其の18
現れた殿さまに、桃太郎達は家老とその配下の役人達の悪事を訴えました。
お雉は桃太郎が知っている以外の事がらも、何やら報告しています。どうやら、家老は随分と今迄に悪事を重ねてきているようでした。
さらに鬼王が、鬼ヶ島の殿として殿さまと面会をすると、桃太郎達が知っている以外での鬼ヶ島で被った数々の悪事を、証拠と共に提示しました。
悪事が露見した家老と配下の役人は、初めはのらりくらりとかわし、しらばっくれていました。そのまま上手くうやむやにしようとしたのでしょう。しかし、証拠の品が次々と出てくる内に顔色が変わり、ついに言い逃れが出来なくなりました。
家老は観念せざるおえません。
処罰を受けた家老は地位と財産を剥奪され失脚し、悪事に加担した役人達も厳罰に処されたのでした。
家老達は殿さまによって成敗され、無事に一件落着です。
めでたし、めでたし。
さて、桃太郎達一行は、ここでそれぞれ自分の道へ進みます。元の生活に戻る者もいれば、新たなる始まりを迎える者もいました。
仲間のうち、お雉とはここでお別れです。
お雉はこの国を陰から支えていくという役割があるのです。お雉はこれからも、隠密として働いていくのでしょう。おかまの楽士という、仮の姿を纏って。
少し奇妙な刺激が無くなって寂しくなりますが、仕方ありません。
桃太郎達は別れの挨拶を交わしましたが、その後、お雉はあっさりとその場から姿を消しました。いかにもお雉らしいその行動に、一同は思わず笑って別れの時を過ごす事ができました。
戌成は桃太郎の護衛として、ご丁寧に桃太郎の家まで送ってくれる事となりました。
紗瑠々は桃太郎のお爺さんから、きび団子の造り方を習うのが元々の目的であるため、桃太郎と一緒に行動します。
この二人とは、もう少し一緒に過ごせるようで、桃太郎は嬉しくなりました。
桃太郎といえば、山奥の実家に帰って今回の旅の報告をするつもりです。それに、長い間家を離れていたので、年老いたお爺さんとお婆さんが心配でした。
「鬼王さま、それでは今までお世話になりました」
桃太郎は名残惜しさを感じつつ、鬼王に別れを切り出しました。もう、これで会う事もないでしょう。
さようなら、理想の男。
桃太郎は寂しさを堪えつつ、胸の内で呟きました。鬼王への複雑な思いを口にすることも無く、別れを切り出します。
途端、桃太郎は胸が引き絞られるように切なくなりました。思わず、胸元で拳をぎゅっと握りしめ、苦しさを堪えました。
しかし、鬼王の返事は桃太郎達の予想とは違う、意外なものでした。
「いや、桃どの。私も桃どのを家まで送って差し上げようと思うのだ」
「えっ? しかし」
桃太郎は驚きました。
其処までしてもらう必要なんて、どこにもありません。これ以上お世話になるのは、申し訳なく思います。それに戌成も紗瑠々も一緒ですし、桃太郎自身、自分の身は自分で守れます。
「鬼王さま、それは申し訳ないですし、戌成と紗瑠々も共にいますから。ここまでで十分です」
「いや、島から出たついでに、もう少し身分を忘れて自由を満喫したいのだよ」
鬼王は爽やかな笑顔を浮かべました。白い歯がきらりと光ります。その眩しい笑顔を見れば、何も反論出来ません。
「いいんじゃないか? 桃太郎さん。鬼王さま本人がそうしたいって言われてるのだからさ」
「そうですわ。人が多い方が楽しくてよ。それに旅の途中、危険が無いとは言い切れませんわ。腕に覚えのある方が居て下さるのは心強くってよ」
桃太郎が返事に困っていると、戌成と紗瑠々が言いました。二人は鬼王の同行に賛成の様です。
一緒に行動してきたお雉が居なくなって、ちょっぴり寂しいのでしょうか。それに、山の中では旅人を狙って襲撃する山賊や、危険な野生動物だっているのです。
二人がそういうのなら、桃太郎一人で遠慮や反対する必要も無いでしょう。
桃太郎は、素直に送ってもらう事にしました。
「そうですか。では、お言葉に甘える事に致します。でも、実家はかなりの山奥ですよ」
「いやいや、こうやって一緒に旅が出来るだけで、楽しいのだ」
桃太郎も鬼王と少しでも長く一緒に居る事が出来るのは、嬉しい事態でした。しかし、長く共に居ればいるほど、鬼王との別れが辛くなってしまいます。
いっそのこと、鬼王と会わなければ良かったか、鬼王がこんなにも魅力的で無かったら良かったのに。
桃太郎の胸の内では、そんな、切ない思いが時間と共に育っていくのでした。
桃太郎の複雑な気持ちを余所に、楽しい旅の時間はあっという間に過ぎてしまいました。途中、山賊に襲われるという事態にも遭いましたが、鬼王の正に鬼のような強さの前に、山賊達の方が逃げ出すというありさまでした。なんとも頼もしい限りです。
腕っぷしも強くて料理も上手い。桃太郎は自分の気持ちがどんどん鬼王に引き寄せられていくのを、感じていました。
そうして旅を続けるうちに、気付けば桃太郎の実家に辿りついていたのでした。
今回も読んで下さいまして、ありがとうございました。