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ゴリラ現る

「魔王軍人材求む」という旨のビラをあちこちにまいた。


これはリリーの提案である。

リリー曰く、世界には色んなやつがいて、多種多様な面白い能力をもった人がたくさんいるとのこと。

そいつらを魔王軍の手下に組み込めば、魔王軍の勢力拡大が狙えるという。


とはいうが……俺には半ば面白がっているようにしかみえない。

というかリリーのことだから確実にそうである。


だがこうなってしまった以上、しょうがない。

あとはなるようになれだ。




暇だったので、魔王軍の玉間でリリーと二人、トランプゲームをしていた時のことである。


その男は現れた。

筋骨隆々な長身の男である。


「誰よ、アンタ?」


先に口を開いたのはリリー。


「誰ですかあなた? もしかして魔王軍に入りたい人とかですか?」


もしかしたらと思い聞いてみた……。


「おうよ、その通りよ。魔王軍参加希望のものだ。名前はゴリーだ!」


……本当に魔王軍参加希望のやつがくることがあんのかよ……。

この世界どうなっちゃってんの?

普通、魔王軍っていったら、敵側だよ?

そんなところにのこのこと参加希望って……世も末だろ。


「リリーどうする? 魔王軍に入りたいっていう時点で、変な奴にしか思えん。それに、もしやばいやつだったらどうする?」


俺は、ゴリーに聞こえないよう、リリーにそれとなく話す。


「何言ってんのよヒビト、やばいやつであればあるほどいいんじゃない。何か面白いスキルを持ってたりするかもしれないし」


「なるほどな。それが狙いだったのか、リリー」


リリーはスキルを集めるのが趣味の≪スキルコレクター≫である。

だから、多様な人間との出会いは、それだけ新しいスキルと交換できる機会が増えるということ。


まったくうまく考えたもんだぜ。

全部計算のうちってわけね。


「それに、もし仮に何かあってもヒビトの≪威圧≫スキルがあればなんとかなるでしょ」


「確かにそれもそうだな」


……って何か大事なことを忘れているような……。


「で、早速だけどアンタは何ができるわけ?」


リリーが面接官さながらにきいた。


「ふっ、ではいくぞ! 見よ! この霊長類最強、ひいては全生物の頂点に君臨するものの姿を!」


と言うなり、彼はステータス画面を開きスキルを発動させる。

すると、あっという間にゴリラの姿に変身したのであった。


どうやら彼のスキルは、見たままの通り、ゴリラへと変身するものらしい。

本当にこの世界のスキルは何でもアリのようだな……。


「どうだ!」


してやったりといったふうに彼が言う。


「いや、どうだもなにもないんだが……」


「なに!? さてはお前ただのゴリラと思って侮っているな?」


「まあ、正直ゴリラだから何なんだとは思ってますけど……」


「ムキーっ!!」


ゴリラの彼が、沸いたやかんのような声をあげる。


「はぁ、こんなけむくじゃらの変質者、もうほっときましょうよヒビト」とリリーの面倒くさそうな声。


リリーの興味がうせたみたいだ。

思っていたようなスキルではなかったようである。


「そうだな」


俺たちは先ほどのトランプゲームを再開した。


「待ってー! せめて話だけでも聞いてー!」


モップのようにモジャモジャした手が、俺の肩を掴む。


「はあ、わかりましたよ。話だけなら聞いてあげますから、その手を離してくださいよ」


「ありがとうよ、少年!」


黒モジャ姿の彼が、今にも泣きそうな声でそう叫ぶ。


リリーは「しょうがないわね」と言いながら、ゴリラの話に耳を傾ける。


そうしてゴリラの彼が話し始めた。


「あれはそう。俺が趣味でゴリラの研究をしていた時に話は遡る――」


「あ、そうそう。今日の夕食はサーモンとポテトのバターソテーよ、ヒビト!」


「おおーマジか! やったぜ」


「てめぇら人の話を聞けぇーーー!!」


「えぇー、だってアタシ長い話とかきくの嫌いなんだもん」


気だるそうにリリーがそう言う。


「俺も、出来れば要点だけ話してくれると助かります」


「たくしょうがねえなぁ。ま、要するにだ。ゴリラが好きすぎるあまりに、ユニークスキル≪ゴリラ化≫を習得したという話なわけなんだよ――」


「あっそ。じゃさようならバカゴリラさん」


そう言い終わると、そそくさとリリーが歩き出す。


俺もそれに続き「じゃ俺もここで失礼しますね。もう二度と会うこともないでしょうが、一応会えて光栄でしたバカゴリラさん」と言い、歩き出す。


「おいー! ゴリラへの敬意として、俺のことはせめてゴリラバカと呼んでくれ」


「ならバカで」


「そうだなバカで」俺もリリーに同調した。


「なんでだー!!! 俺の唯一のアイデンティティであるゴリラ要素はどこいったー!? お前ら人の心とかないのかー!?」


「ちょ、やめてよ、ゴリラに人の心とか説かれたくないですけど、ぷぷぷぷぷー」


リリーが意地の悪いような笑いかたをしてみせた。


俺もつられて「確かにな。ゴリラには人の心とかないだろうしな、だってゴリラだし、くくくくくー」と言ってしまった。


「な、なめんなよてめえらー! ゴリラにだって人の心はあるんだぞ! ゴリラの中には人の感情を読めたりする知能のある個体だっているんだぞーこのやろー!」

 

「はいはい、わかったわかった。まあ、そう怒らないで。せっかくのハンサムな顔が台無しよゴリラさん」


リリーが嫌味混じりにゴリラの彼をそう諭す。


「ちょ、おまリリー、ぷふっ、ゴリラの顔をハンサムな顔って、くははははっ! 冗談にもほどがあるだろ、あはははは!」


「いやいや、私は冗談なんかじゃなくて本気で言ってるわよ。ほら良くみてなさいよヒビト。彼の目元あたりとか、かなりイケてる、ぶはっ! かなりイケてる……かははははは! ダメだわ自分で言ってて吹き出してきちゃったわ!」


リリーが自分の言った冗談に自分でツボり散らかしている。


「いやでも確かに、ゴリラだから体格とかも良いし、そういう男らしいようなところが好きな女には好かれるんじゃ、ばはっははあは! やっぱダメだ俺も自分で言ってて吹き出しちまった。なあ、リリー一回このゴリラいじりやめようぜ。ツボりすぎて死にそうだ、あははあは!」


「そうね、ぷはっ、私もこれ以上言ってたら、くはっ、笑い過ぎておかしくなっちゃいそう、きゃはは!」


二人して笑いを抑えながら喋るという斬新な芸をしていると、ゴリラがゆでだこのように顔を赤くして、怒鳴り散らした。

ゴリラなのにゆでだこである。


「ちきしょー、この野郎ども! てめえらにはやっぱり人の心がねえのか!? ゴリラを馬鹿にするような奴は俺が許さねえ! もう怒ったぞー!」


ゴリラの彼がそう言うと、どでかいドラミングを奏で始めた。

その後「ウホー!」と叫んだかと思いきや、俺たちに向かって黒もじゃの拳を振り下ろしてきた。


やべ死ぬ!


「ヒビト危ない!」


リリーが俺の腕を横から引っ張ってくれたおかげで、ゴリラのパンチから避けられた。


「助かったぜリリー」


「悠長に話してる暇はないみたいよ」


ゴリラ野郎が俺たちに向かって更に拳の追撃を繰り出してきた。

なんとかしてそれを避ける。


わかったぞ。

さっきの違和感の正体が。


なぜかはわからないが、さっきからコイツには俺の≪威圧≫スキルが効いていない。


「くそ、なんで俺の≪威圧≫が効いてないんだよー!」


「なぜかと聞かれたら、それは、俺がゴリラだからだ!」


「説明になってねえ!」


でも、ちゃんと答えてくれるあたり、ひょっとしたら悪いやつではないのかもしれない。


「ウホウホー!」


奴は殺気だった目を醸し出しながら俺たちに向かって突進してくる。


おいおい、ゴリラってこんな狂暴な生き物だったのか?

まあいいや。

今はそれどころではない。


「なあ、リリーどうするよ?」


「そうね、ちょっと私に考えがあるわ」


「ん? どんな?」


「これよ」


そう言うと彼女は、≪アイテムボックス≫からバナナを取り出した。


「は!? バナナ!? それを一体どうするつもりだよ?」


「いや、ゴリラといえばやっぱりバナナでしょ?」


「そんなことかよー!?」


ダメだ、はやくこの場からっさと逃げよう。

ゴリラの暴力で殺されてたまるか。


「リリーさっさと逃げよう! ってあれ?」


そういやさっきからゴリラの声がしない……。

気付けばゴリラは、リリーが持っているバナナに釘付けになっておとなしくしていた。


まさか、こんなことで本当におとなしくなるものなのか?

生憎ゴリラの生態には詳しくないからわからんが。


「おい、一つ言っとくがな。ゴリラはバナナが好物だというのは、実際にはほぼほぼ迷信に近いんだからな」


ゴリラがバナナをじっと見つめながら、おとなしくその場におっちゃんこしていた。


「へえ、そうなんだー」


リリーがそう言いながら、バナナをゴリラの目に前に垂れ下げた。

そして上下左右にバナナを動かす。


その動きに合わせてゴリラは上に下に、右に左にとバナナを目で追っていた。


「なあ、ゴリラ……。その様子じゃお前にはもう説得力はないぞ」


「なっ! これは違うぞ! 俺自身が単にバナナが好物なだけであって、決してゴリラ自体がバナナを好きなわけじゃないんだからねっ!」


「やっぱり好きなんじゃねえかー!」


「そうだ、本当は大好きだよ―!」


今だバナナをじっと見つめ続けるバナナバカゴリラ。

その彼にリリーは持っているバナナでゴリラを誘惑していた。


「ねえ、アンタこのバナナが欲しいんでしょ?」


「はい……そのバナナがとっても欲しいです」


と、一見するとどんな会話なのか分からんような会話をしていた。


「じゃあ、アタシと契約して」


「わかりました。バナナさえ貰えるなら俺はどんな契約だっていたします」


「よろしい。じゃあ、ステータス画面に契約内容を送るから、それに必ず同意するのよ」


「ええ、なんなりと」


おいおい、その契約ってまさか……。


バナナを前に、完全に思考放棄した彼がステータス画面を開くと、ものの数秒で契約を完了させたようである。


「これで契約完了ね。よろしい。じゃあ、これ約束のバナナよ。特と味わいなさいおバカゴリラさん」


「それじゃ有難く頂戴しまーす!」


むっしゃむっしゃと貪っているゴリラの絵。

可哀想なゴリラだぜ……。


「なあ、リリーさっきの契約ってあれだろ? ≪服従≫スキルの契約だろ?」


「ビーンゴー。ええ、その通りよ。あのバカ、ちゃんと読まずに≪服従≫スキルに同意したわ。ゴリラの知能なんて所詮こんなもんね。がははっ!」


悪女だ……。

この女、間違いなく異世界の悪女だ。

こいつはきっとクレオパトラなんて比じゃないくらいの性悪さを持ってるに違いない。

絶対に彼女のことは怒らせないでおこう。

どんな目に合わせらるか分かったもんじゃないからな。


「ゴリー、同情するぜ……」


「? なんのことだ?」


どうやらゴリーは、いまだ事態を飲み込めていないようだ。


「おいそこのバカ」


バナナを食い終わったゴリーにリリーが言った。


「バカじゃない、ゴリラだ!」


怒鳴るような大きな声でゴリラが言った。


「うっさいわボケェ!」


「ボケェ! じゃない、ゴリラだ!」


鼓膜を突き破るような大きな声でゴリラが言った。


「さっきから声がでかいのよアンタ! そのモジャモジャの体毛全部引き千切るわよ!」


「それだけはやめてぇ!」


目に涙を浮かべながらゴリラは言った。


さっきまでの威勢はどこへやら、ゴリーとリリーの上下関係がかわった。


ゴリーが知らず知らずのうちに、完璧な服従関係ここに成立である。


可愛そうなゴリラ……。

お前がバナナさえ食べなければ、こんなことにはならずに済んだのに……。

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