おまけ「メルティローゼ、因果?に悩むこと」
最近百合菜の様子がおかしい。淑女として、百合菜の立ち居振る舞いがおかしいのは、元々だったけれど。
今も、ソファに寝っ転がって、下履きのまま足を広げて、スマホという光る板を眺めていますけれど……。陸に聞けば、家の中の女の子なんてあんなもんじゃないの?と言いますけれど。
だけど、おかしい。
おかしいのは、私のせいなのかしら。この1年と少し、ずっと上手くやってきたと思っていましたのに。
そんなことを思うメルティローゼは、様々を思い浮かべる。
思い浮かべられるようになったきっかけは、やはり、この体になってから。
いや、この体になってから、どうしてリックが自分を批判ばかりするようになったのか、考えたのだ。
もちろん、シンシアの誘惑に負けたリックは『悪』だし、婚約者のいる殿方に好意を向けたシンシアも『悪』だ。
その考えは変わらない。
しかし、あの男の言い分も一理も二理もある気がするように思えるようになったのだ。
だから、百合菜を考える。
百合菜のことを親しみを込めて『リリー』と呼ぶと、微妙に嫌な顔をする。
リクの横に座る度に、変なものを見る顔をする。
時に、おしゃべりを嫌がる。
「うっせー」が口癖。
……メルティローゼは考えた後、結論に至った。
やきもちかしら……と。
リリーは、リクを私に取られたと思って、嫉妬しているのかしら。あの時の私のように?
そうね、確かに。私は後から来た新参者。
リリーも進学とやらをして少し色気づいてきたのかもしれませんわ。私のいた国ではそろそろ婚約も視野に入ってくる頃合い。なので、そうで無いと困りますが、リクは私のものですのよ。
『のばら』にしてみれば、リリー、あなたこそ新参者なのですからね。
さすがに、ローゼもシンシアに対して起こした嫉妬を百合菜には感じない。
「ユリナ」
ローゼが声をかけると、スマホを見つめていた百合菜が、驚いた表情をローゼに見せた。
「な、なんだよ。急に百合菜ってっ!」
どうしても何も、あなたの本名ではありませんか?
ローゼは首を傾げてしまったが、今はこれが本題ではない。
「ユリナは私に何か言いたいことがあるのでは?」
「は? うっせーよ! もう、ない。ないから」
今度は百合菜になぜか睨みつけられた。しかし、今、リクは私のものなのよ、と言ってしまえば、あの時と同じである。まぁ、あの時は、私がやきもちを妬いてはいたのですけれど。
だから、そっと彼女に寄り添うようにして少し待つ。百合菜は逃げない。
ただ、スマホに並ぶ、小さな文字をずっと読んでいる。
残念ながら、ローゼにはその小さな文字は見えない。
この体になって不自由な一つ。どうものばらは目が少し見えにくいらしい。
だから、答えない百合菜にローゼは尋ねた。
「何を読んでいるの?」
「興味ないんじゃなかった?」
「聞いてみないと分かりません」
「ネット小説。婚約破棄もの。どこかの金持ちの貴族が婚約破棄するところからお話が始まるやつ。で、まぁ、いつもよく似た流れなんだけど、真実の愛を見つけた男がいて、でたらめな罪を婚約者に着せて、婚約破棄された側が『ざまぁ』っていう仕返しをするっていう……」
「まぁ!」
「なに?どしたの?」
どうしたもなにも。
「リックとそっくりじゃないですか!!?」
「えっ! お母さん、お父さんに離婚されるの!? 浮気? えっ、どっち? もしかして、略奪婚だったとか……!??? えっ、マジ……うわぁ……最悪なんですけど!」
驚いたはずのローゼを上回る驚きを見せた百合菜に、さらにローゼが驚いた。百合菜が叫んだ意味が分からなかったのだ。
「私はリクと離婚などしません。それに、リクはのばらだけが好きなので、浮気など絶対にありません。私の名誉にかけてさせません。なのですが、ユリナがリクに甘えたいのであれば、娘の権限として少しくらいなら許します。だから、やきもちを妬くのはおやめなさい」
「えっ……やきもち? …甘え…………ないから!絶対しないから!!」
結局、この時、百合菜が何に悩んでいたのか、ローゼには分からなかった。しかし、百合菜おすすめの『婚約破棄もの』というものを教えてもらい、母娘で貴族令息と貴族令嬢を評論しつつ、共に過ごす時間が増えたことで、百合菜の悩みも分かることとなったのであった。
「高校でできた新しい友達が、同中の男友達との関係を勝手に『彼』にするから鬱陶しい」
が、百合菜の悩み。
ローゼの答えは明白に。
「百合菜が真実の愛を見つけるまでは、放っておきなさい。変な虫除けにはなるわよ」
だった。




