其の13
桃太郎は気持ちを引き締めると、姿勢を正して話し始めました。
「実は、私の育ての親にご家老様の使いであるという役人から依頼がありました。なんでも、悪行を行っている鬼を退治してほしいと。その鬼は鬼ヶ島を拠点にしているというのです。そこで、私は年老いた育ての親の代わりに依頼を受けたのですが、調べた限りそのような鬼が居る事実が出てきませんでした。もし、鬼王さまが何かご存知であれば、教えていただきたいのですが」
桃太郎は緊張しながらも、言いました。その言葉を聞いた鬼王の家臣、黒縁眼鏡の鬼は、明らかな怒りの表情を浮かべました。
鬼王はどう反応するのでしょうか。
「成程。ご家老からの依頼か。して、その役人達が申したのは鬼ヶ島の鬼達は船を強奪し、近隣の村を襲っていると言う様な事であろう」
「はい」
「ふん。あやつらは、以前にも何度かそのような言いがかりをつけては我らを襲って来たのだ。だが、近隣の村や町でそのような事実があったか? 無いだろう、虚言だ」
その言葉に驚いた桃太郎達一同でしたが、鬼王が嘘を言っているようにも思えません。しかし、どうにも腑に落ちないのです。
「お待ち下さいな。しかし、何故そのような事をする必要がご家老や役人はあったのでしょうか?」
お雉が鋭く鬼王に問いました。どうやらお雉も同じ気持ちだったのでしょう。
そう、何故そんな事をする必要があるのか? 納得いきません。
すると、鬼王はふっと息を吐きました。
「お前達は浜で魚を水揚げし、一部天日干しにしているのを見ただろう。それは実に豊かな種類と量で、貴重な物もあったろう」
鬼王は突如、話を切り替えました。一体何が言いたいのでしょうか?
「はい、見ました」
「さらに、この島ではお前達が居た浜辺より少し離れた場所に、広大な塩田がある。お前達には見えなかっただろうが」
鬼王はニヤリと口元に浮かべました。
「この島の質の良い塩と周辺の漁業域で採れる豊かな海の幸を、あ奴らは喉から手が出る程に欲しがっている。そして、この島の位置が、海を挟んだ隣国との戦略上重要な場所にもなっているからだ」
なんという事でしょう。
それでは、この一件は明らかに欲に眼がくらんだ者の腹黒い陰謀ではないでしょうか。しかも、隣国との事まで絡んでくるなど想像も付かず、寝耳に水でした。
つまり、邪魔な鬼を退治して、ご家老や役人達はこの鬼ヶ島を手に入れようとしているのでしょう。しかし、大っぴらに攻撃出来ないため、都合のよい者達、つまり桃太郎に依頼したというのです。どちらが倒れても、ご家老や役人達は痛くも痒くもありません。それどころか、事実は闇に葬られていたに違いありませんでした。
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