
「も、桃ちゃん? ……まあいいか。お雉さん、今持っているきび団子はあれだけでな。宿に帰ればあるのだが、道に迷ってしまって帰り方がわからんのだ」
「俺、あっ、いや、あたしに任せな。どこの宿だい? 案内してやるよ」
「かたじけない。助かるよ」
そういう訳で、桃太郎は宿まで送ってもらう事になりました。
「ねえ、桃ちゃん。この町には何の用で来たんだい。観光かい?」
お雉は送ってくれる道すがら、桃太郎に聞いてきました。
隣を歩くお雉は桃太郎よりもずっと背が高く、見下ろすようにしながら歩きます。
二人の歩いている道は店から洩れる光が煌々と照らし、提灯の光が数珠のように繋がって、妖しく揺れています。
どこからか、店の中から喧騒や楽の音が響いてきて、通りは賑やかです。夜でも明るい通りは人通りが多く、お雉は桃太郎が逸れてしまわないようにと手を引いて歩きました。
繋いでいるお雉の手は、ひんやりとしていてつるりと白く、綺麗なのですが骨ばっていて大きいです。その手は桃太郎の手の平を軽くすっぽりと包み込んでしまいました。
「いや、観光ではない。鬼退治の為に鬼ヶ島を目指しているのだ」
「鬼退治? 桃ちゃんが?」
「ああ。実は……」
桃太郎は鬼退治をする事になった経緯を、お雉に手を引かれながらぽつりぽつり語ったのでした。
「へえ、面白そうじゃないか! よし、あたしも付いて行くよ!」
「ええっ? お雉さん、本気か? 鬼退治に行くんだぞ。とても危険だぞ」
「ふふん、こう見えても腕は立つんだよ」
「いや、それはもう見ましたが」
「そういうことだよ」
お雉の強引さに押されて桃太郎は断りきれず、結局お雉も鬼退治に付いてくる事となりました。
今回も読んでくださいまして、ありがとうございます。