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其の3



 旅の道のりは順調です。

 街道では桃太郎の他にも旅をしている人達とすれ違います。すれ違う人達とは、商人や男性一人旅、夫婦二人旅、そして団体さん等々実に様々です。

 街道沿いの両脇には松の木が植えてあります。さらに、お蕎麦屋さんや甘味屋さんなどの店が並んでおり、美味しそうな匂いに心惹かれます。

 しかし、桃太郎は立ち止まる事無く今日の目的地目指して歩き続けます。


 桃太郎は調子良くずんずん旅路を進み、山の中へと入って行きました。

 快調に進んだ桃太郎は、今日の目的地までの丁度半分くらいまで来ました。

「よし、ここまでの道のりは順調に進めているな」

 この山を越えれば山間の小さな町があります。小さな町には湯治場があるので、今日はそこの宿に泊まる予定にしています。


 桃太郎は水筒の水を一口飲むと、先を急ぐ事にしました。

 そろそろ昼時なのですが、日が暮れる前には目的地に着きたいところです。それに、山の中では休憩所の数がほとんどありません。

 次の休憩所までは随分先になるのですが、桃太郎はそろそろお腹が空いて来ました。

「お腹が空いてきたな。ここら辺で少し休憩しようか」

 どこかに座ってきび団子を食べようと辺りを見渡しました。手近に座る事のできる岩があれば良いのですが。


 きょろきょろと周りを見渡していると、眼の端に白と黒の何かが眼に入りました。何でしょうか、あれは?

「ん? 何だろう。何か落ちてるぞ」

 誰かの落し物でしょうか? だとしたら、結構大きな荷物です。

 訝しく思って近づいてみると、落とし物ではありません。

「こ、これは……」

 なんと、倒れている人間でした。白髪に汚れた黒っぽい着物を着ています。

 行き倒れでしょうか?。


 大丈夫なのでしょうか? うつ伏せに倒れている男性は息をしていました。

「おい、大丈夫か? うん、息はあるな。おい、しっかりしろ!」


 桃太郎が何度も声を掛けると、行き倒れの男性はうっすらと口を開けました。

「ああ、気が付いたな! おい、どうした、何があったんだ?」

「腹が減った……」

 とても弱々しく力無い声です。

「は、腹が減って力が出ん。……ん? くんくん。こ、この匂いは?」

 男は白髪の前髪と髭で眼も口元も隠れている顔をがばっと上げました。髭もじゃ男は桃太郎の匂いをしきりに嗅ぐと、涎をじゅるりと拭いました。

「わっ。な、何だ?」

「食い物の匂いがする!」

 食い物? きび団子の事でしょうか。

「ちょっと待って」

 桃太郎は腰に括り付けてあった袋からきび団子を取り出すと、倒れていた男性に分けてあげました。


「なぁんじゃこりゃあ~!! う・う・うまい! もっとくれぇ!」

 差し出したきび団子を食べた髭もじゃ男は、勢い良く起き上がると物凄い形相で言いました。迫力に押されてしまった桃太郎はきび団子を更に分けてやりました。

 髭もじゃ男は喜んでむしゃむしゃ食べた後、差し出した水筒の水を美味しそうにごくごく飲みました。


「ぷは~。ううおりゃ~! 元気出たぜ~コラァ!」

 きび団子を食べて、髭もじゃはすっかり元気になりました。立ち上がって喜んでそのいる姿は熊が威嚇しているようです。

 桃太郎は思わず後退さってしまいました。その迫力たるや、さっきまで弱々しく倒れていたのが嘘のようです。

 髭もじゃは雄叫びを上げると桃太郎の両手をがっしり掴みました。

「わっ」

「あんたのおかげだよ、ありがとう!」

 髭もじゃは桃太郎の両手を握ると、嬉しそうにぶんぶん上下に振ります。

「い、いや。元気になったのなら何よりだ」


 良かった良かった。ちょっと吃驚しましたが、桃太郎は人助けが出来て満足です。髭もじゃが元気になったので桃太郎は安心しました。

「では、先を急ぐので失礼する」

 髭もじゃの様子を見て満足した桃太郎は、再び旅を続けようとしました。先を急がないといけません。

 その時、桃太郎の背中に少し焦った様な熊の雄叫び……いやいや、髭もじゃの声がかかりました。


「お、おい! ちょっと待ってくれ。あんたの名前は? 俺の名は戌成だ」

「いぬなりさんか。私は桃太郎だ」


 桃太郎が振り返って名を名乗ると戌成は嬉しそうに顔を緩めました。

「ありがとう、桃太郎さん。あんたは命の恩人だ。それに、さっきのきび団子はとても美味かった!」

「そんな、大した事をした訳じゃないよ」

 桃太郎は当たり前の事をしただけです。

 しかし、桃太郎の返事を聞いた戌成は驚いた様に口をあんぐり開けました。

 その後、戌成は桃太郎の所まで駆け寄ってきました。その姿は熊の突進のようです。

「……うん、桃太郎さん。あんたの事が気に入ったぜ! お礼に何かさせてくれよ」

「お礼なんていいよ」

 桃太郎は断りましたが、なおも戌成は付いて来ます。

「ならば桃太郎さん、どこへ行くんだい? 旅の途中なら付いて行くぜ! どうせ財布を落としてこちとら手持ちが一文無しなんだ。護衛として雇ってくれよ。これでも結構腕はたつんだぜ!」

「一文無しなのか。しかし、私はそんなに金は持ってないし、おまけに鬼退治に向かっているんだぞ」

「大丈夫。あんたには特別料金でサービスするからさ!」

そう言うと、戌成は断る桃太郎の話も聞かず、強引に桃太郎の鬼退治に付いてくる事になりました。








読んでいただきまして、ありがとうございます。

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