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のばら、生きていく

 私が願ったことは、髪結いになること。両親は驚きながらも「そう言えば髪を触ることが好きだったな」と許してくれた。

 そして、さっそく公爵領にある賑わった町の一角に、腕の良い大工と秘書と店までを用意してくれた。こぢんまり、とは決して言えない大きさのお店。奥の壁に並べているのは、特注のカツラを被ったマネキンである。リリーが今、丁寧にその髪を梳かしてくれている。ナイロンとかはないみたいだから、あれってやっぱり人毛なのかしら。後で確かめなくちゃ。じゃないと、あんな数、すぐに消費しちゃうわ。

 こちとら、ブランクをまず埋めなくちゃならないんだから。


 だけど、さすが権力者。いくらお金が動いたのか……そっと目を瞑る。


「お嬢様、ここに洗面台でした?」

「えぇ、あ、髪を洗えるようにしたいのよね」

 髪を結うだけでなくて、ちょっとしたリラックスにもなるし。


 この世界、髪結いはいるけれど、美容院はないみたいだし。理髪店はあるらしいから、髭を当てるのは、そっちで十分なのだろうけれど。

 お洒落に特化させた美容院をこの世界で戦わせてみたいのよね。

 せっかくだから、思うような美容院にしたい。高級感も出して、貴族たちにもウケるような。


 いや、貴族が本命なのだけど。


「ハサミは、ここで作っていただけないかしら?」

「えっ。ここですか?」

 大工が驚くのも無理はないのだろう。

 王家お墨付きの刃物屋なのだから。

「なんなら、私が直接お話に伺うわ。手配してちょうだい」


 なんだろう。

 すでに女王様キャラに染まってきているみたい。


「あと、王家御用達の香油のほかに、香油で評判の店も調べておきたいのよね。こちらは、『銘』のあるなしは、どうでもいいわ。どこか知らない? 香油関係は、少し後になっても構わないわ。それよりも、手先の器用な若い子も。あぁ、でも、素直で真面目に仕事に取り組むのであれば、年齢性別は問わなくていいわ。誰かいないかしら?」


 当たり前のように要求を相手に述べることができる。

 このくらいしか身を立てることを知らないということもあったのだが、この体の持ち主であるメルティローゼも拒むことなく、受け入れていたように思える。

 ということは、案外、相性はいいのかもしれないわね。

「上手くすれば、この子の恨みも少し晴らしてあげられるかも」

 そう思い、ふっとほくそ笑んだ。


「さぁて、人生やり直すわよ」


 ひとまず、町娘を観察して、カットモデルの確保。それから、町中の娘を可愛くしてあげることから始めましょ。



 そんな風に士気を上げたのばらは、戸惑い続ける大工の棟梁と秘書を従えて、リリーの見送りの元、町へ繰り出した。




 そもそも努力家で自信家。そして、それに見合う美貌を持つ彼女は、すぐに一世を風靡する新進気鋭の髪結いとなり、王家の目に留まるようになった。

 リックは、平民になり嬉々として店で汗を流しているローザに同情するようになっていた。

 おそらく、本来優しい性格のリックは、あの婚約破棄のせいで、ローゼの頭がおかしくなったとずっと思い続けていたのだろう。元のメルティローゼを知っているリックからすれば、平民になりたいとあれだけ懇願する姿を見れば、衝撃を受けないわけがない。


 元婚約者に同情し続けるリックに引き立てられたのばら(・・・)は、チャンス到来とばかりに王子妃シンシアを鳥の巣頭にしてやった。

 これで少しは……と思ったのに、なぜか喜ばれた。


「まぁ、これが今新進気鋭と言われるあなたの作なの? 私が最先端なのね。すばらしいわ」

 とりあえず、裸の王様にしてやったつもりだったのに。


 シンシア妃がその頭で町中に繰り出したことで、『ピッピ』というヘアスタイルが流行り、支店まで出すという快挙を成し遂げることになったのだ。

 その後ものばらは、流行の最先端を美の伝道師として牽引し続け、その一生を終え、国葬されることとなった。


 シンシア曰く。


「私はもう怒ってはおりませんわ。だって、あんなに素晴らしいヘアスタイルを私のために考えてくださったのですよ。彼女は『罪』を償ったと言っても過言じゃないわ」


 後のリック陛下曰く。


「ローゼは新事業を起こし、わが国のためにずっと尽くしてくれていた。大切で重要な人物だった」

 と。


 おそらく、メルティローゼも報われたことだろう。


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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。再投稿おつかれさまです。主人公が、はじめは現実世界と混同しつつも、転生を認識して、そこから自分をふりかえるところがとても丁寧に描かれていて、リックやリリーとのやりとりに…
のばらとメルティローゼに会えて嬉しいです。 手元に残っていた前回の感想、せっかくなのでまたここに置かせてくださいね。 『全く知らない相手であったのに、その記憶を共有するにつれて生まれる理解と共感。…
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