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其の6

 海沿いの町で手頃な宿を取った後、桃太郎達三人は手持ちの荷物で不足している品物を買い足す事にしました。

「タロさん、鬼とは一体どんな相手ですの?」

「それが、役人の話では凶暴で役人達でも敵わない程強いという事しか分からないのだ」

「ふむ、それだけでは分からんなぁ。鬼について情報収集をするか。まずはどんな相手か知らない事には対応のしようが無いからな。ついでに食事も摂っちまおうか」


 桃太郎達は客の喧騒で賑わう食堂に入ると、鬼ヶ島の鬼達について情報を聞き出してみることにしました。

 まずは軽く腹ごしらえです。新鮮な魚料理に舌鼓を打ち、お腹が落ち着いたところで給仕の中年女性に戌成が声を掛けました。戌成はごく自然にそれとなく話を聞き出しています。

 戌成の話術に相手は気付かない内についつい話し過ぎてしまうようでした。


 意外にも戌成は人から話を聞き出すのが上手でした。熊の様に大きな体をしているのでこういう事は苦手そうだと桃太郎は思っていましたが、人は見かけによりません。

 桃太郎が思った事を戌成に伝えると、飄々とした態度で返事がありました。

「そうかい? そりゃ、俺が熊男みたいに大きいんじゃなくて、桃太郎さんが小っこ過ぎるんだよ」

「……そこまで小さく無いし、子供じゃない」

 相変わらず、桃太郎は憮然としてしまいました。

 その様子に戌成は楽しそうに笑うと、バチンとウインクしました。青い眼が弓なりに細まります。

「嫌ですわ! 戌成さん。タロさんにはまだ早くってよ。穢れてしまいますわ」

 紗瑠々が飛んできた何かを掴んで投げ捨てるのが見えました。

 桃太郎の顔がより一層渋くなったのは言うまでもありません。

 それにしても、一体戌成はどんな過去を持っているのでしょうか?

 桃太郎は戌成の知らない一面に少し興味を覚えたのでした。


「ちょっと意外だったな。桃太郎さんから聞いた役人の話とは、随分違うようだが」

「……そうですわね」

 聞き出した話の内容は意外なものでした。鬼ヶ島の鬼達は給仕の話によると、とても評判が良く退治される理由になる様な物など無かったのです。

 他の人にも話を聞いてみましたが、その噂は様々で力が強く凶暴であるというものからとても親切であると言う者、見上げる程に大きい体だと聞けば小柄だったと実に様々で、どれが真実なのか分かりません。


「これは一体どういう事なんだ?」

「本当に、訳が分かりませんわね。タロさん、そのお役人の言っている事は間違いないのかしら?」

「ううむ、良く判らないな。こうなると誰が本当の事を言っているのか判断できない」

「ふ~ん。桃太郎さん、まあどっちにしろ自分の眼で直に確かめてみるしかないな! 鬼ヶ島に着けば分かるって事よ」

「そうだな。色々な情報に惑わされる事無く、先入観を持たずに自分の眼で真実を確かめよう」

 それ以上は考えようも無く、三人は宿に戻る事にしました。


 宿へ戻る道すがら、桃太郎は今回の依頼について考え込んでいると、いつの間にか戌成達と逸れていました。

 戌成の白い髪に広い背中も、紗瑠々の栗色の髪に黄色の着物姿もどこにも見当たりません。

 辺りは既に夜の闇で覆われていて、ここが何処なのかも分かりません。桃太郎はどうやら迷子になってしまったようでした。


 取りあえず、来る時に通ったと思われる道を歩く事にしました。

 どんどん人通りが少なくなり、周囲の照明が減って辺りは暗くなっていきます。

 桃太郎があやふやな記憶を頼りに彷徨っているうちに、間違って怪しい裏通りに入ってしまったようでした。


「おい、そこのお前。何見てんだよ」

 いかにもガラの悪い男達数人が桃太郎に因縁を付けてきました。脅す様に話しかけてきます。

「嬢ちゃんよう、こんな所で何してんだ? へえ、随分大層な刀持ってるじゃないか、ええ? それをこっちに寄越しな」

「断る」

「ああ? 聞こえねえな」

 桃太郎より体格の良い男達でしたが隙だらけで、桃太郎の相手ではありません。しかし、桃太郎は眼の前の男達に対してどう対処しようかと迷いました。

 その時、不意に声が割って入りました。

「その子はあたしの連れだよ。あんた達、何か用かい?」

「なんだよ、てめえは? 女はすっ込んでな。お前女のくせに、随分でかいじゃねえか」

 相手の男よりもその女性の方が背が高かったのです。

 女性は鮮やかな緋色の着物を身に纏っています。着物の細かい刺繍は煌びやかで、美しく結った髪には凝った細工の簪を挿していました。

「これでも腕は確かでね。怪我したくなかったら、とっとと消えな」

「ちっ。随分生意気な女だ。少し痛い眼に合わせてやろうか」

 女性はすっと前に出ると、桃太郎を背中で庇う様にして男達の前に立ち塞がりました。


「あんたら、後悔するぜ」

 次に女性が発したその声は、先程の涼やかな声とは違い、とても女とは思えない野太い声でした。







今回も読んで下さいまして、ありがとうございます。

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