其の16
次の日、桃太郎達は鬼王に自分達の考えを伝える事にしました。出来るだけ早く行動を開始しようと、鬼王に面会しました。
「鬼王さま、そういう訳ですので名残惜しいのですが、ここでお暇したいと思います」
桃太郎達は早速今までの経過で解った事、家老達の陰謀である事、そして本土の殿さまに会いに行く事を伝えました。
今日限りで鬼ヶ島とも、ここの鬼達とも、鬼王ともお別れです。ちょっぴり、いや、実際はそれよりもずっと寂しいのですが、仕方ありません。別れの挨拶を口にしました。
すると、それまで鬼王は桃太郎の話を静かに聞いていましたが、突如何かを決心したように立ち上がりました。
「待て、桃どの。私も共に行こう」
「鬼王さま?」
「ええっ?」
「おいおい」
鬼王の予想外の反応に桃太郎達は驚きを隠せません。思わずそれぞれが言葉を放ってしまいました。
しかし、それは臣下の鬼達の方も一緒のようでした。
今まで脇に控えていた、真面目そうな面構えの眼鏡の鬼が思わず腰を上げ、慌てたように口を挟みます。
「殿っ! どういう事ですか、それはっ。なりませんぞ、そのような危険な所へなど。それにここを置いて行かれるおつもりか」
「なに、留守の間はお前達が居るではないか。私の代わりを務めてくれれば良い」
眼鏡鬼の必死の制止にも、鬼王は全く譲る気がないようで、鬼王は飄々と返事をしました。
「おいおい、こりゃどうなるんだ?」
戌成g面白そうに呟きました。
桃太郎達はただ、成り行きを見守っているしかありません。なんせ、鬼王が一緒に同行するなど予想だにもしなかったからです。ちらと隣の紗瑠々とお雉を伺えば、紗瑠々は戸惑った様子でしたが、お雉は口角を上げていました。
「別に、鬼王さまがご一緒でもいいんじゃないかい?」
ニヤニヤと笑いながら言うのを見れば、間違い無くこの状況を面白がっている事だけは、分かります。そんなお雉に桃太郎は、思わず呆れてしまいました。
鬼王の脇に控えていた、もう一人の年老いた鬼が真剣な眼差しを鬼王に向けて問いました。深い皺が刻まれた、柔和な顔に埋もれた瞳には、鋭い光を宿しています。
「殿。一体何をお考えか?」
その問いに、鬼王は少し唇を歪めて答えました。
「なに、いまいましいこの一件に、片を付ける時が来たようなんでな。すっきりさせようではないか。それに……」
鬼王はちらりと桃太郎の方に眼を向けました。その眼は何かを期待するようでいて、飢えているようでもある、何とも不思議な光を湛えていました。
一体何だというのでしょうか?
桃太郎には分かりませんでしたが、老人にはたったそれだけで伝わったようでした。
「そうでしたか、なるほどのう。ならば、この爺は何も言いますまい。留守の間、ここはちゃーんと守っておりますのでな、無事にお戻りくだされ」
「うむ、頼んだぞ」
「ええっ。髭爺、何言ってんですか。いけませんよ、殿っ」
眼鏡鬼が慌てての制止の声を上げましたが、もちろん鬼王は無視しています。
「桃どの。私もそなた達に同行しよう。私もそなた達の目的のために、力になれるであろう」
結局付いてくる事になったようですね。急な展開に混乱しながらも、桃太郎は返事をします。
「えっ? は、はい。皆も異存はないだろう?」
桃太郎達に異存はありません。
そういう訳で、鬼王も桃太郎の旅についてくる事となりました。
今回も読んで下さいまして、ありがとうございました。