恥をかくのは自分なのに
名前を借りました
ボケが足りませんでした。
フィクションです
妹ジュールは、姉の私ジーメンスの物を奪っていく。
アクセサリー、ドレス、ぬいぐるみ、綺麗な羽ペン…
庭師に、庭に植えてもらった花は、植木鉢に入れられ、妹の部屋に飾られた。
お気に入りの物は、もう手元には無い。
買ってもまた奪われると思っているから、買うのも諦めた。
勉強しないで、両親からチヤホヤされて、甘えている妹。
我儘は何でも両親から叶えてもらう妹。
私が勉強している間、妹は、よくお茶会へ行く。
令嬢達の間で妹は
『いい歳してマナーを知らない』
『もうすぐ成人なのに常識が無い』
『浅い知識で知ったかぶりをする』
『同類だと思わるれると恥ずかしいから友人ではいたくない』
と有名。
恥をかくのは自分なのに、堂々とお茶会へ行く。
…恥をかいている事に気付いていないのかな?
気付いてたら改めるかな?
姉である私に来た婚約を奪うのも、予想できた。
ある日、家族で夕食後の紅茶を飲んでいると
「お前に婚約の申し込みが来た」
お父様が私を見て言った。
「どなたからでしょうか?」
「クーロン様だ」
クーロン様は、学園でもイケメンで優秀で有名な、モテモテの侯爵子息だ。
「まぁ!クーロン様ですって?勿論相手は私よね?」
妹が言った。凄い妄想力である。
「いや…」
父、ちゃんと言いなさい。
「クーロン様が婚約者だなんて…素敵…」
完全に自分の世界に入っている妹。すごいなぁ…
「婚約は…」
「可愛い私にピッタリね!」
父の言葉なんて全く耳に入らない。
「可愛いジュールを婚約者に選ぶなんて流石クーロン様だわ」
母も言った。さっき、私に向かって言ってたの見てよね?
「我が家も安泰だわ」
「お父様!早くお受けすると返事して!」
「…分かった…」
父は渋々頷いた。
指名された婚約を、勝手に変えたらどうなるか、分からないならもう終わりね。
食堂に飾られた花瓶の花が、萎れかけていた。
我が邸での、婚約の話し合いの席で挨拶をしようとした家族達。
…私は部屋に入れてもらえなかった。
「お前は誰だ?」
クーロン様が妹に言った。
「貴方の婚約者ですわ」
妹は、当たり前のように言った。
「私は、ジーメンス嬢に婚約を申し込んだんだ。ジーメンス嬢はどこだ?今すぐ呼べ」
クーロン様が冷たく言った。
「何を仰ってるの?私が婚約者ですわ」
「…この家は、どうなっているのだ。私を侮辱しているのか?」
「申し訳ございません!ですが、ジュールはこの通り、顔も良く愛嬌もあり、皆から可愛がられ…」
母がとりなそうとしたが、
「ニ度は言わない。ジーメンス嬢を今すぐ呼べ」
クーロン様に睨まれては、従うしかない。身分が上なのだ。
「は…はい…」
「ごきげんよう」
冷えた空気の応接室で、私は丁重に挨拶する。
「お呼びと伺いましたが…」
「私はジーメンス嬢に婚約を申し込んだのだが、言葉と道理と常識の分からない者が、別人を婚約者として出してきた。侮辱していると思わないか」
「大変申し訳ございません。家族に代わりましてお詫びいたします」
私は頭を下げた。
「うん。君だけはまともで良かったよ。頭を上げて」
クーロン様が私の手を取った。
「クーロン様!お姉様なんて可愛げも無い誰からも愛されない女を選ぶなんてどうかしてます!私のほうが可愛いし、皆から好かれます!」
妹が叫んだ。
「無礼者が」
クーロン様が護衛に視線を向ける。
護衛達が、両親と妹を捕縛した。
「きゃ〜!」
「な…何を…」
「おやめください!」
両親と妹が騒ぐ。
「貴方達は、身分が上の侯爵家の方へ無礼を働きました。処罰は当たり前です」
私は冷たく言った。
「何ですって!?私はクーロン様の婚約者なのよ!」
妹が叫んだ。違います。
「私の婚約者を許可無く名乗る不埒者め!連れて行け!」
クーロン様が命令した。
「どうしてよ!」
妹がまた叫んだ。
「私への婚約を自分の婚約だと思い込むだけならまだしも、婚約者として振る舞うなんて常識が無いわ…人としてあり得ない。まずクーロン様の話を理解しなさい」
私が言うと
「お姉様のくせに!」
そう言う妹は何様なのか。
「ジーメンス嬢は私の婚約者だ。次期侯爵夫人への無礼は許さん」
余計な事ばかり言うから、罪状が積み上がっていく。
「そもそも、いい歳して、礼儀もマナーも知らない、勉強もしない貴女が、侯爵夫人になんてなれないわよ。恥をかくのは自分よ」
私は言った。
「何ですって!?何の取り柄もないくせに!」
妹が言う。貴女の取り柄は顔だけじゃない。
「お前みたいな顔だけ女など、恥なだけだ。顔も良く、頭も良く、礼儀を弁えているジーメンス嬢が良いに決まっているだろう。ニ度と私の前に顔を出すな」
「きぃ〜!」
妹は、口に布を詰められ、話せないようにして連れて行かれた。
修道院行きだ。
「お前達」
クーロン様は両親を見た。
両親は、真っ青な顔で震えている。
「お前達は、あの顔だけ女の教育を間違えた。だが、ジーメンス嬢はきちんと育っているから、罪は軽くしてやろう。ジーメンス嬢との婚約の書類にサインしろ」
クーロン様は私の実家でもあるから、穏便に済まそうとしてくれている。
が、中々サインしない父に、しびれを切らしたクーロン様が、最後通告をした。
「家が潰れるのと、養子に跡目を継がせるの、どちらが良い?」
真顔のイケメンは怖い。
「「ヒィ!」」
「あの顔だけ女は修道院行きだ。あの罪人を育てたお前達は、本当に罪深い。これ以上私と、次期侯爵夫人を侮辱するなら、家ごと潰すぞ」
「申し訳ございません!」
父は、慌ててサインした。
「今すぐ養子を選定し、後継者教育をして爵位を譲れ」
「そんな…!」
「では、家ごと潰そう」
その方が良いのでは?
「…分かりました」
「後継者教育は、半年で終わらせろ」
「そんな…!」
まだ抵抗する父。本当に頭が悪いし現実が見えていない。
「断れば家が潰れるだけだ」
同じ事を何度言わせるのか。
「…分かりました…」
もう、どうにもできない事をやっと悟ったのか、両親は項垂れた。判断が遅い。
応接室に飾られた花瓶の花から、花びらが一枚落ちた。
従兄弟が養子に入り、後継者教育を受ける事になった。
私とクーロン様は学園のクラスメイト。
よく図書室で勉強会をするメンバーだった。
色々な事を話していた。
そこから気に入られ、婚約を申し込まれた。
当主に婚約打診の手紙を出すと言われ、待っていたら…
ずっと妹の話をしていたから、きちんと対応してくれた。
私とクーロン様は正式に婚約したのだ。
半年後。
後継者教育を受けた従兄弟が、爵位を継いだ。
両親は、領地の隅の小さな家で過ごす事になった。
妹は、修道院に入れられ、やった事もない掃除や洗濯や料理をしているらしい。
最初はサボっていたが、やらなければご飯が食べられない事をようやく理解して、嫌々ながらしているらしい。
婚約を奪おうとした事を、いまだ反省もしていないらしく
「私は侯爵夫人になるのよ!」
と喚いているらしい。
夢の中から、出られない可哀想な妹。
「ジーメンス」
クーロン様が、後ろから抱きつく。
私は、自室のソファで読書をしていた。
広くて豪奢な侯爵邸。
私の為に、私の好みの調度品を、クーロン様が取り寄せてくれたのだ。
つまり、本棚がいっぱい。
「まぁクーロン様、おかえりなさい」
「ただいま。邸に君がいるって、とても良いな」
とても嬉しそうである。
「ふふっ…」
つい、笑ってしまう。
「何を読んでいたの?」
「こちらです」
私は読んでいた本の表紙を見せた。
「…!!これは、私が探していた…」
勉強会で話していた、クーロン様がずっと探していた本だ。
「やっと見付かり、今日届きました」
「…!随分前に話した事なのに、覚えていたのか?」
クーロン様は驚いていた。サプライズ成功である。
「勿論」
私は頷いた。
「何て事だ!」
クーロン様は両手で顔を覆った。
「?」
私は首を傾げた。
「女神がいた…」
クーロン様の呟きが聞こえた。
「まぁ…」
クーロン様が私を抱きしめた。
「愛している」
「私もです」
実家の心配も無くなり、あとはクーロン様と幸せな結婚生活を送るだけだ。
庭の花壇の花々が、柔らかな風に揺れていた。
読んでいただきありがとうございます




