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祖父ヘンリーの叱責

 アシュフォード家のカントリーハウスの重厚な玄関ドアを開けると、ホールはいつも通りの静寂に包まれていた。だが、その静寂はいつもの心地よいものではなく、秘密を抱えた者にとってはまるで監視されているように感じられた。


 彼女が自室へ向かおうとした瞬間、背後から硬く、威厳に満ちた声が響いた。


「スカーレット。待ちなさい」


 その声の主は、祖父ヘンリー・アシュフォードだった。 彼はロンドンでの議会を終え、最近開通した鉄道を使って帰って来た。馬車では八時間以上かかっていたロンドン・アシュフォード間が、鉄道なら二時間ほどで帰って来られる。これも合理主義の賜物だと祖父は常々豪語していた。


 そのヘンリーは厳格な貴族院議員の正装を崩さぬまま、書斎の扉の前に立っている。彼の灰色の瞳は、スカーレットを鋭く見据えていた。


「スカーレット、私の書斎に来なさい。話がある」


 ヘンリーの書斎は、広大な農場経営に関する書類と、法律や経済に関する重厚な専門書で埋め尽くされていた。合理主義と伝統の権威が凝縮された空間だ。 ヘンリーは暖炉の前に立ち、スカーレットに座ることを許さなかった。


「聞いたぞ、スカーレット」


 ヘンリーの声は低いが、その重圧は書斎全体に響き渡った。


「お前がこのアシュフォードで、不名誉な騒動を起こしたとな」


 スカーレットは息を飲んだ。オーウェン・クロムウェルがヘンリーにまで報告したのか。


「あの廃墟での行為についてだ。奇妙な爆発音と、光の目撃情報が街で囁かれている。さらに、お前が町の外れの、得体の知れない者たちと接触したという噂もだ」


 ヘンリーは一歩踏み出した。その動きだけで、スカーレットは威圧された。


「アシュフォード家は、このケント州で数世紀にわたる歴史と信頼を築いてきた。お前の祖父である私は貴族院議員だ。我々の信用は、高品質な羊毛製品や、堅実な事業運営という『合理的な事実』の上に成り立っている」


 ヘンリーは苛立ちを露わにした。


「それなのに、お前は何をした? 蒸気機関の発明によって世界が大きく変わろうとしているこの時代に、幽霊や、魔術めいた力などという、非科学的で中世的な戯言に心を奪われ、公然と騒動を起こした!」


「おじい様、私は——」


「言い訳は聞かぬ! 時代遅れの奇人変人のレッテルが貼られることの恐ろしさが分からぬか! 貴様は、アシュフォード家全ての名誉を、愚かなオカルト趣味で汚そうとしているのだ!」


 スカーレットは、契約書に署名したという、誰にも言えない秘密を胸に、祖父の言葉の刃を全身で浴びた。目の前の祖父は、自分が最も恐れるべき「合理主義の壁」そのものだった。


「いいか、スカーレット。今後、お前があのような非合理的な場所に近づくことは許されない。そして、二度と、得体の知れない連中と関わってはならない。分かったな?」


 ヘンリーは厳しく言い放った。その瞳には、厳格な貴族院議員としての、一族を守るという強い使命感が宿っているように見えた。


 スカーレットは、ヘンリーが怒鳴りつけた「得体の知れない連中」こそ、今しがた彼女を迎え入れたルーサー・スペルマンたち、そして彼女が署名した魔法協会のことだと理解していた。


 彼女は、魔法の力を隠すことを誓った秘密の契約と、合理的な生活に戻れという祖父の命令という、二つの絶対的な圧力に挟まれながら、ただ小さく頷くことしかできなかった。

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