魔法協会への召喚状
「おい、お前、一体何をした!?」
その男――オーウェン・クロムウェルは、普段小学校の教諭として務めているとは信じられないほど、今は顔を赤くして怒りを露わにしていた。 彼はオカルト好きが高じてこの廃墟をお化け屋敷に改装した張本人だ。彼の左手首からは血が滲んでおり、どうやらスカーレットの放った衝撃波で、割れた鏡か瓦礫の破片が当たったらしい。
「……クロムウェル先生?」
ジャックが戸惑いながら声を上げる。 オーウェンは軽傷を気にする様子もなく、スカーレットを指さした。
「せっかくの仕掛けを壊す奴があるか! あぁ、悲鳴の再生装置も、霧発生装置も、全て使い物にならなくなった! ただの子供の遊びに水を差すとは……お前、一体どんな魔法を使いやがった?」
「ま……魔法?」
スカーレットの心臓が止まりそうになった。頭の中で否定の言葉を探すが、先ほどの圧倒的な熱と光を思い出すと、何も言えない。
「とぼけるな。お化け屋敷の仕掛けの奥には、本物の霊的波動を模倣した装置を隠してあるんだ。それを一瞬で掻き消すような荒技、魔法の仕業に決まっているだろう」
オーウェンは傷ついた手首を払い、スカーレットに詰め寄った。
「お化け屋敷に入り込んだ子供が、ただの臆病者でなく、『発現者』だったとはな。それにしても、随分と粗野で野蛮なやり方だ。まるで中世の火魔法使いのようだ」
スカーレットは震えた。 彼女のオカルトへの好奇心は、全て架空の物語や書物からきていた。だが今、目の前の男は、彼女が自覚なく行った行為を、「魔法」という、この合理的な世界では許されない言葉で断罪している。
「私は……そんな、何もしてません……」
「白々しい。まぁいい。この件はアシュフォードでの魔法の秩序に関わる。特に、あの頑固者の貴族院議員の家に、こんな強力な発現者が生まれたとなれば話は別だ。すぐさまアシュフォードの魔法協会会長、ルーサー・スペルマンに報告させてもらう」
オーウェンは、嬉しそうに(あるいは悔しそうに)鼻を鳴らすと、手負いのまま廃墟の奥へと消えていった。
残されたスカーレットとジャックは顔を見合わせる。 蒸気機関と金融の話題で動くこの世界で、スカーレットは、自らが最も信じていなかった異端の道に足を踏み入れてしまったことを悟った。
数日後。 アシュフォード家のカントリーハウスにいるスカーレットの元へ、一通の奇妙な封書が届いた。封蝋には、楯と星形の見慣れないシンボルが刻まれている。
差出人は「アシュフォード魔法協会会長 ルーサー・スペルマン」。 その手紙は、まるで古い時代の触れ書きのように仰々しく書かれていた。
『スカーレット・アシュフォード様
貴殿が先だって廃墟「クロムウェルの館」において行った「発現」の件につき、当協会にて詳細を確認する必要が生じました。 よって、来る◯月◯日、協会の定められた場所へ召喚いたします。 これは、貴殿の身柄と、魔法社会の秩序維持に関わる重大な案件です。』
手紙を読んだスカーレットは、それが単なる子供のいたずらではないことを知っていた。 この合理主義の時代に、中世の遺物のような「魔法協会」。 彼女は、自分が、厳格な貴族院議員の祖父ヘンリーが築いた「常識」と、町で工場が煙を上げる「合理的な世界」から、決定的に切り離されてしまったことを悟るのだった。
スカーレットが手紙に記された場所を訪ねたのは、ジャックの母ローラが経理を担当しているキャンベル家の工場近くにある、アシュフォードの町はずれにひっそりと佇む、一見すると何の変哲もない、時代遅れの会計事務所だった。
約束の時刻、彼女が意を決して扉を開けると、受付にいた事務員が、にこやかに彼女を奥の部屋へと案内した。
「ああ、スカーレットちゃんね。怖がらないで。大丈夫、ここは私たちが管理してる、秘密のクラブみたいなものだから」
女性事務員の優しくも底知れぬ眼差しに導かれ、スカーレットが足を踏み入れたその部屋は、外観からは想像もつかないほど広かった。 部屋の隅には天体図が描かれ、中央の大きなテーブルには、彼女が夢中になったオカルトの古書にも載っていないような奇妙な道具が並べられていた。
そして、そこに三人の男女がいた。 テーブルの席に着くよう促されたスカーレットの正面で、一人の快活な笑顔の男が、手を差し伸べてきた。




