思ってたのと違う
俺たちは、とあるところにある玉間らしきところに来ていた。
玉座には男がいた。
スキンヘッドの頭に二本の角。
口には鋭い牙。
体長は優に二メートルは超えているだろうか。
そいつは物々しい雰囲気を漂わしており、さらにはめちゃくちゃに強面で、如何にも……。
如何にも……魔王といったやつが、石造りの椅子に腰掛けていた。
こんなやつに絶対声をかけていはいけないであろう。
だが、そんなやつにリリーは少しの物怖じもせずこう言ってのける。
「ねえちょっと、アンタの持ってるスキルアタシに寄越しなさいよ」
いくらなんでも度胸がありすぎるだろ。
「なんだ貴様……。魔王であるこの私に、人間風情が偉そうな口をきくで……」
魔王はそう言いかけて俺を視界に捉えると「きくで……ない……」と、その語気が淀んだ。
そしてプルプルと肩を震わせ飛び上がり、
「ギャーーー!!! なんだこの禍々しいオーラはーーー!!?? ひぃあーー、怖いよーママ!! ……こやつただの人間ではない! さてはお前こそがあの魔王ではないのか!?」と。
「いやそれは貴方の方でしょうが!」
「あ、そうだった……」魔王はそう言うと両手をポンッと叩いた。
その光景は魔王が一人コントをしてるような、そんな滑稽さがあった。
なんだろう……。
思ってたような感じの魔王と違う!
……どうやらリリーの思惑通り、魔王にも俺の持つ≪威圧≫スキルは効くようだ。
ちなみにリリーとは今、パーティーメンバーになっている。
だからリリーにも≪威圧≫スキルの効果が多少付与されているらしく、魔王はリリーにもどことなく怯えているようだ。
魔王は怯えながらも俺にこう言った。
「ていうか貴方様なんなんですか? こんなに恐ろしい人間、生まれてこのかた初めてですよ……。お恥ずかしながら私、チビリましたよ」
魔王はそう言いながら、両手で顔を覆い、恥ずかしそうにモジモジと身体を揺らす。
「ぷっ! 泣く子も黙る天下の魔王様が、チビっちゃうとかお笑いレベル高すぎなんですけど……。プププー!!」
それを聞いた魔王の顔が、心なしかさらに赤くなったように見えた。
「リリー、やめた差し上げろ。魔王様であろうとも怖いだとか、そういう人並みの感情も感じたりもするだろうさ。だから、魔王様とてチビったりとかもするだろう……くっぷははは!!! やべえ、なんとか今まで堪えてたけどダメだ。こんなの普通に笑っちゃうだろ」
「なんなんですか貴方たち! 魔王であるこの私をこんなにも恥ずかしめるとは……この悪魔! 鬼畜の所業!!」
魔王の発言とはとても思えないものである。
「まあ、そう怒らないでくださいよ。俺たちはなにも、魔王様のことを困らせるためにきたわけじゃないんですから」
俺の言葉にリリーが続いてこう言う。
「そうそう。アタシはただ、アンタの持っているスキルさえゲット出来ればそれで良いのよ」
「はぁ、そういうことなら別に構いませんが。一体なんのスキルが欲しいのですか?」
「良いねー、話の分かる魔王で助かるわー。でもチビったけど、プークスクス!」
……やめて差し上げろよリリー。
それ以上とどめを刺さないでやってくれ。
魔王様、恥ずかしさのあまりもう死んじゃいそうだから……。
――――
俺たちはこうして魔王の住む城にきていた。
リリーの提案でだ。
その道中では、魔王の手下らしき奴らがいたのだが、案の定俺に怯えて何もしてこなかった。
何故遥々こんなところまで来たのか?
魔王の持つ強力なスキルを手に入れるためである。
だが、そんな簡単にはいかないだろうと俺は思っていた。
思っていたのだが……。
目の前の、とても物腰の低い強面顔の男を前に、俺はその考えを改めることとなる。
「――いやぁ、何と言いますか……。私が魔王に就任してからこうして長いこと魔王をしている手前、とにかく生き残ることが何よりも最優先事項になるのですよ。そのために身に着けたのが、長い物には巻かれろ精神でして。こうして改めてお話するとお恥ずかしい限りでございますが……」
「アンタそれでも魔王かよ!」
でもまあ、恐ろしいと言いながらも、こうして俺と普通に会話しているところをみれば曲がりなりにも魔王である証しともいえるのか……。
「結構なことじゃないのよ。でさ、アンタとのスキル交換の話に戻して良いかしら」
リリーが今回の用向きに話を戻す。
「そうでしたねリリー様。どのようなスキルをお望みでしょうか?」
「アンタの持つスキル全部よ。それも対価なしで」
リリーさんや……。
いくら俺の≪威圧≫スキルがあるからといっても、さすがにそれは横柄な態度すぎやしないかい?
前に、スキルの交換には同等の価値があるもので交換するんだっていってじゃんか。
相手は魔王様だよ?
大丈夫かい?
「そんな殺生な!? いくらなんでもそれは横暴ですよ!」
魔王は、驚きの表情をみせながらこう言う。
「そうよねぇ……。でも良いのかしら? ここにおられますヒビト様の手にかかれば、アンタみたいにチビらせちゃう小物なんて一捻りよ。ねぇ、ヒビト様?」
リリーはわざとらしくそう言い、俺に話しを合わせろといったふうに俺の肩を小突く。
つうかコイツ、今魔王のことを小物っていったぞ。
「お、おうそうだな……。その気になればいつだって殺れる準備は出来てるんだぜ?」
勿論そんなわけはない。
下手すればむしろこっちが殺られる側だ。
なんていったって相手は魔王。
正直めっちゃ怖い。
いつ魔王の逆鱗に触れるのかと冷や冷やである。
だが、魔王は魔王らしからぬ反応をみせる。
「オーマイガッシュー!!! この私が殺られるですって!? 嫌だ、死にたくない! やはり貴方様はただものではない。なんでも言うことを聞きます。ですから命だけはお助けをヒビト様!」
半ば土下座にも似たポーズをとる魔王……。
アンタもう魔王辞めちまえよ。
「わっはっはっはー。うむ、苦しゅうない。そなたの顔に免じて命だけは助けてやろうぞ」
どこのお殿様だよと、言いたくなるほど偉そうな態度のリリー。
コイツ絶対楽しくなってきてるだろ……。
――リリーはその後、見事なまでのその手腕により、魔王からスキルを分捕ったのであった。




