其の1
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
老夫婦の生活は決して豊かとは言えませんでしたが、代わりに心は豊かで温かく、二人仲良く暮らしていました。
この日も二人は日の出と共に起き出して、そこら辺の男よりも男らしいお婆さんは山へ芝刈りに、家事が得意なお爺さんは川へ洗濯に出かけました。
じゃぶじゃぶじゃぶ。
洗濯をするお爺さんの手元は、日の光を反射して水面が煌めいています。
今日も良いお天気です。お天道様の朝日はおじいさんの顔を眩しく照らします。眩しいお天道様のお陰でお爺さんの顔は笑顔になりました。洗濯をするお爺さんの手も、より一層弾みます。
じゃぶジャブじゃぶ。
じゃぶジャブどんぶらこっこ。
ドンぶらこっこ。
「おや? 何だろか。変な音がしたの~」
何だかおかしいです。洗濯の音とは違う音が、お爺さんの耳に届きました。
見ると、川から両腕で抱えるほどに大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこっこと流れてきます。
「何じゃい、ありゃあ?!」
何と大きな桃でしょう! しかも、桃からは何やらとても良い匂いがしてきます。
お爺さんは大きな桃なんて大味で美味しく無さそうだと考えましたが、その香り立つ匂いと綺麗なピンク色に心と視線は釘づけです。
「だめじゃ、我慢出来ん」
お爺さんは大きな桃がどうしても食べたくなりました。愛するお婆さんと一緒に今晩のデザートとして食べるのです。妄想をしているといつの間にか口の中は涎で一杯です。
お爺さんはじゅるりと涎を飲み込むと、桃を拾って家に持ち帰りました。
拾ってきた大きな桃は本当に美味しそうです。
「おお、爺さん。何と立派な桃なんだい! 良い匂いじゃの!」
桃を見たお婆さんは大喜び。桃の匂いに興奮してお婆さんの晩酌も進みます。
喜ぶお婆さんの姿を見て、お爺さんは一層嬉しくなりました。
お爺さんは鼻歌を歌いながら包丁を手に取り、大きな桃を切り分けようとしました。
「では、早速お楽しみデザートを食べようかの」
硬い、硬い。
何と言う事でしょう。大きな桃の皮はかぼちゃの皮よりも硬く、包丁では歯が立ちません。
「なぁんと硬い皮なんじゃ~。全く切れんのお」
くやしいです。
お爺さんは何とか切り分けようとしましたが、桃には傷一つ入りません。
「爺さんや、あたしに任せておくれ」
苦労しているお爺さんを見たお婆さんは、腰の刀に手を掛けました。
「はぁーー!」
裂ぱくの気合いと共に、一刀で桃を真っ二つ。
お婆さん、お見事です。
お爺さんの眼には、お婆さんがとても凛々しくて格好良く映りました。気のせいかお婆さんの周りの空気までもがキラキラ眩しく光っています。
「お婆さん、素敵じゃ~」
お爺さんは、お婆さんの逞しさに今更ながらに惚れ直しました。
出来る事ならこのまま台所で抱いてほしいくらいです。いやいや、まだまだ時間が早いです。
「よし、綺麗に割れたぞ。爺さん、早速食べようか!」
「そうじゃの! ええ匂いがするわい。何とも楽しみじゃ」
真っ二つに割れた桃を食べようと、二人がスプーンを手に割れた桃を覗き込んでみると……。
「なんと!」
「お、お婆さん! こ、これは!」
何という事でしょう!
そこには可愛らしい女の赤ちゃんがすやすやと眠っているではありませんか。
「赤ん坊じゃあ! なんつう可愛らしい女の子か」
「おお、傷一つない元気な赤ちゃんじゃの」
どうやらお婆さんの刀で傷つく事もなく元気です。
桃の中にいた桃の様に可愛らしい女の子は、おじいさんとおばあさんに桃太郎と名付けられ、二人の子供として育てられる事になりました。
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