其の11
今まで物陰に隠れて様子を窺っていた桃太郎は、鬼達の穏やかな様子から二本角の殿に声を掛けようと決心しました。
様子を見る限り、とても襲い掛かってくる危険な鬼には見えなかったからです。むしろ、堂々と会話を交わす事で相手の様子を探り、真実をつきとめるべきだと感じたのです。
桃太郎は己の決意を仲間に伝えました。
しかし、いい顔はされません。
桃太郎の発言を聞いた戌成は、眉間にしわを深く寄せて厳しい顔をしました。
「桃太郎さん、その案はとても了承出来ないな。危険すぎる」
「しかし、戌成さん。彼らはお役人が言った様な、話が通じない野蛮な相手には見えないのだ。海沿いの町で、彼らが残虐非道な行いをしたという話も聞かない。それどころか、逆に良い評判まであったくらいだ」
「しかし」
「確かに、桃タロさんの言う通りですわね。私も今まで桃太郎さんから聞いた、お役人の話とは結びつきませんもの。何か、違和感を感じましてよ」
「確かに。それには俺も違和感を感じている。果たして、桃太郎さんに依頼をした役人達は、本当に正しい事を言っているのか」
すると、それまで静かに話を聞いていたお雉が言いました。
「もしかすると、役人達の方が間違った事を言っているのかもしれないね」
「まあ、お雉さん」
「だってさ、お役人達の行動は少し不自然なんだよ。あたしには、違う思惑があるようにしか思えないんだよね。まぁ、まだこれは憶測にすぎないんだけどね」
お雉の言うとおりだとしたら、その行動の奥にある、お役人達の目的は一体何なのでしょうか?
この鬼ヶ島、いや、鬼達には一体何があるというのか?
双方の裏に隠されている顔とは一体、どんな物だというのでしょう。気味が悪くなってきます。桃太郎の脳裏には恐ろしい可能性が浮かびました。
真の鬼とは果たしてどちらの者なのでしょうか?
一同は、この依頼が思っていたよりずっと奥が深く、危険である事を感じたのでした。真実はもしかすると、深い闇の底にあるのかもしれません。
初めて、この依頼がどう転ぶか分からない、深刻な物である事に気付いたのです。
桃太郎は無言で立ち上がると、物陰から姿を現しました。
このまま、ここで隠れている訳にはいきません。拳を硬く握り締め、自分達の立っている足場が一体どんなものか、見極める為に一歩づつ前へと踏み出したのでした。
背中から、紗瑠々の慌てた気配が伝わってきます。けれど、桃太郎は立ち止まりません。
桃太郎はそのままゆっくりと、鬼達に向かって歩いて行ったのでした。
集まる視線と刺す様な陽光を、皮膚にじりじりと感じます。小柄な桃太郎から見れば、圧倒されそうなほど鬼達は体格の良い者ばかりです。
桃太郎は緊張と共に、自分より体格の大きな鬼達の中にゆっくりと入って行きました。
二本角の赤い両眼が、いつの間にか桃太郎を見ています。油断のならないその眼光を受け止めながら桃太郎は近付くと、鬼の殿に声を掛けたのでした。
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