第5話、廃旅館【前編】
今回の任務先は廃旅館、自殺者は昔トラブルがあり首吊り自殺した女将だ。自殺理由は知らされていない。理由を一々知って任務へ行けば情の湧く削除者も出てくる上、寧ろ仕事の邪魔になる時もあるからだ。
任務に行く削除者は二人。その一人は今、自分一人でも任務をこなせると言いたげな顔をしながら隣の男性削除者と廊下を歩いていた。
削除者の中には優秀なら十代前半の者もおり、少々不満そうな顔をしたその削除者はなんと十四歳の少女だった。しかしいくら実力を持っていても、規則によって一人で任務に行かせる事はできない。削除者が一人で任務に行ける年齢は二十歳から、未成年は二十歳以上の者と同行しなければならない。
彼女の名は胡桃毬慰、若い身でありながら早くもファウストと同じくフラワーランク“サンシュユ(※B)”まで昇進した実力者である。胡桃色の癖っ毛はショート、両サイドの揉み上げ部分だけは肩より少し上辺りまで伸ばしてある。大きめなツリ目は髪色と同じく胡桃色で、人形のように可愛らしい顔の作りだ。
なのに、唇を尖らせながら不貞腐れている様子で折角の可愛らしい顔が台無しだ。毬慰の隣に並んで歩いている男性削除者は、“まいったな”と言いたげな顔で前を見ながら歩いている。
彼の名は花咲花夜、フラワーランク“アリウム・コワニ―(※S)”のベテラン。彼は浄化兼削除・没収係という二つの係をこなしている凄腕だ。#淡黄__たんこう__#色寄りの柔らかな金髪ショートに、ツリ目は落ち着きのある黒の瞳。穏やかな雰囲気な上に中身も面倒見がいい事もあり、幹部からよく未成年削除者の任務に同行するよう任されている。
元々浄化係のみだったのだが、未成年の面倒を見れる者が少なく、削除署内で未成年に好かれている花夜を見かけた幹部が丁度いいと思ったのか、未成年削除者自体少ないので大体は花夜が任されていき……いつの間にか浄化兼削除・没収係になっていた。
それにしても、ファウストといい毬慰といい……何故削除者としての才能がある者はこうも制服のアレンジが激しいのだろうか。毬慰の服装は長袖のインナー、上着はスポーツブラみたいだが前にはジッパー(後ろが少し長め)、上着と同じ色のミニズボンは両サイドが少し割れており、パッと見紐ビキニのようなデザインになっている。飾りはないがサンダルは制服と同じ灰色、それを見て花夜は──
「マリちゃん……せめてブーツか何かにしない?」
「絶ッッ対、ヤダ」
自分達は常に危険と隣り合わせの仕事をしている。任務先でほぼ裸足に近いサンダルなんて履いていたら、足を怪我する可能性もある。しかし、彼女曰く蒸れて窮屈らしい。制服に対して少々うるさいアロンザ程ではないが、流石の花夜も大人として、毬慰の綺麗な足が傷つかないか心配になる。
見た目が可愛ければ履いてもらえるだろうか……花夜は今度可愛らしいブーツでも買ってあげようかなと思いつつ、きっと歩いてる途中で暑いと言い出して脱ごうとしてしまうのだろうと想像までした。ならいっそ、サンダルのままでもマシなのかもしれない。
一応彼のためにも説明しておくが、花夜は大人として心配しているだけであって、ロリコン(※ロリータ・コンプレックス……幼女・少女への恋愛感情や性的嗜好)ではない。花夜が"マリ"呼びしているのは彼女の希望で、毬慰自身、自分の名前が若干言いづらいらしく、他人からも外人風に可愛くマリーと呼んで欲しいらしい。だが、花夜は彼女をマリーではなく、"マリちゃん"と呼んでいる。理由は単純に呼びやすいからだとか……。
削除署を出ると、花夜が電話で呼んだペガサスの馬車が既に到着していた。二人が馬車内に入ると、毬慰は椅子に座りながら両足をぷらんぷらんと交互に揺らす。彼女のすぐ傍には、本人の体格と同じ大きさの両刃の斧と槌が握られていた。毬慰は"相ちゃん"と呼んでいて、本人曰くお話しができるらしい。
出発した頃は十五時、二人が現世に到着したのは十七時少し過ぎた頃だった。
「バスなんて久々だな……。」
馬車から降りて停留所へ向かう二人、ボソリと呟く花夜の言葉は耳に入っておらず、未だにムスッと頬を膨れ上がらせてはあからさまに拗ねている様子の毬慰……出発してからずっとこの調子だ。
規則であるため仕方のない事だが、彼女からしたらそろそろ一人でも任務に行ける程の自信はあるし、二十歳から行けるとしても、時間の流れは子供と大人では感覚が違う。現在彼女は十四歳、後六年待てば一人で任務に行けるようになるが、時間の流れが早く感じる大人からしたらたったの六年、しかし子供からしたらかなりの長い期間だ。
馬車が止まった場所から停留所までそれ程距離はなく、二人は近くにあったベンチに座りバスが来るのを待つ。時間も時間なため夕方のバスは次来るので最後、明日の朝までない。「ぁの……さっ、これが最終便だよ? ……どうするのぉ?」と首を傾げて聞いてくる毬慰に花夜は、「朝に帰る」と答える。
「客のフリをして廃旅館に入る。……一晩を過ごす事になるね。自殺者のランクはD、夜に寝静まった客を襲うと情報があるんだ。こちらが寝静まったと思って食い殺しに来たら、一気に攻撃を仕掛けて怨念を没収すればいい。だから帰りは朝のバスだね。」
「え、お泊まりなの……?!」
帰りは朝……つまり廃旅館に宿泊する事になるわけだ。泊まりだとわかるとワクワクしてきたのか、任務だというのにニマニマと口を緩める彼女は、無意識に両手で握っていた相を左右に揺らして喜びを表現し、足元を見ながら何やら想像している。きっと"どんな旅になるのか"と想像を膨らませているのだろう。
更に「るんるんるんるんる~ん、あさがえり~ッ! あさがえり~ッ!」とかいうとんでもないオリジナルの歌まで歌い出しながら踵を返し、その辺をスキップしだす。子供の彼女が朝帰りだなんて意味深な言葉を一体どこで覚えてきたのかはわからないが、花夜は注意しようかとも考えたが面倒なのでやめた。
そんな毬慰のとんでもない歌を聞き流している内にバスが到着。ドアが開いてもまだ朝帰りと歌っていたため流石にヤバイと思い、花夜は持ってきていた飴玉を毬慰の口の中に突っ込んでおいた。嬉しそうに歌っていたのに何故だか飴玉を口に突っ込まれ毬慰は困惑するも、飴玉の味が自分が大好きな葡萄だったらしく、八の字の眉を更に深くさせ、頬を押さえて美味しそうにカラコロと音を鳴らしながら味をしっかりと堪能する。
二人はバスのに乗る。この時間は人が少なく、空いている席を適当に見つけて二人は座った。毬慰は花夜の隣に座れば両足をまたぷらんぷらんと交互に揺らす。これは彼女の機嫌に関係なく癖らしい。窓側の席で飴を舐めながら、窓の外の景色を見る。
「花夜、ちょっと寒いね……。」
目的の場所に近づくにつれ、毬慰は寒気がすると訴える……彼女の制服は薄着なのだから当たり前だ。小さな手で細い腕を#摩__さす__#るその様子を見て、花夜は自分の制服のコートを脱ぎ、毬慰の肩にかけてやった。コートからはほんのり香水の良い香りがする。
「暫くそれでも着てて」
コートに包まれぬくぬくしている毬慰を見て可愛く思えたのか、一瞬笑った後にそう言う花夜。毬慰は「花夜の……においがする……ね。」と香りに癒されながら子供のらしく無邪気に微笑み、コートの襟元に顔を埋めた。
「花夜のコート、とてもあったかいよ」
冷えていた毬慰の体をゆっくりと温めていくコートは、自分の体よりも何倍も大きいため、袖がプランと垂れ下がる。毬慰は何が面白かったのか、頑張って捲ってもずり落ちてくる袖にくすくすと笑いながら、花夜にそう言った。
数分後、目的の場所に着く頃には気づいたら客は自分達しかいなかった。それもそうだ、此処はもう旅館も何もない場所。あるのはパワースポットの湖に、……昔潰れた廃旅館だけだ。昔はパワースポットの湖を目当てに旅館に泊まるため大勢の客が訪れていた。しかし、今ではそのパワースポットの湖も出ると噂の廃旅館のせいで廃れていった。
好き好んでやって来るのは心霊スポットとしてやって来るオカルトマニアくらいだ。運転手が「こんな時間にここで降りても何も無いんですが……こんな所に何しに?」と聞くと、花夜は「仕事なんでね。」と軽く答えながら運賃箱に二人分のお金をジャラジャラと入れた。
二人はバスから降りる。空は赤と紫が混じった幻想的な色に染まっていた。すぐ夜になるだろうその景色を眺めていると、毬慰は特に理由もないのになんだか切ない気持ちになってくる。生命がいつか尽きるように、混じり合うこの幻想的な景色も呆気なく消えてしまう。だが、いつか生命は新たに生み出され、それと同じようにこの景色も明日にはまた現れるのだろう。
石の階段を見つけ二人は上るが、旅館が潰れてから長年誰にも手入れされていないため草がボーボーに生えていた。前方に木が剥き出しの使えない建物の屋根が少し見えてきた……あれが例の廃旅館だろう。
「足元にお気をつけを……っと、」
少し崩れかけた石の階段を花夜は大人の長い足でぐんぐんと上っていく、その後ろで毬慰は「ちょっと草が多い……ねっ」とぶつくさ文句を言いながら、よいしょよいしょと小柄ながらに階段を一生懸命に上っていた。
やっと上りきるとそこは更に草だらけ、服や体に変な虫でも付かなければ良いのだが……。
「そうだマリちゃん。これから自殺者の住処に入るから魂を削られる……魂玉を飲んどいて」
これから入る場所は自殺者の作り出した空間、少しずつ魂を削られていくだろう。花夜は削除者の必需品である魂玉を毬慰に一粒渡す。子供には少々苦手な味で、毬慰は少々顔を歪めながら「苦いんだよねこれぇ」と嫌々手に取る。そもそも舐める物ではないのだが、飴玉を好んで食べている彼女はつい、癖で口の中で数回舐めてしまうのだ。
べッと舌を出して魂玉を乗せて、渋々口に含んでは更に眉間に皺を寄せた。きちんと毬慰が飲んだのを確認してから、花夜も魂玉を飲み込んだ。
旅館に入ると生きている人間が何人かいた。人間達の目はどこか虚ろで、人間達の目の前には“仲居と思われる存在”が何体かいた。……ただおかしい事がいくつかある。
一つは、何故今にも壊れそうな廃旅館に仲居がいるのか。もう一つは、……その仲居が明らかに人ではなく骸骨だった事だ。骸骨達は天使である花夜と毬慰を含め、人間達を中へ案内する。花夜は毬慰の右耳に口を近づけて小声で話す。
「さっきも言ったけど、今から俺達は客のフリをする。人間達は幻覚を見せられてるだろうけど、俺達天使には効かない。人間達にはあの骸骨が普通の仲居に見えてると思う。」
毬慰はそれにこくりと頷く、花夜とはぐれないように少し袖を掴ませてもらう。それに彼女はまだ十四歳の女の子、内心心細くもなる。それに気づいた花夜は毬慰の手を握る。男らしいゴツリとした手つきに毬慰は心が温まり、少し落ち着いた。
客──恐らく自殺者からしたらただの獲物だろう人間達は全員で三人いた。一人目は小太りで偉そうな男性、二人目はチャラそうな金髪ロングのギャル、三人目は……毬慰とそんなに変わらない中学生くらいの黒髪ポニーテールの女子だった。
毬慰は女子とその周りを見て首を傾げる。彼女に保護者らしき者は近くにいなかったからだ。最初はこの三人の内に保護者がいるのかと思ったが、二人から少し離れた距離で歩いているし、二人の内どちらも彼女に全く話しかけていない。保護者がいたとしたら、何かしら彼女の傍で会話でもしているはず。仲が悪いのならまだわかるが、仲が悪いなら親子で旅館になんて泊まりに来るだろうか。
小太りな男性は旅館内をキョロキョロ見渡しながら仲居について行き、呑気にこんな事を言う。
「いやぁ実に良い旅館ですなぁ……ネットではこんなに立派な旅館なんて紹介されていなかったんですが」
花夜はそれに対して、“まぁ廃墟だしね”と心の中で呟く。
人間から見ると、まさに“和”といった綺麗な旅館に見える。高そうな掛け軸もかけられており、花瓶には綺麗な花が飾られていた。
──現実では、骸骨がカタカタと歯と歯をぶつけながら音を鳴らし人間と会話している。旅館内もまさに“廃墟”といった姿で、いつ歩いている時に床が抜けてもおかしくないような作りだ。高そうな掛け軸もボロボロになって落ちており、花瓶にはもはやなんの花かもわからない枯れた物が入っている。
「こんな所で本当に泊まれる……のかな? あちこちボロボロだよ?」
辺りをキョロキョロ見渡しては苦笑い気味に、骸骨達に聞こえないように花夜にピタリとくっついては小声でそう告げる毬慰に、花夜は「仕方がないよ」と言う。
「食べ物は持って来てる。部屋は……見てからじゃないとわからないね。」
自殺者の作り出した空間は時間の流れが早く、予め持ってきた食料も腐るのが早いのだが、この旅館の女将は時間を弄らないと幹部から情報を貰っている。
何故かというと、女将は捕食する時間を大体決めているからだ。誘い込まれた客という獲物達が寝静まった頃を狙うため、変に時間は変えずに夜になるのを待つ。女将が変に時間を弄らないなら、持ってきた食料も腐らないという事だ。
毬慰のペースに合わせて歩いていると、前の方で歩くギャルが、「マジさいあくー!」と文句をたれる。
「こんな汚いところで過ごせるかっての!」
多分冗談か嫌味で仲居に聞こえるように言っているつもりなのだろうが、……実際汚い。ゴキブリや蛇等がたまにチラチラと歩いている最中に見かける。そうとも知らずに馬鹿にしたような態度で言っているギャルの姿に、毬慰と花夜には哀れに見えた。
……自分達の宿泊する部屋の前まで来ては、毬慰はうんざりとした表情で今にも崩れ落ちそうな扉をマジマジと見つめ、「……うわァ……。」とついため息混じりの低い声を漏らしてしまう。
此処は廃旅館だ。よく考えれば旅館内はどこも綺麗に掃除されているはずもない。きっとこの部屋の中もボロボロで虫等もいるのだろうと想像すると、先程までワクワクしていたテンションが……いや、既に限界まで下がっていた。
扉を開けて中へ入るとやはりボロい。ところどころにカビが生えていたり、虫が湧いている畳を見ればそこを歩きたくもなかった。
辺りをキョロキョロと見回した後に、準備のいい花夜が持ってきていた虫除けスプレーを貰いプシュプシュと椅子や自分の体にかけながら、毬慰は少しボロいが座れないこともない木製の椅子に腰掛ける。花夜ももう一つあった椅子や自分の体にスプレーをかけた後に、持って来ていた小さなリュックからペットボトルのスポーツドリンクを出し毬慰に投げると、毬慰はそれをわたわたとしながらも上手く両手でキャッチする。
「喉乾いたでしょ」
「ありがとう~」
毬慰はペットボトルを頬にぴとっとつける。買ってからまだそれ程経っていないのか、少しひんやりとして気持ちがよかった。花夜はリュックから更にコンビニの袋を出すと、袋を木製のテーブルに敷き、五個のコンビニおにぎりを出して袋の上に並べた。全く、準備が良すぎる男だ。
「食べ物はおにぎりね……梅、鮭、おかか、ネギトロ、焼肉。」
「ネギトロ、焼肉っ!」
先程までの沈み切った気分はどこへやら、毬慰はしゃきっとした早口で即答する。ぴょんと嬉しそうに跳ねて椅子から立ち上がり、ちょうだいと両手を器にして花夜の目の前に出す。もう一度説明はするが、別にロリコンではないのだが花夜は不覚にも可愛いなと思いつつ、言われた二つのおにぎりを毬慰の両手の中に置く。
「どうせここで出される料理なんて幻覚だ。草とか虫とか、その時はお腹が痛いと演技をするか食べたフリをしといてね。」
「まぁ、そうだよね……了解だよ。」
花夜に言われて流石の毬慰も"そりゃそうだ"と苦い表情を浮かべながらも理解する。どんな物が出てくるのか想像もしたくはない。とはいえおにぎりを貰ってはすぐにご満悦な表情に変わり、毬慰は早速フィルムをビッビッと剥がし、最初に焼肉おにぎりに齧り付く。
パリパリの海苔と一粒一粒が少し硬めの冷たい米との相性は抜群。一言で言えば美味い。毬慰はもぐもぐと美味しそうに食べ始め、花夜も残った鮭のおにぎりをパリンと食べ始め、二人はあっという間に完食した。
一時間後くらいに骸骨がやって来ると、骸骨は歯と歯をカチカチとぶつけ音を鳴らす。時間的に考えるとそろそろ食事の時間だろう。二人は大人しく歩き出した骸骨について行った。
案内された場所は元は綺麗だったであろう旅館内の和食レストラン。中はやはり汚れていて、幻覚を見せられた客は目の前に置かれた土の入りのひび割れたお椀を見て、目をキラキラさせていた。
花夜は「これイスに敷いて、汚いから」と、タオルを毬慰に渡しながら言う。毬慰はこくりと頷いては大人しくタオルを椅子に敷いて座る。
自分達には骸骨やひび割れたお椀に見えるのに、周りには豪華な食事に見えたり、綺麗な宿に見えたりと不思議で仕方ない。毬慰は周りの異常な光景に少し恐怖を覚えるも、仕事のためだと我慢する。
「おぉ……! これは何とも美味そうな天ぷら!」
小太りな男性は箸で揚げたてのサクサクとした海老の天ぷらを摘まみ上げ、美味しそうに目を輝かせながら大きな口を開けてバクリと食べる。周りはサクッと、中の海老はぶりぶりとしている。
「アタシ和食きらぁい!」
ギャルはそう言いながら、茶碗蒸しに手を出して小さなスプーンで掬いパクリと食べる。
──現実では、小太りな男性は箸で生きたままの足をもぎ取られたバッタを摘まみ上げ、美味しそうに目を輝かせながら大きな口を開けてバクリと食べていた。体が半分になったバッタは苦しそうに動いている。ギャルは泥水が入ったお椀に手を出して木の棒で掬いパクリと泥水をしゃぶって食べていた。
それを見ていた毬慰は「ぅぇ……」と眉間に皺を寄せながら声を漏らす。見ているだけで先程食べたおにぎりが口から出そうになった。
……そんな中、幻覚を見せられているにも関わらず、目の前の食事を食べようとしない者が一人いた。あの中学生くらいの女子だ。他の人間は食べているのに彼女だけは食べていない事に毬慰は不思議に思い首を傾げ、彼女の近くに小走りで寄ると声をかけた。
「あの、貴女は食べないの……?」
女の子は声をかけられ少し驚き毬慰の顔を見るが、すぐにまた目の前に置かれた料理に目を向け口を開く。
「食べ物には見える。……けど、なんか変。匂いがしないの。」
「におい……?」
毬慰もじッと食事を見つめる……他の人間にも匂いはしないのだろうか、花夜はもしやと思い二人に近づき、女子の様子を数秒間見た後に質問する。
「普通は匂いも味もするはず……もしかして、君は霊感持ち?」




