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其の12



 桃太郎達は今、鬼ヶ島の山の頂上にそびえ立つ鬼ノ城にいました。

 桃太郎達の眼の前には海の幸をふんだんに使った豪華な生け造りや鳥や猪の料理が並んでいます。傍では美しい鬼女達が酒をお酌してくれていました。先程から戌成などは、美しい鬼女のお酌に上機嫌で、ゆるんだ顔を晒しながら酒を飲んでいます。それを眼の端に捉えながら、桃太郎は飲めない酒の代わりにお茶を飲み下しました。

 

 戸惑いつつも、桃太郎は海老の刺身を一口ほおばりました。

 海老は身がきゅっと引き締まって歯応えがあり、甘さが舌に感じられます。新鮮でとても美味しい刺身でした。

「桃太郎どの、ここに並べてあるのは鬼ヶ島自慢の物ばかり。堅くならず、是非楽しんでほしい」

「はい、鬼王さま。このように歓迎していただけるとは、勿体ないほどです」

 桃太郎は戸惑いながらも探るように、声の主に返事をしました。

 先程から戸惑っている桃太郎の様子を眺めていた声の主、鬼の殿は楽しそうな様子で眼を細めると、ぐいと杯を煽り美味そうに酒を飲みます。戌成に劣らず鬼王も結構な量の酒を飲んでいる筈ですが、酔っぱらった気配は無く、桃太郎の眼には全く隙が無いように見えます。

 その鬼王の座す席の傍には黒縁眼鏡の鬼と、子供程にも小さい年老いた鬼が控えています。黒縁眼鏡の鬼は、お雉と同じ位の歳でしょうか。神経質そうな顔には硬い表情が張り付いています。年老いた鬼の方はにこやかな表情でしたが、老人の瞳は知識と経験を多く宿している事を窺い知れる深さがあり、油断のならない事が伺えるのでした。






 そもそも、今この鬼ノ城でこのようなもてなしを受ける事になった経緯は、桃太郎は海岸で鬼王に声をかけた処、仲間と共にこの城へ招待されたからでした。

 鬼王は突然現れた桃太郎に驚く風も無く堂々とした態度で桃太郎と向き合い、更に仲間が隠れている事にも気付いていました。

 鬼王の所作には無駄が無く、桃太郎達に気付いていた所を見ると、相当の使い手であるようです。桃太郎は緊張しました。それならば、何故気付いていても放っておかれたのでしょうか。という事は、どうやら鬼王は桃太郎達が動き出すのを待っていたに違いありまあせん。

 なんと油断のならない鬼でしょうか。

 しかし、信じられない事にゴミ拾いを領民と混ざって気さくに行う様な人柄でもあるのです。

 悪い鬼では無いように思えてなりません。

 桃太郎は鬼の殿に対して、下手な言い訳をして相手に悪い印象を与えるよりは、はっきりと事実を言おうと思い、鬼王に役人からの依頼で鬼ヶ島に来たと打ち明けたのでした。

 他にも桃太郎自身が言葉巧みに交渉できる人間で無い事を、自覚していたという理由もありましたが。 

 

 すると、予想外に鬼王から宴に招待されたという訳でした。






 桃太郎は鬼王の歓迎に戸惑っていました。

 役人からの使いである事を鬼は警戒しないのでしょうか? このように歓迎するのは良い印象を持たれたいが為で、何か後ろ暗いことでもあるのでしょうか。こちらの命を狙うのであれば、このような回りくどい事はしないでしょう。色々と考えてみる桃太郎ですが、何一つ鬼王の腹の内は読めません。

 

 少し息を付いて他の二人を見ると、なんと戌成の他にお雉と紗瑠々までもが御馳走を頬張っています。三人の肝の太さには呆れてしまいます。それとも、ただ何も考えていないだけなのでしょうか? いやいや、多分、三人共この不測の事態を取りあえず楽しむ事に違いありません。それを見た桃太郎は、自分も腹を括って宴会を楽しむ事にしました。

 相手が何をたくらんでいるのか分からない今、どうせなら御馳走を楽しんだ方が良さそうです。桃太郎は出てきた新鮮な海の幸に舌鼓を打ちました。

 

 桃太郎の腹がくちくなってきた頃、見計らったように鬼王が鬼女達に下がるよう、告げたのです。

 そのまま、傍にいる眼鏡と年老いた家臣二人のみを残して人払いをすると、その場が落ち着く頃に鬼王は静かに切り出しました。

「さて、桃太郎どの。そなたは先程役人の依頼でこの鬼ヶ島に来られたと言われたが、その依頼内容を教えてもらえないか?」

 その声は、決して大きなものではありませんでしたが、はっきりと聞き取れるものでした。






読んで下さいまして、ありがとうございました。

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