其の19
ついに懐かしの我が家に帰ってきました。
山奥の我が家に帰った桃太郎は、久しぶりに会う両親が元気そうにしているのを見ると、ようやく安心できました。
お爺さんとお婆さんと共に、桃太郎が無事帰って再会できた喜びを分かち合いました。加えて桃太郎にとって、大切な友人が出来た事に二人は大喜びです。
さっそくお婆さんが猪を山で狩ってきて、お爺さんが得意の猪鍋を振る舞ってくれました。
桃太郎はお爺さんとお婆さんに、今までの旅の経過を話して聞かせました。
その内容に、お爺さんもお婆さんも身じろぎせずに話を聞いています。問題解決したと語った時には、ようやく一安心したようでした。
それにしても、鬼ヶ島の鬼達が人柄良く、役人達や家老が悪だくみをしている等と、どうして想像できたでしょうか。
噂や先入観に惑わされず、真実は自分の眼で確かめてみないと分からない。
お爺さんはそう、感想を漏らしました。それは、その場に居た皆が同じ感想です。つくづく、そう感じた一同でした。
その夜はお爺さんの心尽くしの料理が振る舞われ、宴会になりました。
宴もたけなわになった頃、夜風に当たって涼みたくなった桃太郎は、そっと家の外へと抜け出しました。
頬に当たる風が心地良いです。
宝石を散りばめたかの様な夜空を眺め、そっと息を吐き出します。明日になれば、鬼王とも戌成ともお別れでしょう。じわじわと心を埋めようとする寂しさを、堪えるように息をひそめました。
その時、桃太郎の後ろで物音がしました。振り返れば、鬼王が立っています。
「桃どの。どうしたんだ、一人で休憩か?」
「鬼王さま」
桃太郎は俯くと、自分の気持ちを漏らしてしまいました。
「いえ、明日になれば、鬼王さまとも、戌成さんともお別れです。そう思うと寂しくて……」
すると、少しの間を置いて鬼王が言いました。
「なあ、桃どの。私と共に鬼ヶ島に来ないか? 住み慣れたこの場所も良いだろうが、鬼ヶ島も良い所だぞ。共に、暮らさないか?」
突然、鬼王が言いました。
「えっ?」
それってどういう意味でしょう?
「この旅が終わった後も、桃どのと共に過ごしたいのだ。どうだろう? 嫌か?」
「い、嫌だなんて、そんな事ないっ。でも、お爺さんとお婆さんの事が心配だし」
「ならば、ご両親も一緒に鬼ヶ島に来られると良いだろう」
桃太郎は、眼を白黒させてしまいました。突然の誘いに戸惑ってしまいます。
そんな様子を見ていた鬼王は桃太郎の手を取ると、桃太郎をじっと見つめて言いました。紅い瞳が桃太郎を捉えて離しません。
「桃どの、好きだ。傍にいてくれ」
桃太郎は、息が止まりました。ついでに思考も止まっています。
次に呼吸をした時には、考えるより先に口が勝手に答えていました。
「はい」
それから桃太郎は、鬼ヶ島に移り住みました。もちろん、お爺さんとお婆さんも一緒です。
戌成と紗瑠々はどうなったかというと……。
戌成といえば、巨乳童顔の鬼女が忘れられないと言って、共に鬼ヶ島に移り住みました。今日も、彼女に付き纏っている事でしょう。
紗瑠々の方はというと、お爺さんに弟子入りしました。日々きび団子作りに精を出し、鬼ヶ島で過ごしています。
桃太郎は、いつも自分の右隣にいる頼もしい男性に微笑みかけました。
その表情をみた男性は、紅い眼に慈しみを滲ませて、弓のように細めました。
その顔は優しさに溢れていて、桃太郎はとても幸せでした。
ここまで読んで下さいまして、ありがとうございました。
この話で完結です。
無事完結する事が出来たのは、この話を読んで下さいました、皆さまのおかげです。
ありがとうございました。