第9話
8大精霊がすべて揃った翌朝。
王都郊外の訓練場は、朝から大騒動の渦だった。
アリスが大剣を構えると、八人の小さな精霊たちが一斉に声を上げた。
ディネ:「まずは基礎よ、アリス。背筋を伸ばして、腰を落として。猫背のまま剣を振ったら笑いものだわ」
サラ:「俺の炎を全力で纏わせろ! 派手にいこうぜ!」
シルフ:「風を乗せて飛ばしてあげる! もっと速く!」
ウィプス:「光で照らして支援するよー!」
セレネ:「……無茶はしないで。月の力は繊細なのよ」
ノーム:「……足場を固める。我慢しろ」
ジェイド:「……影から援護する」
エント:「みんな、怪我だけはしないでね。アリスちゃんの体が第一ですわ」
アリス:「ちょっと待って! 八人全員同時に指示出されたら頭パンクするんだけど!?」
ミクリは少し離れたところで剣を振りながら、苦笑いを浮かべていた。
ミクリ:「アリス……本当にすごい光景だな」
アリス:「ミクリも笑ってる場合じゃないよ! 一緒に訓練して!」
そこへディネが容赦なく突っ込んだ。
ディネ:「ミクリはまだいいわよ。問題はアリス。8大精霊の力を完全に制御できてるつもり? 魔力の流れがガタガタよ」
アリス:「うるさいなあ! 今朝から毒舌全開かよ!」
サラ:「ディネ姉さん、朝から元気すぎ!」
シルフ:「アリスちゃん、こっちこっち! 風の乗り方教えてあげる!」
セレネ:「……騒がしい」
アリスは頭を抱えた。
アリス:「これが……8大精霊完全揃いの日常……? 毎日これかよ!」
訓練は三時間続いた。
8大精霊の力を同時制御するのは想像以上に難しく、アリスは何度も地面に倒れ込んだ。
ディネ:「ほら、立て。まだまだよ」
アリス:「……死ぬ……」
ノーム:「我慢しろ」
ウィプス:「がんばれアリスちゃん!」
ようやく一息ついた頃、ギルドからの緊急伝令が届いた。
伝令:「黒の要塞方面で魔王軍の動きが活発化しています! 四将の一人、リリスが国境近くの砦を襲撃したとの情報です!」
アリスは即座に立ち上がった。
アリス:「行くよ、みんな!」
ミクリ:「俺もだ」
一行は急いで北東の国境砦へ向かった。
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国境の砦はすでに激しい戦闘状態だった。
魔王軍第二将、リリス——妖艶な美貌を持つ魔姫が、部下を率いて砦を包囲していた。
リリス:「ふふっ、王女様はもうすぐここに来るはずよ。8大精霊を揃えた可愛い子……楽しみだわ」
アリスたちが到着した瞬間、リリスが妖しく微笑んだ。
リリス:「あら、来たわね。シェラール・アリス……いや、今は冒険者アリス?」
アリス:「あんたがリリスね。魔王軍の四将!」
ディネ:「美の哲学がなってないわね。化粧が濃すぎるわ」
リリス:「……失礼ね、水の精霊。貴女こそ古臭い色気だわ」
ディネ:「あら、喧嘩を売ってるの?」
サラ:「ディネ姉さん、始まったぞ!」
セレネ:「……面倒ね」
戦闘が始まった。
リリスは魅了と幻惑の魔法を駆使し、兵士たちを次々と操っていく。
しかし、8大精霊の力はそれを許さなかった。
ウィプス:「ライトフラッシュ!」
シルフ:「ウィンドカッター!」
セレネ:「月の光よ、幻を切り裂きなさい」
ジェイド:「闇は……私の方が深い」
アリスは8大精霊の力を一身に受け、大剣を振り上げた。
アリス:「みんな、力を貸して!」
ディネ:「当然でしょ!」
サラ:「燃えろ!」
ノーム:「大地よ、守れ!」
エント:「生命の力を!」
完全なる8大精霊の力がアリスに宿り、巨大な光の剣が形成された。
アリス:「これで……終わり!」
一閃。
リリスの幻惑魔法が一瞬で切り裂かれ、彼女自身も大きく後退した。
リリス:「……これは……本気で8大精霊の力を引き出せているの? 信じられないわ」
リリスは妖しく笑いながらも、部下に撤退を命じた。
リリス:「今日はここまでよ。アリス……また会いましょう。貴女の心を、たっぷり味わってあげる」
黒い霧と共にリリスが姿を消した。
アリスは息を荒げながら剣を下ろした。
アリス:「逃げられた……でも、8人揃ったおかげで押し返せた」
ディネ:「当然よ。でも油断しないで。あの女は四将の中でも特に厄介だわ。人心を操るのが上手いから」
サラ:「次はぶっ飛ばすぜ!」
セレネ:「……次はもっと本気で来るでしょうね」
砦の兵士たちから歓声が上がる中、アリスは空を見上げた。
アリス:「黒の要塞……そろそろ直接叩きに行く頃合いかも」
ミクリ:「アリス、無理はするなよ」
アリス:「大丈夫。みんながいるから」
その夜、野営地で8大精霊会議が開かれた。
ディネ:「リリスが動いたということは、魔王ヴェルグも本腰を入れてきたってことよ」
ジェイド:「……残りの二将も強敵だ」
ウィプス:「でも僕たちが揃ってるんだよ! 大丈夫!」
アリスは焚き火を見つめながら、静かに微笑んだ。
アリス:「そうだね……みんなと一緒なら、絶対に勝てる」
しかし、遠く黒の要塞の最深部では、魔王ヴェルグが静かに目を細めていた。
ヴェルグ:「……8大精霊の完全契約者か。面白い。
我が軍の『真の力』を、存分に味わわせてやろう」
8大精霊を従えた元王女アリスと、魔王軍四将の本格的な衝突——
その激しくも賑やかな戦いは、今まさに本番を迎えようとしていた。




