其の15
数日後、お雉はふらりと帰ってきました。一体どこへ行っていたのでしょう。
「やっぱり、鬼王さまは嘘は言って無かったよ」
帰ってくるなり言いました。
「そうだったか」
「やはり、そうですの。わたくしも、この島で過ごす内に、お役人の言葉に疑問を感じていたのですわ」
戌成と、紗瑠々も同じような思いをしていたようです。
「私はこの島を見て回ったのだが、豊かな自然に囲まれた恵みの多い島だと思ったよ。それに、ここの塩は良質で随分と価値があるだろう」
桃太郎達一行は一室に集まると、それぞれ得た情報を話し合いました。お雉はどうやら本土に戻って情報収集をしていたのでした。
「ああ、ここの塩はかなりの高値で取引されている、良質なものだったよ。それだけでも、十分魅力的だろうさ」
「確かに、鬼ヶ島の住民は皆潤った生活をしているように見えるな。金銭的に困窮しているようにはとても思えない」
「対するご家老様は、実はかなりの財政難で借金があるそうなんだよ。なんでも自分が始めた事業に失敗したらしくてね。そのせいで、お城での発言でも影響力を失っているようでさ。おまけに、最近では物騒な連中が屋敷に入り浸っているようなのさ」
「物騒な連中?」
「そう。流れの武士を金で雇っては、屋敷に住まわせているのさ」
お雉は一体どこからそんな情報を仕入れたのでしょう。
不思議に思って桃太郎は尋ねてみましたが、お雉は「そのうち教えるさ」と言って、答えをはぐらかしてしまいました。
「で、これからどうするよ、桃太郎さん。このままうやむやにしている事も出来ないしな。故郷のご両親達の事も心配だぞ。やつら、いたいけな老人に何やらしでかすか分からん」
戌成に指摘されて、桃太郎は故郷に残してきたお爺さんとお婆さんにも危険が及ぶ事を自覚しました。このまま放っておく訳にはなりません。
「うっ、そうか。確かに、お爺さんとお婆さんにも危険が及ぶやもしれないな。このような姑息な事をする連中だ」
「そうですわ、お役人の陰謀と分かった今、このままではまいりませんわ。許すまじ、ご家老と役人め。きび団子のお爺さまには決して手を出させませんことよっ」
紗瑠々は顔を赤らめて興奮しています。きび団子がやけに強調され過ぎてます。
そういえば、紗瑠々はきび団子を作っているお爺さんに会いたがっていたのでした。紗瑠々は和菓子屋の娘です。出奔のように出てきてしまった大黒屋は大丈夫でしょうかね? ちょっぴり心配で声を掛けると、手紙をちょくちょくしたためているとの事でした。
そんな事をしていたとは。桃太郎はついぞ気付きませんでした。
それにしても、お爺さんが持たせてくれたきび団子は、既に無くなっています。きび団子を味わうには、お爺さんに作ってもらうしかありません。
「分かった。ご家老さまとお役人達をどうにか懲らしめてやらねば」
「そうだな」
「そうですわねっ!わたくし言われなくてもついて行きますわっ」
皆、やる気満々です。
「しかし、どうすれば良いだろうか」
戌成と紗瑠々は息まいて同意をしてくれましたが、桃太郎は悩みました。
「ご家老より偉い人の力を借りるんだ。本土の殿さまに訴えるのさ」
「成程。しかし、殿さまはこの事には無関係なのかな」
「殿さまは知らないだろうね。だから、こそこそとやっているんだよ」
お雉は自信を持って言っています。まるで、その態度は殿さまの事を知っているみたいです。先程といい、その言動には疑問が募ります。
それは、戌成と紗瑠々も同じようでした。
「お雉、お前何者だ?」
「そうですわ。それではまるで、お殿さまの事を詳しく知っているみたいですわね」
「お雉さん、教えてくれないか?」
すると、お雉は眼を伏せて、少し息を吐きました。降参という様に両肩を竦ませます。
「解ったよ。実は、私は殿さまに雇われている隠密なのさ」
「ええっ?!」
予想外の事実に三人とも吃驚です。お雉の事は、妖しいおかまだとは思っていたのですが。
「実は、以前からご家老の動きに不審な点が多くて調べていたんだよ。そしたら丁度、桃ちゃんの話を聞いてね。一緒に行動する事にしたのさ」
「そうですの。ただのおかまではないと思っていましたわ」
「おかまって、失礼ね」
「成程な。正体を偽っていた事については許し難いが仕方ない。そういう事だったのか」
「ええ、ごめんなさいね」
悪びれた様子もなくお雉は言いましたが、誰もそれに対して怒っている様子はありません。
そういう訳で、桃太郎達は殿さまに会って訴える事にしました。
今回も読んで下さいまして、ありがとうございます。